武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ IFルートその6 天狗マシマシばーじょん


Z8 龍連猛襲

蜀へ。

使節団の随行員として旅立った呂羽たちであったが、その前には幾多の荒波が待ち受けていた。

 

拳で問えと言いつつ答えは知らない武術家のおっさん。

少年時代に襲ってきた熊を返り討ちにした逸話を持つ巨漢。

本業薬屋で仮面の猿爺は多少の情報を知っていた。

詳しい情報を飲食店の男装用心棒に聞き、夢破れた拳闘士は道案内。

行く手を遮る軍人もどきと大きい男、彼は凄いわよ?

 

最後に立ちはだかるのは、蜀の悪徳に浸る極限天狗!

 

彼奴を前に無敵の龍が戦いを挑む。

凄惨な激闘の末、遂に空手天狗を打ち倒すのだ!

 

そして無敵の龍は、天狗仮面へ正義の鉄槌を……ッ

 

「トドメだ!覇王ォ…」

 

「やめて、おにいちゃん!」

 

「…由莉?」

 

「そのヒト?は、わたしたちの……」

 

 

* * *

 

 

っていう夢を見たんだ。

余りにあんまりな内容だったから、流石に誰にも言えんわ。

 

「どうしました?顔色が優れませんが…」

 

そんなところに真横から声をかけてくるのはリアル由莉。

目が覚めて、隣に由莉や白蓮が居ることにもすっかり慣れた。

 

「いや、ちょっと夢見がな」

 

内容は勘弁してくれ。

由莉だけに。

 

「大丈夫?ギュッとする?」

 

「……ォァー……」

 

由莉ってば、二人きりの時に敬語が抜ける事が増えてきた。

歓迎すべきこととは思うが、若干ドギマギするのは何故だろうか。

 

 

しかし、由莉……由莉か……。

 

「なあ由莉」

 

「なあに?」

 

「ちょっと、余裕っちって言って見て?」

 

「よゆうっち」

 

うむ、やはり何か違う。

何の疑問も挟まずやってくれたのに申し訳ないが…。

変なこと考えるもんじゃないな。

 

「すまん、何でもないんだ」

 

ジト目で追及してくるのを上手くかわして誤魔化して……

このあと滅茶苦茶尋問された。

 

 

* * *

 

 

改めて、益州に到着。

 

懐かしい顔ぶれに頬を緩めつつも俺たちは脇役、陰に徹する。

本題はシャオと呂蒙に任せ、同じく蜀の非メインたちとの再会を寿ぐ。

シャオの恨めしそうな表情が面白かった。

頑張れお姫様!

 

 

「さてリョウ。ちょっと陽を借りるわよ」

 

そう言って凄い勢いで牛輔を連れ去る詠。

月ちゃんも後を追う。

 

「久しぶりに会えると分かって、ずっとソワソワしてたのだ。まあ素直で宜しい」

 

華雄姉さんも久しぶり。

元気そうで何よりだけど、言動が普通のお姉さんみたいだ。

大丈夫か?

 

顔見知りの者たちが久闊を叙したところで、まあ当然の様に組手に入るよね。

そこは姉さんだからね、むしろ安心する。

また強くなっていたので龍虎乱舞で打倒しておいた。

 

 

次に牛輔を見たのは翌朝になってから。

かなり疲れた顔をしていた。

一緒にいた月ちゃんが凄く笑顔だったし、まあイロイロあったんだろう。

 

 

* * *

 

 

益州は成都。

劉備ちゃんが治める蜀の主要都市。

だから基本的に治安は良い。

 

しかし、ならず者はどこにでも居るものだ。

 

「この華蝶仮面が居る限り、悪が栄えることはない!」

 

そこへ現れる正義の使徒。

ドーンと効果音付きで色とりどりの煙幕が爆発、ついでに悪人たちも爆発さ☆

 

さて、華蝶仮面である。

中の人は一旦置いておくが……そう、仮面である。

 

仮面と言えば…。

懐の天狗面に手が伸びる……が、危ういところで自重した。

 

まだだ……まだその時ではない……。

 

それに、今は両隣りに由莉と白蓮がいる。

特に由莉は天狗面を毛嫌いしてるようだし、華蝶仮面についても微妙そうに見ていた。

脈なし。

 

一方で白蓮はどうかな。

割とおおらかで受容性の高い性格だから、受け入れてくれるかも?

