武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ IFルートその5 煩悩マシマシばーじょん


Z7 飛燕烈吼

あれ、北郷君?

……どうして此処に。

いや、待て。

違うな……あんた誰だ。

 

えっ……北郷二刀?

 

ま、まさか……貴様、両刀使いだとでも言うのか!?

 

う、うわぁぁぁ!

こっちに来るな、来るんじゃねえっ

 

やめろ北郷ォォ、ぶっ飛ばすぞぉぉー!!

 

 

……はっ、夢か……。

 

 

「んにゅちゅぅぅ~~~……」

 

突如目の前に現れた、唇みたいな謎の巨大物体。

それが何かは分からないが、とても不快なものに思えた。

ならば問答無用で振り払わねばなるまい。

 

「飛燕烈吼!!」

 

良く分からないが、顎っぽい箇所を捉えて拳でかち上げ。

続けて輝く胴体かの如き褐色に拳を打ち込み、一切躊躇なく打ち上げた。

 

「ぶるあぁぁーーーっ」

 

謎の雄叫びを上げながら吹っ飛ぶ異物、もとい化け物。

一体何だったんだ。

 

「だぁぁぁぁれが筋肉モリモリの禿マッチョよぉぉぅ!」

 

「そんなことは言ってない」

 

「あらぁん、そぉう?」

 

吹っ飛ばした筈の化け物がいつの間にか目の前に。

こりゃあ超スピードとか、そんなものじゃない別の何かだぜぇ。

 

と言うか、コイツは……

 

「あらぁ、目を覚ましたのねぇん」

 

貂蝉だったけか。

変な夢見たのはコイツのせいか!

 

「む、こんなところにいたのか貂蝉。そろそろ行くぞ」

 

そこへ現れる謎のナイスな勇者王ボイス。

美女と野獣…ならぬ、ナマモノとイケメン。

 

「あらん華陀ちゃん、すぐ行くわぁ~」

 

クネクネと、気持ち悪くも隙の無い動きでイケメンに引っ付く物の怪。

ものともしないイケメンは大物に違いない。

 

「連れが迷惑をかけたな。俺は華陀。旅の医者だ」

 

「いや、構わん。俺は呂羽。旅の格闘家だ」

 

「そうか。ふむ、怪我や病気があれば頼ってくれ。しばらくは街に居るつもりだからな」

 

「ああ、その時は頼むぜ」

 

そう言って去っていくイケメン華陀。

基本的には医者いらずな俺だが、こういう出会いは有難い。

 

「ぬふふ~ん。……あらアナタ、不思議な色の魂ねぇん」

 

一方で呟きすらも胡散臭い変態。

去り際まで気色の悪い……しかし、何か気になる奴だった。

 

 

* * *

 

 

「そうか!」

 

「どうかしましたか?」

 

由莉とデートしてる時、ティン!ときた。

 

貂蝉の余りある存在感が強く印象に残り、周囲の光景はイマイチ朧気に。

それをヒントに思い付いた。

 

即ち、気を隠すなら盛り。

 

今はまだ必要ないが、天狗面を付ける必要にかられる場面がきっと来る。

だけど面を付けても俺だとバレたら意味がない。

つまり、盛ればいいんだよ。

 

極限まで高めた気をペガサス盛りなどにすれば、普段のものはすっかり隠れてしまうだろう。

うむ、我ながら名案だ!

その方向で詰めて行こう。

 

「…で。リョウ、聞いてますか?」

 

「はっ!す、すまん。聞いてなかった」

 

「珍しく、せっかくの二人きりなのに……」

 

むくれる由莉。

デート中に相手を放っておくなど、どう考えても俺が悪い。

だから必死になってご機嫌取りに走った。

 

そもそも、何故に由莉とデートなんてしているのかと言うと…。

話は孫策の無茶ぶりにまで遡る。

 

 

孫策の無茶ぶりに対し、俺は逃走をもって答えた。

もちろん追い掛けられた。

仕方がないので常識枠の周瑜に助けを求め、見事に確保されて引き渡された。

人選を間違ったと言わざるを得ない。

 

最終的に呂羽隊が敵対の動きを見せたことで事態は収拾。

肝心の無茶ぶりは、差し当たって保留となった。

収拾してないじゃん。

 

「それもこれも隊長が悪いのです」

 

「そうだぞ。断固拒否と主張しないからだ」

 

いやぁ、俺ちゃんと断ったよね。

……あれ、断ったっけ?

