武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ IFルートその2 妄想マシマシばーじょん


Z4 刺燕

袁紹が攻めてくる。

まあ予想通りだな。

 

何か徐庶が驚いたような目でこちらを見ていた。

それよりも、公孫賛の落ち込みようが酷い。

 

確か公孫賛と袁紹は真名を交わした仲だったか。

それなりに信用してるのに、これと言った理由もなく攻められるのは辛いわな。

 

「……も……って……」

 

ん?

公孫賛が俯いてぶつぶつ言ってる。

 

「何だって?」

 

「……(ギリッ)」

 

ひぃ!?

唐突に奥歯を噛み締めて凄い形相に…。

そして、爆発した。

 

「どいつもこいつも、馬鹿にしやがって!」

 

公孫賛の中で、何かが切れたらしい。

それなりに長く見てるであろう徐庶も目を丸くするレベル。

華雄姉さんは面白そうにしてるし、由莉は…微笑み?

 

「どうせ私が与し易いからって真っ先に狙われたんだろ?いいさ、返り討ちにしてやるよっ!」

 

あれ?

公孫賛って、もっとこう…。

言っちゃなんだけど、こういう場面ではがっくり凹むタイプじゃなかったっけ。

さっき落ち込んでたのが尾を引く感じに。

 

「ええ、言った通りでしょう?しかしご安心ください。今は隊長がおられます」

 

激昂する公孫賛の側に寄り添って、何事かを囁きかける由莉。

その姿はまさに甘言の悪魔。

徐庶がちょっと引いてる。

 

「ああ、ああ。そうだな、そうだよ。正に天祐。呂羽は天が遣わした助けに違いない!」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ふふふふ」

 

おいおい、天の御使いは北郷君だぞ?

 

「あんな優男を遣わす天など間違ってます」

 

「おい由莉、随分と辛辣だな」

 

「ですから公孫賛様。これを機に全てを公にして、大陸へ打って出ましょう」

 

「そうだな、韓忠の言う通りだ!いつまでもコケにされたまま黙ってられるかっ」

 

完全に公孫賛のターン。

韓忠が静かに煽りまくり、徐庶はドン引きだ。

 

「別に問題あるまい。変に後ろ向きよりもずっといい」

 

「姉さん。…それはまあ、そうだけど」

 

確かにマイナス思考に陥るよりはマシだ。

ただこれが常態化するのか、突発的な高揚感に突き動かされてるだけなのかにもよる。

仮に常態化するようなら、肉体言語も交えた諫言も視野に入れなきゃな。

 

徐庶に目配せし、頷き合う。

見習いと自称するも軍師としての力量は高い。

戦になるなら出番も多かろう。

 

「じゃあ、軍議かな」

 

「ああ、頼りにしてるぞ。華雄、呂羽!」

 

何だか変な事になってしまった気がする。

あとで由莉に詳しく聞かないと。

 

 

* * *

 

 

由莉が公孫賛を煽った理由はイマイチ判然としないが、別に不満も出なかった。

 

何はともあれ対袁紹戦。

華雄姉さんを含む呂羽隊は、全員奴に含むところがある。

なればこそ俄然やる気に満ち溢れており、論点はすぐにズレてしまう。

 

いや、俺は理由を知りたいんだけどな。

今は空気を読んでスルーする方が無難か。

 

「では呂羽。組手をするぞ!」

 

姉さんの怪我も大方完治し、賊徒掃滅によってリハビリも十分だろう。

兵の調練も順調で、それなりに本気で手合わせすることも可能となった。

こっちはもう大丈夫。

 

そこで、由莉の強化計画を発案。

反董卓連合から一連の動きを見る限り、決して悪くはない。

悪くないなら、もっと上を目指してもいいと思うんだ。

 

時間があれば公孫賛にも参加して欲しいが、今は太守としての仕事が忙しいからな。

代わりに公孫賛軍にも極限流を広めてる。

天の御使い説が蔓延って大人気なのは、内心忸怩たるものがあるが今は忘れよう…。

 

「気弾放出はまだ少し、難しいです」

 

とても悔しそうな由莉。

腕力より脚力が強いのは凪と一緒だが、気功の扱いは全然だ。

牛輔と比べても若干劣っている。

本人も分かっており、かなり頑張ってはいるんだがな。

 

「まずは長所を伸ばそう。柔軟性と脚力を生かして…」

 

