武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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45 龍撃閃

威力偵察から帰還してすぐ、北郷君を探して謝罪。

次いで口止めを行った。

 

北郷君は頷いてくれたが、なんだその曖昧な笑みは。

物凄い危機感を覚えるぞ。

おい、こっち見ろ。

 

「隊長~、見回りの時間なの~」

 

「ああ沙和、すぐ行くよ。じゃあ呂羽さん、そういうことで!」

 

于禁の呼びかけに応じ、北郷君はシュタッと手を上げて逃げるように去って行った。

てか、間違いなく逃げたな。

 

良くない兆候だ。

これは曹操様にばれたと考えた方が良い…かも。

 

とは言え、俺に出来ることはない。

藪蛇は御免だしな。

 

……よし。

諦め、もとい切り替えよう。

 

 

* * *

 

 

「さて凪。今日はちょっと特別なことをしようと思う」

 

「?はい」

 

何時もの修行。

でも今日はちょっと違う。

 

夏侯淵から依頼された覇王翔吼拳の伝授。

これを為すためのメニューを開始しよう。

 

「まずはこの竹垣。これを一撃で切り倒すんだ」

 

「……切り倒す、ですか?」

 

「ああ、使うのは右手のみ。気力鍛錬の行だな」

 

竹垣と言うか、竹を腕くらいの長さに切ったものを五本くらい横に並べてるだけ。

これを一気に全てを切り倒すのだ。

竹は全て固定してないので、少し触れただけでもすぐに倒れてしまう。

集中した気を一瞬で爆発させないと、全てどころか一本も切り倒すことは出来ないだろう。

 

「よし、まずは手本を見せよう」

 

「はい、お願いします!」

 

 

台の上に並べた竹を前に、気力を集中。

右腕を後ろに思い切り振りかぶり、手刀に気を込める。

 

「はっ!」

 

そして、爆発。

ビール瓶切り!

 

スパンッといい音をさせて五つの竹の首が吹っ飛んだ。

 

「おお!」

 

素直に感動してくれる凪に自尊心が擽られる。

いかん、もっと冷静にならねばっ

 

「このように、な。これにより気力の充実が図られるんだ」

 

「分かりました。やってみます!」

 

 

凪は気合十分。

張り切って取り掛かるが、すぐには上手くいかない。

一本も切れないことに困惑しながらも、何度も何度も繰り返し続けていった。

 

凪の熱意に感化され、俺もアドバイスをしながら彼女を助けた。

中でも、腕の動きに沿って気の流れを感じ取らせる行為が最も良かったようだ。

 

但し、それは身体を半ば密着させないと出来ない。

いやっ、不純な気持ちなんて全くないぞ!

ただひたすら真剣に凪の為だ!

 

だから韓忠、そんな影から凝視するんじゃない。

途中から居たのは気付いてたが、普通に出てくればいいものを…。

 

 

「はあっ!」

 

スカーンッと五本の竹が綺麗に切り倒された。

 

「ふぅー。…どうでしょうか?」

 

「うんうん。いい感じに集約出来てたな」

 

凪の身体に流れる気の動きを見ても、充実してるのが分かる。

これなら準備完了と言っても良いだろう。

 

「それじゃあ凪。ちょっと休憩したら、本番に入ろうか」

 

「はい。しかし本番とは?」

 

まあまあ、まずは休もうや。

 

凪を落ち着かせ、

 

「どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

横から差し出された手拭いを使って汗を拭う。

うむ、気が利くな。

 

「……むっ」

 

俺の目の前には、眉間に皺を寄せる凪。

少し疲れたか?

 

「ん?」

 

俺の手には手拭い。

横から手渡された……あれ?

 

横を見る。

韓忠が座っている。

何時ものようにスラッとした佇まいだが、何かが違う。

 

前を見る。

凪が睨んでいる。

視線の先は韓忠の顔より少し下、そう胸の辺り。

 

隣を見る。

韓忠と目が合う。

微笑む韓忠。

何時になく女性らしい姿に違和感。

そう、胸が……ふくらみが……。

 

「お疲れ様です、隊長。将軍も」

 

「あ、ああ」

 

凪の目が冷たい。

前の時のジトーッした奴の比じゃない。

 

「よ、よし凪。修行を再開しようか!」

 

「…………はい」

 

煩悩退散!