 

などとは思うが、敢えて冒険する必要はない。

もうちょっと温めておこう。

 

 

それより先日、馬超率いる西涼の精鋭たちが合流してきた。

曹操様に攻められ、捲土重来を期して益州まで下ってきたのだとか。

 

その馬超姉妹の真ん中、馬休。

どことなく孫権っぽい感じがする。

姉妹の真ん中ってのは同じようになるもんかねえ。

義姉妹ではあるが、関羽も少し似てるかな。

 

馬休。

ばっきゅん。

 

……フッ。

 

何も言ってないのに、何故か初見で嫌な顔をされた。

解せぬ。

 

 

* * *

 

 

南蛮やら魏の様子が騒がしいという風聞。

何か動きがあるかもしれないので、深く注意すべし。

通達が回り、先んじて対策をとることに。

 

その流れで、呂蒙が南蛮方面の征討軍に参加。

あと由莉が率いる呂羽隊の一部が蜀軍と共同で北面で魏へ備えることに。

 

「なんで私が…」

 

シャオは使節団の正使だからね。

成都に居ることに意味がある。

むしろ動いちゃいけない。

俺はその指南役と言う名の護衛もどきで動けない。

 

よって、名代として呂羽隊ナンバー2の由莉に白羽の矢が立った、のだが…

 

「嫌です。離れたくありません」

 

物凄い勢いでゴネられた。

ヒシと縋り付いて離れない、こんなの初めて!

 

「由莉、リョウが困ってるぞ。リョウの代理なんだから、むしろ率先して行くのが副長としての…」

 

「では白蓮殿、代わって下さい」

 

「いや、それは」

 

白蓮が宥めるも効果なし。

普段は協調する白蓮相手にも牙を剥く始末。

 

そして白蓮が何とかしろと目で訴えてくる。

いや、何とかって……

 

「由莉、たまに会いに行くから」

 

「……本当?」

 

胸元に引っ付く由莉の頭を撫でながら宥めてみる。

おお、さらさらヘアー。

 

(いやいや。会いに行くって、そんなこと簡単に出来るのか?)

 

白蓮がぶつぶつ言ってるが、どうにかするしかないだろう。

簡単でなくとも、極限流に不可能はほとんどない。

 

しかし何だなァ。

随分と懐かれたと言えば穏やかだが、少し依存傾向に過ぎるか?

あまりよくない兆候だが。

 

「…わかった。ぜったい会いに来てね、おにいちゃん!」

 

( ゚Д゚)・∵. グフッ!!

 

不意打ちに咽る俺。

それと同時に響き渡る鈍い音。

 

──ゴツンッ

 

「いい加減にしろ、由莉。甘え過ぎだぞ!」

 

幼女化したかのような由莉に、ゲンコツを落とすのは白蓮だ。

おぉう、頼りになるな。

 

「いったぁ~い……嫉妬?」

 

「…コイツっ」

 

と思ったら、突如勃発する女の戦い。

威嚇し合って暴力的じゃないのが救いだが、まあこれは由莉が悪いな。

 

頑張って引き剥がし、両者……特に白蓮を宥める。

二人に対して色んな約束をさせられる俺。

そして満足気に戦果を報告し合う二人。

 

「……あれ、俺もしかして嵌められた?」

 

「人聞きが悪いよ、お兄ちゃん!」

 

「そうだぞ。せっかく由莉を宥めたのに、無為にする気か?」

 

