武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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44 無影旋風十段脚

結局、俺が放った言葉のあやは訂正出来なかった。

 

これを凪の勘違いとするのは厳しいものがある。

韓忠との確執も消えてないしな。

 

よって俺は、流れに身を任せることにした。

凪が特別なのは間違いじゃないからだ。

色んな意味で。

 

推移を見守っていた隊員の一人からは爆発しろと言われた。

仕方ないので、稽古で死兆拳をお見舞いしておいた。

 

 

* * *

 

 

隊員爆発事件から数日後、夏侯淵から呼び出しを受けた。

断る理由はないし、その権利もあんまりないので即出頭。

 

「来たか」

 

「お、兄ちゃんやん」

 

すると李典もいた。

相変わらずのビキニ姿。

良く見ると色々オーパーツだよな、装備品。

別にいいんだけどさ。

 

「さて、今回は敵情視察だ。お前もついてこい」

 

「最近なぁ、凪がやたら上機嫌なんや。また何かやったん?」

 

真面目な夏侯淵とニヤニヤな李典の落差が激しい。

 

ちなみに、夏侯淵の怒りはまだ解け切ってはいないようだ。

色々あったが、あとは夏侯淵だけ。

この機会に是非、怒りを鎮めてほしいと思ってる。

 

そう意気込んで臨んだのだが、李典のせいで台無しだ。

 

「別に、凪とは手合せしただけだが」

 

取り急ぎ李典を黙らせるべく回答するが、どうやら悪手だったらしい。

”凪”と言った瞬間、夏侯淵の眉間に皺が寄る。

 

「そうなん?でも、それだけじゃないやろ。何かまた、特別~とか隣に立つ~とか呟いてたで」

 

全バレだった。

夏侯淵さんのボルテージが静かに上がって行く様を幻視する。

よし李典、いい加減黙れ。

 

「呂羽」

 

そんなところに、夏侯淵さんが静かに声をかけてきた。

 

「何だ?」

 

「何故、覇王翔吼拳といったか。あれを使わなかった?」

 

前回の試合のことか。

使うまでもなかった、とか言ったら怒るかな?

 

「使う場面ではなかったからな」

 

「私たちでは、使うまでもないと言う事か?」

 

思ったより冷静だけど、怒りのボルテージが上がってるのは間違いない。

さっきまで饒舌だった李典が、空気を読んだのか完全に口を閉ざしてるのがその証拠だろう。

 

「そうじゃない。あれは大きな成果をもたらす反面、隙がでかい」

 

素早い奴や上手い奴が相手なら、撃つ場面では相当な準備が必要なんだ。

呂布ちんの時みたいにね。

 

そんな感じのことを伝えると、一応は納得して貰えたようだ。

 

「それともう一つ」

 

なんでしょう。

 

「覇王翔吼拳。これはどういう意味だ?」

 

意味、だと…。

 

「”覇王”と”翔る”に”吼える”と続く。華琳様の為にこそ、通じる言葉だと思うのだ」

 

夏侯淵が言うには、覇王が翔け、吼えることを表したものではないか、とのこと。

それこそ曹操様のために使うべきだ、と。

 

そこは、創始者が何を思って覇王と称したかによる。

俺はそれを知らない。

画面の向こう側で、天狗師匠が考え出したものだからな。

 

でもまさか知らないとは言えない。

分かる範囲で、俺なりの答えを導き出すしかないな。

 

極限流は、極限状態に於いて真の力を発揮する云々。

そして極限に至ると覇王の付く技が使用できる。

この覇王ってやつが、何処に掛ってるかが重要だよな。

 

では、上位互換の覇王至高拳はどうだろう。

覇王が至高、あるいは至高の覇王じゃ意味が解らん。

ならばやはり、覇王が放つ至高の拳といったところか。

 

となると、覇王翔吼拳は覇王が翔け吼えるが如き技と言う事だろう。

付記として、この”覇王”は特定の誰かを想定している訳じゃないことを付け加えよう。

 

…うむ、大体こんなもんだな。

 

ほぼ夏侯淵が言った通りだった。

なんてこったい。

 

「覇王翔吼拳は、覇王が吼え翔けるが如きもの、と言えばいいかな」

 

あくまでも”如き”だ。

そこは譲れない。

 