 

「適当に流そうとするからそうなるのです。猛省して下さい」

 

「なあ由莉。こうなれば、もういっそのこと身を固めてしまえば…」

 

「!白蓮殿…、実に良い案です。採用」

 

「よし、なら早速詳細を詰めようか」

 

あれよあれよという間に、呂羽隊首脳部による包囲網が形成されてしまった。

無論、本気になれば破るのは容易い。

 

が、どこに破る必要性があると言うのか。

 

強いて言うなら、旅の途中だから云々。

でもそんなの関係ねえ!

むしろ問題は、由莉が義妹だという点じゃなかろうか。

 

『ねえ、お兄ちゃん。由莉のこと、抱いて?』

 

なんて言われて抱けるか!

錯乱。

抱きしめたりは既報。

ああ、抱くってそういう……ちゃうねん。

 

 

煩悩マシマシ。

 

 

ううむ、こういう場合…北郷君ならどうするかな?

魏の種馬って素晴らしい言葉があった。

それが答え。

 

ええいっ

煩悩退散!たいさぁぁぁんっ!!

 

 

* * *

 

 

なんてことがあり、由莉と白蓮。

それぞれ単独デートを行うことになったのだ。

 

それがどうして貂蝉などと言う妖怪との邂逅になったのか。

全く意味が分からない。

何か特別な力が働いたんじゃないかと勘繰ってはいるが…。

 

気にすべきはそっちじゃない。

此処で由莉の機嫌を損ねる。

それが如何に危険な事か、俺は十分理解してるつもりだ。

だから形振り構わずご機嫌取りに走ったことは後悔してない。

 

ただもうちょっと、言い方に気を付けていれば…。

なんて思うも後の祭り。

反省し、次に生かすしかないね。

 

「どうです、似合ってますか?」

 

「ああ。良く似合ってるぞ」

 

クルリと回ってアピールする由莉が可愛い。

表情は落ち着いて見えるが、明らかにテンションが上がっている。

これが俗に言う、クーデレと言うやつか?

 

うーむ、やはり由莉の微笑みは良いな。

癒される。

白蓮の快活な笑みも良いが、また違ったものが…。

 

「ふふ。他の女の事を考えるなんて、いくら白蓮殿のことでも感心しませんよ」

 

何故ばれたし。

先ほどとは違った質の笑みを浮かべながら話す由莉。

クーなのかヤンなのか迷うところだ。

 

とりあえず甘味でもどうだ?

奢るぞ。

 

「喜んで。…ああ店主殿、二人ですが匙は一つで結構です」

 

颯爽と迎え入れる店屋の主人は実に素早い。

不可解な要望でも注文は注文。

支払がしっかりしてる以上、何も言うことは無いということだろう。

商売人の鑑のようだな。

 

「ではリョウ。はい、あーん」

 

あむ、むぐむぐ。

美味いね。

ふっ、今更この程度で照れはしない。

 

「ほれ、お返し。あーん」

 

「あー…ん…ぅ…、はふぅ。とてもおいしいです」

 

それは何より。

今、俺の心は鋼の様に。

余計な事は考えず、ただただ由莉の喜ぶことを行うのみ。

 

うむ、由莉が喜ぶと俺も嬉しい。

これは本心だ。

ホントだぞー。

 

「あっ…と、んぅ。…ちょっと零れちゃいましたね…」

 

もったいないとか何とか呟いて上目遣いに微笑む姿がぁぁぁぁぁ!?

