武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

14 / 109
14 幻影脚

黄巾党の掃滅は終わり、俺は劉備軍と別れて曹操軍へと戻った。

 

別れ際に趙雲と再会を約束させられ、一悶着あったがまあ良かろう。

公孫賛についての情報も少し貰えたしな。

 

全体的に見ると、一応劉備軍への顔繋ぎと兵士たちへのフォローも多少なりとも。

関羽からは偉い睨まれてたが、戦後に武勇を褒め称えたら怒りながら照れてた。

ツンデレ乙。

だがその御姿、誠に眼福なり。

 

ああ、凪は一足先に曹操様への連絡役として返しておいた。

恐らくファインプレイだったと思う。

 

他にもちょっと足を延ばして諸侯チェックをしたけど、詳しくは分らなかったな。

金ピカと孫策は見かけたような気もしたが。

 

ともかく無事に曹操軍と合流し、そのまま陳留へと戻った。

そして、主要メンバー勢揃いの報告会に出席している。

 

 

* * *

 

 

「皆、ご苦労様。お陰で色々と収穫があったわ」

 

曹操様の御言葉である。

 

最大の収穫は、表向き名声やら風評などだろう。

裏側では、例の三姉妹なんだろうな。

詳しくは知らんけど。

 

 

さて、良い機会だから伝えておこうかな。

 

「ちょっといいですか?」

 

「あら、呂羽。何かしら」

 

機嫌のいい曹操様だが、どんな反応するかドキドキするなあ。

 

「そろそろお暇しようと思います」

 

「…なんですって?」

 

意を決して切り出すと、ギロリッと擬音が付くような凄い形相で睨まれた。

同時に場が緊張感で満たされ、周囲の温度も少し下がったような気がする。

 

ま、負けないぞ。

 

「以前から言っていたように、旅に戻ろうと思いまして」

 

「……ふ~ん、そう…」

 

おおう、緊張するぜ。

北郷君や凪がゴクリとつばを飲み込むのが感じられた。

 

「ま、仕方ないわね。結局誰も、引き留めることが出来なかったみたいだし」

 

曹操様が残念そうに言うと、場の空気も元に戻った。

良かった。

 

「真名も、誰も交わせなかったみたいだしね」

 

続けてそっと呟く曹操様。

あっとぉー…。

 

チラリと凪を見る。

凪と目が合う。

しばし見つめ合う。

 

言いたいけど言い出せない。

そんな感じだな、凪。

とりあえず目配せして、今は止めてもらおう。

 

「すぐ出るの?」

 

「あ、いえ。数日準備してから、と思ってます」

 

「そう。なら今回の褒賞は、餞別も兼ねて上乗せしておくわ」

 

「ありがとうございます」

 

わー、曹操様優しい。

溜めこんできた給金を加えれば、しばらくは楽に旅が出来そうだ。

 

「ああ、それと」

 

「はい?」

 

「明日の夜、宴を開くわ。必ず参加すること、いいわね?」

 

「承知しました」

 

 

曹操様への報告が終わり、会議がお開きになると色んな人に囲まれた。

 

北郷君を筆頭に、凪に李典に于禁に典韋と許緒。

典韋と許緒は北郷君にくっついてるだけかも知れんが。

 

「呂羽さん!また旅に出るって、何でですか!?」

 

これは北郷君。

いつの間にか、何かと良く話す仲になってた。

 

「客将になった理由と一緒さ。時期としては、丁度落ち着いたからかな」

 

元々、あの村に偶々立ち寄っただけだったからね。

諸国漫遊の旅かは分らないけど、理由は初志貫徹なのさ。

 

しかし北郷君と会えて、仲良くなれたのは良かった。

だから尚のこと、彼を世界から消す訳にはいかなくなったのだ。

努力は重ねようと思う。

 

黄巾党の乱が終わり、一応落ち着きを見せる。

だが、一瞬の平和は次の戦争への準備期間でしかない。

 

反董卓連合。

遠くないうちに起こり、戦乱の時代へと突き進むことになる。

 

そんな訳で、差し当たり次は洛陽を目指そうと思う。

その他、詳しいことは着いてから考えるとしてだ。

 

今はとりあえず、納得しきれてない北郷君と凪、そして李典や于禁たちとの質疑に対応しよう。

 

 

* * *

 

 

「リョウ殿、どうしても行ってしまうのですか?」

 

「ああ、最初から決めてたことだからな」

 

場面変わって何時もの修練場。

そこで俺は、武装した凪と正対している。

周囲には誰も居ない。

 

これは別に、凪が実力で俺を捩じ伏せて止めようとか、そういう訳じゃないぞ。

思うところがあって、俺から誘ってこうしてるんだ。

 

「それよりもだ。また凪に技を教えようと思う」

 

