武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
結局、俺が放った言葉のあやは訂正出来なかった。
これを凪の勘違いとするのは厳しいものがある。
韓忠との確執も消えてないしな。
よって俺は、流れに身を任せることにした。
凪が特別なのは間違いじゃないからだ。
色んな意味で。
推移を見守っていた隊員の一人からは爆発しろと言われた。
仕方ないので、稽古で死兆拳をお見舞いしておいた。
* * *
隊員爆発事件から数日後、夏侯淵から呼び出しを受けた。
断る理由はないし、その権利もあんまりないので即出頭。
「来たか」
「お、兄ちゃんやん」
すると李典もいた。
相変わらずのビキニ姿。
良く見ると色々オーパーツだよな、装備品。
別にいいんだけどさ。
「さて、今回は敵情視察だ。お前もついてこい」
「最近なぁ、凪がやたら上機嫌なんや。また何かやったん?」
真面目な夏侯淵とニヤニヤな李典の落差が激しい。
ちなみに、夏侯淵の怒りはまだ解け切ってはいないようだ。
色々あったが、あとは夏侯淵だけ。
この機会に是非、怒りを鎮めてほしいと思ってる。
そう意気込んで臨んだのだが、李典のせいで台無しだ。
「別に、凪とは手合せしただけだが」
取り急ぎ李典を黙らせるべく回答するが、どうやら悪手だったらしい。
”凪”と言った瞬間、夏侯淵の眉間に皺が寄る。
「そうなん?でも、それだけじゃないやろ。何かまた、特別~とか隣に立つ~とか呟いてたで」
全バレだった。
夏侯淵さんのボルテージが静かに上がって行く様を幻視する。
よし李典、いい加減黙れ。
「呂羽」
そんなところに、夏侯淵さんが静かに声をかけてきた。
「何だ?」
「何故、覇王翔吼拳といったか。あれを使わなかった?」
前回の試合のことか。
使うまでもなかった、とか言ったら怒るかな?
「使う場面ではなかったからな」
「私たちでは、使うまでもないと言う事か?」
思ったより冷静だけど、怒りのボルテージが上がってるのは間違いない。
さっきまで饒舌だった李典が、空気を読んだのか完全に口を閉ざしてるのがその証拠だろう。
「そうじゃない。あれは大きな成果をもたらす反面、隙がでかい」
素早い奴や上手い奴が相手なら、撃つ場面では相当な準備が必要なんだ。
呂布ちんの時みたいにね。
そんな感じのことを伝えると、一応は納得して貰えたようだ。
「それともう一つ」
なんでしょう。
「覇王翔吼拳。これはどういう意味だ?」
意味、だと…。
「”覇王”と”翔る”に”吼える”と続く。華琳様の為にこそ、通じる言葉だと思うのだ」
夏侯淵が言うには、覇王が翔け、吼えることを表したものではないか、とのこと。
それこそ曹操様のために使うべきだ、と。
そこは、創始者が何を思って覇王と称したかによる。
俺はそれを知らない。
画面の向こう側で、天狗師匠が考え出したものだからな。
でもまさか知らないとは言えない。
分かる範囲で、俺なりの答えを導き出すしかないな。
極限流は、極限状態に於いて真の力を発揮する云々。
そして極限に至ると覇王の付く技が使用できる。
この覇王ってやつが、何処に掛ってるかが重要だよな。
では、上位互換の覇王至高拳はどうだろう。
覇王が至高、あるいは至高の覇王じゃ意味が解らん。
ならばやはり、覇王が放つ至高の拳といったところか。
となると、覇王翔吼拳は覇王が翔け吼えるが如き技と言う事だろう。
付記として、この”覇王”は特定の誰かを想定している訳じゃないことを付け加えよう。
…うむ、大体こんなもんだな。
ほぼ夏侯淵が言った通りだった。
なんてこったい。
「覇王翔吼拳は、覇王が吼え翔けるが如きもの、と言えばいいかな」
あくまでも”如き”だ。
そこは譲れない。
「ふむ。やはり、華琳様に相応しい響きだな」
「ああ、兄ちゃんのアレな。凪がめっちゃ欲しがってたで」
夏侯淵の雰囲気が軟化した途端、口を開く李典。
しかし何か表現が……。
「そうだな。呂羽、可能なら凪に伝授してやってくれ」
おおっと、ここに来てまさかの超必殺技伝授フラグ。
しかも、夏侯淵さんからの断り難い形で御指示ががが。
「……前向きに検討しよう」
善処しますっていう、逃げに近いやつだ。
「可否いずれにしろ、後で報告するように。いいな?」
しかし回り込まれてしまった!
