武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

41 / 109
他者視点詰め合わせ


41 裏空牙

私は一体何をやっているんだろう……。

 

自問するも答えは出ない。

そんな日々が、ここしばらく続いている。

 

 

自分なりに研鑽を重ね、ここ幽州で随一の太守に登り詰めた。

数ある諸侯の中でも、それなりに名の知られた存在だと自負している。

いや、自負していた。

 

既に過去形だ。

 

黄巾党の乱、反董卓連合、対袁紹迎撃戦。

 

危うい時もあったが、全て切り抜けてきた。

しかしそれを為したのは、全て自力だと自信を持って言えるだろうか。

残念ながら、言えない。

 

黄巾党の時は、客将として趙雲が居た。

反董卓連合の時は、そもそも多数派だった。

対袁紹迎撃戦の時、あの呂羽と華雄が客将だった。

 

後に趙雲は桃香を真の主と見定め、私の下を去った。

あいつが居なくても反董卓連合では特に問題はなかったが、武功を上げる機会は確かに減っていたのだろう。

 

そして、呂羽と初めて邂逅した連合の時は戦わなかった。

もしあの時戦っていたら、とんでもない被害を被っていたのは間違いない。

 

戦後、呂羽と華雄は偶然幽州に辿り着き、私の客将となった。

そう、あくまで偶然。

知己ではあったが、私を目指して訪ねて来てくれた訳じゃない。

 

それでも連合で見せた雄姿を知る私は、彼らを迎え入れることが出来て喜んだ。

己の器で扱いきれるのか、と言う不安は心の奥底に仕舞いこんで。

 

世が乱れたのだと明確に意識したのは、麗羽の奴が幽州に侵攻してきた時だった。

幸い呂羽の進言で細作を放っていたため、奇襲を受ける形にはならずに済んだ。

そして、彼らの活躍で飲み込まれずに済む。

 

しかし、その呂羽と華雄も私から離れてしまった。

 

いや、彼らは私を慮ってくれただけだと分かってる。

麗羽との関係から、私を守るために身を引いてくれたんだ。

私が麗羽と連合を組むのに、彼らの存在が火種となる可能性があるから…。

 

それが分っていながら、私は身の安全を優先。

彼らを引き留めることが出来なかった。

幽州を守らなければならない、そう言い訳して。

 

そのことが、刺さって抜けない棘のように私を責め続けている。

自己嫌悪。

はははっ、自分がこんなにも弱いなんて知らなかったよ。

 

更に自己嫌悪に陥る理由がある。

 

私は先日、連合を組んだ麗羽と共に桃香が治める徐州を攻めた。

攻め込む理由はあっちの軍師・田豊がアレコレ言っていたが、どうせあって無いようなもの。

連合を組んだ以上は拒否する訳にも行かず、嫌々ながら従軍した。

 

だが、この連合は形式的には対等。

拒否はしようと思えば出来たはず。

 

それをしなかったのも、私の弱さだな。

 

麗羽と共に侵攻した徐州には、呂羽と華雄が待っていた。

 

ああ、やっぱり。

何故かそう思った。

そして、この侵攻は失敗するのだと確信した。

 

案の定、麗羽の軍勢は散々に打ち破られ、田豊と私が支えないと壊滅する可能性すらあった。

しかし、いくら個人の武が優れていても最後に物を言うのは兵の数。

彼らは撤退せざるを得なかった。

 

そんな中、田豊の軍勢を食い千切って撤退して行く様は痛快だった。

誰にも言えないが。

 

最後に、形だけでもと援軍を出そうとする私の前に立ちはだかったのは、呂羽その人だった。

思わず狼狽し、どんな罵倒が飛んでくるかと覚悟したが……。

 

「元気そうで何よりだ」

 

案に相違し、いっそ親しげに軽く言われてしまった。

私の方からこそ色々言うべきことがあるはずなのに、結局何も言えず。

呂羽は攻撃することもなく、ただ牽制に留めて撤退して行った。

 

あの時私は何を言えば良かったのだろう。

どうすれば良かったのだろう。

 

もし次、呂羽と邂逅した時はどうすべきか……。

 

 

桃香は麗羽と袁術から攻められた結果、徐州を捨てて逃げてしまった。

逃げたと言っても、新天地を求めての逃避行。

これに呂羽も同行しているはず。

 

麗羽らは袁術と共同して、曹操を攻める準備をしている。

私も合同せざるを得ない。

 

曹操に勝てるか?

厳しいだろう。

 

太守がこんな弱気では、勝てるものも勝てなくなる。

自分のことながら、失笑ものだ。

 

弱気の原因は、刺さって抜けない棘。

どうすれば棘が抜けるのか?

 

解決策は簡単だ。

ただ、私の弱さが故。

少しの勇気を出せばいいだけ。

 

そうだ。

もし次の戦いを生き延びることが出来れば、呂羽に謝りに行こう。

誠心誠意、求められれば全てを差し出してでも。

 

……うん。

決めてしまえば、幾分か気も楽になる。

 

よし、心機一転。

必ず生き延びて、呂羽を正式に迎え入れるぞ!