やはり両者は結託しているようだ。

仲が悪いよりは良いが、…あと由莉はお兄ちゃん禁止な。

 

「残念です」

 

ぐぬぬ。

好いように転がされてる感が……それも吝かではない。

 

「ともかく。由莉、頼んだぞ」

 

「…離れるのが嫌なのは本当ですので、絶対会いに来て下さいね?」

 

信じてますから。

なんて胸の前で腕を組んで微笑まれたら、ねえ。

 

「あざといな」

 

同感だが白蓮、それを口に出しちゃいかん。

二人で火花を散らす……あれ、結託してたんじゃなかったの。

 

「以前から考えていましたが、白蓮殿とは決着を付ける必要がありますね」

 

「同感だ。いいぞ、返り討ちにしてやる」

 

不敵な笑みを交わし合う両者。

俺は深く考えるのを止めた。

元気があって何よりだネー。

 

 

* * *

 

 

由莉たちが北へ向かって暫し。

俺は普段通りに過ごしつつ、過激に増えた白蓮のアプローチに付き合っていた。

まあ増えたと言っても若干だし、過激と言っても由莉に比べたら…。

安心と信頼の白蓮。

 

そんなある日、成都に一報がもたらされた。

 

魏が蜀に向けて偵察部隊を出すらしい。

しかも間者などではなく、少数ながらも将が率いる精鋭部隊とか。

 

主な経路は定軍山。

ここで迎撃、殲滅、大喝采!というのが軍師ちゃんたちの策。

元直ちゃんに直接聞いたから間違いない。

 

黄忠と馬岱を主力に、北面警備隊の面子も加わる。

おにーさんも行く?

って聞かれたけど、いやいや行っちゃダメなんだろ。

どうとでもなるよーって、随分軽いなオイ。

 

元直ちゃんって孔明ちゃんと士元ちゃんの同期なんだよね。

大丈夫なのか?

かまへん?

そ、そうか。

 

せっかくの申し出だし、由莉との約束もあるから行ってみようか。

但し、やはり公式には成都に滞在せねばならない。

 

現場不在証明は任せろーってアリバイ作りに加担してくれるのか。

嫌に乗り気だな。

俺が成都から居なくなるのが嬉しいのか?

 

冗談交じりに聞いてみると、満面の笑みで頷かれた。

守りたい、この笑顔。

じゃあアリバイ工作は任せるとしよう。

 

シャオのことは白蓮に頼めばいいか。

 

「ちょっと由莉のとこに行って来る。お忍びで」

 

「……本気だったんだな……。分かった、気を付けて」

 

ドン引きされた気がしたが、俺は何時だって本気だぞ。

じゃあ行って来る。

 

おっと、成都のアリバイはともかく向こうでも俺が居たらダメだよな。

現場不在証明……現場ってこの場合は定軍山とかか。

 

……懐に手を当てる。

…ちゃんと居る。

よし!

 

 

* * *

 

 

やって来ました定軍山、付近。

 

北面警備隊の駐屯地には主要メンバーは誰も居なかった。

もちろん由莉も。

 

だから現場と思われる付近にやってきたのだ。

誰にも見付からないように気を付けながら。

まあ俺一人のことだ。

どうとでもなる。

 

そこでふと気になった。

かなり怪しい俺の原作知識が火を噴くぜ!

 

……定軍山で、何かがあった気がする……。

 

よし、細かい事は気にしない。

いざ往かん、約束の地へ!

 

 

 

そして気付いたのは、待ち伏せしてるであろう蜀軍の面々。

由莉たちはちょっと離れたとこに布陣の模様。

先遣隊かな?

しかし発見の順番が逆だったら危なかったかも知れんね、由莉の逆探知的な意味で。

 

そうすると、遠くから割合小勢で近付く気配があるのが魏軍の偵察部隊か。

 

では、まずは手頃な蜀軍に忍び込もう。

いや情報のためだよ?

