武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
青く輝き、大きな判定を持ったまま高スピードで飛んでいく。
調整を続けてきた俺の覇王翔吼拳は、遂に目標のラインを越えた練度の物に成長した。
開門ぶっぱした最初の覇王翔吼拳は、雲霞の如く群がっていた敵兵を面白いように薙ぎ払った。
戦果は主に劉備軍で被害甚大の模様。
華雄姉さんはそこに突っ込んだ。
禁句を飛ばして挑発した孫策軍に突っ込むかとも思ったが、流石は将軍。
戦いの機を見る目は間違いなかった。
被害の大きかった劉備軍の穴を、さらに穿つが如く荒らし回って行く。
一方の孫策軍には、後から出てきた張遼隊が殺到。
華雄姉さんの抑えに疲れた張遼が、鬱憤を晴らすが如く攻め散らかしている。
こちらにも覇王翔吼拳の余波でダメージが通ってるようだった。
二発目のぶっぱは空中発射。
こちらは意図的にやや練度を落とし、スピード重視のオレンジ色。
狙ったのは袁紹の牙門旗。
そして目測違わず、見事に袁の旗を貫いた。
牙門旗は中頃から消失し、残ったのは無駄に立派なただの棒。
袁紹軍は、誇らしげにただの棒を掲げている。
傍らに佇む呂羽隊(仮称は取った)に指示し、これ見よがしに嘲笑させる。
袁紹軍の面目は丸潰れ、だ。
これには董卓軍の士気が大いに向上。
遠目に見える張遼も、本気で爆笑してる。
いやおい、ちゃんと戦えよ。
おっと、袁紹軍の棒(笑)が震えてるな。
棒の近くで金髪クルクルが見え隠れ。
動揺してるのが丸分かりだぜ。
「────ッッッ!!」
袁紹が何事かを叫ぶ。
恐らく金切声を上げたのだろう。
こっちまで響いてきてやがる。
袁紹軍の全体が蠢き始めた。
真っ当な指揮系統を通さず動かすには、袁紹軍の身代は大き過ぎる。
動揺は加速し、近くの諸侯にも伝播していった。
「よし、呂羽隊各員に告ぐ。身体の幹をしっかり締めて、全速進軍。ガンガン行こうぜ!」
それを確認したところで俺の指揮する部隊に指示。
呂羽隊は、一部隊として集団行動するなら烏合の衆も同然だ。
付け焼刃でどうにかなるようなもんでもない。
よって、遊撃を主とすることにした。
少人数でまとまり、各部隊の側面や後方を守りつつ、時には正面に回り込んで攻撃に加わったりと。
そんなことを周知している。
一応の隊長たる俺からして、遊撃要員だと思ってるしな。
丁度いいだろ。
ほとんど全員を出撃させて、手近に残るのは僅かに六名。
うち四名は門の補助要員として残す。
残りの二名。
呂羽隊の副官的な役割を担う、一人は牛輔。
また一人は韓忠と言った。
「旗を折るったぁ、大将、剛毅だねぇ。袁紹の奴、屈辱に塗れて怒り狂ってるぜ」
ニヤニヤしながら言うのは牛輔。
出身は華雄隊でも張遼隊でも賈駆隊でもない、異色の武官。
なんでも、董卓ちゃんの親戚にあたるらしい。
確かに、董卓ちゃんと髪の色とか顔の造詣とか似てる。
彼女を活発にしたらこうなるかも知れない、という可能性を見た思いだ。
それより、やっぱ旗を折られるのは屈辱なのか。
日本の戦国時代とかでも、旗指物を取られるのは武士として屈辱とかあったけど。
詳しくは知らんかったが、期待した効果が得られるなら何よりだ。
「流石は副長です。その外道ぶり、実に見習いたいものです」
冷静な口調で毒を吐くのが韓忠。
どうも以前、俺に外道なことをされたことがあるらしい。
華雄隊に入って偶然再会し、復讐を目論んでいるとか。
確かにどこかで見たことがある気はするんだが、生憎と記憶にない。
詳しく教えてくれればいいのにな。
ともかく、この二人が呂羽隊の中でも無意識的にも気を扱える要員だ。
気を扱えると言うことは、ある程度の防御率を誇ることにも繋がる。
俺はこれから敵陣に突っ込むが、連れて行くなら堅い奴の方がいいからな。
「おっと、動くぜ!」
牛輔の言葉通り、袁紹軍はその物量そのままに前進を始めていた。
先方の劉備軍のことなぞ、お構いなしだ。
哀れ、後ろの味方に飲み込まれる形となった劉備軍。
その動揺は計り知れない。
「切り込み時です」
韓忠の言葉に呼応し、気を巡らせる。
よし、じゃあ行くぜ!
