武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

29 / 109
29 猛威虎殺掌

北へ。

とりあえずそう決めたものの、どうしたもんか。

 

風の噂で反董卓連合は解散したと聞いた。

これで群雄割拠の時代、乱世の幕が完全に開いたな。

 

今後の流れからすると、袁紹が公孫賛を攻め滅ぼして劉備を駆逐。

その袁紹は曹操に敗れ、劉備は蜀にって感じだったと思う。

 

華雄隊…華雄軍もどこかで旗揚げしてしまうか?

でもどこで?

…などと、こっちの問題は山積みだ。

 

 

「どう思う?」

 

華雄軍の実質的な隊長に就任した俺は、皆に質問する。

 

「我らの軍だけで旗揚げするのは厳しいだろうな」

 

「同感です。」

 

ちなみに軽くまとめた軍内の序列はこんな感じ。

 

一、華雄

華雄軍の将軍。

 

二、呂羽

華雄軍の華雄隊の隊長と呂羽隊の隊長を兼務。

 

三、韓忠

華雄軍の呂羽隊の副長。

 

俺の肩書が色々おかしい。

 

華雄姉さんは軍の代表で、現在リハビリ中。

俺は姉さんの代わりに軍の指揮を行うため隊長に就任。

自分の隊まで手が回らないので、副長の韓忠が指揮を代行。

 

やってることは前と同じなんだけど、敢えてまとめたせいで逆にややこしくなったような。

 

あといつの間にか、俺と姉さんの序列がほぼ同列視されていた。

姉さんからも敬語は要らんと言われたし。

戦いを経て、信頼度が上がったとかそういうことかね。

 

それはともかく、やっぱ華雄軍単体での旗揚げは厳しそうだ。

なら、どこかの諸侯に付くことになるんだろうけど。

 

「曹操、陶謙、公孫賛、劉備…。このくらいか?」

 

「有力な諸侯と言えば、袁紹も入りますが…」

 

「却下だ。袁紹なぞ、むしろ攻め滅ぼしたいくらいだ!」

 

姉さんが蛇蝎の如く嫌うのも仕方がない。

董卓ちゃんがああなってしまったのも、概ね袁紹のせいだからな。

 

まあ、袁紹に組するってのは俺としても有り得ないよ。

 

「あと、隊長が旗を折った諸侯は無理でしょうね」

 

そう、そうなんだ。

覇王翔吼拳で吹っ飛ばした牙門旗の件。

これが尾を引いている。

後悔はしてないが。

 

あ、韓忠が隊長って呼ぶのは俺のことだよ。

 

「なら曹操と陶謙は厳しいか」

 

「残るは劉備とか言う奴と、公孫賛に絞られるな」

 

上手くいってれば、賈駆っちたちは劉備ちゃんのとこに居るはずだけど。

あと呂布ちんも居るかも知れない。

目指す理由としては十分だが……。

 

「劉備のとこを目指すにしても、道が分からんねぇ」

 

「分からんな」

 

「分かりませんね」

 

何事にも用意周到な韓忠が分らないって時点で、ここに分かる奴はいない。

そもそも現在地が不明確だからな。

 

「報告します!」

 

うんうん唸っていると、出してた物見が戻ってきた。

 

「東の方角に、白馬の集団あり!公孫賛の軍勢と思われます!」

 

おお、これぞ天佑か。

 

「行きましょうか」

 

目敏く気付いた韓忠が進言。

これに頷いて、

 

「姉さんは本隊を指揮して後詰を頼む。呂羽隊で先駆けしてくる!」

 

「分かった、任せろ!」

 

久しぶりに呂羽隊のみを率い、公孫賛が居るであろう場所へ駆けて行った。

上手くいくといいなぁ。

 

 

* * *

 

 

白馬義従。

公孫賛が率いる精鋭部隊で、全て白馬から構成されている。

 

とても目立つため、すぐに分かるのが特徴だろう。

うん、確かに虎牢関の戦いでも出会った白馬の群れだ。

 

向こうは既にこちらに気付いて臨戦態勢を敷いている。

敵意がないことをアピールするため、速度を落として近付いていく。

 

「俺の名は呂羽!公孫賛殿の部隊と見受けるが、如何に!?」

 

声を大にして問い掛けると、向こうはざわめき出した。

おや、意外と名前売れてんのか?