 

 

* * * *

 

 

「流琉」

 

「あ、兄様!」

 

反董卓連合の戦いが終われば、世は治まるなんて漠然と思ってました。

でも、そんなことは全くありません。

 

少し前には袁紹さんが公孫賛さんと戦い、まさかの和睦で連合を組みました。

秋蘭様たちは、公孫賛さんが負けると確信していたようなのですが。

 

そしてそのお二人が、共同して劉備さんの徐州へと侵攻。

袁術さんも徐州へと攻め込んでいたので、劉備さんは厳しい立場に追い込まれました。

 

桂花さんの見解では、劉備さんはもうダメだと言う事でした。

でも秋蘭様が言うには、華琳様はそうは思ってないらしいです。

 

うぅ、難しくて良く分かりません。

もっと勉強しないと……。

 

大した力を持ってない私に出来ることは、華琳様の大望を少しでもお助けすること。

……あ、あと兄様のお世話も!

 

「聞いたぞ。華琳や秋蘭と一緒に出るんだって?」

 

「あ、はい」

 

そうなんです。

その劉備さんが、一軍を率いて領内の通行許可を求めてきたと報告が入りました。

 

春蘭様や季衣は別の仕事があったため、私が秋蘭様と一緒について行くことになったのです。

でも兄様、良く知ってますね。

 

「華琳が言ってたんだ。しかし、劉備か……」

 

「はい。秋蘭様は、大丈夫だろうって言ってましたけど。」

 

「うん、まあ秋蘭も一緒だし問題ないか。でも、気を付けてな?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

兄様は優しいです。

いつもこうやって、私や季衣のことを気にかけてくれます。

だから私は、心配を掛けないように努めないといけません。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 

笑顔の兄様に見送られ、やって来たのは徐州からそう遠くない国境近くの街。

 

「たくさん居ますね」

 

「うむ、思ったより多いな」

 

思わず呟くと、秋蘭様もそう仰います。

逃げて来たと言うから、もっと少ないかと思ってました。

 

どんな人たちが居るんだろう。

少し、確認してみた方がいいかも知れない。

 

秋蘭様に断って、様子を見に行きました。

 

連合の時に見知った人や、その前から知ってる人、知らない人もやはり沢山います。

 

……あれ?

思わず目を擦り、改めて見ても変わらない姿がそこに。

 

劉備軍の最後尾に、確か旧董卓軍の華雄さんと、そして間違いなく呂羽さん!

 

 

呂羽さんは、黄巾党の乱が終わる頃まで華琳様の下で客将をしていました。

自称旅の格闘家で、凪さんや真桜さんと仲良しでしたし、兄様とも良くお話ししてましたね。

 

そんな呂羽さんですが、連合の時は何故か董卓軍に所属していたのです。

そのことに少し怒りながらも、華琳様や秋蘭様、凪さんなどは所在が分かって喜んでいました。

捕えて扱き使ってやるなんて、冗談半分で言いながら。

 

でも……。

 

虎牢関を攻める時、呂羽さんが初めに大きな気弾を放ち、私たちの牙門旗を撃ち抜いたのです。

凪さん曰く、覇王翔吼拳という大技らしいのですが。

 

これには華琳様以下、みんな唖然とした後に激怒しました。

私だって怒りました。

 

牙門旗に土を付かせるなんて、あっちゃいけないことです。

それなのに、まさか撃ち抜くなんて!

 

兄様だけは何やら目をキラキラさせていましたが、華琳様に怒られてシュンとしてました。

秘密ですけど、ちょっと可愛いかったです。

 

連合が終わり、華琳様たちは少し落ち着きましたが秋蘭様は未だに怒っています。

私たちには優しく接してくれますけど……。

 

「呂羽め、必ず貫いてくれるっ!」

 

なんて、ちょっと前に偶然見てしまったんです。

思い切り弓を引き絞り、強い意志を乗せた矢を放ちながら鋭く叫ぶ姿を。

 

ここまで秋蘭様が怒るなんて、正直少し意外です。

でも、仕方ないとも思います。

呂羽さんは、それだけのことをしちゃったのだから。

 

 

戻って報告すると、華琳様も秋蘭様も笑顔になりました。

一気に花が咲いたような、とても素敵な笑顔でした!

 

そして華琳様は劉備さんの通行を許可し、呂羽さんの連行が決まりました。

呂羽さんだけかと思ったら、後ろに小隊がひとつ。

聞けば呂羽さんが率いる隊の人たちらしく、ほとんど連合の時から一緒なんだそうです。

 

ひょっとすると抵抗があるかも、と伝磁葉々を準備してたけど必要なかったみたい。

補佐官の人と、空牙から裏空牙がだな…、とか言ってましたが意味が解りません。

でも悲壮感とかはなく、いっそ楽天的な空気が漂ってました。

相変わらず不思議な人です。

 

華琳様とお話しても、怒った秋蘭様を前にしても飄々とした姿。

仮にも連行される立場なのに、全く気にしてないような言動。

余りのことに、思わず睨んでしまいました。

 

そんなことがあって呂羽さんを連れて拠点へと戻りますが、華琳様は上機嫌でした。

この様子なら、酷いことにはならなさそうで安心ですね。

 

当然お仕置きは受けて貰いますが、あれも戦場でのこと。

極刑までは流石に……と思う私は甘いのでしょうか。

兄様なら、どう言うかな?

 

呂羽さんと接点がある人も多いし、これからどうなるのか少し楽しみです。

まずは秋蘭様のご機嫌取り、しっかりお願いしますね!

 

 




・裏空牙
ユリちょうアッパー、ダボォ!
引き続き、無理矢理差し込んで行くスタイル。
流石に闇空牙と夢空牙は自重します。

書きたいことは沢山あるはずなのに、中々上手く進まない。
そして後から後悔するなんてこと、良くありますよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。