武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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38 極限虎咆

張り切って、やって来ました北の土地。

 

もし、公孫賛も来てたら撃破するのは忍びない。

だからと言って、袁紹だけギッタギタにしたら逆に立場が悪くなるかも。

何か良い方法を見付けたいところだが…。

 

陣地に入り、見張りの防人たちを労って簡単な軍議を行う。

 

「何も来るのを待つ必要はない。突入して蹂躙すれば事足りる!」

 

「おう!色々問題発言だが、そっちの方が好みだぜ!」

 

猪たちは黙ってなさい。

つーか牛輔、お前は姉さんより性質が悪いぞ。

 

「どういった布陣で来るのか、そもそも本当に来るのか。確かめるのが先決でしょう」

 

流石だぜ韓忠、頼りになるな!

早速物見の兵を追加しよう。

 

いや待て、なんか俺が主将みたいになってるぞ。

主将は姉さんだろ?

今更だけど。

 

「本当に今更ですね?」

 

「大将が大将で何も問題はねぇ!」

 

「うむ。難しいことは任せる。で、出撃は何時だ?」

 

久しぶりの迎撃戦だからか、姉さんが張り切ってる。

しかも、相手は袁紹だもんなー。

 

いやしかし、牛輔を副長にしたのは失敗だったかも知れん。

姉さんとの相乗効果で凄いことになってる。

手綱を取るのが大変だ。

 

「報告!袁紹軍、こちらへ向かっております!」

 

「続報!後方に公の旗印もあります!」

 

「そうか、御苦労」

 

…そっかー。

いや、やっぱ連合軍で来たな。

当然っちゃ当然だ。

 

でも公孫賛ならあるいは、劉備ちゃんを攻めることはないと少し期待したんだが…。

これが乱世。

ちょっと切ないね。

 

「隊長…」

 

「……」

 

しばし瞑目。

ちょっと気持ちの切り替えが必要になった。

 

ふぅーーーっ

よし。

 

「大丈夫だ。攻めてくる敵は、追い散らすのみ!」

 

とりあえず、袁紹軍の旗は念入りに折っておくとしよう。

極限流の名にかけて!

 

 

* * *

 

 

やって来た袁紹軍は、ある種見慣れた目に優しくない金色に満ちていた。

あれだけ破砕してやったってのに。

その意地と財力、侮れないなぁ。

 

「合図は任せるぞ!」

 

「あいよ」

 

期待に満ちた眼差しの姉さんが、なんか可愛い。

じゃあいつも通り、ちょっと高台から砲撃するとしようか。

 

敵の布陣は……。

前衛に金色と金色が並び、その後ろに大きな金色と斜め後ろに白と茶が。

 

わぁ、凄く判り易い。

 

とりあえず、金色に覇王翔吼拳を撃ち込むのは決定事項。

そして掲げる袁の牙門旗は、全て粉砕してくれよう。

 

んー…。

 

一番派手な牙門旗は、飛び道具じゃなくて根本から粉砕してみようか。

うん、それがいい。

 

「韓忠」

 

「はい」

 

背後に佇む、我らが副長へ指示を出す。

 

「華雄隊は前衛左翼を。呂羽隊はお前が率いて前衛右翼を頼む。」

 

「はっ!…隊長は何を?」

 

「ちょっくら単独行動してくる」

 

「……」

 

じっとりとした視線を背中に感じつつ、気を高めて行く。

大丈夫、すぐ戻るから。

 

深い溜息。

まあ、溜息で済むなら安いもんだ。

 

「はあ……。ご武運を…」

 

「応よ。合図はいつも通りだ、頼んだぜ!」

 

気力を集約した両手を交差し、すぐに腰溜めにて静止。

そしてググッと、溜めて溜めてさらに溜めてぇ…。

 

「覇王翔吼拳!…せいやぁっ!」

 

一発を左翼へ、直後に続けて右翼へもう一発。

方向を変えての覇王翔吼拳を二連発。

両弾とも狙い違わず旗の中ほどに吸い込まれ、貫通したのち周辺を巻き込みながら地面に着弾した。

 

ドファッと土煙が舞い上がり、ついでに金色も幾つか舞い上がった。

 

同時にワー!っと歓声が上がり、華雄隊が突撃して行く。

おや、牛輔が先頭に立ってる。

てことは、姉さんはどこに……?