俺が扱う技は上半身がメインであって、下半身は補助的な扱いが多い。

しかし極限流は心身全てを扱う無双の流派。

基礎的なところだが、方向性は無限大なのだ。

 

「まず見せる。足先に注意を払い、転ばないよう気を付けろよ」

 

身を伏し、突き刺すように足払いを繰り出す。

 

「クッ…」

 

「よし、耐えたな。これは刺燕。足払いに見えるが、相手を転ばせないことに意義がある」

 

戦闘中には、大振りよりもこのような小技を繰り出す方が良い場面がある。

足払いのようなフォームだが、転ばせずにもたつかせることに主眼を置いたものだからな。

 

正拳突きから刺燕に、そして空牙に繋げると言ったアーツも有効かな。

俺の説明に細かく頷きながら聞き入る由莉。

恐らく、如何に相手にとって嫌らしい動きになるか考えてるんだろう。

そういうの得意だからな、コイツ。

 

「分かりました。では早速試してみます」

 

「お、おう」

 

行きます、と伏して刺燕を仕掛ける由莉。

うむ、入りは中々。

脚部に、敢えて気ではなく力を入れて転ばないよう踏ん張る。

さあどんな連携を見せてくれるのか?

 

「はあっ!」

 

両足先で挟むように捻り…うおあっ

気で固めてないせいで踏ん張りがきかず、バランスを崩して倒れてしまった。

 

「派生技とは、なかなかやる…なあ!?」

 

受け身を取って起き上がろうと顔を向けると、そこには暗い笑みを浮かべた由莉の顔。

 

「ふふ、トドメです。桂馬打ち!」

 

(´Д`).∴カハッ

 

見事な追い打ち。

原初の技を正しい用法でやり返すとは……やるじゃない(ニコッ)……ガクリ。

 

 

* * *

 

 

袁紹が攻めてきた。

しかし備えは万全。

あちらさんの本気度にもよるが、あっさり負けることはないはず。

 

「…なあ呂羽。大丈夫か?大丈夫だよな?」

 

スーパー公孫賛タイムは長く持たなかったらしい。

太守のお仕事は多岐に渡る。

インターバルが入って鎮火してしまったようだ。

変に常態化しなくて良かったと思っておこう。

 

由莉が煽る頻度が減ったせいもあるかな。

俺に一撃入れたのが凄く嬉しかったようで、ここ最近は何時になくべったりだった。

いや、修行という意味でだぞ。

 

気功の対処も順調だ。

凄いな、才能ないと思ったのに。

龍撃閃とか足で放てるようになるかも……夢が広がりんぐ。

 

「大丈夫だから。お前を信じる俺を信じろ!」

 

「えっ……あ、ああ……分かった」

 

おや、公孫賛が赤くなって俯いてしまったぞ。

どこかで聞いた台詞を放ったせいかな。

この場に由莉が居なくて良かった。

 

「ほう。随分と色男だな、呂羽」

 

華雄姉さん!

姉さんはそんなこと言わないと思ってたのにっ

思わぬ伏兵だったぜ…。

 

 

そして国境で止まらなかった袁紹軍を先制攻撃。

覇王至高拳で薙ぎ払え!

 

敵勢の先鋒は余波で吹き飛ばされ、至高拳はそのまま袁紹の牙門旗に吸い込まれていった。

無駄に華美な旗を、撃ち抜くどころか丸ごと粉砕してやったぜ。

いやぁ、実に清々しい。

 

さあ、突撃だ!

 

 

* * *

 

 

雲霞のごとき大軍とは正にこの事。

如何に武張って掻き回しても押し返すには至らない。

いや、ダメージの多さに慄いた袁紹軍が軍を下げたりはしたけどね。

撤退する気配はない。

 

賊徒と違い、掃滅するのも現実的じゃないからなあ。

しかも田って旗がこちらを包囲するような動きを見せてる。

危ないな。

 

こっちも頑張ってんだぜ。

最初に押し入った時、連合の時にも見た黄金に輝く鎧を纏った武将の一人。

確か文醜とか言ったっけ。

眩しくてイラッとしたんで、飛燕疾風脚から浮かせて左正拳、キャンセル覇王至高拳のコンボを決めてやった。

 

もちろん目に厳しい鎧を粉砕するつもりで放ったよ。

そしたら勢い余って、衣類も吹き飛んでしまったのは不幸な事故だったね。

水色は髪の色に合わせたのかな?

