武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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39 飛燕旋風脚

金色たちに囲まれた。

絶体絶命のピンチにも見えるが、俺は非常にワクワクしている。

 

「さあ、どこからでもかかって来い!」

 

「みなさん、早くやっておしまいなさいっ!」

 

俺の煽りと袁紹の癇癪が爆発した結果、取り囲んでいる金色たちがワァ!と騒ぎ始める。

しかし先手必勝、正拳突きぃぃぃ!

 

「虎咆疾風拳!」

 

ドカンッと一発、気を纏った正拳突きを放つと金色がまとめて数人吹っ飛んだ。

同時に、別の方向でも金色数人が吹き飛ぶ。

む、なんだ?

 

「な、なんですのっ?」

 

袁紹も動揺しているが、なんか聞いたことある声がした。

 

「はあぁぁーーーっっ!!」

 

ドゴーンッと言う音と掛け声がこだまする。

 

姉さん、華雄姉さんじゃないか!

なんでこんなとこに居るんだ?

 

「おお、呂羽じゃないか。奇遇だな!」

 

まるで散歩中、偶然会ったかのような気軽さ。

どうやら目論見は大体同じだったようだ。

 

「確かに奇遇、だな!」

 

ズバーンと金色の垣根を切り開いて躍り出る姉さん。

そして背中合わせになって、会話を続ける。

 

「それじゃあ、いっちょ暴れるとしますか」

 

「おう!」

 

これを合図として、すぐさま離れた。

姉さんが金剛爆斧を振り回し、俺も隣で虎煌拳と虎閃脚を放ちながら続く。

 

余波で袁紹が吹っ飛ぶのが見えたが、気にしてられない。

このまま突っ切る!

 

「待て待てぃ!これ以上は、アタイたちが好きにさせないぜぇッ」

 

「文ちゃん、またこの人たちだよ!気を付けないとっ」

 

む、文醜ほか一名。

この二人は確か、先鋒にいたと思ったが。

 

本陣が揺れたのを見て、急ぎ駆け付けたと言う事かね。

でもそんなの関係ねぇ!

 

「飛燕っ」

 

後ろ捻り気味に腰を落としーの…

右の回し蹴りを放ちながら跳躍ッ

 

「旋風脚!」

 

続けて跳躍したまま左回し蹴りを繰り出し、落ちる前に右と左から旋風脚を放つ。

文醜ともう一人にも上手く当たり、彼女たちはそれぞれ押し込まれる。

 

そこに、姉さんの上段振り下ろしが炸裂。

彼女たちはギリギリで避けたが、掠っただけでも結構な威力だ。

地面は軽く陥没。

衝撃で、哀れ二人はどこかに吹っ飛んでしまった。

 

「よし、姉さん流石!」

 

「任せろ!」

 

その時、奥から別の金色が迫って来るのが見えた。

まもなく潮時か。

 

姉さんを促して、周囲を蹴散らしながら華雄隊の方へ戻ることにした。

 

 

* * *

 

 

「ようやく戻って来ましたか…」

 

呆れと共に出迎えてくれた韓忠を従え、姉さんと共に眼前を睨む。

袁紹軍の本隊はガタガタになったが、両側から包み込むように別の金色と白馬の群れが向かって来るのが見えた。

 

前の時も居た優秀な軍師、確か田豊と言ったかな。

あれと公孫賛が出てきたのなら厄介だ。

 

そして、解ってはいたことだが全体的に見て兵力の桁が違う。

単純に兵数の差は戦力差に直結する。

困ったな。

 

南で袁術軍と対峙した呂布ちんも、こんな感じだったのかねぇ。

だとしたら、呂布ちんに無理なことを俺が出来るはずもない。

 

 

「さて、どうしようか」

 

「隊長。劉備様と詠殿より伝令です」

 

おや。

何かあったか?