悪霊退散!

何はともあれ修行だ修行!

 

 

若干のアクシデントはあったが、俺も凪も平静を取り戻せた。

と思う。

 

「じゃあ本番だ」

 

「はい、それで本番とは?」

 

「覇王翔吼拳を伝授しようと思う」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

パアッと顔を明るくさせる凪。

その姿は誠に眼福であるのだが、ここは真剣にならねばならない。

 

「凪。ここから先は、生半可な覚悟は許さない!」

 

凪に限って、そんなことは無いだろうけどな。

それでも言っておかなければならない。

 

「ッ!」

 

すぐに居住まいを正してくれる。

うむ、流石だな。

 

覇王翔吼拳の伝授は、夏侯淵に言われたからってのも一因ではある。

だが凪のこの姿勢こそ、伝授を決めた最大の要因だ。

 

気力鍛錬も無事に終わり、身体も温まっているだろう。

 

いざ、超必殺技伝授!

 

 

* * *

 

 

まずは座学。

覇王翔吼拳がどういうものかを教えよう。

 

「覇王翔吼拳は、使用する気の総量が膨大なんだ」

 

上手く練って使わないと、一瞬で気力が枯渇してしまう。

威力は大きいが、放った後で動けなくなっては意味がない。

そういう意味で、諸刃の剣でもある。

だから気を付けるように、と説明する。

 

「なるほど。見た目からして凄かったですが、やはり……」

 

「うん、大体分かったみたいだな。じゃあ実践と行こうか」

 

「えっ?」

 

習うより慣れろ、だ。

なぁに、気弾を使える凪ならすぐに勝手が分かるさ。

 

 

まずは全身に気を循環。

 

両腕を眼前に組み、気を前方に集中させろ。

次に弓を張るが如く後ろに引き絞る。

斜め後方を意識して気を捻りながら拡充。

腰元で両掌に気を溜めつつ、掬い上げるように前へ向けて移動。

そして突き出した掌で、思い切り押し出すように放出するんだ!

 

「はあぁぁぁぁーーーーっっっ!!!」

 

ズバァンと上下の輪郭がやや薄いものの、十分に大きな気弾が撃ち出される。

が、弾速もイマイチで更に途中で掠れ消えてしまった。

 

「はあ、はあ……くぅ」

 

悔しそうな凪だが、初めてにしては上出来だと思うぞ。

 

しかし……。

 

「凪には、ちょっと厳しそうだな」

 

「はぁぁ、はい。流石に、まだまだです」

 

そうじゃなくてな。

確かに放出は出来たが、凪が普段使用する気弾は一点集中型なんだ。

覇王翔吼拳のように面の気弾は、慣れもあろうが常用するのは難しそうに見える。

 

まあ、今後の課題としよう。

すぐに完成させられても、俺の立つ瀬がない。

 

まずは、凪に向く技として龍撃閃を伝えよう。

足技が強い彼女にとって、腕へ気を回す鍛錬と共に、蹴りで撃つ特性を生かせるものだ。

こっちをマスターしてから、覇王翔吼拳の修練をさせるのが良いな。

 

そう伝えると、覇王翔吼拳をモノにしたい欲求が顔に出た。

しかしすぐに飲み込み、修行メニューを了承。

この切り替えがいいんだよ。

 

「じゃ、暫くはこの流れでやって行くぞ」

 

「はい。宜しくお願いします!」

 

切り替えと言えば、一段落したと見計らって近付いてくる韓忠。

コイツの姿を見咎めた凪の表情。

 

別の問題が発生してしまった。

まさか韓忠の奴が、俺の前で女らしさを出す日が来ようとは。

恐らく全ては繋がっているのだろうが、始点が解らんのがどうもな。

 

北郷君、助けてくれ……。

 

 




気力鍛錬の行から超必殺技伝授。
感想頂いたアイディアから拝借しました!

ちなみに覇王翔吼拳の説明の下りは、
「前 後 斜め後ろ 下 斜め前 前 パンチ」をイメージしています。

オマケながら、韓忠さんの性別を確定させました。
ぷち修羅場は書いてて楽しいのですが、何も動きません。

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