武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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黄巾党、ここに眠る。


13 翔乱脚

戦が始まる。

敵は賊とはいえ、二十万を超える大軍だ。

 

曹操軍の先鋒に劉備軍。

そのまた先端に俺は居る。

 

並んで戦うのは凪。

そして劉備軍から関羽と張飛、それに趙雲だ。

 

関羽は真面目な表情で俺たちを完全に無視し切ってる。

初見の印象が悪かったからな。

張飛は良く分らん。

 

問題は趙雲、何かと俺に絡んでくる。

やたら露出度の高い衣装で。

目のやり場に困るっちゅーねん。

 

そして隣の凪だが、今まで見た中で一番機嫌が悪い気がする。

まず間違いなく趙雲の絡みのせいだな。

 

そもそも何故趙雲と絡むことになったかと言うと、劉備軍の端に陣取った時に話しかけられたのが発端だ。

 

 

* * *

 

 

「お主が呂羽殿か?」

 

「そうだが、あんたは?」

 

見た目で趙雲だって分かるけど、知ってちゃおかしいからな。

でも、いつかポロリしそうで怖いぜ。

 

「私は趙雲。公孫賛殿の下で客将をしておりましてな。今は劉備殿への援軍と言ったところです」

 

へえ。

まだ公孫賛の客将なのか。

てか、正式に劉備軍に加わってないんだな。

 

「……ふむ、やはり貴方ですな。随分とご立派になられて…」

 

なにやらジロジロみられて、勝手に納得してしまった。

そして趙雲の発言に、凪がピクリと反応した。

 

待て、俺は知らんぞ!

いや原作的には知ってるけど。

でもこの世界で会うのは初めてのハズだ。

 

「おっと失礼。前に少し、お見かけしたことがありましてな」

 

「なんだって?」

 

詳細希望。

詳しく聞いてみた。

 

どうやら以前、公孫賛の下に身を寄せる前に趙雲は旅をしていたらしい。

すると、とある平原で思い切り叫んだり、派手な演武をしてた不審な人物が居たとのこと。

 

うん、思い切り俺だね。

まさか見られていたとは思いもしなかった。

かなり恥ずかしい。

 

一応周囲に人が居ないことは確認したつもりだったが、不備があったかー。

 

「フフフ。どんな不審者かと思いましたが、まさか曹操殿の将だったとは」

 

「待て、それは曹操様の下に行く前の話だ。それに俺は客将だしな」

 

曹操軍への風評被害が懸念される。

趙雲にそんなつもりはないだろうが、変な言いがかりは止めて頂きたいものだ。

 

「おや、そうでしたか」

 

などとニヤニヤを隠そうともしない。

そういや諸々の作品でも、北郷君相手に色々やってたな、こんな感じで。

 

「まあ、せっかくの奇縁。仲良く穂先を並べて参りましょうぞ」

 

「それには及びません」

 

と、それまで口を噤んでいた凪が割って入ってきた。

随分と硬い表情だ。

 

「先陣は私たちが切ります。貴方たちは後ろからゆるりと来て下さい」

 

「ほう、言いますな。しかし、そう言われても引き下がる訳には参りませぬぞ」

 

売り言葉に買い言葉、か?

凪と趙雲がやり合い始めた。

 

とは言え、口で凪が趙雲に敵うはずもなく。

やがて凪は不機嫌そうに沈黙してしまった。

 

 

* * *

 

 

そんな訳で今に至る。

いや、一応フォローはしたんだ。

あまり効果があったように思えないだけで。

 

「時に呂羽殿、経験はおありかな?」

 

「ッ」

 

絡み続ける趙雲を適当にあしらいながら、その時を待つ。

どこかでギリッと音がしたが、スルーだ。

 

「メンマは良いですぞ。人類が生み出した最高の…」

 

「然様かい」

 

まあ凪も心得たもの、機嫌が悪かろうと切っ先が鈍ることはないだろう。

ところで手甲って武器になるのかな?