 

「報告します!袁術の軍勢は国境に留まり、未だ退く気配を見せず!」

 

「詠殿より、援軍の派遣は厳しいと言付かってます」

 

ふーむ。

今の劉備軍に二面作戦をとる余裕はない。

袁術軍に長く張り付いてるだけで、結構な負担になってるはず。

 

負担は向こうも同じだろうけど、物量の差が大きいからな。

孫策の動きに気になるところだが…。

解らないことに期待するのは意味がない。

 

「どうする。突撃するか?」

 

「袁紹を討ち取れば、あるいは…」

 

それも難しいだろうなぁ。

どうしよう。

 

「隊長。こちらの物資の残量が……」

 

韓忠の表情は沈痛なものだ。

些か厳しいか。

 

決断を迫られる。

 

「姉さんはどうしたい?」

 

「むう、兵たちを無駄にはしくない。…呂羽、お前の判断に従おう」

 

いやいや、繰り返すが主将は姉さんなんだってば。

 

「大将!突入を提案するぜ!」

 

「猪は黙ってなさい。では隊長、どうしますか?」

 

ぬぅ…、仕方ない。

決断しよう。

 

「華雄隊は新しく出てきた袁紹軍に突撃。そのまま駆け抜けて撤退!」

 

ぐるっと大回りして撤退させる。

俺は同行せず、少し遠い所から援護に徹しよう。

殿の役割は大事だからな。

 

「分かった。先頭は任せろ!」

 

「うっし、粉砕してやるぜ!」

 

姉さんは将軍らしく、熱くも冷静で安心できる。

だが牛輔、てめぇはダメだ。

もっと韓忠を見習え。

 

「呂羽隊は、華雄隊の斜め後ろに時間差で突入。同じく抜けて撤退しろ」

 

「承知しましたが、隊長はどうされるので?」

 

「俺は同行せず、援護に徹する」

 

覇王翔吼拳なりを放ち、敵さんの出鼻を挫く。

飛び道具の本領発揮ってな。

幸いにも、仮想気力ゲージには余裕があることだし。

 

公孫賛軍については、適当に往なしておけばいい。

別に密約結んでるとかそう言うのはないが、心情的に遣り辛いのも事実。

恐らく、お互い様だろう。

 

「よーし、それじゃあ出るぞ。ばっちり頑張れ!」

 

「「「おうッ!!」」」

 

 

* * *

 

 

華雄隊と、それに続く呂羽隊は良い感じに金色を貫いて撤退して行った。

 

残りの金色が追い縋ろうとしたのを、覇王翔吼拳を撃ち込んで掣肘。

陣形も何もあったもんじゃないような有様にしてやったぜ!

 

「虎煌撃!」

 

更に白馬の群れが突っ込みそうな動きを見せたので、急ぎ正面に躍り出て抑制。

そして、俺の目の前には懐かしい顔が。

 

「公孫賛、元気そうで何よりだ」

 

「呂羽っ!」

 

公孫賛は何かを言いたそうにしていたが、結局何も言わず飲み込んだ。

こっちも時間がない。

互いに言葉は続かず、俺は目礼し、身を翻して撤退に入った。

 

なお、撤退する際に思い切り跳躍。

空中虎煌拳で、残った袁紹軍の旗を打ち抜いておいた。

大将旗以外は脆いもんだな。

 

ある程度ダッシュしていると、草陰に見覚えのある影。

 

走り抜け際、チラッとアイコンタクト。

頷く姉さん。

 

追い掛けてきた一部の金色が横殴りに吹き飛んだ。

それを見て俺も急停止。

止めだ!

 

腕を交差して気を練り、腰元で軽く溜めてからの放出までをスピーディーに。

 

「覇王至高拳!」

 

どひゅーんと、残った金色諸共彼方へきらり。

 

こうして無事に撤退を完了させることが出来た。

それは良いのだが、袁紹も袁術も徐州の国境付近に居座ったままなのに変わりはない。

 

詠っちと、劉備ちゃんたちに報告しないと。

先行きは厳しい。

 

 

 




・飛燕旋風脚
出展はKOFで、使用者はロバートとユリ。
形状はそれぞれ全く異なりますが、一応名前は同じです。

掲げるたびに折られる旗。
名家の財力が、如何に凄まじいかが分かります。
そして袁紹軍の旗が尽きる時、その命運も尽きるのです。
…あ、逆か。

※追記
度々誤字報告を頂く「掣肘」ですが、意味を踏まえて使用しております。
宜しくお願いします。

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