やがて、先頭に居た女性が周囲を落ち着かせながら出てきた。

 

「いかにも私が公孫賛だ。お前、呂羽って確か董卓軍の…」

 

「それも含めて話をしたい。宜しいだろうか」

 

「……いいだろう」

 

よし、流石良い人。

戦場で話を聞いてくれただけのことは有る。

 

 

「あ、後ろから華雄隊が来るから」

 

「は?」

 

 

急場の拵えとして、簡素ながら陣が構築された。

そこで俺、姉さんが代表して公孫賛と面会している。

 

公孫賛が言うには、連合が解散して幽州に戻ったのだと。

そこで、近くに謎の部隊が居るらしいとの報告を受けて出て来たんだってさ。

 

俺たち、思ったよりも北上してたらしい。

 

「で、お前たちは…虎牢関から離脱してここまで来たと」

 

こちらも簡単な経緯は話した。

部隊が呂羽隊だけじゃなく、大部分は華雄隊だってことも。

 

そう言うと、公孫賛は疲れた表情をした。

苦労人の気質が見て取れるな。

 

「…前、お前に言われたこと。洛陽については、ちゃんと自分の目で確かめたよ」

 

あ、そっち?

 

何が正しいのか解らなくなった、とか言ってた。

それに姉さんが、そんなの自分で決めることだ!と自信満々に答えたり。

間違ってないと思うよ、うん。

 

「それで、お前たちの目的は何だ?」

 

逸れた話の筋を元に戻して公孫賛は尋ねる。

そうそう、本題はそこだった。

 

チラリと姉さんを見る。

無言で頷く。

 

「俺たちを受け入れる余地はあるか?客将でもいい」

 

「……本気か?」

 

本気だよ。

華雄軍を丸ごと抱えると、公孫賛の勢力はとても大きくなる。

その分、負担も大きくなるけどな。

 

さあ、どう出る?

 

 

* * *

 

 

華雄軍は再び華雄隊へと戻った。

公孫賛に受け入れて貰えたからだ。

 

「これで、ひとまずは糧食に困らずに済みますね」

 

韓忠がホッと一息。

 

そうなのだ。

ズンズン北上してきたはいいが、途中で食糧不足に陥ってしまった。

大規模に狩りをしたり、少人数で街や村に寄って物資を購入したりで凌いできたのだが、流石に厳しくてねぇ。

 

人数が人数だから、遣り繰りが大変だったんだ。

洛陽で培った、事務処理の技がまた役立つ日が来ようとは…。

 

だがそんな日々も終わり。

これからは公孫賛軍の一員として、張り切って職務に当たろうじゃないか。

 

 

そんな訳で、まずは……いいぞ、姉さん!

 

「猛威虎殺掌!」

 

前進しながら水平に手刀を浴びせる。

相手は姉さんが放り投げた木材だが。

 

何をしてるかって?

 

薪割りだよ。

放り投げられた木材を、程々に気を練り込んだ手刀で適度な大きさに分断するのだ!

 

公孫賛軍に編入されて早速、食事を提供して貰うことになった。

働かざる者食うべからず。

そこで、姉さんと一緒に薪割りを買って出たと言う訳さ。

 

平和っていいね。

これで、久しぶりに実益を兼ねないで修行が出来る。

公孫賛には感謝しないとな。

 

 




・猛威虎殺掌
ビール瓶切りとの違いは何か?
踏み込みの度合いとかでしょうかね。

そんな訳で公孫賛軍に入りました。
今回から放浪編(仮)です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。