武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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40 空牙

袁紹・公孫賛連合軍を退けた俺たちは、一旦本拠地に戻って来た。

劉備ちゃんたちも、呂布ちんらを抑えに置いて戻っている。

今後の方針を決めたらしい。

 

「逃げるのか!」

 

「逃げるのだ!」

 

「逃げると言っても、一体どこに?」

 

「…確か益州の劉璋さんは悪政が目立ち、人心が離れていると聞きます」

 

「それに、益州は要害にして肥沃な土地です」

 

「桃香様の仁徳があれば、民たちはきっと迎え入れてくれるでしょう」

 

「うん。じゃあお引っ越しだね!」

 

「しかしどうやって?」

 

「北は袁紹、南は袁術。敵対はしておりませぬが、西には曹操がおります」

 

「北と南にはそれぞれ公孫賛と孫策と言う、ある程度話が分かる奴が居るのは居るが…」

 

「うーん?…だったら、曹操さんのとこを通らせて貰おう!」

 

「それはっ……しかし、大人しく通らせてくれるでしょうか」

 

「こっそり黙って通れば問題ない」

 

「見つかっても押し通るまでだ!」

 

「流石に危険では……?」

 

「他に道はありましぇん……あぅ、噛んじゃった」

 

そんな訳で徐州から間横にドーン。

ギリギリまで南下して、こっそり曹操様の領土に入って、ササッと通り抜けようと言う策だ。

…策?

 

曹操様の領地を通ろうってのが既にフラグ。

でも、ひょっとしたら見付からないかも知れない。

まあ無理だろうが。

 

あとそれ以前に、袁術軍に見付かってちょっかい出される可能性の方が高い気がする。

まあ、その時はその時。

姉さんじゃないが、蹴散らして押し通ると言うのも一つの手だろう。

 

丁度、空牙とか多対多で試してみたいなって思ってたんだ。

虎咆や龍牙とはまた微妙に違う性能だから。

 

 

「よし、じゃあ遠征の準備だな!」

 

「呂羽。我らは殿を担うぞ」

 

華雄隊と呂羽隊が最後尾につき、劉備軍は新天地を目指して旅立つことになった。

 

 

* * *

 

 

フラグはフラグ。

どれだけ旗を折ったところで発生するものらしい。

 

どうにか袁術軍には感付かれることなく、曹操様の領土に侵入したまでは良かった。

でもまあ、こんな大軍が動いてたらばれない筈もない。

 

あっさり捕捉され、しかし武力で抵抗する訳にもいかず…。

今は劉備ちゃんが曹操様に直談判しているところだ。

 

これってあれか?

関羽が欲しいって言われて断る場面。

それに応えて、曹操様が流石の貫録で格好良く見逃す名シーン。

 

生で見たいが、のこのこ顔を出すのも気が引ける。

大人しく最後尾で経過を見守ろう。

 

「呂羽!桃香様がお呼びだ」

 

とか思ってたら、関羽さんが呼びに来た。

何だろうか。

とてつもなく嫌な予感がする。

 

 

「あら、どこかで見た顔ね」

 

呼ばれて行った先は、簡易的に設えられた陣幕。

そこに居たのは曹操様。

劉備ちゃんと正対して座ってらっしゃる。

 

「呂羽さん、済みませんがこっちに来て下さい。愛紗ちゃんも」

 

「失礼する」

 

「失礼します」

 

曹操様と共に居るのは典韋。

相変わらず頭のリボンがキュート。

 

あと、敢えて視線を合わせてこない夏侯淵さん。

どうも、お久しぶりですね。

若干の怒気が見え隠れしてますよ。

 

 

「では条件を言いましょう」

 

ありゃ、まだそこ?

やっぱり嫌な予感がするぞぉ。

 

「関羽を寄越しなさい。そうしたら通行を認めるわ」

 

「そんな…、それは出来ません!」

 

「そう、だったら通行は認めないわよ?」

 

「義姉妹と離れるくらいなら、先ほどのお願いは取り下げます!」

 

「甘いわね……。劉備よ、そんな甘さを抱えて、この乱世を生き延びられるとでも言うのか!?」

 

「私は私のやり方を、貫き通して見せますっ!」

 

響き渡る覇気に対し、毅然として言い放つ劉備ちゃん。

甘い甘いと言われる彼女だけど、なかなかどうして肝が据わってる。

キリッとした表情も可愛いなぁ。

 