ふぉぉぉぉ、煩悩退ぁぁぁぁーーーっっっ

 

 

* * *

 

 

朝を迎えるまでがデートです。

ちょっとまて、その理論はおかしい。

 

「今日は楽しかったですね」

 

「そうだな、色々あったけど」

 

クスクス笑う由莉が愛おしい…のは間違いないのだが、少し気になることが。

寝台の上に布団は一つ、枕はふ・た・つ(はぁと)

この状況は……

 

吝かではない!

 

煩悩?

ああ、あいつ良い奴だよな。

色々あったけど、今ではすっかり親友だぜ。

 

(一気に押し込むのもアリですが、今日のところは様子見が無難でしょうか)

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ。ふふ、こうして同じ布団に包まると安心します」

 

「そ、そうか」

 

流石に照れる。

すると、おもむろに覆いかぶさって来る由莉。

 

「ちょ、何をっ」

 

「落ち着いて。ただ、ギュッとするだけです。ご安心ください」

 

そ、そうか。

安心したような、残念なような。

 

あ、由莉がニヤニヤしてるのが雰囲気で分かる。

照れる、というか恥ずかしい。

恥じ入るとかそんなニュアンスで。

 

しかし妙に安心する気持ちもある。

これはあれだ。

由莉の母性が、かなあ。

 

「ふふ、おやすみなさい」

 

その言葉に触れると、一切の緊張なく眠りに入っていく。

隣に人がいるってのに、これは中々珍しいことだ。

 

何と言っても俺は旅の格闘家。

休息の時でも、どこかで緊張感を持っている。

 

野性を忘れた猫。

そんな言葉が頭を過るが…。

 

これじゃいかん!

弛みは油断、そして不測の事態に繋がる。

 

そうは思うものの、抗えない何かに諭されて眠りに落ちた。

 

「…眠りましたか。流石はリョウ、中々の耐性。でも……、ふふふ」

 

 

* * *

 

 

翌朝、割と気分よく目が覚めた。

また変な悪夢とか見ないかと危惧したが、杞憂で済んだか。

 

さて、目の前には圧倒的な母性。

正確に言うとお胸様。

肌色。

 

寝台一つに二人で寝るには流石に狭い。

起きてから考えるのもアレだが。

ようやく冷静になれたってことだろう。

 

眼前にあるのは、肌蹴た姿を晒す無防備な由莉。

冷静?

 

「…見るだけですか?誰もいないのに?」

 

…うん、れいせい。

 

「おはよう」

 

「はい、おはようございます。良く眠れましたか?」

 

お陰様でな。

流石にこれ以上、桃色空間に浸る訳にはいかない。

掛け布団が落ちないよう気を付けつつ、寝台を抜け出した。

 

「あっ…ざんねん」

 

あまり誘惑してくれるな。

割と本気なんだろうな、ってのは流石に感じるんだけども。

 

手早く身嗜みを整えて先に出る。

あまり詳しくないが、女性の朝は色々あるはずだ。

 

意気地なしなどと言うなかれ。

まだ慌てるような時間…場面じゃない。

 

一回落ち着いて、ちゃんと考えを整理しないと。

無責任にはなりたくないからねぇ。

 

 

ふう、今日一日を挟んで明日は白蓮とデートか。

流石に由莉の時ほど厳しい事態には陥るまいが、油断は出来ない。

それと、対応に差がつかないよう気をつけねば。

由莉は当然、白蓮もあれで̪嫉妬と言うか、拗ねることがあるからな。

 

孫策はあれから不気味なほど大人しい。

政務等々に忙しいのは分かるが、それでも何かあるんじゃないか。

そう思わずにはおれない。

いずれにしろ、弛緩だけはしないようにせねば。

 

よし、今日は久々に牛輔と本気で打ち合うか!

