武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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35 龍撃拳

使者が戻ってくるまでは暇だ。

関羽隊の監視下にあるし、移動することも出来ない。

 

華雄姉さんは隊の見回りに行ってしまった。

よって、韓忠と組手をすることにした。

 

韓忠はスラッとした佇まいであり、鉈をメイン武器としている。

そこに極限流の基礎を叩き込み、更に気の修練を課したした結果、気と足技も扱う立派な武人へと昇華された。

 

「シッ」

 

「はぁっ!」

 

横薙ぎに振るわれる鉈からの、左回し蹴り。

鉈を避けつつ回し蹴りを左で受け、右正拳突き。

でも軽やかに躱された。

 

「ふぅ、中々やるようになったじゃないか」

 

「いえ、隊長のご指導の賜物です」

 

殊勝な物言いだが、これで俺に対する恨みを忘れてくれたらもっといいのだが。

 

「隊長が責任を取って下さるまで、私の復讐心は無くなりません」

 

「何のだ」

 

「教えません…」

 

薄く笑う韓忠。

ここまで何時もの構図。

 

恐らく、過去に俺がコイツに何かしたのは間違いないのだろう。

しかしそれが何かが、未だに解らない。

まあ恨みとか復讐と言いつつ、実害はないからいいんだけどな。

 

せいぜい試合の最中、研ぎ澄まされた殺気をぶつけてくる程度だ。

むしろ華雄姉さんともども、組手の相手として不足がなくなり喜ばしい。

 

指導をしていた当初、気の扱いは牛輔の方が一歩上だった。

しかし今では、韓忠の方が上達して結構な差がついているのではないかな。

 

……ふむ。

ちょっと興味が湧いたので、試してみよう。

 

「よし韓忠、気を集約して構えて見ろ」

 

「?はい」

 

構えを取る韓忠に向かって、ちょっくら気弾を放ってみる。

上腕の構えからぐるっと下投げする感じで。

 

「龍撃拳!」

 

三日月状で薄めの気弾が韓忠へ迫る。

ドュクシっと鈍い音を立てるも、無難に凌いでみせた。

 

「ふむ」

 

「いきなりなんです、痛いじゃないですか」

 

痛いで済むようになったんだねって感心してるんだよ。

そんな恨みがましい目で見ないでくれ。

 

虎煌拳だと凄く暗い眼差しになるから、わざわざ避けたんだぜ。

むしろ褒めて欲しい。

いや、流石に冗談だけど。

 

 

「そういえば呂羽」

 

いつの間にか戻ってきて、横で観戦してた姉さんが聞いてきた。

 

「なんだい?」

 

「呂羽隊の者は皆、お前の弟子だよな。なんで韓忠だけここまで……」

 

「待って姉さん。俺は弟子なんて取った覚えn」

 

「将軍。それは私と牛輔が気を扱える素養を持っており、隊長が特に指導して下さったからです」

 

ほほう、と頷く姉さん。

だから待てって。

 

「待て。まず俺は弟子なんt」

 

「そして、今や私が最も隊長の訓示を受けた者。即ち、一番弟子と言えるでしょう」

 

「なるほど。資質を持ってた者が、特別な指導を受けてこうなったと言う訳か」

 

「その通りです」

 

会話から締め出され、韓忠と姉さんで完結してしまった。

俺は弟子なんて取った覚えはない。

確かに指導はしたが、あくまでも基礎だけだ。

 

韓忠と牛輔も、気を扱える余地があったから重点的に教えはしたが、それだけのはず。

確かに牛輔と別れてからは、伸び代のある韓忠を鍛えるのが楽しくなっていはいた。

しかし、弟子と言うからには極限流の技を伝授したり……あっ。

 

「呂羽、華雄。使者が戻ってきたから、…どうかしたか?」

 

「あー、いやなんでもない。すぐ行く」

 

何かに気付いてしまった。

だが折良く、あるいは折悪くやって来た関羽の知らせを優先することにした。

使者の帰りを待ってたんだからな。

 

…背後で誰かが忍び笑いを漏らしたようだ。

後で覚えとけ。

 

 

* * *

 

 

俺たちは恙無く、劉備軍に迎え入れられた。

華雄姉さんは董卓ちゃんと会えるとわかるや、ソワソワ感がマシマシだ。

気持ちは分かるが少し落ち着け。

 

「ようこそ徐州へ。歓迎しますね」

 

おお、劉備ちゃん。

凄く久しぶり。

 

泗水関で思い切り攻撃を仕掛けた呂羽です。

その節は済まぬ。

 

関羽に先導され、俺たちは劉備軍の本拠地へやってきた。

そこで待ち受けていたのは、劉備ちゃんをはじめとした劉備軍の錚々たるメンバー。

 

劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛孔明、鳳統。

さらに呂布ちんと陳宮まで。

 

そして、遂に董卓ちゃんと賈駆っちが!

