武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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34 鬼神激

公孫賛のもとを離れた俺たち。

離れるのはいいが、どこへ向かうのがいいか。

意見は割れた。

 

「涼州へ向かうべきだ」

 

「連合に参加した馬一族が居るけど」

 

「それに、袁紹の勢力圏を通ることになります」

 

「どこを通っても、ある程度は仕方あるまい?」

 

「世話になった公孫賛に、あまり迷惑掛けたくないけど」

 

「迷惑掛けたのは……いえ、なんでもありません」

 

言わずもがなのことってあるよね。

ともあれ、意見はほぼ三つに集約された。

 

一、董卓軍と縁の深い涼州へ向かう。

二、賈駆っちたちが居る可能性が高い劉備のとこに向かう。

三、南蛮に向かう。

 

まず、涼州は遠いというのが一番の難点。

行くとすれば、匈奴の地を押し通って向かうことになろうかと思われる。

向こうでは董卓ちゃんの伝手を頼ることになるだろうけど、色々と不明瞭だ。

 

次に劉備ちゃんは徐州に居るはずだが、これも隣接はしてない。

行くなら袁紹が治める地を押し通るか、ぐるっと遠回りしないといけない。

外洋船を使うのは難しいしな。

 

最後に南蛮。

行ってどうすると言うのか。

温暖な気候でぬくぬくしたい、とか?

 

それなら益州に行って、後から来るであろう劉備ちゃんたちとの接触を待つという方がいい。

順当に進めば劉備ちゃんたちが蜀を打ち立てるだろうし、それを見越してってのもありっちゃありか?

ただこれを知ってるのはおかしいし、予測する根拠も少ないかな。

 

理由はともかく、南蛮と言うか益州もありな気がしてきた。

でも、これまた行くのがとても大変だ。

行った先も劉璋が治めてる、んだっけか。

やはり難しいな。

 

まとめる。

言葉や文化の違う匈奴の地を通るより、何とかなりそうな袁紹の勢力下を通った方がマシだと思う。

それなら徐州の方が近い。

劉備ちゃんのとこには、賈駆っちたちもいる可能性が高い。

 

「てな訳で、徐州に向かおうと思う」

 

「むぅ、分かった」

 

「御意」

 

いや、匈奴たちを相手取ってってのも良い修行になりそうだけどね。

ちょっと心惹かれるものがあったのも事実なんだよ。

でも連れていく兵たちにとっては、厳しいんじゃないかと思うんだよねー。

特殊な訓練を受けてる呂羽隊はともかく、華雄隊は特に。

 

だから袁紹の支配地を通って徐州を目指すぜ。

 

「よし!じゃあ行軍開始。ガンガン行こうぜ!」

 

「おう!」

 

「まるで、敵地に攻め込むかのような意気込みですね」

 

似たようなもんだ!

 

 

* * *

 

 

出立前、公孫賛が手形を発行してくれた。

袁紹と連合した公孫賛の、公認証書だ。

そのため、一応は穏便に通行が許可されるはず。

 

襲って来ても返り討ちにするだけだが、無用な波風は立てるべきじゃない。

だからなるべく端の方を通るようにした。

 

端っこの方は管理があまり行き届いていないのか、賊を見かけることも少しある。

そんな時は、即討伐。

慈悲はない。

 

「鬼神激!」

 

今も目の前に居る賊徒を相手に、連撃を叩きこんだところ。

左正拳から右正拳突き、続けて左正拳と右からの起き上がりアッパー。

心得ある相手なら途中で抜けてくることもあるだろうに、やはり所詮は賊徒か。

 

しかし波風立てないのは大事だが、たまには戦いも必要だな。

実戦となると、姉さんや韓忠たちとの組手とはまた違った心境になれる。

例え、相手が賊徒であったとしてもだ。

 

 

何やかんやしながら、まあまあ平穏無事に徐州に辿り着いた。

 

「死屍累々。後ろは振り返らないのですね」

 

俺が倒した時点では、皆生きてたから大丈夫だ。

役人や村人、街に引き渡した後は知らんがな。

 

さて徐州に入ったはいいが、どうしようか。

適当に待ってれば劉備軍がやってくるかな?