 

 

* * *

 

 

牛輔と訓練中、周瑜に呼び出された。

 

「何か用とか」

 

「ああ。まあ楽にしてくれ、茶でも出そう」

 

前回取り成しを頼んだら、ものの見事に裏切られたからな。

どうしても警戒してしまう。

一体何の用だろうか。

近くに孫策の気配がないのは確認済みだが…。

 

「そう警戒するな。個人的に話しておきたいことがあってな」

 

なんでござろう。

 

聞けば、劉備ちゃん陣営から連絡があったらしい。

益州で蜀と称したからヨロシクネーって挨拶状。

 

おお、無事に頑張ってるようで何より。

茶をしばきながら周瑜の話に耳を傾ける。

 

「それで、孫呉から使節団を送ろうと思っている」

 

孫呉の状況と、今後の予定をつらつらと喋り続ける彼女。

こちらに対する要求は何もない。

が、何もないことはないだろう。

本題がどこかにあるはず。

 

「使節団は小蓮様を団長に、亞莎…呂蒙を副長に付ける予定だ」

 

シャオと呂蒙か。

呂蒙とは接点ないんだよな。

 

と言うか、孫呉の将で接点あるのは首脳部の一部だけだな。

できれば周泰と仲良くなっておきたい。

だって忍者、憧れる。

 

「…それで呂羽。お前はどう思う?」

 

「ん?」

 

これが本題、と言う訳でもなさそうな。

しかしどう思うと言われてもなあ。

原作知識から予測は出来るが、個人的な判断はし兼ねるというのが正直なところ。

 

「お前は小蓮様の指南役だったな?」

 

「まあ一応。基礎的な体術や運動面だけだが」

 

元々身体能力の高いシャオに教えるのは楽しい。

勉学に励まなければならない立場で時間も取りづらいが、よく頑張ってると思う。

 

「小蓮様の指南役を、孫呉として仲介したい」

 

ふむ。

つまり、どういうことだってばよ?

 

「有体に言えば、ちゃんと給金を出すから小蓮様に同行して欲しいということだ」

 

「それは孫策の意向か?」

 

「孫呉としての方針だ」

 

「…俺だけ?」

 

「指揮する隊、全ての面倒を見よう。隊員たちの給金は最低限のものになるが」

 

「仕官をするつもりはないぞ」

 

「ああ。今はそれでいい」

 

今は、か。

まあそれほど悪い話じゃないと思う。

滞在している以上、変に断り続けるのも拗れそうだしな。

 

「分かった。ひとまず隊員たちと相談してから返事するよ」

 

「うむ。いい返事を期待しているぞ」

 

満足そうに頷く周瑜。

彼女はきっと、俺が条件を飲むだろうと看過してるんだろう。

これだから軍師って奴は怖いんだ。

 

…由莉も、若干軍師っぽいよな。

 

 

「そこで、物は相談なのだが…」

 

え、ここから本題?

 

「益州に向かう部隊はこちらでも用意する。だから呂羽隊全員で行く必要はない」

 

「確かに、あまり大人数になってもな」

 

「ああ。…それでだな、韓忠か公孫賛を私に預けてはくれまいか?」

 

……何だって?

まさかの部下指名、引き抜き工作?

 

「彼女たちの能力は高い。私の下で働いてもらえれば、給金も弾むし」

 

「断る」

 

「……ほお。引き抜きはしないと誓うが?」

 

だが断る!

あいつらを手放すなんてとんでもない。

 

「彼女たちの高評価は嬉しいが、だからこそ手元に置いておかないとな」

 

むしろ、このタイミングで置いていくなんて言った日には大惨事となるだろう。

いっそ泣かれた方がマシな目にあうような気もする。

 

「そうか…。ふっ、良い主従だな。残念だが分かった。この話は以上だ」

 

「ああ。それじゃ、さっきの件は後で連絡するよ」

 

取り込み工作なのか、単純に評価されてるのか悩むな。

両方かも知れんが。

 

 

* * *

 

 

「なんて事があったんだ」

 

「へえ~。それで、由莉は何て?」

 

「孫策の事を考えれば、まだシャオの方がマシとか何とか」

 

「その意見には概ね賛成だな」

 

膝の上に白蓮を乗せたまま会話する。

イチャイチャするってこういうの?