 

近くにいた別の将や兵士も巻き込んでしまったが、まあ然したる問題はない。

 

イイ感じに痛めつけたつもりだったが、名門の意地と言う奴だろうか。

次から次へと新しい旗が掲げられる。

さては準備してきたな?

 

こっちも旗折りばかりはやってられんし、一旦後退して集まったんだが…。

 

対陣してからそこそこ経って、正直なところ公孫賛軍は疲弊している。

やはり戦いは数だよ姉さん!

 

「雑魚が幾らいようと、全て薙ぎ払うのみだ」

 

猪武者、ここに再臨。

軍の統括者という立場を降りて以降、姉さんの猪ぶりに拍車が掛かってる気が…。

煽りを受けた隊員にも突撃兵が量産されつつある。

 

脳筋も嫌いではないが、量産されても困る。

 

「さて、どうするか」

 

「やはり物資が心許ないですね。いざという覚悟も、或いは…」

 

「…麗羽に降参するのは、承服し兼ねる」

 

「投降などありえん!」

 

ここで自称軍師見習いの客将である徐庶が発言。

一点集中、全軍で持って中央突破。

敵陣を貫いて新天地を目指すと言うのはどうか、と…。

 

「幽州を、捨てると言うのか…」

 

「公孫賛様には厳しい言葉でしょうが、遠からず物量に押し潰されます」

 

「しかし新天地と言ってもな、北以外だと南か」

 

「おお、突撃して突破する。うむ、良いな!」

 

徐庶の趣味であるらしい、振舞われた焼き菓子をムシャムシャしながら作戦会議。

おお、美味いなこれ。

 

「よしんば袁紹軍を貫いたとして、どこへ向かう?」

 

「有力な諸侯の下へ身を寄せるか、あるいは弱小勢力へ売り込むか」

 

「ふむ。袁術は遠い。ならば曹操か馬騰あたりか」

 

曹操と聞いて嫌そうな顔をする由莉。

俺も凪のことが頭を過り、混ぜるな危険という表示が思い浮かんだ。

まず曹操様のとこはないな。

 

「西涼は厳しい土地。多勢の受け入れは難しいだろう」

 

「では劉備…殿、でしょうか」

 

劉備と口に出してから微妙そうな顔をする由莉。

黄巾党の時とお胸様の話、どっちだろうか…。

 

「劉備ちゃんなら、董卓ちゃんたちも居るかもね」

 

「呂羽、それは本当か!?」

 

「…ちゃん付け?(ギリッ)」

 

落ち着け!

 

最後に徐庶が水を向け、総大将の公孫賛が決断。

 

「我らは一丸となり、袁紹が本陣を貫く槍となる。皆の者、全速先進!」

 

ワァァー!!

敵本陣に向かう、前進する撤退。

後世で、島津の退き口ならぬ公孫の退き口とか言われるのかな?

胸熱。

 

 

* * *

 

 

金髪くるくるボインボインをふっとばし、無事に突破。

公孫賛率いる白馬義従は凄い勢いで袁紹軍を蹴散らしてたのが圧巻だった。

そのまま南下して、劉備ちゃんの治める地域へ。

 

立ちはだかる者は、全て俺が倒してやろう。

そこら中で派手にやったる!

 

「売名行為ですか?」

 

ちゃうねん。

売られた喧嘩は買うだけだ。

ねえ、姉さん。

 

「うむ。敵は粉砕するのみ」

 

「お前ら楽しそうだな」

 

悲観しても仕方ない。

これでも袁紹にはかなりのダメージを与えてやった。

今のところ追撃もないし、後は劉備ちゃんの保護を受けるだけだ。

 

「ほら白蓮も、もっと明るく行こうぜ!」

 

「はあ…。そうだな、リョウに言われちゃ仕方ない」

 

公孫賛こと白蓮。

袁紹の本陣を貫いた後、苦楽を共に云々で真名を交換した。

由莉もな。

華雄姉さんと徐庶は諸般の事情でそのまま。

 

そういや徐庶は劉備ちゃん陣営に転籍する予定らしい。

一緒にいると毒されそうだから、だって。

つまり白蓮は手遅れってことだな。

やったね!