 

ジャジャーン、ジャーンッ

 

現実逃避気味に思考が逸れかかったところで銅鑼が鳴った。

これが開戦の合図となり、戦いが始まった。

 

 

* * *

 

 

今回も覇王翔吼拳の開幕ぶっぱをしようと思っていたが、存外に味方が多くて断念。

巻き込んじゃったらシャレにならんからな。

 

已む無く、跳躍からの空中虎煌拳で先制して戦場へ躍り出た。

 

 

改めて戦場を見回してみる。

最初の時、村の防衛戦でも相当なものだと思ったが、今回はその比じゃない。

 

見渡す限り真っ黄色。

菜の花畑かってーの。

 

倒しても倒しても次から次へと。

無限じゃないし、いつかは終わるんだろうけど埒があかん。

指揮官みたいな奴が居れば、そいつを排除で終わりそうなものだが。

 

黄色い賊徒どもを往なしながら、戦場を俯瞰して主たる者を探してみる。

するとある一画で、あまり目立ちはしないが上手く指示を出し続ける奴を発見した。

よし、早速向かおう。

 

 

お、あいつだな。

不意打ち上等、名乗り何て上げないぜ。

 

格闘家や武将としては失格かも知れないが、ここは戦場。

しかも賊徒退治だ。

仕方ないね。

 

身体中に気を纏わせ、やや前傾姿勢に構える。

そして相手の呼吸を見極め、機会を捉えて小走りに駆け寄った。

 

「翔乱脚!」

 

左右を向いて指揮を続ける敵さんにスルスルと近付き、グヮシッと胸倉を掴む。

そして両膝を交互に相手の胸部へ打ち込む!

十発ほど打ち込んで突き放すと、フラフラとしている。

 

おお、持ち堪えるとはなかなかやるな!

 

「何てタフな奴だ!もっと技に磨きをかけなければ!」

 

差し当たり今回は、止めを虎煌拳にしておこう。

相手のタフさも考慮に入れて、念入りに気を練り込む。

 

「き、貴様…なにも、ガフッ」

 

「虎煌拳!」

 

有無を言わせずズバンッと、至近距離から虎煌拳を撃ち込んだ。

少し練りが甘かったか、あるいは練り込み過ぎたのか、一部が相手の身体を突き抜けてしまったな。

 

黄色が宙を舞う。

どうやら、腕や頭に巻いていた黄巾が吹き飛ばされたらしい。

 

「韓忠様ッ!?」

 

黄巾を無残にボロボロにされた指揮官は、どうやら韓忠と言うらしい。

おのれーと叫びながら、近くにいた部下らしき者たちが一斉にかかってくる。

中々慕われていたみたいだな。

でもそんなの関係ねえ。

 

かかってきた奴らを難なく返り討ちにして、次の戦いへと向かった。

 

 

飛び足刀の要領で、飛燕疾風脚の気力なしバージョンを披露しながら戦場を進む。

飛燕疾風脚(弱)でもいい。

 

近くで、黄色い賊が複数人吹っ飛ぶのが見えた。

ドッカンドッカンいってるし、恐らく凪だな。

 

時折、龍斬翔!って声が聞こえても来る。

思わずニヤリとしてしまった。

 

こりゃ、足技系を伝授するのもありかねぇ。

 

負けてなるものか、とばかりに足掛け蹴りや横蹴りをかましながらそんなことを思う。

おっと、伝授しちゃったら弟子になっちゃうな。

これはいかん、驕りに繋がる要素は排除せねばな。

 

そういや途中で意図的にはぐれたが、劉備軍の人たちは無事かね?

 

遠目に張飛が見えた。

てりゃりゃーって叫ぶ声も聞こえる。

うん、問題なさそうだ。

 

 

こんな感じで、俺は先陣での勤めを果たしていった。

 

 

 




皆さんお待ちかね、脱衣KOですよ!
相手は黄巾党の指揮官の一人、韓忠さんでした。

時系列その他諸々、原作と異なる箇所が多々あると思いますが、何卒ご容赦下さい。

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