 

「しかし、即決で断ってくれたのは嬉しいな」

 

「そうか?当然のことだが」

 

「ふふ。それが分かるからこそ、だ」

 

確かに、そう言ったら由莉もかなり喜んでいた。

白蓮の番でなければ押し倒していたとか冗談が飛び出すほどに。

……冗談、だよな?

 

そんな訳で、今日は白蓮と一日デートの日。

基本は由莉と同じく街中を散策、食事したりデザート食べたり。

 

そして最後に、夕焼けとか見ながら川辺でゆっくりまったり…。

胡坐をかいて白蓮を膝の上に乗せている。

膝枕のお返しだ。

斜め後ろから覗く、白蓮の頬が赤いのは夕日のせいか別な要因か。

 

しかし話題の大部分が仕事の話とは色気の無い。

俺は構わんが、由莉ならデートなのにと怒りそうなもんだ。

この辺り、根が真面目な彼女の性格が良く出てるよな。

 

それと、他人の話題が出ても気にしない。

とても助かる。

 

と言う訳で、こんな場だが呂羽隊の方針が大まかに決まった。

後で牛輔や隊員たちにも諮るが、早々変わるまい。

 

やがて日は暮れ、夕食を取ったら湯浴みして寝るだけだ。

 

 

寝室に入ると、当たり前のように寝台一つに枕が二つ。

誰が準備してるんだろうか。

 

寝間着は薄着な白蓮ちゃん。

そこはかとない緊張感を漂わせつつ、共に寝台に入る。

 

由莉と違ってスレンダーな彼女のこと。

引っ付かなくても多少の余裕はある、などとは口が裂けても言えないな。

色んな意味で。

 

「と、ところでリョウ」

 

お、おう。

そんな緊張されちゃこっちまで緊張してきちまう。

これって流されてるだけか?

 

「由莉とは、その……どこまで、したんだ?」

 

「えー、どこまでと言われてもな」

 

俺にそれを答えろと申すか。

した、というのが何を意味するかにもよる。

致した、致してないとなれば…致してない。

 

「由莉は何か言ってなかったのか?」

 

「ああ、うん。不平等だからって」

 

意外だ。

由莉にそんな律儀さがあったとは。

あ、いや。

最近押せ押せな姿ばかり見てたせいで、誤解してるのかも知れないが。

 

よくよく思い返せば、確かに普段の由莉は律儀で冷静。

慎重で我慢強い性格だったように思う。

 

白蓮に対しては、ちゃんとその性格が発揮されてるんだな。

仲良くできてるようで何よりだ。

 

……凪に対する言動とは大違いだなぁ。

一体何が違うのだろうか。

 

白蓮の本質的な問題という気もするが、だとすればどうしようもない。

無理は言えないし、何より今は遠く離れてる。

再会するのもまだ先だろうし、その時にまた考えよう。

 

「由莉には、ギュッとしてもらったかな」

 

とりあえず白蓮の質問に回答。

 

いやあ、あの時は恐ろしいほど安心してしまった。

後から考えると、何かしたんじゃないかって勘繰ってしまうほどに。

 

「そうか。…うむむぅ」

 

顔を赤くして唸る白蓮も可愛い。

普段は馬を扱う姿など凛々しいんだが、こうして見るとやはり女の子よのう。

 

思わずニヤけてくる。

煩悩くらい飲み込めずして何が極限流か!

