武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
幽州は公孫賛の下に寄宿することになった俺たち。
そこで任せられた仕事は色々あった。
まずは賊退治に治安維持。
これは華雄姉さんのリハビリにも役立った。
あとは、主に俺と韓忠で事務処理の手伝いなどなど。
陳留や洛陽での経験が生かされた。
そして、諸侯の動きをチェックするため細作を多数放った。
中でも袁紹について詳しく探るよう指示して。
これを公孫賛は訝ったが、
「袁紹が動いた結果と、洛陽で現実を見たでしょう?」
そんな袁紹が、次に何を仕出かすのか…。
動きを知らないと大惨事になりかねない。
そう主張し、押し通した。
「そんな、いくら麗羽でも…。いやしかし……」
公孫賛は暫くぶつぶつ言ってたが、承諾は取った。
あまりに煮え切らないと、最悪勝手に人を遣ることも考えていたが…まあ良かった。
俺は原作で反董卓連合の後、袁紹が電撃的に公孫賛を攻め落としたらしいことは知ってる。
でもその理由、正確な時期、対応など詳しくは知らない。
だから少しでも詳しいことを知り、素早く対処することが肝要だと思うんだよね。
そして、この行動が実を結ぶことになる。
「報告します!袁紹軍に遠征の動きあり!」
「追加報告!袁紹軍の標的は、この幽州かと思われます!」
時期などはともかく、結局理由はよく解らんかった。
袁紹だから、でいいのかも知れない。
* * *
動きを掴んだのなら、対処方法は色々ある。
機先を制して、覇王翔吼拳ぶっぱとかな!
それはともかく、公孫賛だけだと袁紹の大軍に抗する術はなかったはず。
奇襲であれば尚更。
しかし今は華雄隊と呂羽隊がいる。
ある程度、良い勝負が出来るんじゃないかな。
特に俺と華雄姉さんは、袁紹に含むところが多々ある。
俄然張り切っちゃうぜ。
そんな訳で、華雄隊と呂羽隊が先陣として国境まで出張って来たのだ。
のこのこやって来た袁紹軍を、ここで迎え撃つって寸法よ。
俺としては、目に痛い金色の群れは薙ぎ払い甲斐がある。
連合戦の時、特に手強いと思える武将は居なかった。
今回も居ないとは限らないが、実地訓練の体で臨ませて貰おう。
「呂羽。合図は任せるが、良いか?」
「ああ、任された」
華雄姉さんが猪じゃない、だと?
前の時の開幕ぶっぱがお気に召したらしい。
旗を折ったこともな。
期待には応えなければならない。
だから俺は、ここで袁紹軍(の旗)にとっての死神となろう。
「報告!まもなく現れます!」
物見からの報告で、開戦が近いことが知れる。
未だ事前通知とかはないが、袁紹軍は明確にこちらに向かって来ている。
敵性行為と断じて良いよな?
「一応、詰問の使者を派遣すべきかと思われますが…」
常識的な進言をしてくる韓忠だが、分ってるんだろう。
もう遅いって。
ほら。
俺の目にも、少し遠くに袁紹の旗が見えている。
「無駄だろう。あちらが国境前で止まるなら、考えてもいいがなぁ」
「そう、ですね」
止まる気配はない。
そもそも、向こうは公孫賛軍に奇襲をかけるために来てるのだ。
止まる筈もない、な。
言いつつ、気を循環させ全身に纏って行く。
この流れもかなり楽に出来るようになってきた。
それでいて、気力切れになるようなことも減って来たのではないかと思う。
そろそろ、覇王翔吼拳の上を目指せるのではなかろうか。
即ち、覇王至高拳。
開幕ぶっぱはこれで行こう。
「報告、接敵しますっ!」
やはり、舌戦も何もないな。
止まる様子はない。
ならば、こちらもそれなりの対応をするだけだ。
「ちょっと行ってくる。姉さん、華雄隊は任せた」
「うむ、行って来い!」
俺は華雄姉さんと別れ、韓忠と呂羽隊を連れて前進。
ちょっと小高い丘になってる場所あるので、そこに陣取った。
金色が勢いよく近付いてくる。
迎撃部隊が居るってことくらい、向こうも解ってるだろう。
つまり、覚悟完了ってことだよな?
