武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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他者視点詰合せ


17 雷煌拳

我が名は華雄。

董卓様配下において随一の猛将だ。

 

呂布には勝てないがな。

あれは仕方ない。

だが、いつかは一本なりとも取って見せる!

 

さて、我が華雄隊は洛陽の市中警固を任されている。

今日も今日とて街中を訪れ、巡回していた。

 

うむ、民たちも元気があって結構なことだ。

これも全て我らや董卓様のお陰であるな!

 

そう胸を張っていると、ふと視界の奥で不安定に揺れる荷車が見えた。

 

むむっ、積み荷は木材か。

あれは危険だ。

ふとしたことで傾き倒れたら、市井の民に迷惑がかかってしまう。

 

確認していると、今にも倒れそうになっている。

いかん、急いで向かわねば!

 

得物を振り上げながら全力で走り寄るが、無情にも先に木材が落下してしまう。

くっ、間に合えーっ

 

「虎咆疾風拳!」

 

どごんっ

何!?

 

ぎりぎりで間に合わないと感じた瞬間、近くにいた若い男が拳で木材を粉砕してしまった。

 

しかも救った女に声をかけて心配までしている。

これはもしや、器量持ちの逸材と言う奴か?

 

我が軍は、というより董卓様の置かれた立場は未だ不安定だ。

あの男を我が軍に引き入れたら、董卓様を守る力をさらに向上させることが出来るはず!

 

よし、善は急げ。

早速勧誘だ!

 

「そこの者!」

 

勢いのままに、突き出した男の腕を掴む。

うむ、鍛えられた良い腕だ!

 

「なかなかの剛力だ。その力、我が軍で生かさないか!?」

 

「え、どちら様?」

 

改めてしっかり見たが、なかなか精悍な顔付き。

ますます我が軍に相応しい。

 

誰かと尋ねられたなら、誇りを持って答えるのが将というもの。

 

「董卓様が臣。華雄だ!」

 

我が名を披露すると、吃驚した顔をした。

ここらでは見ない顔だから旅の者かと思ったが、我が名を知っているとはやるではないか。

 

だとすれば話は早い。

 

「我らはこの街の警固を担っている。対応できる貴様のような人材が必要なのだが、どうだ?」

 

副長から、常々こう言った時はこう言えば良い、と言われてたことを思い出しながら口にする。

ちょっと早口になってしまったが、問題あるまい。

 

おい貴様、ちゃんと聞いてるか?

腕を掴む手に力を込めると、少し顔をしかめて頷いた。

よし!

 

「さあ、参ろうか!」

 

私は意気揚々と男の腕を掴んだまま、城の練兵場へ向かっていった。

おっと、助けられた女と商人のことは部下に任せよう。

頼んだぞ!

 

 

* * *

 

 

道すがら話を聞くに、この男は旅の格闘家で呂羽と言うらしい。

なるほど、格闘家であれば先の動きも分かるというもの。

 

早速練兵場で腕試しをしてみたところ、なんと素手で私の動きに対応してみせた。

それに、気弾なんて初めて見たぞ!

良い拾いものをした。

 

おっと、我が副長に引き合わせねば。

副長の言った通りにしたら、ちゃんと着いてきてくれたのだ。

うむ、流石だ。

 

「副長、居るか!」

 

「これは将軍。どうしました?」

 

「新人が入った。紹介しよう、呂羽だ!」

 

「あ、どうも。呂羽です」

 

うむ、挨拶が出来る良い奴だ。

そのあと副長と呂羽が何やら話をしていた。

 

何かと尋ねれば、給金について副長が説明していたとのこと。

ふむ、その辺は全部副長に任せてある。

 

最近、少し苦労をかけている気もするな。

今度飲みに連れていってやろう。

そうだ、呂羽との親睦会も兼ねるといいな。

うむ!

