武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
戦が始まる。
敵は賊とはいえ、二十万を超える大軍だ。
曹操軍の先鋒に劉備軍。
そのまた先端に俺は居る。
並んで戦うのは凪。
そして劉備軍から関羽と張飛、それに趙雲だ。
関羽は真面目な表情で俺たちを完全に無視し切ってる。
初見の印象が悪かったからな。
張飛は良く分らん。
問題は趙雲、何かと俺に絡んでくる。
やたら露出度の高い衣装で。
目のやり場に困るっちゅーねん。
そして隣の凪だが、今まで見た中で一番機嫌が悪い気がする。
まず間違いなく趙雲の絡みのせいだな。
そもそも何故趙雲と絡むことになったかと言うと、劉備軍の端に陣取った時に話しかけられたのが発端だ。
* * *
「お主が呂羽殿か?」
「そうだが、あんたは?」
見た目で趙雲だって分かるけど、知ってちゃおかしいからな。
でも、いつかポロリしそうで怖いぜ。
「私は趙雲。公孫賛殿の下で客将をしておりましてな。今は劉備殿への援軍と言ったところです」
へえ。
まだ公孫賛の客将なのか。
てか、正式に劉備軍に加わってないんだな。
「……ふむ、やはり貴方ですな。随分とご立派になられて…」
なにやらジロジロみられて、勝手に納得してしまった。
そして趙雲の発言に、凪がピクリと反応した。
待て、俺は知らんぞ!
いや原作的には知ってるけど。
でもこの世界で会うのは初めてのハズだ。
「おっと失礼。前に少し、お見かけしたことがありましてな」
「なんだって?」
詳細希望。
詳しく聞いてみた。
どうやら以前、公孫賛の下に身を寄せる前に趙雲は旅をしていたらしい。
すると、とある平原で思い切り叫んだり、派手な演武をしてた不審な人物が居たとのこと。
うん、思い切り俺だね。
まさか見られていたとは思いもしなかった。
かなり恥ずかしい。
一応周囲に人が居ないことは確認したつもりだったが、不備があったかー。
「フフフ。どんな不審者かと思いましたが、まさか曹操殿の将だったとは」
「待て、それは曹操様の下に行く前の話だ。それに俺は客将だしな」
曹操軍への風評被害が懸念される。
趙雲にそんなつもりはないだろうが、変な言いがかりは止めて頂きたいものだ。
「おや、そうでしたか」
などとニヤニヤを隠そうともしない。
そういや諸々の作品でも、北郷君相手に色々やってたな、こんな感じで。
「まあ、せっかくの奇縁。仲良く穂先を並べて参りましょうぞ」
「それには及びません」
と、それまで口を噤んでいた凪が割って入ってきた。
随分と硬い表情だ。
「先陣は私たちが切ります。貴方たちは後ろからゆるりと来て下さい」
「ほう、言いますな。しかし、そう言われても引き下がる訳には参りませぬぞ」
売り言葉に買い言葉、か?
凪と趙雲がやり合い始めた。
とは言え、口で凪が趙雲に敵うはずもなく。
やがて凪は不機嫌そうに沈黙してしまった。
* * *
そんな訳で今に至る。
いや、一応フォローはしたんだ。
あまり効果があったように思えないだけで。
「時に呂羽殿、経験はおありかな?」
「ッ」
絡み続ける趙雲を適当にあしらいながら、その時を待つ。
どこかでギリッと音がしたが、スルーだ。
「メンマは良いですぞ。人類が生み出した最高の…」
「然様かい」
まあ凪も心得たもの、機嫌が悪かろうと切っ先が鈍ることはないだろう。
ところで手甲って武器になるのかな?
ジャジャーン、ジャーンッ
現実逃避気味に思考が逸れかかったところで銅鑼が鳴った。
これが開戦の合図となり、戦いが始まった。
* * *
今回も覇王翔吼拳の開幕ぶっぱをしようと思っていたが、存外に味方が多くて断念。
巻き込んじゃったらシャレにならんからな。
已む無く、跳躍からの空中虎煌拳で先制して戦場へ躍り出た。
改めて戦場を見回してみる。
最初の時、村の防衛戦でも相当なものだと思ったが、今回はその比じゃない。
見渡す限り真っ黄色。
菜の花畑かってーの。
倒しても倒しても次から次へと。
無限じゃないし、いつかは終わるんだろうけど埒があかん。
指揮官みたいな奴が居れば、そいつを排除で終わりそうなものだが。
黄色い賊徒どもを往なしながら、戦場を俯瞰して主たる者を探してみる。
するとある一画で、あまり目立ちはしないが上手く指示を出し続ける奴を発見した。
よし、早速向かおう。
お、あいつだな。
不意打ち上等、名乗り何て上げないぜ。
格闘家や武将としては失格かも知れないが、ここは戦場。
しかも賊徒退治だ。
仕方ないね。
身体中に気を纏わせ、やや前傾姿勢に構える。
そして相手の呼吸を見極め、機会を捉えて小走りに駆け寄った。
「翔乱脚!」
左右を向いて指揮を続ける敵さんにスルスルと近付き、グヮシッと胸倉を掴む。
そして両膝を交互に相手の胸部へ打ち込む!
十発ほど打ち込んで突き放すと、フラフラとしている。
おお、持ち堪えるとはなかなかやるな!
「何てタフな奴だ!もっと技に磨きをかけなければ!」
差し当たり今回は、止めを虎煌拳にしておこう。
相手のタフさも考慮に入れて、念入りに気を練り込む。
「き、貴様…なにも、ガフッ」
「虎煌拳!」
有無を言わせずズバンッと、至近距離から虎煌拳を撃ち込んだ。
少し練りが甘かったか、あるいは練り込み過ぎたのか、一部が相手の身体を突き抜けてしまったな。
黄色が宙を舞う。
どうやら、腕や頭に巻いていた黄巾が吹き飛ばされたらしい。
「韓忠様ッ!?」
黄巾を無残にボロボロにされた指揮官は、どうやら韓忠と言うらしい。
おのれーと叫びながら、近くにいた部下らしき者たちが一斉にかかってくる。
中々慕われていたみたいだな。
でもそんなの関係ねえ。
かかってきた奴らを難なく返り討ちにして、次の戦いへと向かった。
飛び足刀の要領で、飛燕疾風脚の気力なしバージョンを披露しながら戦場を進む。
飛燕疾風脚(弱)でもいい。
近くで、黄色い賊が複数人吹っ飛ぶのが見えた。
ドッカンドッカンいってるし、恐らく凪だな。
時折、龍斬翔!って声が聞こえても来る。
思わずニヤリとしてしまった。
こりゃ、足技系を伝授するのもありかねぇ。
負けてなるものか、とばかりに足掛け蹴りや横蹴りをかましながらそんなことを思う。
おっと、伝授しちゃったら弟子になっちゃうな。
これはいかん、驕りに繋がる要素は排除せねばな。
そういや途中で意図的にはぐれたが、劉備軍の人たちは無事かね?
遠目に張飛が見えた。
てりゃりゃーって叫ぶ声も聞こえる。
うん、問題なさそうだ。
こんな感じで、俺は先陣での勤めを果たしていった。
皆さんお待ちかね、脱衣KOですよ!
相手は黄巾党の指揮官の一人、韓忠さんでした。
時系列その他諸々、原作と異なる箇所が多々あると思いますが、何卒ご容赦下さい。