 

「本当に、劉備の下に董卓様が居るのか?」

 

徐州に向かうと決まって以降、華雄姉さんの心配事はずっとこれ。

流石の忠臣だと感心するがどこもおかしくはないな。

 

「多分、居ると思うよ」

 

流石に断言は出来ない。

ちゃんと保護されたとしても、隠された存在になってるはず。

だから、どちらにしても表立った情報は出て来ないんだよ。

 

「近くの拠点へ、知らせを走らせては如何でしょうか」

 

例によって韓忠から常識的な具申が。

 

うん、そうしようか。

分からない時は人に尋ねる。

頼る。

基本だな。

 

「じゃあ、頼m」

 

「ご注進!南より軍勢が迫っています。恐らく劉備軍かと……」

 

おっと、先を越されたか。

まあ手間が省けたと言える。

劉備軍なら、こっちに戦意がないことを伝えたら話し合いに応じてくれるだろ。

 

先方から武将が進み出てきた。

おや、見覚えある……。

 

「そこで止まれ!我が名は関羽。貴様らはどこの手の者か!?」

 

おお、まさかの関羽さん。

姉さんは相性が悪そうだし、ちょっと下がっててもらおう。

 

「俺は呂羽。一瞥以来だな」

 

「呂羽っ!?」

 

え、そこまで驚くか?

ああ、泗水関で遣り合って以来だからか。

 

「訳あって流れてきた。落ち着いて話がしたいのだが」

 

「…ふむ、いいだろう。兵たちも同じか?」

 

「ああ。呂羽隊と華雄隊の二つ分だな」

 

「華雄も、か。……分かった、陣を用意させるから少し待て」

 

良かった。

いきなり斬り掛かかられたりはしなかった。

 

前の時は、姉さんを逃がすためにガッツリやっちまったからな。

ちょっとドキドキしてたんだ。

手合わせは望むところだが、行軍中は波風立てないと言う方針に反してしまう。

 

 

そして簡易な陣が構築され、正対する俺と関羽。

横に姉さんと韓忠もいるが、俺が真ん中。

何故だ。

 

「さて呂羽。お前たちの目的はなんだ?」

 

「その前に聞きたいのだが」

 

「何だ?」

 

「そちらに、董卓と賈駆は居るか?」

 

「……そうか、お前たちは元董卓軍であったな」

 

そうなんです。

姉さんが、それはもうソワソワしてる。

少し可愛いぞ。

 

「董卓と賈駆は死んだ。……と言っても、お前は分っているのだろうな」

 

一瞬姉さんが反応したが、咄嗟に抑える。

どうやら、無事に保護されたようだな。

 

「華雄隊は、彼女たちを守ることが本懐だ」

 

俺もそうだけど、姉さんの思い入れに敵うことはない。

あ、そういや牛輔は元気かな。

 

「…お前はどうなのだ?」

 

「守りたい想いに違いはない」

 

呂羽隊はそもそも、華雄隊の下部組織から始まったからな。

嘘はないよ。

ずっと同道出来るか、その確信は持てないけど。

 

「分かった、桃香様に使者を送ろう。返事が来るまで待てるか?」

 

「問題ない。よろしく頼む」

 

余程のことがない限り、断られることはないだろう。

袁紹、袁術、曹操様に囲まれたこの徐州で、戦力増強は必須のことだから。

 

「そうそう、恐らくだが」

 

ん?

関羽さんが、付け加えるように言う。

 

「今頃、呂布も陣営に加わっているはずだ」

 

「呂布がっ?」

 

ここまで黙ってた姉さんが反応。

そりゃそうだ。

俺もビックリだもの。

 

「旧董卓軍の主要者が集うとは、不思議なものだな…」

 

そっか、呂布ちんも。

呂布ちんが居るということは、陳宮も居るのだろう。

 

董卓ちゃんに賈駆っち。

呂布ちんと陳宮。

そして華雄姉さん。

 

張遼は曹操様に捕まったから仕方ないけど、こうも揃うとは。

こういうの、奇縁って言うのかね。

 

その後しばらく、劉備ちゃんからの使者が戻ってくるまで、俺たちは関羽の監視下で過ごすことになった。

 

 




・鬼神激
タクマが使用する、龍虎2にのみある技。
敢えて使う機会はないと思いますが、私は止めによく使ってました。
削り能力はありません。

・裏話
当初の予定では公孫賛と一緒に袁紹軍に囲まれ、危機に陥って関ヶ原島津ばりの敵中突破を敢行。
そのまま劉備の下へ逃れるという流れを考えていました。
しかし勢いで袁紹捕まえちゃったので、公孫賛が活躍する出番と共に露と消えました。
一番の被害者は公孫賛。
真名を交換する予定すらあったと言うのに、どうしてこうなった…。

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