利敵行為はしないから安心してくれ。

 

 

ふ~む……モレ聞こえた情報から推測するに、敵将は夏侯淵。

だとすると、典韋とかも一緒かな。

 

黄忠なら問題ないだろうが、由莉にはちょっと荷が重い。

此処は一つ、手助けなど……。

 

しかし問題は身バレ。

由莉は黙ってくれるだろうが、人の口に戸は立てられぬ。

…うむ、やはり一計。

 

いよいよ出番だ。

 

ハートは熱く、頭はクールに…。

気を全開にしてやるッ

 

とう!

 

 

気力充填、盛りに盛ってペガサス盛り!

本気になったミスター・カラテ……もとい、空手天狗…爆誕☆

 

 

* * *

 

 

目の前には凪と由莉。

俺の……ワシの後ろには囚われ後ろ手に縛られた典韋。

 

「貴様……今すぐ流琉を放せッ」

 

激おこ凪ちゃん、凄い怒気だ。

全くグレイトだぜぇ!

 

「楽進殿。不本意ですが、ここは共闘して場を切り抜けましょう」

 

さらに凄い形相でこちらを睨んでくる由莉ちゃん。

ワシが俺とは気付いていないようだ。

 

髪と胴着、おまけで全身をオーラで覆った結果、視覚不良を起こす程に濃密な気配を放つことに成功した。

普段の明るい胴着が暗い色合いに変化して、髪も白銀に怒髪天。

ゆらゆら濃密な気流が天狗面の仮面風味を軽減してくれていることだろう。

 

凄く疲れるが、まあ天狗テンションで乗り切ろう。

そう、イメージするのは常に最強のカラテ!

 

「極限流を少々齧ったようだが、その程度では何ほどの事もないわ!」

 

ミスター・カラテの無駄に高圧的で自信家な発言が口から駄々モレ。

頭クールはどこかに消えて、ホットなカラテワードが止めどない奔流となって迸る。

 

そして極限流の単語に気を散らせ、己の力を貶められた二人のカラテ女子はブチ切れ。

 

「言わせておけば!韓忠、合わせろっ」

 

「チッ!甚だ不本意ですが、已むを得ません」

 

激昂しながらも不本意を連発するとか、どんだけ気に食わないんだよ。

それでも共闘してくるなら、良い影響が期待できるかな。

 

「はっはっは!どれ、幼子どもに稽古を付けてやるとするか」

 

余裕を持って凪の龍撃閃を弾きつつ、由莉の飛燕足刀を往なしながら煽りに煽るワシの口。

実際なんだか楽しいしのう。

いいや、行くところまで行っちゃおう。

 

ちなみに、典韋を捕えたのは当然ワシ。

当初は夏侯淵を退けようと思ったが、接触する前に黄忠たちの奇襲にやられて即反転。

殿の典韋が森に迷い込んだところでワシと遭遇。

既に空手天狗になってたワシは、咄嗟の覇極陣で気絶させて確保したのだ。

 

その後は超スピード。

縛って担いで周囲の動向を確認しようと動いたところ、先行して援軍に来たらしい凪と交戦中の由莉を発見。

捨ておけず、典韋を担いだまま毘瑠斗圧覇で登場した次第。

 

 

天狗マシマシ!

 

 

手数は多い。

即席コンビの割にはテンポも良いな。

 

「だが、甘い!」

 

飛燕疾風脚で浮かせて暫烈拳。

トドメは極限虎咆にて根元からの掬い上げ。

 

……む?

 

暫烈拳で凪を吹き飛ばした、と思ったら。

 

「ハァッ!」

 

気合一閃。

戦闘中も余り気合を見せない由莉が見せたソレ。

 

上半身を反らせての溜めから、こちらの動きに合わせて突進。

凪に比べて拳が軽い由莉が見せる技。

一体どのようなものか、興味がそそられる。

 

接近するや左ストレートを上段で受けると右足掛け蹴りに……ふむ。

上下に揺さぶる、乱舞の基本。

 

ボディブロウに足先蹴り、二段回し蹴りから龍斬翔に繋げるか!