行くぞ!
両腕を眼前で交差させ、すぐさま腰元へ引く。
瞬間的に気力を高めたのち、両手を突き出して大型の気弾を撃ち出した。
「覇王至高拳ッ!」
敵勢の先鋒は覇王至高拳に薙ぎ倒され、至高拳はそのまま袁紹の牙門旗に吸い込まれていった。
そして高さの問題もあろうが、旗を吹っ飛ばすどころか丸ごと粉砕してやったぜ。
いやぁ、実に清々しい。
並行して突撃してきた奴らも、華雄隊と呂羽隊が迎撃している。
俺も至高拳を放った直後、追いかけるように飛燕疾風脚で突入した。
袁紹軍の先陣は、乱れに乱れた。
大小さまざまな旗があるが、とりあえず可能な限り潰してる。
死神だからね。
と、そこに有象無象とは毛色の違う武将が現れた。
連合の時も見かけたような気がするな。
「お前かー、あたいらの軍旗をめちゃくちゃにしてる奴はー!?」
「だとすれば、どうする?」
「斬るっ!」
武器を向けて来る奴が相手なら、使わざるを得ない。
とは言え、覇王翔吼拳を使うほどでもないかな。
その趣味が悪い金色も、全て粉砕してやる!
「虎煌拳!」
「ウボァッ」
ズバンッと練り込んだ虎煌拳を叩き込む。
相対したコイツ、確か文醜とか言ったか。
連合の時は分からなかったが、なかなかの技量を持っていた。
だが夏候惇や華雄姉さん、凪などに比べるとまだまだ全然。
ちょっと呼吸を読んで踏み込めば、簡単に懐に潜り込めた。
至近距離から虎煌拳を打ち込んだが、何とまだ立っている。
評価を改めなくてはならないかな?
では、容赦なく追撃と行こう。
「暫烈拳!」
目に余る金色を砕いてやる。
その想いを勢に乗せ、気を練り込んだ拳の連打を繰り出す。
一撃の重さが故に文醜の身体が浮き、落ちる前に次の一撃を続けて浮かし続ける。
ある程度の高さに到達すると、右正拳突きを叩き込みフィニッシュ!
虎煌拳で気を通して脆くなった金色の鎧は、暫烈拳の連撃に耐え切れず破砕。
勢い余って衣類も少し破けてしまったな。
……水色か。
「文ちゃん!?」
もう一人、見たことある奴が慌てて駆けつけて来た。
「絶対無比の空手、それが極限流だ!覚えておく事だな」
文醜はいい感じに吹っ飛び、恐らくKOしてしまった。
だから今来た奴に向かって煽り文句を放つ。
こちらを睨みながら文醜を介抱する、…誰だっけ。
見たことあるんだけど。
かかって来るなら粉砕するだけだが、介抱するだけなら後回しにするか。
「……ご愁傷様です」
背後で韓忠が何かを呟いた。
それを聞き流し、周囲をぐるっと確認する。
遠くに華雄隊の動きが目に入った。
姉さんも、以前の鬱憤を晴らすが如く暴れてる。
俺も負けては居られないな。
近辺、見渡す限り金色の群れ。
よーし、このまま他の金色を破砕し続けてやるぜ!
・覇王至高拳
設定上、覇王翔吼拳の上位版。
最初の頃はダメージや硬直等、幾つか優遇処置もあったのですが…。
毎日一話の自転車操業。
色んなフラグに迷いが生まれますが、一応まだ初志貫徹の心積もりです。
とりあえず、三十話記念に脱衣KOしてみました。