武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
予算会議の後、賈駆っちから依頼されて張遼へ届け物をした。
その時に軽く付き合えと手合せをして以降、何かと絡まれることが増えた。
俺は日々、隊の事務処理をしつつ、華雄姉さんや張遼との手合わせをして過ごしている。
一方で董卓軍最強として有名な、呂布ちんとの手合せを仕組まれたりもしたけれど、運が良いのか悪いのか。
留守だったり昼寝してたりお腹が空いていたりと、まともに試合する機会には恵まれていない。
勝てるイメージは湧かないけど、極限ファイターとしては対戦してみたいよな。
そんな姿を見ていた隊員の中には、俺の使う体術を習いたいと申し出てくる者まで現れた。
凪の時と同様、弟子は取らないと言ったのだが、基礎だけでもと前副長にも頼まれてしまった。
確かに極限流を一から教えるのは難しい。
しかし、型や軸の取り方。
気の扱いや精神的なものを教えるだけでも違うとは思う。
そして凪の時でも思ったことだが、教えると言う行動は己を省みることにも繋がる。
自分が分ってないと教えることなど出来ないからだ。
深くは考えてなかったが、洛陽の市中警固を華雄隊が勤めていること。
そして城内に宦官が(多分)居ないことから、恐らく戦いが近いのだろう。
空気も多少、張りつめてる箇所があった。
ふむ、ならば。
己を鍛えなおす意味でも、隊員への指南はありだと思う。
あ、でも弟子じゃないから。
あくまでも基礎的なことの指導だから!
心の中で凪に言い訳しつつ、隊員たちへ極限流の基礎を叩き込むことにした。
こうやって指導を続けていると、改めて凪の凄さを感じるな。
ほぼ独学であそこまで修めるなんて、才気は当然、なによりも努力の凄まじさを実感させられる。
うむ、俺も負けてはいられない。
次にいつ何処で、どんな形で会っても恥ずかしくないよう、より厳しく修行をしなければ!
* * *
「てやぁぁぁっっ」
「シィッ」
極限流の基礎を指導をしている隊員たちを相手に、色んなメニューを考えては試行錯誤する日々。
型や軸の取り方、精神的な指導はまあまあ進んでいる。
しかし気の扱いは、半ば予想通り全然だな。
ほぼ全ての隊員は気を扱いきれず、一握りの隊員も無意識下で使ってるだけだと分かった。
意識して使い、気弾などとして扱うことが出来る奴はいなかった。
凪の特別感がマシマシだ。
その無意識下で使ってる隊員、どこかで見た気がする。
隊員としての履歴は俺より若干長い程度で、元は黄巾党に居たとか。
戦いの経験があり、飲み込みも早く筋も良い。
基礎を取得したことで、かなりのスピードで伸びてる。
今も組手をしているのだが、跳躍からの叩きつけに自信を持って来たようだ。
でも変な自信を付けてもいかんので、いっちょ撃ち落とそう。
「龍牙!」
左腕に気を込め、斜め上に抉るようにアッパーを打ち上げる。
気を纏った左拳で相手の剣先を避けてヒット。
「今のは中々良かった。もっと精進しろよ!」
よーし、一本!
コイツは特殊だが、俺の指導を受け組手を行う隊員はかなり多くなってきた。
もちろん華雄隊が大部分だが、賈駆隊や張遼隊などからも参加者が居る。
この集団は、非公式に呂羽隊と呼ばれているらしい。
上官たちも何も言わんし、問題ないのだろう。
実際、横の繋がりが広くなるのも、部隊間の連携をとる際には良いことだしな。
よし、この調子で進めるぞ!
押忍!