 

とりあえず全部受けて吹っ飛ばされてみた。

やはり威力は弱い。

が、悪くないな。

 

「龍連猛襲とは、やるではないか」

 

「…チッ」

 

龍虎乱舞ならこれまで所々で見せてきたからな。

そこから自分に可能な技を集めて再構築した、簡易版の龍虎乱舞とも言えよう。

俺が持ち得る龍連猛襲とは少し構成が異なるが問題ない。

 

褒めてみたけど、褒めたって思われてないよな絶対。

効いてる感じもないだろうし、何より超上から目線だし。

 

でも本当に良くやってる。

凪と違い、由莉が極限流を修めるのは厳しいかなって思ってたもん。

 

おっと、嬉しくて俺に戻ってるな。

いかんいかん。

今はまだワシで居なくては。

 

「良いものを見せてくれた褒美だ。受け取るが良い」

 

吹き飛ばされた凪が駆け戻って来るのを視界に収めつつ放つそれ。

通常の覇王翔吼拳、覇王至高拳よりも激しく大きな気弾。

 

超必殺・天狗至高拳!!

 

凪と由莉が目を瞠るのが見えた。

やがて気弾は彼女らを飲み込み……勝敗は決した。

 

 

* * *

 

 

「覇王翔吼拳を会得せん限り、お前がワシを倒す事など出来ぬわ!」

 

 

* * *

 

 

その後、駆け付けた曹操様たちに凪と典韋を引き渡して定軍山の縄張りを主張。

即時退去を促した。

闘った理由を考えてなかったので、この山に住む空手天狗が侵入者を撃退したってバックストーリー。

 

空手天狗の存在を主張しつつ、蜀の防衛ライン構築にも貢献。

まさに一石二鳥。

フフフ…完璧、完璧じゃないか!

 

だからさ、凪と由莉の服が破れたことは大目に見てくれないか。

 

泣いて悔しがる二人については、いつか補償するから許してくれ。

言えないけど。

 

目を覚ました典韋が去り際に見せた、汚物を見るような視線が痛かった。

現地の全員からヘイトを稼いだのは理解してるけどさ。

 

全て空手天狗が悪いんや!

これはそのうち、しっかり闇に葬らんといかんね。

 

 

さて、突然ですがここで問題です。

 

俺は定軍山まで何をしに来たでしょう?

 

答え、由莉に会いに来た。

 

今更のこのこ由莉の前に姿を現せと申すか。

しかし出ないと、約束を違えることになる。

 

うぬぬ…。

仕方がない、背に腹は代えられん。

 

「由莉、大丈夫か?」

 

陣屋内の由莉用スペースに忍び込み、寝台で蹲る由莉に囁きかける。

もちろんカラテモードは解除済み。

 

「……たいちょう?」

 

「ああ。お忍びでな、遅くなったが会いに来たぞ」

 

身体の調子でも悪いのかと思ったが、どうやら泣いていたようだ。

罪悪感。

 

「ッ!!」

 

俺の姿を認めるや、胸に飛び込んできたのを抱き止める。

普段と違い、目端に涙を湛えた彼女は弱々しい。

胸の中でさめざめと泣きながら、色んな事を話し出した。

 

 

離れて寂しかった事。

敵と遭遇して心細かった事。

戦いになり、劣勢に立たされた事。

闖入者により有耶無耶になったが、あのままでは負けていた事。

乱入者相手に已む無く敵と共闘したが、それでも破れた事。

俺以外の者に肌を見られた事。

自分が弱い事。

それでも敵(凪)には負けたくない事。

会いに来てくれて嬉しい、などなど。

 

 

胸の内を吐露する彼女を、相槌を打ちながらただ受け止め続けた。

これまで一緒にいるのが普通になり過ぎて、今回長く離れて虚脱感に襲われてしまったんだな。

その状態で戦闘は、さぞきつかったろう。

しかも空手天狗に負けてしまった。

 

口に出せない謝罪も込めて、その身を強く抱きしめた。

 

やがて請われて寝台を共にする。

 

「久しぶりですが……やはり、安心します」

 

確かに久しぶりかもな。

俺の方こそ安心感に包まれてるよ。

 

「……ふふふ」

 

ん?