俺に出来ることは、ただ頷くことだけだった。
* * *
「無影旋風十段脚!」
振り上げるような左蹴りで相手を打ち上げ、空中で右蹴り上げを追加。
そのまま空中幻影脚のような形で連続蹴りを叩き込む。
最後は右の回し蹴りで蹴り飛ばす。
「どないや!」
「ん?兄ちゃん、今なんか…」
「気にするな」
夏侯淵は敵情視察だと言っていたが、威力偵察だった。
ちょっと違うと思うんだよね。
いや、別に文句はないけどさ。
「思いのほか脆いな」
「そうだな。守将がこの程度ではすぐ落とされるだろう」
「いや、兄ちゃん割と本気だったやん?」
個人の武としては中々だったからな!
つい熱くなってしまった。
ただ、指揮能力は然程でもなかったと思う。
これが囮であるなら、むしろ敵の本軍には相当な切れ者がいるだろうが。
可能性は低いように思う。
理由は兵の質。
かなり低いと言わざるを得なかった。
「もとより文官寄りで、部下の素行も悪いと聞く。情報は正しそうだな」
なるほど、それなら解らんではない。
まあ細かい情報精査は軍師の方々に任せよう。
俺には無理だ。
「なあなあ兄ちゃん。それより隊長に何言ったん?めちゃ悩んでたで」
一段落した空気が漂った頃、李典が雑談を振って来た。
「ほう、興味深いな。呂羽は一刀と、随分と仲が良いようだし」
夏侯淵さんも乗って来た。
これは間違いなく凪のことだよな。
ごめん北郷君。
そんなしっかり悩んでくれるなんて。
俺、もう諦めてたわ。
帰ったら謝ろう。
「で、何なん?何なん?」
迫ってくる李典がうざったい。
「そういや、李典は張遼と仲良いよな」
「ん、そやで。なんかウマが合うっちゅうか」
やはり関西弁同士、通じるモノがあるのだろう。
性格はかなり違うようだが。
「それで、一刀にした話とは何だ?」
残念、話を逸らすことは出来なかった。
仕方なく凪とのことを話す。
「実は凪と、うちの韓忠が仲悪くてな」
でも本当の話は出来なかった。
夏侯淵経由で曹操様にまで届いてしまうと、色々困った事態を呼ぶ気がしたから。
帰ったら、早急に北郷君に謝りつつ固く口止めしようと心に誓った。
「韓忠て、確か兄ちゃんの隊で副長してる人?」
「ああ。凪とは初対面だと思うのだが、何故か相性が悪いようでな」
「ふむ、相性ならば仕方あるまいが……」
そう言って俺をチラッと見てくる夏侯淵。
何でしょうか。
「大方、お前が何かしたんじゃないのか?」
「え?」
「ああ、兄ちゃんなら有り得るわ!凪ん時もそうだったし、気付かんうちに色々と…」
そして話は振り出しへ。
敵情視察は無事に終わったものの、色々と厄介な事案が発生してしまった。
特に覇王翔吼拳の伝授について。
うむむ、どうするかなぁ。
あらすじに一文追記しました。
・無影旋風十段脚
KOF99のみに実装されたロバートの超必殺技。
何も考えずに出すと、その場で軽やかに飛び跳ねます。
MAX版は、体力ゲージに被ってしまうと言う面白い特性を持っています。
本作の年内完結は諦めました。
何となく毎日更新で来てたので、そのまま締めたかったのですが…。