* * *
ある日、華雄姉さんが軍議に呼ばれて出掛けて行った。
会議は軽くスルーする姉さんだが、軍議となれば張り切って出て行く。
ある意味わかりやすいが、温かい苦笑一つで終わるのは人徳か。
さて、姉さんが居ないとなれば副長の俺が隊をまとめることになる。
とは言っても、特別何かすることがある訳でもない。
普段通りに執務を行い、何かあれば確認に出向き、事の次第によっては将軍へ注進する。
そんなもんで、特に何事もなく昼になった。
執務を一通り終わらせた俺は、昼休憩がてら街へ繰り出した。
平和な街中の風景を見ながら、俺は今後に思いを馳せる。
陳留で曹操様に仕えるのを拒んだのは、北郷君を消させないためだ。
北郷君が消えるのは、歴史を大幅に変えてしまったからだったはず。
主なところでは、戦死するはずの人間を生かす。
負ける戦いに勝つ。
三国を統一する、などであろうか。
そして曹操様が魏を打ち建て、覇道を進む中にカギはあると見た。
北郷君が曹操様と共に歩む道を邪魔することが、北郷君救済の道じゃないかと。
それを為すには、彼らと敵対する道が一番だ。
獅子身中の虫よろしく暗躍するって手もあるにはあるが。
どう考えても向いてない。
最終的にどの勢力に身を置いて、あるいは個人で動くかは決めてない。
しかし色んな人脈を作っておくことは大事だ。
顔見世程度だが劉備軍とも接触したし、半ば流された状況だが今は董卓軍に入り込んだ。
董卓ちゃんとは会えてないが、これは良いだろう。
それ以外の主な将とは面識を得てるし、俺の立場も悪くない。
今後、遠くないうちに反董卓連合が成立すると思われる。
連合側に付いて名声を得ると言うことも考えられたが、もう無理だ。
今の俺は華雄軍の副長。
それなりに愛着も湧いたし、何より華雄姉さん。
原作でどうなったのかは分らないが、あまり良い扱いじゃなかったと思う。
北郷君同様、姉さんも助けたいところだ。
ちゃんと注視しておこう。
話が逸れたが、北郷君を消さないために曹操様の覇道を邪魔するという方針で確定。
凪や夏侯淵と直接ぶつかる可能性も高い。
何とか逃げ切らねば……。
あ、ちょっと怖くなってきた。
そうそう、忘れちゃいけないことがある。
北郷君救済、などと言ってはみたものの、別に誰かから頼まれた訳じゃない。
原作を知って思った、俺の自己満足でしかない。
これを聞いたら如何に北郷君でも怒るだろう。
曹操様なら、死神の鎌を振るうことを躊躇わないだろうな。
これを、心に深く刻み込んでおかなくては……。
ともあれ、まずは直近の戦いとなるであろう反董卓連合。
ここでは董卓軍、華雄軍として奮戦することに否はない。
曹操様たちに披露できなかった覇王翔吼拳。
存分に披露してやろう。
その後の話だ。
連合軍との戦いはまあ、紆余曲折あっても多分負けるだろう。
その際に董卓ちゃんと賈駆っちは劉備ちゃんに保護される、はず。
近いとこに居ればフォローも出来るんだが、今のところ俺に出来ることはない。
問題は俺だ。
華雄姉さんが無事なら、一緒に行動するのも吝かじゃない。
しかしそうじゃない時は……。
ま、これはその時になってから考えようか。
頼るべき諸侯も、連合戦の最中に観察するべきだな。
「うし、こんなもんだな!」
ちょっとごちゃごちゃしてしまったが、大まかな方針を整理出来た。
そろそろ華雄姉さんが戻って来てるかも知れない。
午後の執務もあるしな、俺も戻るとしよう。
夕方になり、厳しい表情の華雄姉さんが戻ってきて、事態は風雲急を告げる。
いよいよ来たか!
・龍牙
龍虎2で初出展のロバートが使う対空技。
虎咆より、やや斜め横方向に移動すると言う特性があります。
ちなみに虎咆もそうですが、龍虎2では二発目の判定は膝にありました。
17話誤字報告適用しました。脱字もありました。ありがとうございました。
追伸。今回の風邪は厳しそうです。
予告なく連載が途絶えた場合、ダメだったんだなって思って下さい。