武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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26 極限流連舞脚

絶体絶命の大ピンチ。

 

かーらーのー?

 

大脱出!

 

 

「なっ!?」

 

すまないな、夏侯淵さん。

悪いが、まだ終わるわけにはいかんのだよ。

 

「…あの状態から抜け切るとは、全く底が見えません」

 

ふっ、極限流に底などない!

極限状態であればあるほど強くなる、それが極限流だ。

 

…まあ言うは易し、為すは難しだがな。

顔には出さないけど、結構シビアで冷や汗ものだったぜ。

やれやれ。

 

 

凪が気弾を放ったあの瞬間。

咄嗟に見極めたのは、気弾の威力が左程でもないってこと。

そして気弾を放つために、攻撃の鋭さが若干だが鈍っていたことだ。

これに気付いたのは大きかった。

 

夏侯淵から連続で放たれる、殺気の籠った矢は確かに恐ろしい。

でも凪の攻撃が若干鈍ったがために、ほんの少しだけ余裕があったんだ。

 

凪の気弾は足元に着弾。

足止めとしては常套手段で、間違った判断じゃないと思う。

夏侯淵が放つ、文字通り二の矢があるのだから。

 

これを片足でギリギリ避け、爆風で揺れないよう気を込めて踏み立つ。

 

一拍遅れて放たれた左正拳突きからの右フック。

これは上げたもう片方の足で、膝蹴りと回し蹴りを連続して打ち込むことで相殺。

次に飛んできた矢を後ろ反りハイキックで討ち落とし、軽く屈んでの跳ね蹴りで凪を押し込んだ。

 

さらに飛んできた次の矢を、半身捻りで何とか避けて、左ストレートを突き出すことで三本目の矢を弾いた。

最後に軌道が少し低かった四本目の矢は、飛燕疾風脚で飛び越えつつ今の位置に着地したというのが一連の流れだ。

 

使った技は、極限流連舞脚から虎咆疾風拳、そして飛燕疾風脚という順だな。

いやー、焦った。

しかし乗り切った。

 

とりあえずドヤ顔を二人に見せつけておこう。

 

「極限状態で力を発揮する。それが極限流だ!」

 

ドヤァ…!

 

 

「フッ……」

 

おや、夏侯淵さんの様子が?

 

「ふふふふ」

 

「秋蘭さま?」

 

俯きぶつぶつと何かを呟きだす夏侯淵。

正直怖い。

凪も不審げだ。

 

「呂羽っ!」

 

「はいっ?」

 

何を思ったか夏侯淵さんは弓を下ろし、こちらに向かってツカツカと歩み寄って来る。

凪も呆然として見送るのみ。

 

「今ここで、貴様の息の根を止めてやる」

 

静かにそう呟き、スラリと短剣を抜き放ち構える夏侯淵。

ひぃっ

 

「秋蘭さま!落ち着いて下さい!」

 

凪が必死に止めている。

うん、あんなの夏侯淵じゃない。

間違いなく俺のせいなんだろうけど。

 

ドヤ顔がいかんかったか?

 

しかしな、極限流としては……。

 

「リョウ殿!」

 

おっと、せっかく凪が止めてくれたんだ。

退散するとしよう。

 

「それじゃ、またなー」

 

「待て!…っ離せ、凪!」

 

「冷静に、冷静になって下さい。流琉もそこまで来てますから!」

 

「む!?」

 

え?

 

「えぇいっ」

 

立ち去ろうとした俺の居た場所に、ドカンと一発謎のヨーヨー。

わぁお。

凪は別に俺を助けてくれた訳ではなく、純粋に夏侯淵を落ち着かせて、俺の死地を継続させるつもりだったらしい。

 

「すまない凪。流琉もよく来てくれた。危うく呂羽の挑発に乗って、我を失うところだった」

 

凪と典韋に微笑み、俺をギロリと睨む夏侯淵さん。

その対応に間違いはないと思うけど、俺は別に挑発とかしてないから!

 

「呂羽さん……。ここで、仕留めます!」

 

典韋まで物騒なことを言い始めましたよ。

えーと、どうするかね。

 

 

……と、俺の背後から切り裂くように一陣の風が飛び込んできた。

 

ドッゴーンと上がる土煙。

慌てて避ける凪と典韋。

 

「……邪魔」

 

呂布ちん、呂布ちんじゃないか!

助けに来てくれたのかい。

 

「恋殿の行く手を阻むものは、全て粉砕するのですぞー!」

 

陳宮もいたか。

どうやら、ただ通りがかっただけのようだ。

 

呂布ちんはちらりと俺を眺めると、興味なさげにそのまま駈け出してしまった。

陳宮と呂布隊もそれに続く。

 

俺もそれに続く。

 

「あ、待って下さい!」

 

いや、流石にこれ以上関わっているのは厳しい。

華雄隊のことも気になるしな。

 

呂布隊が横断するのに合わせ、俺も死地から逃げ出すことに成功するのだった。

 

 

* * *

 

 

呂布隊とは途中で別れ、緑色を薙ぎ倒しながら金色目指して突き進む。

多分、金色周辺に華雄隊は居るはずだから。

 

と、目の前に現れたのは白馬の群れ。

この時代に珍しいな。

 

ああ、公孫さんか。

少し間違った、公孫賛だな。

 

無視しても構わんが、向こうも気付いたようだし挨拶だけしておこう。

 

「よお」

 

「ん?……お、お前は!」

 

知ってるのか雷電!

ライデンと言えば毒霧だけど、やっぱ火を噴く大きいクマの方がいいよな。

 

「麗羽や曹操が血眼になって探してた、確か呂羽」

 

さっきまで実感してましたよ。

前者はベルコンアクションゲーで、後者は殺気漂う死地でね。

 

「ところで聞きたいんだが」

 

「趙雲も探してるとか言ってたような…。ん、なんだ?」

 

こんな戦場で、初対面の敵将に話を持ちかけられても普通に対応する。

人が好い、と言われる所以の一端を見た気がした。

 

「なんで連合に参加したんだ?」

 

何故、公孫賛にこの問いをしたのか。

普通と言われるこの人が、どういう答えをするのかが気になった。

この人の答えが、きっとこの世界の普通なのだろうから。

 

「それは、…帝を操り世の安寧を乱し、悪政を敷く董卓が許せなかったからだ」

 

要するに、激文の鵜呑みか。

疑問とか何か思うところがあったとしてもまあ、これがスタンダードなんだろうなぁ。

 

「じゃあ、その目でちゃんと確かめてみてくれ」

 

「…どういうことだ?」

 

俺の答えも、状況と聞く人によっては宜しくない。

けどまあ、この人なら問題ないだろ。

 

「言葉通りだ。じゃあ、機会があればまた会おう!」

 

「あ、おい!」

 

言い捨て、俺は華雄隊捜索に戻る。

敵と会って喋るだけ喋って立ち去るってのも、褒められた行為じゃないけどな。

優先順位が違うから、と言い訳しよう。

 

連合側が勝つにせよ董卓軍が粘るにせよ、今後は乱世と呼ばれる時代が来る。

 

公孫賛のように、人が好いというのは美点であるが弱点にもなる。

原作で劉備ちゃんほどの力を持てなかった公孫賛の、暗雲立ち込める先行きを不安視せざるを得なかった。

ま、余計なお世話だろうけどな。

 

 

さて、華雄隊はどこかなー?

 

 

 




そんな訳で、解釈により切り抜けました。
もうすぐ反董卓連合も終わります。
これが終われば、物語もまた加速することでしょう。

しかし、一ヶ月で終わらせるという目標は早くも潰えました。

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