 

「将軍、呂羽殿は客将が良いとのことですが……」

 

「よし副長、呂羽とともに今夜繰り出すぞ!」

 

「……。それと、武官でよいのですよね?」

 

「なんだ呂羽。読み書き算術なんか出来るのか?」

 

「いやまあ、出来なくも……」

 

「呂羽殿!正式に文武官として仕官して下さるのですよね?…ねっ?」

 

「えっ……あ、はい」

 

唐突に副長が声を張り上げ、呂羽に迫っている。

久しぶりに見たな、副長の本気。

何に本気になったのかは分らんが。

 

しかし呂羽の奴め、なんと多芸な。

武もあり学もある。

そんな奴が転がり込んでくるとは。

 

これはますます良い拾いものをしたな!

うむ、ならば副長の仕事を手伝わせてみよう。

 

 

その夜、二人を連れて街に繰り出し飲ませてやった。

 

「将軍、呂羽殿は紛れもない逸材。是非、新しい副長に!」

 

「そうか!副長が言うなら間違いないな。呂羽、貴様を副長に任じる!」

 

「ちょ、おま……っ、副長さんもいいのかそれで!?」

 

「何を仰る副長殿。わたしめはただの一文官。おっと、どうぞ今後ともよしなに」

 

「なんだ呂羽、何か不満でもあるのか?」

 

「いや……」

 

(まあ、流れを見るには内側からの方が良いっちゃ良いか…)

 

何か呂羽がぶつぶつ言ってるが、問題はなさそうだ。

よし!

 

「ならば、新副長の呂羽に乾杯だ!」

 

「新しい副長に乾杯!」

 

「お前たちに完敗だぜ」

 

三人で杯を掲げ、乾杯した。

ん?呂羽、何か言ったか?

 

 

* * *

 

 

「華雄、最近なんや機嫌ええな。なんかあったん?」

 

む、張遼か。

ふむ。

我が眼力で得た、新しい副長の自慢でもしてやるか!

 

 

「ほぉー、華雄隊の新しい副長なあ。で、肝心の腕の方はどうなんや」

 

「それこそ問題ない。徒手空拳であそこまでのやり手、他には知らん」

 

「へぇ。華雄がそこまで言うなんてなぁ、こりゃ楽しみやな…」

 

最後の方は聞こえなかったが、部下の自慢は気分がいい。

よし、一杯奢ってやろう!

 

 

* * * *

 

 

城壁の上で一人ちびちび飲んでると、賈駆っちがやってきた。

 

色々動いているようで、恐らく戦が近いのだろう。

気に入らんなぁ。

どうにもキナ臭い。

 

「袁紹よ」

 

ん?

隣に腰を下ろした賈駆っちが呟いた。

 

「近いうちに発表するけど、あいつらが主だって攻めてくる見込みなの」

 

「ほうかー」

 

月も詠も、平穏を望んどるっちゅーのに。

ままならんもんやなあ。

 

「……それで、霞。華雄隊はどんな感じ?」

 

暗い雰囲気を変えるがごとく、努めて平坦な声色で話を振ってきた。

 

「ああ。あの呂羽っちゅう副長がええ感じにまとめてくれとるで」

 

あれはええ。

賈駆っちと示し合わせて、書簡をわざと忘れて届けてもろうた際。

軽く手合わせしてみたんやけど、いやあ凄かったわぁ。

 

雷煌拳、言うたかな?

 

気弾だけでも珍しいのに、まさか跳ねるとはなー。

思わず足を止めてしもうて、それが敗因になった。

 

いやはや、武器がなくてもああまでやってのける奴がおるなんて。

世界は広いと改めて思うた。

華雄が自慢するのも分かるってもんや。

 

だからこそ、次は本気でやりおうてみたい。

そう思わずにはおれんかった。

 

「ま、なんにせよや」

 

「ええ。降りかかる火の粉は、払わないとね。頼りにしてるわよ?」

 

「おう、任せとき!」

 

袁紹、か。

あの派手好きのやることや、どうせ諸侯に声かけて寄って集ってくるやろ。

 

ええで、雁首揃えて来るなら来いや。

そこら中で派手にやったる!

 

 

 




・雷煌拳
初出展は龍虎2でユリが使用。
空中から両手で気弾を撃ち出し、地面に当たると爆発します。
爆発したものが跳ねた様に見えたのでしょう。

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