武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
夏侯淵に連行され、曹操様の客将となった俺及び呂羽隊。
自己紹介は軽く終わらせて、力を見る為と称した試合を行った。
相手は夏候惇と夏侯淵、久しぶりに元気な姿を確認出来て良かった張遼。
あと珍しく許緒と典韋のセットに北郷君。
「ちょ、なんで俺まで!?」
「おお北郷君、死んでしまうとは情けない」
「死んでないですよ!ふぉーっ!?呂羽さんっ、腕、怖っ!」
夏侯姉妹はちょっと怖かったが、ハイテンションの張遼も怖かった。
どちらも覇王翔吼拳を使わずに済ませたけどな。
そのせいか、曹操様と夏侯淵さんの視線が超怖い。
次に、許緒と典韋。
彼女たちは大振り大攻撃がメイン。
避けるのは容易いが、敢えて受けて対応してみせた。
典韋がお仕置きです!と言ってたのに少し萌えたから。
今は反省している。
まあ素で受け止めるのは流石にキツイから、気で強化した腕で払いをしたんだけど。
人類ポカン計画の片鱗を見た気がした。
そして最後に北郷君。
何故そうなったのかは解らない。
恐らく、曹操様の差し金であろうとは思うのだが。
よって、手加減しながらも大いに攻め込んでやった。
最後に一発だけ裏拳を当てた。
案ずるな、みねうちじゃ。
「裏拳って、峰打ちなのか……?」
そう言ってガクリと項垂れる北郷君。
いや、逃げと捌きの技術は中々だったと思うよ。
あと峰打ちじゃなくてみねうちだから。
ガックリした北郷君を、早速典韋や李典、于禁らが寄って集って介抱している。
うむ、眼福なり。
* * *
さて、ある意味前菜は終わり。
ここからがメインディッシュ。
「リョウ殿。お久しぶりです」
「やあ凪、久しぶりだな」
「華琳様より聞いています。ご指導頂けると…」
「うん、まあな。前の様に、共に研鑽して行こうぜ!」
そう言うと、満足そうな笑みを見せてくれた。
が、直後少し険しい表情になる。
「時に、そちらの方は?」
視線の先には韓忠の姿が。
紹介しておかないとな。
「俺が預かる小隊で副長をして貰ってるんだ」
「韓忠と申します。将軍には及びませんが、隊長の下で研鑽を重ねております」
「そうか。知ってると思うが私は楽進と言う。宜しく頼む」
「宜しくお願い致します」
うん、些か社交辞令っぽいが普通の挨拶だ。
凪の表情が険しいものであることを除けばな。
何となく、両者の間でピリピリとしたものが漂っている気がする。
ちなみに韓忠の表情はいつも通り、冷静なまま。
いや、若干恍惚としているか?
「とりあえず、韓忠はじめ呂羽隊の皆も一緒に修行を…」
「リョウ殿は、彼らを指導しているのですか?」
「はい。特に私は、隊長に最も深く師事しています」
ともかく修行について話を進めようとしたら、凪に遮られ質問された。
それに答えようとすると、今度は韓忠に遮られる。
「師事、だと?」
「ええ。私は隊長の一番弟子ですから」
「……ッ」
あ、何かを踏み抜いたような幻聴。
なんだろう。
二人の間で火花が散っているような気がする。
この火花が、俺に飛び火するのは時間の問題だろう。
「リョウ殿……。弟子は、取らないと、仰ったでは、ありませんか……?」
ほらね?
いやいや、ドヤァってしてる場合じゃない。
ほら、凪が冷たい目でジトーッみてるじゃないか。
何とか取り成さないと!
「さ、さあ凪!せっかくだし、久しぶりに手合せといかないかっ?」
俺、脳筋。
何がせっかくなんだ。
全く取り成しになってねぇ。
「……そうですね。リョウ殿、久しぶりに手合せ願います」
でも良かった、何とかなりそう。
韓忠は若干不満そうだが、凪との間に何かあったのか?
まあ、どうせ詳しくは話してくれないんだろうが。
とりあえず、凪との試合に全力を傾けよう!
