武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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23 死兆拳

「この程度の傷、舐めとけば治る!」

 

華雄姉さん、首は舐められんでしょ。

いや、そう言う事ではなく。

 

華雄姉さんの負傷に伴い、華雄隊は再編成された。

 

張遼の推薦と賈駆っちの承認により、華雄隊は副長の俺が三分の二ほどを率いることに。

残りは一応、張遼と賈駆っちが分散して率いることになっている。

 

そう報告したのだが。

 

「私も戦場に出る!問題なぞない!」

 

なんて主張して冒頭の発言に繋がる訳だ。

でもどう見ても重傷だし、問題しかないぜ。

戦場に出るなんざ論外だ。

 

何とか寝かしつけて、牛輔を監視に就けて出てきた。

いっそ洛陽まで退かせるか。

董卓ちゃんを直接護衛するためとか言えば、案外すんなり行くかも…?

賈駆っちに聞いてみよう。

 

そう思い、陣幕を出る。

と、殺気?

 

「副長、覚悟!」

 

「むっ、死兆拳!」

 

俺の死角から鉈を振るって迫る韓忠を受け止め、同時にその身体に気を撃ち込む。

そしてすぐに小爆発させ、吹き飛ばした。

 

気を爆発させた箇所の服が破れ、肌が露わに。

 

「くぅっ…」

 

「まだ甘い。ほれ、これで隠しとけ」

 

危険な部位ではないとはいえ、あまり晒しておくのも悪いだろう。

そう思い、持っていた手拭を渡してやる。

韓忠は乱暴に受け取ると、涙目で一睨みしてから走り去った。

 

変わらんな、あいつ。

時間があると、いつもああやって勝負をかけてくるんだ。

いやまあ、いつでもかかって来いと言ったのは俺なんだけどね。

そして毎度軽く撃退してるのも俺なんだけどね。

 

戦場に出ると、何事も無かったかのように冷静で毒吐くいつもの振る舞い。

慣れるまでは落差に戸惑ったものだ。

 

 

* * *

 

 

「伝令!敵影、確認されました!」

 

華雄姉さんの処遇を相談していると、敵影が確認されたと報告。

虎牢関に辿り着いてから三日後のことだった。

 

こうなれば、代理とは言え俺は華雄隊を率いねばならない。

以前より姉さんと手合せとかしてたお陰で、兵士からの信頼も得られている。

指揮系統に不備が生じることはないだろう。

 

むしろ問題は、俺。

 

俺は姉さんと違って一点集中型だ。

虎煌拳しかり、飛燕疾風脚しかり。

 

姉さんが爆斧を振りかぶって横薙ぎにするように、面での戦いをするには覇王翔吼拳を撃つしかない。

 

まあ、この世界の戦場は武器がメイン。

武器を持った奴らが相手だから、覇王翔吼拳を撃ちまくらざるを得ないのだが。

 

連射が効くものじゃないからな。

ちゃんと考えないと、先日みたいに気力切れになってしまいかねん。

 

気力切れと言えば、飛ばない虎煌拳を上手く扱えば面での戦闘に対応できるかも知れないな。

遠くまで飛ばさない代わりに纏う枠を増やし、一度に多量放出するとか。

試してみる価値あり、だな。

 

 

とは言え、今回はすぐに出撃するようなことにはならないだろう。

いわゆる我慢できない人は、残念ながら華雄姉さんくらいだし。

 

まずは弓矢やら投石での応酬になる。

つまり飛び道具。

そう、俺の出番だ。

 

さて、仕寄ってくるのはどちらさんかな?

 

 

──オーホッホッホ……。

 

金色の軍隊。

 

 

宜しい、ならばでっかいのをお見舞いしてくれよう。

新調したのか、前よりでっかい牙門旗もあるしな。

ふっ、良い的だぜ。

 

 

隊を一時的に韓忠に任せ、俺は一人門の上に立つ。

 

おー、絶景かな絶景かな。

見えるのは金と赤に藍色などなど。

 

泗水関の時と違い、門を開いてないから空中に躍り出る必要がない。

十二分に練り込んだ覇王翔吼拳をご披露しよう。

 

 

大きく息を吸い込み、両手両足に気を練り配す。

丹田に力を集めつつ、息を浅めに吐き出し続ける。

簡単に言うと深呼吸だな。

 