「極限流空手、破れるものなら破ってみろ!」
* * *
「オラァ!」
足下を薙いで来る敵兵を蹴りつけて跳躍。
そのまま山なりに飛びつつ右腕を掲げ、気を込めた手刀を勢いよく振り下ろす。
「雷神刹!」
近くにいた敵兵をまとめて叩き伏せ、状況を確認。
混乱の極致にあった劉備軍。
はわわ軍師の機転と、見かねた公孫賛の騎馬隊による助勢を得て、何とか退避に成功。
今は青息吐息の状態にあるようだ。
華雄姉さん率いる本隊も、敢えて劉備軍を追わずにそのまま袁紹軍に向かって行った。
まあ、この事態を引き起こした張本人が目の前にいたら、そりゃ突っ込みたくなるよね。
俺もそれを追い、袁紹軍を横合いから突っ突いている。
「劉備軍は捨て置くのですか?」
今なら止めを刺せますよ、と韓忠は避難中の劉備軍が気になる様子。
確かに、今は戦闘に加わってないが、準備を整え何時また横から突き入れられるとも知れない。
それに、兵士たちが整わなくとも一騎当千の武将たちが出てくる可能性もある。
関羽とか張飛とか、多分居るだろう趙雲とか。
うん、怖いな。
「牛輔、警戒しといてくれ」
「了解っと!」
まずは袁紹軍と華雄姉さんが優先だから、牛輔を派遣することにした。
何かあったら知らせてくれな?
さて、と。
俺は気力も十分、まだまだ暴れられるぜ!
しかし覇王翔吼拳のような大技はともかく、虎煌拳や虎煌撃を普通に撃ってても複数相手には余り向かない。
ならば凪の様に、ドッカンドッカン派手にやるのも一つの手、か。
そこで、若干アレンジした虎煌拳を試してみることに。
原作にはない技だが、組み合わせるだけだからいけると思う。
「はっ…おぉぅりゃぁぁーっ!」
雷神刹の振り上げた腕に気を集め、振り下ろす手刀を掌底の形に保ちつつ虎煌拳を放つ。
放った虎煌拳を、虎煌撃の要領で気弾ごと地面に叩き付け、雷煌拳が如く爆発させる。
試してみたら出来たのは嬉しいのだが、ふと気付いてしまった。
これ、某パワーゲイザーの劣化版だよな。
ところで俺の気弾は通常、青かオレンジっぽい色をしている。
しばらく修行してて分かったことだが、気の練り込み方によってこれが若干変わってくる。
頑張って調整すれば、ユリの雷煌拳みたいにピンク色の気弾も出来ると言うことが分かった。
まあ、やったところで大した意味はないがな。
なんてどうでもいいことを考えながら、劣化ゲイザーでドッカンドッカン派手にやっていた。
すると、近くにいた韓忠が微妙な表情で俺を見ていることに気付く。
気弾を使うたびにこの表情するんだよな、こいつ。
そういや黄巾党に居たって言うし、案外それで俺に仕留められたりしたのかもな。
ま、何も言ってこないから大丈夫だろ。
* * *
調子に乗ってドッカンドッカン暴れてる俺だが、ちゃんと袁紹軍の深部には食い込まないよう気を付けてる。
華雄姉さんはちょっと食い込み過ぎだな。
目を離さないようにしないと。
一方、張遼は孫策たちと良い勝負をしているようだが。
数の差もあり、袁術軍の一部とも干戈を交えているみたいだ。
呂羽軍の有象無象はあちこちで遊撃してるよ。
ちゃんと韓忠は把握してるらしい。
凄いなお前。
これだけ多種多様な将兵がいても、徒手空拳なのは俺ただ一人。
体術のみで戦う奴の絶対数も少ない。
韓忠や牛輔も剣、鉈などを使ってるからな。
いかに凪が特別だったのか、分かる気がするな。
そして、ふと凪のことを考えたのがフラグだったらしい。
俺に向かって迫る、見覚えのある気弾。
すぐさま虎煌拳で相殺。
土煙が晴れた先に居たのは、紛うこと無き凪その人。
チラリと奥を確認すると、華雄姉さんに良いようにされてた袁紹軍に曹操様が手当をしたようで。
李典と于禁が支えるように動いているのが少し見えた。
そして、華雄隊の動きも若干鈍っている。
潮の目が変わってきたか。
すぐに退きたいところだが、対峙する凪が許してくれそうもない。
強い眼差しで見詰められている。
良く知らない状態だと、睨まれてると勘違いしたかも知れないほどに。
凪の身体から溢れるのは敵意ではなく、純粋な戦意。
それが見て取れたならば、格闘家としては応えねばなるまい。
「韓忠。将軍に伝令、皆を連れて下がれ」
凪から目を逸らさず、周囲に警告。
組手や試合とはまた違う、久方ぶりに感じる高揚感が身を焦がす。
スッと腰を落とし、両手を構える。
俺の動きを見た凪もまた、足を軽く開き、構えた。
互いの呼吸が浅くなり、気が充足していく様が見えるかのよう。
いざ。
「行くぞ!」
「行きます!」
・猛虎雷神刹
ふわっと前方に跳んで空手チョップを放つ技として、KOF97で実装。
ジャンプ頂点頃に当てると普通に吹っ飛ぶが、着地際で当てると強制ダウンを奪える。
作品によってはダウン追撃にも使えるようです。