「せやぁっ」
「はぁっ!」
回し蹴りが交差し、互いに呼吸を計りながらの打ち合い。
凪、フルスロットル。
最初からクライマックス。
何かそんな感じ。
「はぁぁぁ、てやァッ!」
「見切ったわっ」
そんなところに、溜めが極短くなり進化した気弾が放たれる。
これを無頼岩で弾き返す。
「なっ?」
「甘い!」
まさか弾き返されるとは思っても見なかったのか、一瞬動きが固まった。
そこに、連撃を重ねる。
極限流連極拳。
一歩踏み込みつつ、振り降ろしからの中段打撃。
頭部への左肘打ちからボディーブロー、右アッパーへと繋ぐ。
アッパーで浮いたところに龍斬翔で追撃。
吹っ飛ぶ凪。
虎咆でも良かったが、何となく蹴り上げで締めた。
ふーぅ、噛み合う相手ってのは良いもんだ。
実力もかなり高いしな。
「くぅ…流石です」
お、立ち上がって来たか。
綺麗に入ったと思ったがな、やるじゃないか。
「凪だって随分強くなってるじゃないか。驚いたぞ」
これは本心。
以前一緒に修行してた時、反董卓連合の時、そして今回。
どんどん研ぎ澄まされている。
「それでもリョウ殿には届きません。……やはり、」
おっと!
その先を言わせてはならない。
「凪!」
「私を弟s…はい、なんでしょうか」
慌てて遮る。
曹操様から、凪の言うことは必ず聞けって言われてるからな。
いきなり破るなんてマネは出来ない。
「凪は俺にとって特別な存在だ。だから、隣に立っていて欲しい」
弟子は鍛えるもんだが、鎬を削るライバルが欲しいんだ。
そういう意味で、凪は逸材であり特別。
弟子になりたいだなんて言わないでくれ!
当初は俺も修行中だからって意味だったが、韓忠たちの存在がもう否定出来ない。
せめて凪には、とな。
「………ッ」
返事が無いと思って見てみると、凪が真っ赤に。
そして観戦してた呂羽隊、特に韓忠から殺気が。
うぇい?
「あわわ、リョウ殿…の、とくべつな……と、隣に……ッ」
うん、落ち着こうか。
そんな変なこと言ったかな?
凪と韓忠たちの様子を見れば一目瞭然。
言ったんだろうな、変なこと。
「隊長。いちど、しんでみてはいかがでしょう」
夏侯淵様もお喜びになりますよ、なんて。
韓忠が凄い形相で酷いことを言ってくるが、まあ割といつものことだ。
そっちは置いといて、冷静に省みる。
”凪は俺にとって(ライバル的な意味で)特別な存在”
”(共に修行して)隣に立っていて欲しい”
うん、別に間違ってないよな。
一体なにが……。
……うん?
ふと、視点が間違ってるのかも知れない、と言うことが頭を過る。
今の俺は格闘バカの状態とも言える。
ちょっと視点を変えてみよう。
”凪は俺にとって特別な存在”
”隣に立っていて欲しい”
……格闘や修行を置いておいて、改めて省みるとあら不思議。
プロポーズのような言葉に見えなくもない。
これは、やっちまったか!?
しかし安易に撤回すると大惨事になるだろう。
俺の首が飛ぶ的な意味で。
よし、今は黙っておこう。
あとで北郷君に相談して、善後策を講じることに決めた。
差し当たり、凪を正気に戻して状況を確認。
韓忠も含めたところで、必要と思われるフォローをしておくか。
* * *
「と言う訳なんだよ北郷君。何とかしてくれ」
「無茶振りだ!?」
状況を説明し、解決策を北郷君にお願いする。
普通の奴なら俺も無茶振りだとは思うが、そういうの慣れてんだろ?
魏ルートだとそうでもないのか?
でも他に縋る人が居ないんだ、頼む!
何とか間に合いました。
一度リズムが崩れると、エターなるフラグが建ってしまいますからね。
しかし、あと10話程度で完結かー……。
無理かもしれません。