両手を前で交差し、諸手を腰に溜め置く。

 

イメージするのは大きな面、且つ多段構成。

今までで最大規模のものだ。

 

「ぬぅぅぅ……っ」

 

気力が充実していくのを感じる。

周囲の空気が張りつめる。

 

「覇王、翔吼拳ーーッッ!!」

 

 

よし、手応えあり。

飛んで行った気弾、その練度、大きさ、色艶などどれをとっても非の打ちどころがない。

 

問題は動作が遅すぎて、今のところ使い道がぶっぱ砲台しかないことだろうか。

これもまた、もっと素早く放てるように修行しなければな。

 

 

「呂羽、あんたやることがえぐいわね」

 

ふと気付くと後ろに賈駆っちがいた。

張遼もか。

 

「そやで。前ん時も思うたけど、敵さん相当屈辱やろなぁ」

 

「え、何?あれ泗水関でもやったの?」

 

「ああ。袁紹の旗吹っ飛ばしてん。いやあ、傑作やったわ!」

 

けらけらと機嫌よさげに笑う張遼。

そんなに笑うとこじゃないと思うがな。

いや、牛輔も似たような感じだったから一般的には正しいのか?

 

「でも、爽快ね。袁紹に屈辱を味わわせてるって思うと」

 

「そやろそやろ!」

 

ああ、そういう。

今のこの状況は、袁紹のせいでもある。

ちょっとした意趣返しみたいなもんか。

 

「でも呂羽。完全に諸侯から目を付けられたわね」

 

「そやなー。旗を折るなんてマネ、普通は呂羽以外できへんもんな」

 

旗を折ってフラグが建った訳ですね、分ります。

だれうま。

 

まあ、その可能性は高いかもしれん。

今回は今までになく、大いに練り込んだ覇王翔吼拳を撃つことが出来た。

その成果は、概ね満足できるものとなった。

 

但し、代わりに。

 

「袁紹に袁術、陶謙。それにあれは、曹操のとこかしら?」

 

範囲を広げようとしたのは確かだけど、巻き込む範囲が思ったよりも広くてね。

袁紹の後ろにいた曹操様の旗も、ちょっと損傷しちゃった、かも?

 

……激怒した曹操様の顔が浮かんでくる。

 

戦場だからね!

仕方ないよね!

 

いくら俺が逃避したところで、現実は非情である。

 

「呂羽を餌にすれば、結構釣れるかも知れないわね…」

 

「お、それいいな。特に袁紹とか、やりたい放題やんか」

 

果たして敵の士気は下がっているのか。

むしろ上がっているのではないか。

 

怒髪天を衝く。

そんな状態になって居れば、むしろ袁紹なんかは組し易い。

 

そういう意味で、賈駆っちたちが言うのは間違いじゃないと思う。

ただねぇ。

曹操様はねぇ、冷静に怒り心頭してると思うんだ。

 

タダでさえ、次会ったら容赦しないとか言われてるのに。

より一層本気で逃げなければならなくなってしまった。

 

フラグ?

ぶっ飛ばしてやんよ!

 

 

「……ん?」

 

なんとなく、門が、開きつつ、あるような?

 

そんな俺たちの下に、バタバタと慌ただしく兵士が走り寄って来た。

 

「伝令!呂布将軍が出陣なされました!」

 

「なんやて!?」

 

「なんですって!?」

 

なんですとー。

まだ何も舌戦とかしてないよ?

 

「かぁー!華雄がおらんかったら大丈夫や思うてたんに、呂布ちんもかい!」

 

「くっ、釣られたのかしら。一緒に居るべきだった……」

 

とは言え、出てしまったからには仕方ない。

いくら呂布ちんとは言え、一隊だけでは包み込まれてしまう。

 

「仕方ないわ。二人とも、出るわよ!」

 

 

下に降りると、門から出て行く呂布隊の姿が見えた。

 

「呂羽、華雄隊を率いて中央をお願い!霞は左を!」

 

「承知!」

 

「任せとき!」

 

まさかこうも早く、出ることになるとはね…。

 

 




・死兆拳
餓狼WAの二代目Mr.カラテが使用。
敢えて使う必要性はないけど、とりあえず使ってみる技だと思います。

22話の誤字報告適用しました。
コメント含めて約10件のご指摘、ありがとうございました。
流石に首筋から首は流れませんよねー…。

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