武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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24 飛燕龍神脚

呂布隊に続いて出陣するのは華雄隊。

率いるのは副長たる俺。

 

今まで率いてた呂羽隊は、半ば親衛隊のように傍に居る。

役割は前と同じで遊撃だけどな。

あと、牛輔はいざという時のために華雄姉さんのとこに残してきた。

だから人員は補充したけど、戦力的にはやや減かね。

 

そうそう、呂布ちんの出陣の理由だけどね。

偶々近くに居た兵士さんが言うには、俺が牙門旗を圧し折ったせいらしい。

旗が折れたことにより場は騒然。

士気も下がってるんじゃないかって陳宮が言ったらしく、それを機会と捉えちゃったと。

 

そっか、まあ機会っちゃ機会だったかな。

仕方ないね。

 

ところで、覇王翔吼拳を放って諸侯の旗を折ったのが俺という事実。

果たして戦場で、どれだけの人間が気付くものか。

 

 

「いたぞ、あいつだ!」

 

「ここまで屈辱を受けてしまっては、全力で復讐せざるを得ない!」

 

「全軍前進、ぶっころせ!」

 

そんな心配は杞憂でした。

むしろ俺の狙われっぷりが酷い。

 

華雄隊なんて目もくれず、俺だけを狙ってくる数多の将兵。

お陰で呂布ちんと張遼さんが縦横無尽。

 

「さすがは副長。エサにはもってこいですね」

 

暗い笑みを浮かべる韓忠。

おいコラ。

華雄隊と俺との間を空けるんじゃない。

 

いや、まあなんだ。

ここまで明確に俺を目掛けて来られると、若干の恐怖もあるがむしろやり易さが際立つ。

迎撃的な意味で。

 

エサとは言いえて妙かも知れん。

好んでなりたいとは思わんが。

 

まあいい。

華雄隊の指揮は、一時的に韓忠に預けよう。

俺は一人で居る方が、隊員たちの受ける被害は減少しそうだし。

 

「おらぁっ!麗羽様のため、あたいの刃に貫かれて死ねぃ!…グフォッ」

 

どこかで見たような金色の将が振りかぶって迫って来るのを、踏み込みからのサマーソルト龍斬翔で退ける。

振り抜きが甘い。

 

「文ちゃん!…きゃあっ」

 

近くに居ながら、そちらに気を取られたもう一人の金色の将。

これまたどこかで見たような気もするが、気にせず滞空中に姿勢を矯正して、と。

 

「飛燕龍神脚!」

 

爪先から蹴り下ろし急降下、という謎の技で蹴り弾く。

蹴り下ろしと言うより、斜め下足刀というべきかも。

 

姿勢の矯正はともかく、急転直下には気の力が大きい。

物理法則無視してるからな。

この世界では仕事放棄気味なのはともかく。

 

さてさて、周囲は金色に溢れている。

しかし二人の将を退けたことにより、若干勢いが鈍ったか。

 

あとは韓忠と華雄隊に任せて、先を急ごう。

 

……そこでふと、思ったのだが。

慌てて出陣したはいいが、目的はどこに設定されているのだろうかと。

 

呂布ちん一人突出させるのは不味いってことで、彼女を拾って帰ることだろうか。

彼女の武勇に並び立ち、敵勢を突き崩してしまうことだろうか。

 

聞いてないけど、前者が正しそうな気がする。

俺としては後者の方が楽しそうだが。

 

うん、まあ。

 

目の前の敵は全部ぶっ飛ばす。

金色優先で。

差し当たり、これで間違いはあるまい。

 

 

* * *

 

 

モリモリと注がれる金色のお代り。

延々と迎撃することに若干飽きてきた頃。

 

ついに金色が疎らになってきた。

 

しかしそれは、敵兵の密度が下がることを意味しない。

いや、人口密度は下がった。

ただ、殺気の濃度が急上昇してる。

 

「来たな……」

 

 

道を間違ったと言わざるを得ない。

 

すぐさま踵を返し、もと来た道を戻るぉぉぉぉぉっっ!?