「ふむ。やはり、華琳様に相応しい響きだな」

 

「ああ、兄ちゃんのアレな。凪がめっちゃ欲しがってたで」

 

夏侯淵の雰囲気が軟化した途端、口を開く李典。

しかし何か表現が……。

 

「そうだな。呂羽、可能なら凪に伝授してやってくれ」

 

おおっと、ここに来てまさかの超必殺技伝授フラグ。

しかも、夏侯淵さんからの断り難い形で御指示ががが。

 

「……前向きに検討しよう」

 

善処しますっていう、逃げに近いやつだ。

 

「可否いずれにしろ、後で報告するように。いいな?」

 

しかし回り込まれてしまった!

俺に出来ることは、ただ頷くことだけだった。

 

 

* * *

 

 

「無影旋風十段脚!」

 

振り上げるような左蹴りで相手を打ち上げ、空中で右蹴り上げを追加。

そのまま空中幻影脚のような形で連続蹴りを叩き込む。

最後は右の回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「どないや!」

 

「ん?兄ちゃん、今なんか…」

 

「気にするな」

 

 

夏侯淵は敵情視察だと言っていたが、威力偵察だった。

ちょっと違うと思うんだよね。

いや、別に文句はないけどさ。

 

「思いのほか脆いな」

 

「そうだな。守将がこの程度ではすぐ落とされるだろう」

 

「いや、兄ちゃん割と本気だったやん?」

 

個人の武としては中々だったからな!

つい熱くなってしまった。

ただ、指揮能力は然程でもなかったと思う。

 

これが囮であるなら、むしろ敵の本軍には相当な切れ者がいるだろうが。

可能性は低いように思う。

理由は兵の質。

かなり低いと言わざるを得なかった。

 

「もとより文官寄りで、部下の素行も悪いと聞く。情報は正しそうだな」

 

なるほど、それなら解らんではない。

まあ細かい情報精査は軍師の方々に任せよう。

俺には無理だ。

 

「なあなあ兄ちゃん。それより隊長に何言ったん?めちゃ悩んでたで」

 

一段落した空気が漂った頃、李典が雑談を振って来た。

 

「ほう、興味深いな。呂羽は一刀と、随分と仲が良いようだし」

 

夏侯淵さんも乗って来た。

これは間違いなく凪のことだよな。

 

ごめん北郷君。

そんなしっかり悩んでくれるなんて。

俺、もう諦めてたわ。

帰ったら謝ろう。

 

「で、何なん?何なん?」

 

迫ってくる李典がうざったい。

 

「そういや、李典は張遼と仲良いよな」

 

「ん、そやで。なんかウマが合うっちゅうか」

 

やはり関西弁同士、通じるモノがあるのだろう。

性格はかなり違うようだが。

 

「それで、一刀にした話とは何だ?」

 

残念、話を逸らすことは出来なかった。

仕方なく凪とのことを話す。

 

「実は凪と、うちの韓忠が仲悪くてな」

 

でも本当の話は出来なかった。

夏侯淵経由で曹操様にまで届いてしまうと、色々困った事態を呼ぶ気がしたから。

 

帰ったら、早急に北郷君に謝りつつ固く口止めしようと心に誓った。

 

「韓忠て、確か兄ちゃんの隊で副長してる人?」

 

「ああ。凪とは初対面だと思うのだが、何故か相性が悪いようでな」

 

「ふむ、相性ならば仕方あるまいが……」

 

そう言って俺をチラッと見てくる夏侯淵。

何でしょうか。

 

「大方、お前が何かしたんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「ああ、兄ちゃんなら有り得るわ!凪ん時もそうだったし、気付かんうちに色々と…」

 

そして話は振り出しへ。

敵情視察は無事に終わったものの、色々と厄介な事案が発生してしまった。

 

特に覇王翔吼拳の伝授について。

うむむ、どうするかなぁ。

 

 

 




あらすじに一文追記しました。

・無影旋風十段脚
KOF99のみに実装されたロバートの超必殺技。
何も考えずに出すと、その場で軽やかに飛び跳ねます。
MAX版は、体力ゲージに被ってしまうと言う面白い特性を持っています。

本作の年内完結は諦めました。
何となく毎日更新で来てたので、そのまま締めたかったのですが…。

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