 

おっと、韓忠も呂羽隊を率いて右翼へ突撃して行った。

姉さんの行方も気になるが、今気にすべきはそこじゃない。

最初の混乱は長くは続かない。

すぐに動くとしよう。

 

 

* * *

 

 

「飛燕疾風脚ッ」

 

跳び蹴り上げからの打ち下ろし。

 

「岩暫脚!」

 

至近距離からの虎煌拳で金色を、虎煌激で土を散らしながら派手な旗の柱に向かって突き進む。

狙うはメイン牙門旗。

覇王翔吼拳で打ち抜くことが可能なのは証明済だ。

 

では、俺の拳ではどうだ?

それを確かめるべく、こうして単独行動をとっているのだ。

 

指揮官としては失格だろうが、まあ実績もある。

副長が深い溜息で許してくれたのだし、有効活用しなきゃ勿体ない。

 

──オーッホッホッホ!

 

なんか聞こえた。

袁紹め、懲りない奴。

 

てかさ、旗折られたの見えてるだろうによく笑えるな。

反董卓連の時の、夏侯淵さんの激怒っぷりとは正反対だ。

 

あ。

いかん、思い出しちゃダメだ。

 

ふぅー。

…よし、落ち着いた。

 

今回は袁紹を捕える必要はない。

てか、そんな暇は多分ない。

 

素早く本陣に滑り込み、敵兵に捕捉される前に目標地点へ急ぐ。

カモフラージュに金色を着込もうかと少し悩んだが、スピードが落ちると思い止めたのは、どうやら正解だったようだ。

 

高笑いするクルクル金ぴかを意識の外に追いやり、裏から回り込むと…。

うむ、着いた。

 

「ぬ、誰だ?」

 

おっと旗守か。

袁紹軍でもちゃんと居るんだな。

 

ビール瓶切りィィッ!

 

無言で手刀を繰り出し、旗守を沈黙させる。

いつぞやの気が抜けた手刀とは違う、本気の打ち込み。

下手すりゃ首も飛びかねんが、兜に守られ昏倒で済んだようだ。

 

そのまま気力を充足させて、派手な柱の根元へ全力で踏み込む。

 

ぬぅぅぅーーー……

 

「極限ッ」

 

左手に気を集約し、捻り込み気味にアッパーカットで打ち上げる。

 

「必さぁぁぁーーーーーっっつ!!」

 

極限虎咆。

相当量の気を込めて打ち放つ、虎咆の強化版だ。

 

ズギャンッメキメキ、モギョッと嫌な音を立てて捲れ行く派手な柱。

そのままゴリゴリ削りながら上昇。

天辺まで辿り着くや、ハッシと旗の裾を握り締める。

 

物理法則に従って下降するが、旗を掴んでいるのでベリベリと剥がれる音が響く。

 

「んなっ?なななな、なぁっ……!?」

 

スタンと無事に着地して確認。

牙門旗の柱部分は完全に割れてしまい、無残な姿で地に落ちた。

旗はと言うと、ズタズタの襤褸切れのようになりながら俺の手に一部だけが収まっていた。

 

押ぅ忍!

 

後ろで何かが騒いでいるが、今の俺は充足感に包まれている。

例え周囲が金色で溢れ返っていたとしても、なぁに、問題は何もない。

 

「あ、あぁぁあなたっ、な、なんてことを……っっ!!っ!?」

 

途中で良く分からない言語になったので聞き流す。

ははは!

今、俺は何だかとても気分がいい。

 

いいぜ、連続稽古だ。

かかって来い!

 

 




主人公の活躍が世界を救うと信じて…ッ
リョウ先生の次回作にご期待ください!

・極限虎咆
初出は餓狼MOWのマルコ。
弟子の技を取り入れた師匠と先代の図。
使い勝手が良く、「小童がぁぁぁ!」のセリフも結構好きです。

17、18話あたりに頂いた誤字報告を適用しました。
関西弁は良く分からないので助かります。

書き終わって、何か打ち切りならこんな終わり方になるかなと思った次第。
打ち切りエンドではありません。

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