牛輔は護衛の立場のままであるようで、場を弁えてか隅っこに居た。

 

おお、良かった無事だった。

華雄姉さんが決壊しそうだが、何とか耐えている。

もうちょっと頑張ってくれ。

 

「迎え入れて頂き感謝する。華雄ともども、宜しくお願いしたい」

 

いつの間にか、姉さんが俺の下についてるかのような形になっていた。

違和感を禁じえないが、姉さんは何も言わない。

前から細かいことは気にしない人だったけど、いいのかね。

 

「呂羽殿、久しぶりですな。お元気そうで何より」

 

趙雲が変わらない態度と表情で声をかけてくれる。

そういや連合では会わなかったね。

 

「趙雲も、元気そうで何よりだ」

 

「ふむ、随分とご活躍だった様子。後で手合せ願いたいですな」

 

「望むところだ」

 

戦じゃない試合ならいくらでも、喜んでやるぜ!

 

後ろで関羽が趙雲を詰っている。

あ、謁見中だったね。

済まぬ。

 

 

「呂羽さん。それに華雄。二人とも元気そうで良かったです」

 

董卓ちゃんが儚く微笑んでくれる。

あれ、名前呼んで貰ったの初めてじゃね。

 

「董卓様ぁぁぁーーーっっ!!」

 

姉さん、遂に決壊。

 

「呂羽、あの時はありがと。お陰でボクも月も無事よ」

 

「おお賈駆殿。無事に行き着いたようで何よりだ」

 

「大将!姫たちは名前を捨てたんだ。気を付けた方がいいぞ!」

 

「ああ。牛輔もご苦労だったな、後で韓忠たちにも会ってやれ」

 

賈駆っちからお礼言われるとは新鮮だなぁ。

あと、やっぱり名前捨てたんだね。

仕方ないことだろうけど、並々ならぬ覚悟だったんだろうなぁ。

 

「ボクのことは詠って呼んでちょうだい」

 

「あ、わたしは月です」

 

「分かった。俺はリョウ。宜しく」

 

已む無しとはいえ、大切な名を預けてくれるのだから、こっちも相応の対応をしないといけないよな。

この世界にもそこそこ長く居て、色んなことが良く分かって来た。

俺の考え方も多少は変わったかも知れない。

 

「え、あんた呂羽よね?真名がリョウって…ちょっと!」

 

うん、凪の時と似たような反応。

だから回答も同じような感じでいいよな。

 

「判り易くていいだろ?」

 

「え、うん。……うん?」

 

賈駆っち、もとい詠のキョトンとした顔はとても可愛かったと心のメモに追記した。

董卓ちゃん改め月ちゃんもな!

 

 

「あははっ。和やかでいいですね!」

 

劉備ちゃん。

再び済まぬ、謁見の途中だったのに。

その笑顔に救われます。

 

但し、隣の関羽さんの笑顔が超怖いです。

趙雲の後は関羽とも試合になること間違いなし、だろうな。

 

その後は真面目に。

俺と姉さんは隊を代表して、陣営に加わる旨を宣誓した。

 

 

ちなみに姉さんは正式に仕官したが、俺は客将にしてもらった。

何故なら、まだ腰を据えようとは思えないから…。

 

ここまで来たら呉にも行ってみたい。

そんな我欲が故だ。

孫策とも、また本気で遣り合ってみたいしな。

 

 




・龍撃拳
作品によって色んな形を持つ技で、使用者はロバート。
今回は、何となくKOF2000のバージョンを使ってみました。
ぐるんと腕を振って投げ付けるあのモーション、好きなんですよね。

・韓忠
ちょいキャラのつもりが、何時の間にやら準レギュラー。
そして魔改造。
イメージは龍虎1のキングが鉈持った感じ。
…ちょっと無理がありますかねぇ。

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