 

凄まじい怨念の乗った矢が一本、二本と頬を掠める。

 

「まずは話をしようか。そこに直れ」

 

クールボイスが心地よい。

どうも、お久しぶりです夏侯淵さん。

 

 

「ああ、そうだな。…本当は、ここまで来る予定はなかったのだが」

 

そう言って、スイッと流し目を送って来る夏侯淵。

たいそう絵になってはいるんだが、明らかに毒込めてるよね。

 

「断罪すべき者が居るというのではな。罠と分かっていても避けることは出来ない」

 

「罠とか、別に掛けてない…ですよ?」

 

「ほお…?」

 

あ、なんか逆鱗?

クールビューティがただの冷気になったよ。

 

「呂羽に引き寄せられたのは身代の大きい諸侯。まるで誘蛾灯だ」

 

俺に引き寄せられた諸侯の横合いを、呂布ちんと張遼がまんまと食い千切っているのだと続ける夏侯淵。

 

「貴様自身も、正面から兵士を粉砕してるしな」

 

確かに俯瞰的に見れば、そうなるかも知れない、のか?

 

「狙って、そう仕向けたんだろう?」

 

いやいやちょっと待って。

夏侯淵さん、それは買い被りと言うか言い掛かりですよ!

 

「まあ、御託はいい。お前に残された道は二つに一つだ」

 

「…なんでしょう?」

 

「大人しく降るか。……討たれるか、だ!」

 

「えーっと……」

 

選択の余地ないんじゃね?

 

「私は今、少々虫の居所が悪くてな」

 

少々じゃないと思う。

って口に出してないのに、めっちゃ睨まれた。

 

わぉ、絶対零度。

 

「さあ、答えを聞こうか。いや、大人しく討たれろ。そうしたら、華琳様の下へ連行してやる」

 

まさかの討ち取り推奨。

いや、死体を曹操様に披露しても仕方なくね?

降伏どこいった。

 

「断る。討ち取られるつもりはない」

 

そう答えるしかないよな。

 

それに今の俺は華雄隊副長。

相手が誰であろうと、安易に降伏など出来ようはずもない。

 

「そうか。交渉は決裂、だな…」

 

夏侯淵は、どこか嬉しそうにそう仰る。

そして、弓に矢を番え出した。

 

あ、直接?

 

「残念、だっ!」

 

ブオォーンっと夏候惇も真っ青の一撃が頬を掠める。

そういや夏候惇どこ行った?

 

夏侯淵は凄い速さで矢を番え、連続して放って来る。

それはそれで危険だが、上手く避けて懐に入りさえすれば!

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

「シッ」

 

と、一歩踏み出そうとしたところで誰かが乱入。

飛び蹴りを左腕で捌き、横から飛んできた矢を必死に躱す。

 

「凪か!」

 

「リョウ殿!華琳様のため、本気で参ります」

 

凪の連撃と夏侯淵の矢。

そのコンビネーションは凄いもので、なかなか隙が見出せない。

 

さらには凪が……あ、凪?

ここにきてその気弾はちょーっと、厳しいかなーって……。

 

しかも溜めなしで行けるはずの気弾を、更に溜めてはる。

機を見計らってるのかも知れんけど。

 

これってあれだね、以前俺が指導して見せたやつ。

ちゃんと身になってるんだねぇ。

 

って感動してる場合じゃねえ!

やっべ、マジやっべぇ。

 

気弾を溜める分、凪の連撃はややペースが落ちた。

代わりに夏侯淵が矢を放つスピードがどんどん上がってる。

 

凪はともかく、夏侯淵は完全に殺しに来てた。

 

「覚悟願います!」

 

そして遂に、凪の気弾が放たれた。

 

 

 




23話、誤字箇所修正しました。ご指摘感謝です。

近頃、咳のし過ぎで腹筋が激しく筋肉痛。
あと夜寝れない。
風邪ってこんなに辛いものだったのか、と戦慄を禁じ得ない。
健康って大事ですね。

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