「……ふふっ、いいわ。ならば劉備よ、見事益州を平らげて見せなさい!」

 

その暁には自分が降して、ツケを払ってもらうと言い放つ覇王様。

つまり出世払いですね解ります。

 

劉備ちゃんはお礼を言い、決意した顔つきになった。

 

いやー、ちょっくら名場面。

良いものを見れたわぁ。

 

 

「さて、そこの男」

 

感動に浸っていると、一息入れた曹操様がこちらを向いた。

さあ来ましたね。

態々呼び立ててまで、何の御用でしょう。

 

「あ、あの。呂羽さんが何か?」

 

「劉備。この男はね、我が軍の旗を撃ち抜くと言う蛮行を為した大罪人なの」

 

「えっ?」

 

oh…

例の件が普通に尾を引いてたぁーッ

 

アタフタする劉備ちゃんも可愛いなぁ。

一方の関羽さんは静観の構え。

正しい判断だと思います。

 

「先程の件とは別の話よ。呂羽、大人しく連行されなさい」

 

こりゃ、逆らっちゃ劉備ちゃんたちの迷惑になるな。

大人しく連行されるとしよう。

別れた後の、俺個人であればどうとでもなるし。

 

「承知した」

 

「呂羽さん!?」

 

「呂羽?」

 

「中途半端で別れることになるのは申し訳ないが、許して欲しい」

 

「そんな……」

 

まああれだ。

曹操様が単純に首ちょんぱするとも思えない。

もしするなら、わざわざこの場に呼び出したりはしないだろうし。

 

「安心なさい。別に命まで取ろうとは言わないわ。ただ、落とし前をつけて貰うだけよ」

 

ほらね。

落とし前ってのが、むしろ怖いけどね!

 

「隊の皆に話もある。時間を貰っても?」

 

了承を貰い、素早く辞去。

終ぞ夏侯淵さんの目を見ることは出来なかった。

 

 

劉備ちゃんたちが暗い顔してたけど、俺なら大丈夫さ。

 

心配してくれるのは凄く嬉しい。

でもね、これから益州を切り取ろうと言う劉備ちゃんたちの方が大変だと思うんだ。

その身に宿す理想の為、是非とも頑張って欲しい。

 

さて、名残惜しいけど呂羽隊も遂に解隊かぁ。

 

 

「そんな訳で、俺はここに残ることになった」

 

「では呂羽隊はここで別れる訳ですね」

 

「そうそう、呂羽隊はここで……え?」

 

「ですから。呂羽隊は劉備軍から離れると言うことでしょう?」

 

隊に戻って姉さんも交え、韓忠たちに事の次第を報告。

すると話が少し妙な方向に。

 

「むう、私もついて行きたいが…」

 

「将軍は正式に仕官しちゃいましたからねぇ。姫たちのこともあるし」

 

「それに比べて隊長は、良くも悪くも客将の身。動きやすくて良かったですね」

 

「そうなんだが……。え、呂羽隊全員で来るの?」

 

「隊長が居ない呂羽隊は有り得ませんので。…とは言え、確かに数は減らすべきでしょうね」

 

そう言って韓忠は姉さんと話し合って調整。

半分くらいの人数を華雄隊に編入し、牛輔が小隊を率いる形になった。

 

一応隊員たちにも確認を取ったけど、当たり前のように同行を希望された。

これはかなり嬉しかった。

実際、副長として実に優秀な韓忠が同行してくれるのは心強い。

素直に喜んでおこう。

 

「じゃあ姉さん、長い間世話になった。また会おう!」

 

「うむ。達者でな!」

 

姉さん他、詠っちや月ちゃん。

それに劉備ちゃんや趙雲、呂布ちんらに別れを告げ、彼女たちは益州目指して旅立って行った。

 

遠くないうちにまた会えるだろう。

そう願っている。

 

 

「もういいかしら?」

 

旅立つ仲間たちの後ろ姿を見送っていると、曹操様がやって来た。

傍らには、隠そうともしない怒気を発する夏侯淵さん。

典韋は少し困り顔だ。

 

「それじゃあ早速、お話をしましょうか」

 

わぁ、さっきよりも凄い覇気。

吐きそう。

 

 




・空牙
ユリちょうアッパー。
どう考えても使う機会が無いので、捻じ込んで見ました。
先頭描写の無い回で、こういったものを消化する風潮です。
今も昔もこれからも。

39話の誤字報告を適用。ありがたいことですじゃ。

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