軽く笑みを浮かべたと思ったら、グワシッ!と思いもよらぬ強い力で掴まれる。

 

「由莉?」

 

「せっかくですので、昂りはそのままに……ね?」

 

落ち着いた彼女はいつもの彼女を取り戻した、が。

いやいやマテマテ!

俺はお忍びだから、夜陰に紛れて戻らないとだな…

 

「大丈夫です。朝までは誰も来ませんから」

 

落ち着け!

あ、いや……うん、添い寝ってことだな?

うん、いいぞ、それくらいなr

 

「もうっ……ん…ちゅ…」

 

 

天に滅せよ!(擬音)

 

 

* * *

 

 

お忍びはお忍びのままに、ちゃんと成都に戻ってきた。

如何に正規の使者より早く戻れるかが俺の今後を左右する。

その心積もりで超頑張ったよ。

 

白蓮にも、ホントに行って来たのかと驚かれたくらい。

元直ちゃんが愛想笑いで出迎えてくれた。

 

 

やがて北面迎撃軍が帰還すると、色んな噂が飛び交った。

その中に空手天狗のこともあったけど、ちょっとだけだったな。

由莉も積極的には話さなかったし、俺から言えることは何もない。

 

沈黙は金なり。

白蓮が何かを勘付いたのか、最近俺を見る目が怪しい。

だが藪蛇はゴメンである。

 

但し、当然だがなかったことにはしない。

由莉にはちゃんと言ったし、落ち着いたら白蓮も交えて話し合いをだな…。

 

そうこうしているうちに南蛮征討軍も戻り、密度の薄い噂は雲散霧消。

シャオと呂蒙の成長を感じ取った頃、孫呉より帰還指示が届くのだった。

 

 

蜀主催のお別れ会(武闘大会)が開催され、盛況を博す。

お別れ会が酒盛りになるのは分かるが、武闘大会と同義になるのは世界共通なのか?

そんなことないよね?

いや、確かに楽しんだけどさ。

 

元直ちゃんとも打ち合えたし。

剣筋には結構な殺気が乗っていたが、何かやらかしたか?

まあいいか。

 

 

* * *

 

 

孫呉に帰還。

 

いや、シャオがね。

俺は雇われ指南役で随行員なだけであって、別に故郷とかじゃないから。

 

帰還のお祝いに、孫策主催の酒盛りが開催。

え、このまま武術大会に移行する?うん、知ってた。

 

酒盛り中、労いに注いで貰った周瑜から変な感じが。

空手天狗で鋭敏になった気配感知に引っ掛かったので、後日街に居た華陀のところへ引っ張って行った。

先日来だが、まだ居てくれて良かった。

 

「げ・ん・き・に……なぁぁぁれぇぇぇぇぇ!!!」

 

流石イケメン。

周瑜は元気になった。

どうも、病魔に蝕まれかけていたらしい。

 

よかったね、早めのパブr…治療で!

 

漢女師弟の溢れんばかりの存在感は努めて無視した。

妙な呟きも、気にしたら負けだろう。

 

その後は病魔が去って快癒した周瑜と、それを知って目を光らせた孫策に迫られたがシャオと呂蒙の活躍で危難は去った。

 

由莉と白蓮はね、怒るけど助けてくれないんだよ。

だから本気で止める気はないのかなって思ったんだけどね。

 

超怒られた。

 

孫策を止めてくれたお礼をせがまれたので、シャオを抱えて高い高ぁ~い!

