武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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31 虎閃脚

金色こと袁紹軍を大いに蹂躙する俺たち。

ずんずん進んでいると、耳障りな高笑いが聞こえてきた。

と言う事は、きっと近くに本隊が居るのだろう。

 

で、あるならば。

 

これを目標に突入、粉砕、大喝采!するしかないな。

 

「韓忠!姉さんに右翼を頼むと伝えろ!」

 

「御意!」

 

暴れに暴れる華雄姉さん。

だが、ただ暴れるだけじゃ意味がない。

効率的に押し込まないとな。

 

 

「ここは通さねぇ!我は袁紹様が臣、張ばべらっ」

 

「どっせぇーい!」

 

進路上に立ち塞がる金色を、邪魔だとばかりに気を纏った飛び蹴りで排除。

 

虎閃脚。

 

常に気を纏い続けることが出来るようになり、溜めが必要な技もすぐに使用できるようになった。

ま、デメリットとして疲労も溜まり易くなるが、メリットの方が圧倒的にでかいから問題ないな。

 

相手に伝わるダメージも大きく、張何某は錐揉み回転しながら吹っ飛んで行った。

 

名乗りを遮るのは、あまり褒められた行為じゃない。

でも金ぴかの家臣って時点でお察し。

諦めてくれ。

 

 

「おーっほっほっほ!さあみなさん、華麗に!雄々しく!勇ましく進むのです!」

 

居た。

人垣の向こう側、クルクル金ぴかバインバイン。

高笑いしてるし間違いない、袁紹だ!

 

そしてその背後には、今まで見た中で一番立派な牙門旗が…。

これは、全力でクラッシュせざるを得ない。

 

呂羽隊を使って周囲を掃討。

直線状には幾許かの金色と袁紹のみ。

そして、旗。

 

思い描くのは、地対空高射砲。

 

入念に練り込むのは覇王の気。

虎を敬う気概でもいい。

 

さあ、行くぞ!

 

「覇王っっ」

 

両腕を眼前で交差するいつもの動き。

そこから両脇の下に腕を持ってきて、両掌に複数の気弾を同時に集める。

あとは弓を引くかのように引き絞った両腕を、同時にやや斜め上に向けて前方へ、一気に解き放つ!

 

「翔吼拳ーーーッッ!!」

 

五段重ねの特大気弾を射出。

中心に向けて渦を巻く、天災が如き橙の塊。

 

俺の直線状にあったものは全て吹っ飛び、破壊され、金の鎧も中空で無残に砕け散った。

 

そして、袁紹の頬と髪をギリギリ掠めるように通過し、後ろの牙門旗へ突っ込んでこれを粉砕。

さらに多くの兵士や装備などを巻き込みながら、上空へ消えていった。

 

「押忍!」

 

いい出来だ!

 

 

* * *

 

 

「……な、ななな…なんっ!?」

 

「お前が袁紹か。まだ挑む気概はあるか?」

 

声にならない叫びをあげる袁紹の下に近寄る。

ペタンと座り込むその姿は、とても名門の当主のそれじゃない。

見る影もない程、残念な有様になっていた。

 

きれいにセットされていた髪は、風と衝撃でぐっしゃぐしゃ。

汗と涙で頬に張り付き、一部は口の端に入ってるような…。

 

目に痛かった金の鎧は、左腕の一部を残してボロボロになっている。

大丈夫、鎧だけだ。

肉体的な内側へのダメージはないだろう。

 

さて、どうしてやろうか?