まあ仲良くやってるよ。

うむ、どんと来い。

 

「ムムム。…よし、リョウ。腕枕してくれ」

 

「お?それでいいのか」

 

「ああ。無理に背伸びしても仕方がないからな」

 

そうだな。

無理・無茶・無謀は得てして碌な事にならん。

まあ、やらざるを得ないこともあるけどな。

 

ではまあ、どうぞ。

 

「…おお、これは……結構恥ずいな…」

 

同意。

でも離れる気配は全くない。

敢えてこっちを見ようとしないのは、本当に恥ずかしいからだろう。

癒される。

 

「ところでリョウ」

 

「なんだ?」

 

「…今、私は幸せだ。太守を辞めた時は絶望しかけたもんだが」

 

そうか。

割と勢いで飛ばしてきたが、いつも一生懸命頑張ってたもんな。

 

「だから、お前や由莉には感謝している」

 

「あ、ああ。どういたしまして?」

 

ストレートな言葉って照れるよね。

特に白蓮みたいな、普段あまり言わない人からだと。

 

「そろそろ寝ようか」

 

「そうだな。おやすみ、白蓮」

 

「おやすみ、リョウ。……ふふ、少し恥ずかしいが……悪くないな」

 

光栄だ。

 

 

* * *

 

 

目覚めのドッキリハプニングなどもなく、爽やかな朝を迎えた。

 

そろそろ朝修練の時間だが、寝てる白蓮を置いて行くのは忍びない。

せっかくの、間近で見られる寝顔も捨てがたいしな。

女の子の寝顔っていいよね。

 

煩悩万歳。

 

ジッと見詰めていると、視線を感じたのか身動ぎをして起きる気配。

ああ…、もっと楽しんでいたかったのに。

 

「ふぁ~…あ。……っ!」

 

軽い欠伸などしながら瞼を上げて、焦点の定まらぬ目を暫し彷徨わせた後。

 

「や、おはよう」

 

俺と目が合うや、ボンッと真っ赤になって固まってしまう。

初心だな。

お、これが寝起きハプニングかいうやつか。

 

「あ、お、おはよう。……うわー、うわー。そうか、そうだったなぁ……」

 

但し、対象は俺じゃなく彼女の方だった訳だが。

それもまた良し。

小声でテンパる姿に癒される。

 

 

その後は特に何もなく、普通に起きて普通に修練場へ。

 

「ゆうべはおたのしみでしたね」

 

「お、おう」

 

来てみると、超イイ笑顔な由莉に出迎えられた。

これまでにないタイプの笑顔で、正直怖い。

 

「おたのしみでしたね?」

 

「あ、ああ。まあな」

 

何度も聞いて来るんじゃない。

そんなのキャラじゃなかろうに。

 

「どうした由莉。嫉妬か?」

 

「……白蓮殿。おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

一瞬で冷静になった。

図星か。

 

さて、ここからは日常。

イチャイチャなんてしてられないぜ。

 

差し当たり、今後の方針確認だな。

宿舎に集めて全員ミーティング。

 

孫呉に雇われることと、シャオに従って益州へ向かうこと。

そして……

 

「今日は自分に一日付き合ってもらうっすよ!」

 

牛輔によるデートのお誘い。

いやいやいや。

ちゃうねん、修行の話やねん。

 

いくら見た目が月ちゃんだからって、騙されるな皆!

コイツは男だ!!

 

あ、こら由莉。

またそんな暗い眼をするんじゃない。

 

そうだ、白蓮……おまえもかァー!?

 

 

なんて日常を過ごした後、俺たちは益州へと旅立った。

なお、その行程中に宿泊する時は、必ず由莉か白蓮どちらかと同衾することになったのは全くの余談である。

 

 




冒頭はエイプリルフール用に考えて間に合わなかったネタです。
これに貂蝉を出せという声なき声が聞こえた気がしたので合わせてみました。
残り二話くらいで、次回は一週間後くらいを予定しております。

IFルートであり、本編の後日談ではありません。
本編における韓当の立場を食った牛輔の性格(口調)が安定しません。


・飛燕烈吼
ユリちょう烈破ァー!
いわゆる昇竜烈破的な空牙と裏空牙を連続で。
作品によって向きが違ったりもします。

Z6話、誤字報告適用しました。ありがた。


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