一緒にいた呂蒙にも…って思ったらさ。

孫権と一緒になってメチャクチャ怒るんだもん。

そんなに怒らなくても……いや、反省してますとも。

 

 

孫策と周瑜の真名を受領。

色々考えを聞かされたが、要は決戦が近いので宜しく!ってことみたい。

シャオが云々とも言ってた。

 

仕官してないけどね、此処に来ての利敵行為はないと踏んだか。

そうこうしてるうちに月日は流れ、レッドクリフが間近に。

 

 

* * *

 

 

呉蜀同盟軍 対 曹魏軍

 

即ち赤壁の戦いが勃発した。

俺たち呂羽隊は、シャオを主将としての……お留守番だ!

 

「ええーっ、なんでシャオだけー!」

 

留守居が決まってからのシャオはずっと不機嫌だ。

孫呉の力になりたいと努力を続けるお姫様は、戦力外通告にお冠。

実際は戦力外通告じゃなくて後詰。

 

孫策もとい雪蓮と孫権の姉妹並びに孫呉の首脳陣が願う事。

それは、シャオが無事に生き延びる事だ。

 

当然勝つつもりで戦いに臨むが、彼我の戦力差は大きい。

万が一の時、孫呉の血筋を残さねばならない。

なんてことは当然、シャオだって理解しているけどな。

 

俺と呂羽隊はシャオの護衛であり、後詰の遊撃部隊でもある。

何といっても呂羽隊は正式に仕官はしてないからな。

雇われと仕官の違いは良く分からないが、まあ孫呉の武将じゃないのは間違いない。

 

そんな訳で赤壁とは違う、ちょっと離れた場所に居る訳だが…。

 

 

「じゃあシャオ。ちょっと様子見てくるから」

 

此処に居ても仕方がない。

蜀でも使った居留守の逆、現場不在証明を使って現地へ行こう。

幸い、まだ戦いは始まっていない様子だし。

 

「え?ちょ、待ちなさい!それならシャオもっ」

 

だが断る。

こういうのは一人の方が身軽で良いのだ。

 

良いのだが、そうは問屋が卸さない。

 

「おやおや隊長。お散歩ですか?」

 

「確かに此処じゃ暇だからな。少し出歩くのも悪くない」

 

不穏な笑顔の二人に迫られて、仕方なく三人で行くことに。

正確には白馬義従を伴ってのスーパーダッシュ!

 

呂羽隊とシャオのことは牛輔に任せておこう。

 

「ちょっと、そりゃないっすよ!?」

 

 

* * *

 

 

赤壁。

 

さあ、フィナーレ間近!

 

孫呉の備蓄基地から持ち出した油壺の群れ。

コイツを使って派手な流星群を演出してやろう。

 

もちろん、俺は此処に居ない。

由莉と白蓮は斥候の役割を果たしただけ。

 

彼女たちは俺の傍から離れるのを拒んだ。

絶対にNO!って勢いで。

ならば仕方ない。

後の事は未来の俺にお願いしよう。

 

 

懐に手を伸ばす。

 

白蓮が訝しげな顔をした。

 

気力を盛りまくり、揺らぎを顕現させる。

 

由莉が息をのむ。

 

 

いざ!

スーパーカラテタイム、はっじまっるよー!

 

 

天狗マシマシ、さらに倍!

 

 




本文で使えなさそうなネタも消化していくスタイル。
残すところ、多分あと一話で仕舞いです。

IFルートであり、本編の後日談ではありません。
孫呉ルートは呂蒙の好感度が足りず、成立しませんでした。
あと■や〇〇などの※※※※フラグで▲▲▲エンドも有り得ます。


・龍連猛襲
KOFロバートのストライカー動作及び技。
構えてダッシュ、相手に接触するとロックせずに乱舞開始。
6発ほど殴る蹴るして龍斬翔でフィニッシュ。
連携技として好んで使ってました。

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