 

「…隊長、凄まじいですね…」

 

いつの間にか戻って来てた韓忠が、珍しく呆然とした風で言う。

ははっ、韓忠のそんな顔が見れただけでもやった甲斐はあったな。

 

いや、そんな冗談はともかく。

これだけの規模の覇王翔吼拳を撃っても、まだ気力的には問題ない。

初っ端、覇王至高拳をぶっぱしてるにも関わらずだ。

そしてイメージよりは若干劣っていたが、もっと修行を重ねればこの更に上が見えるだろう。

これは大きな収穫だ。

 

おっと。

そんなことより、呆然と座り込んだ袁紹をどうするか。

こっちが先決だったな。

 

再起不能にしてもいいが、まずは捕えようか。

 

「韓忠、こいつを捕えろ」

 

「……はっ」

 

あとは華雄姉さんが来てから打合せだが……首を刎ねろとか言いそう。

まあその辺は流石に、主たる公孫賛の指示を仰がないと。

久々に、俺が抑える役になるのかな。

 

「い、や……ぁ……は、はな…し……」

 

韓忠が縄でグルんグルん。

袁紹は必死に抵抗して見せるが、まだ衝撃が残ってるのか実に弱々しい。

 

男の俺が見てる前ってことで、屈辱も感じてるんだろうなぁ。

 

あまり見てると、何かに目覚めそうだ。

自重しよう。

 

ところで、公孫賛が袁紹を撃破した場合ってどうなるんだろうね。

大体は敗れた公孫賛が劉備ちゃんを頼るとか、討ちとられるとかだったはずだ。

それがまさかの大勝利。

 

公孫賛が、袁紹を飲み込むほどの勢力に成長するのか。

 

……なんだろう。

凄く違和感を感じる。

 

いや、失礼極まりないんだけどさ。

 

「隊長。拘束しました」

 

「ん、御苦労さん」

 

あれこれ考えてる間に、韓忠により袁紹の拘束が完了したようだ。

 

袁紹に目を向けると、キッと睨みつけられた。

元気があって結構。

 

こうしてボロボロになった女性を見ていると、俺が無性に悪い奴になった気がするな。

 

「気のせいじゃないと思います」

 

韓忠がうるさいが、そんなことはないと思う。

 

「先ほども、女将軍をあられもない姿にしてましたし」

 

文醜のことか?

てーか、言い方が…。

 

「女性の敵ですね…」

 

とても嬉しそうに言う韓忠。

俺に何か恨みでもあんのか。

あー、何か知らんけどあるんだったね。

そうだったねー。

 

「呂羽!大丈夫かっ」

 

韓忠と戯れていると、華雄姉さん登場。

袁紹がひっと呻いた。

返り血に塗れた、鬼神の如き姿だったからな。

 

袁紹軍相手なら、姉さんだって呂布ちんごっこが出来るんだぜ!

あ、これ姉さん貶めてるな。

反省。

 

「むっ、貴様は袁紹!?今すぐそっ首刎ねてくれr…呂羽、何故止めるっ?」

 

「この軍の主将は公孫賛。指示を請わないと」

 

「しかし!」

 

予想通りだったので、落ち着いて対応出来る。

対して袁紹はガクブル状態だ。

 

ほら、そうこうしてるうちに伝令がやってきたよ。

 

「報告します!公孫賛様、別働隊に苦戦中。援軍求むとのことです!」

 

な、なんだってー!?

 

流石だぜ公孫賛。

俺の予想を超えることを容易くやってくれる。

そこに痺れる憧れない。

 

「仕方ない。姉さん、頼む」

 

「何故、私だ?」

 

「ここに残したら、姉さん袁紹殺しちゃうだろう?」

 

「チッ……。分かった、行ってくる!」

 

頼みます。

姉さんの言葉に震える袁紹を残し、華雄隊は公孫賛軍本隊の援軍に向かっていった。

 

さて。

 

「袁紹軍に告ぐ。お前らの主人はここに確保した。大人しく投降せよ!」

 

本隊が壊滅しても、果たして別働隊は動き続けるのか?

普通なら動きを止めるはず。

しかし万が一、そして姉さんが間に合わなかった場合……。

 

一抹の不安を抱きつつ、戦いを収めるべく声を大に張り上げるのだった。

 

 




投稿開始より、早いもので一ヶ月が経過しました。
予想より長く続いてますが、皆様にご愛顧頂き感謝の極み。
既に折り返し地点は過ぎましたが、最後までお付き合いのほどお願い申し上げます。

30話誤字報告適用しました。あざっす!

話の流れが放浪編と言う事でひとつ、どうでしょう。

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