微妙な表情だった凪だが、そう言うとビシッと引き締まった顔になるのは流石だな。

だからこそ、ついつい教えたくなっちまうんだ。

 

今回、伝える技は幻影脚。

暫烈拳の足技版とも言うべき必殺技だ。

 

凪は蹴技に一日の長がある。

よって、これを伸ばすべきと思ったのは前回も同じであるが。

 

覇王翔吼拳を熱望する凪だが、大型気弾は消耗しやすく安易な連打はお勧めできない。

俺だって気力は無限じゃないのだから。

 

そんなこんなで、俺は凪に幻影脚の伝授に取り掛かるのだった。

 

 

「はぁぁぁぁーーーっっ」

 

「そう、その調子だ。身体の軸をずらさず、下半身に気を張り巡らせろ!」

 

暫烈拳と違い、幻影脚は上体をやや反らし、片足で立ったまま連撃を繰り出す。

バランス感覚が重要で、全体に気を巡らせた上で足先に纏わせねばならない。

相手に当てたら猛攻で削り上げ、最後は上段回し蹴りで吹き飛ばしフィニッシュとなる。

 

 

「ま、すぐには完成しないよな」

 

「はっぁ、はぁ……」

 

「でもスジはいい。修練を続ければ形になるだろう」

 

「は、はいっ」

 

良い返事だ。

 

さて、と。

 

「凪、少し休憩したら次に移ろう」

 

「はい、もう大丈夫です」

 

スッと一拍深呼吸をすると、すぐに落ち着いた。

体力も、いつぞやに比べて着実に増強されてきてるな。

 

 

「凪。俺に向かって、全力で闘気弾を放て」

 

「リョウ殿?」

 

「凪の闘気弾に対し、俺は覇王翔吼拳を撃つ」

 

「ッ!?」

 

そう言うや凪の目が大きく見開かれ、すぐに真剣な眼差しとなる。

最早言葉は要らず、気を高める準備に入った。

 

俺としてもこれは試金石。

凪が闘気弾の動作を始めてから、覇王翔吼拳を使うのだ。

最初のままだと絶対に間に合わない。

 

威力と共に、動作もまた調整してきた。

全てここで試させてもらおう。

 

 

* * *

 

 

「はぁぁぁっっ、闘気弾ッッ」

 

凪も闘気弾は改良していたようだ。

以前は纏った気を正面に集め、放つ前に溜めを必要としていた。

だが今回は動作手順こそ同じだが、直前の溜めを必要とせずそのまま放ってきた。

 

向かってくる、凪が放った純度の高い気の塊。

ゾクリ、と全身が粟立つ。

恐怖ではない。

ある種の楽しみと言うべきか、テンションが上がってくる。

 

ハイテンションを維持しつつ、弛緩させた両腕に気を集めつつ眼前で一瞬だけ交差。

すぐに腕を引き、両掌に集積させた気を乗せて、大きく広げて解き放つ!

 

「覇王翔吼拳!」

 

間に合った。

覇王翔吼拳は闘気弾にぶつかるも、すぐにこれを飲み込んだ。

威力とスピードは若干減じられたようだが、まっすぐに凪へと向かう。

 

「凪、耐え切れ!」

 

驚愕に目を見開く凪に対し、大声で注意を喚起。

ハッとした彼女は両腕に気を集め、交差してガードを固めて衝撃に備えた。

 

ズヴァァンッッと響く音と衝撃。

凪の衣がはためき、砂埃が巻き上がる。

 

砂塵が落ち着くと、彼女は防御姿勢のまま立っていた。

ちゃんと耐え切れたようだな。

 

「こ、これが……、覇王翔吼拳……!」

 

しかしダメージも大きかったようで、膝から崩れ落ちてしまった。

やべ、やり過ぎたか?

急いで駆け寄り、肩を抱きあげる。

 

「凪、大丈夫か!?」

 

「さ、さすがでした。私の闘気弾を掻き消し、なおこの威力とは…っ」

 

胸当てに少しキズがついてるな。

軽く咳き込んだりもしている。

やはりダメージは大きいと見るべきだろう。

 

「ジッとしてろ。とりあえず部屋まで運んでやるから」

 

「え?…きゃあっ」

 

ひょいっとお姫様抱っこして、翔乱脚の要領で小走りに駆け出す。

可愛らしい悲鳴を上げた凪だが、嫌がる素振りは見せなかったし大丈夫だろう。

役得、役得。

 

 

「呂羽…?」

 

凪を運んでる最中、誰かの呟きが聞こえた気がした。

 

 




次の目的地は洛陽。
幻影脚は浪漫。
覇王翔吼拳での削り倒し。の、三本でしたー!

もうすぐ陳留編が終わります。章分けはしてませんが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。