武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
極限流の技には通常の人間では出来ない動きをするものが多くある。
ゲームだからと言うのは事実であるが、俺それ以外にも理由があることを知っている。
それは、気だ。
気の力を身体に循環、或いは纏わせることにより、通常できない動きが出来るようになるのだ。
もちろん、それでも出来ないものの方が多かったが。
それが、今は出来る。
気を循環させること自体、その練り具合が比較にならないほど充実している。
ここがどんな世界かは不明だが、少なくとも気が充満しているのは間違いない。
中々危険な世界なのではないだろうか。
あと、技の再現を試しながら少し行動したところ、川があった。
水面を覗いて見ると、ぼんやりではあるが自分の顔が映った。
良く言えば老成した、硬い顔をした自分じゃない。
若かりし頃の、リョウ・サカザキその人で間違いなかった。
ここでまたテンションの上がった俺は、突っ走ることに決めた。
丁度、少し遠くから人の喧騒が聞こえてきたな。
どんな世界なのかを知るのに最適だと、全力で駆けだした。
少し思い立って、後ろ向きに跳ねて虎煌拳を撃ってみる。
残念ながら加速して吹っ飛ぶほどの衝撃は得られなかった。
あー、ダッシュする技が龍虎乱舞しかないのはちょっと残念だな。
* * *
「……ふむ、行ってしまわれたか」
遠くで何やら叫んでいる御仁が居たようなので、ちょっとした興味を持って様子を窺ってみた。
すると、何とも派手な演武をやりだした。
イマイチ実践には向かないような気もしたが、どこか惹かれるものがあったように思う。
俄然興味が湧き、いざ声をかけてみようと思っていたところだったのだが……。
気付かれてしまったのか、全く逆の方へ駆けて行ってしまった。
「まあ、縁が有ったらいずこかで会うこともあろう」
誰も居ない平原に留まる意味はない。
次の街まで暫しある。
少し、急ぐとしようか。
* * *
前ダッシュを続けて辿り着いたのは街、というか村?
柵に囲まれたそれなりに規模の大きな村のようだが、家は恐らく木造。
門のあたりを行き交う人の服装も、あまり立派とは言えない。
まあ、俺も今は布製の道着だから人のこと言えんが。
ふむ……、遠目から判る情報はその程度か。
とりあえず、近付いてみよう。
複数の視線に晒されながら、門に差し掛かると止められた。
「止まれ!……この村に何用か?」
大人しく止まると、キツイ目をした女性……少女?が訊ねてくる。
おや、どこかで見たことあるような。
「なに、ただの旅人だよ」
当たり障りのない回答をするも、少女?はジィっと睨みつけるばかり。
いやはやどうしたものか、と悩んでいると。
「凪ぃ、西門は大体終わったでぇ~!」
これまた別の少女?がやってきた。
てか、此奴また随分と服装が……ビキニやん!?
「真桜か。いや、実は怪しい者が……」
「ん?……あー、いや凪。こん兄ちゃんは全然賊っぽくはないで?」
「む、そうか?」
「あー……、いやでも、ちょっと怪しいっちゃ怪しいかなぁ」
「ど、どっちなんだ!」
……。
うん、完全に置いてけぼりだ。
が、丁度いい。
もうちょっとで記憶の蓋が開きそうだ。
凪と呼ばれる少女。
真桜と呼ばれる少女。
その姿形。
見覚えがある、気がする。
ポクポクポク、チーン。
………おおっ。
恋姫だな。
そうそう、恋姫無双って奴だ。
大元のゲームはやってないが、派生した作品は幾つかチェックしたからまあまあ知ってる。
三国志を舞台にした、その登場人物を女体化したギャルゲー。
で、主人公は北郷一刀君。
イケメン爆発しろ。
確か、真名って独特の風習があるんだよな。
勝手に呼んだら殺されてもしゃーない非礼になるってやつ。
これ、名前が三国志そのままだとギャルゲーにならないからだよな絶対。
いや別に良いんだけど。
そっかそっか。
いや、思い出して良かった。
特に真名のこととか。
凪とか真桜とか、この流れだと知らんかったら絶対呼んでる。
ふぅ、危ないとこだったぜ。
んー、てことは北郷君もどこかに居るのかな?
居るんだったら是非会ってみたいなあ。
諸作品ではほぼ損な役回りを演じてたけど、穏やかで誠実な青年らしいし。
さてさて、無事世界を把握出来た所で眼前の事態も収拾せんとな。
凪と真桜が言い合ってる、と言うか真桜が凪をからかってる感じだな。
目の前の不審者(オレ)はどうでもいいのかい?
「もう行ってもいいか?」
声をかけると、ハッとした様子でこちらを見る二人。
「ま、まだ目的を聞いてなモゴッ」
「ああ、すまんかったな兄ちゃん。もう行ってええでー」
凄みを効かせる凪を抑えた真桜から許可が出た。
「モゴモゴッ」
「こんだけ大人しゅう待っててくれたんや、十分やろ?」
「モゴ……」
真桜の言葉に凪も納得したのか静かになった。
てーか、ひょっとするとこれはあれか?
義勇軍が曹操様に邂逅する場面。
「はぁっ…、失礼しました…」
「いや、別に構わないが」
「しかし兄ちゃん、用が無いなら早めに離れた方がええで」
「む、何故だ?」
「実は、賊の軍勢が迫っているのです」
これは、思いのほか良いところに来たかもしれない。
ちょっと詳細を彼女たちに聞いてみよう。