 

 

* * *

 

 

徐州の劉備ちゃんが受け入れてくれた。

謁見の時、関羽や趙雲らと色々あったけど概ね問題なく。

 

袁紹軍との戦いについては既に知ってるようで、退き口のことも知ってた。

そして俺が天から遣わされた云々も…うん、本物は曹操様のとこの北郷君だよ。

俺はせいぜい天の密使…いや、何でもない。

 

しかし中々優秀な情報網じゃないか。

ああ、徐庶ちゃんが知らせたの。

徐庶ちゃん言うな?

じゃあ元直ちゃん。

 

おっと、中々良い剣筋だ。

軍師もいいが、身体を鍛えてみてはどうだ?

きっと良い武人になれるぞ。

 

…逃げられたか。

 

ん?

いやいや由莉、別に口説いたりなんて。

何だ白蓮まで。

俺はただ良いカラダをしてるなと思っただけで……はっ!?

 

 

…さて。

 

 

劉備ちゃんの陣営は人材が豊富だ。

 

主なところで武将は関羽、張飛に趙雲。

軍師として諸葛孔明と鳳統。

さらに呂布ちんと陳宮まで合流済みか。

 

隅には董卓ちゃんと賈駆っちが牛輔と共に佇んでいた。

 

「董卓様ぁぁぁーーーっっ!!」

 

徐州に入ってからソワソワぷるぷるしてた姉さん、遂に決壊。

儚げな微笑を浮かべ、姉さんの頭を撫でる董卓ちゃんマジ天使。

 

「師匠ぉー、会いたかったぜ!」

 

似たような姿形で正反対の動きをする牛輔マジ熱血。

即座に由莉が滑り込み、飛燕足刀で吹っ飛ばしていた。

相変わらず牛輔には一切容赦がないな。

 

「ボクと月は名前を捨てたの。今後は気を付けてよね」

 

おお賈駆っち、もとい詠。

分かったよ。

デレ分が僅少なのは相変わらずだな。

元気そうで何より。

 

さりげなく元直ちゃんが孔明ちゃんと鳳統ちゃんに挨拶して、劉備ちゃんに仕官してた。

劉備陣営って軍師が豊富だよね。

陳宮も一応軍師枠か。

 

とりあえず俺と公孫賛は客将になった。

何か久しぶりだな、客将。

そして牛輔が呂羽隊に復帰。

代わりに華雄姉さんが董卓ちゃん、じゃなくて月ちゃん付きとして仕官した。

月ちゃんは奥付きだから、正式には武官としての仕官だな。

 

呂羽隊のうち、元華雄隊の奴らも席替え。

公孫賛隊も含めてスリム化を図る。

結果、呂羽隊は俺が率いる極限小隊と白蓮率いる白馬義従となり、その他は劉備軍へと組み込まれた。

細かいことは元直ちゃんが上手くやってくれるだろう。

 

 

* * *

 

 

劉備軍の一員として主に跳梁跋扈する賊どもの討伐に従事すること暫し。

南から、袁術が軍備を整えつつあるとの風聞が。

 

「攻めてくるのか?」

 

「恐らく…しかし、場合によっては切り抜ける方策も…」

 

首脳部と軍師たちがあーでもないこーでもないと頭を捻らせる中、俺は…。

 

「どうした牛輔!さてはサボってたな?鍛え直してくれるっ」

 

「くぅ、姫たちを守りながらの修行は厳しかったんだよ!でも鍛練は望むところだっ」

 

牛輔め、相変わらず熱い奴。

そして変わらない男の娘っぷり。

動きやすい格好と言ってスカートっぽいの穿いて来る奴があるか。

 

「なあ由莉。アイツ、男か?女なのか?…リョウは、どっちなんだ?」

 

「白蓮殿。あのバカは男ですが、見ての通り非常に危険なので排除対象です」

 

そんな牛輔の様子を見た由莉と白蓮が、仲良く不穏な会話を交わしていた。

二人の関係は極めて良好。

由莉の奴はあんなだが、白蓮は持ち前の人の良さが功を奏して上手く付き合えているようだ。

 

「ところで師匠。極限流って組技とかないの?」

 

「組技…投げ技ならあるが、基本は打ち込みや捌きに放出だからな」

 

「そっか、ざんねーん」

 

時折見せる仕草まで女っぽい。

ボーイッシュな少女と言われた方が納得出来るレベル。

男の娘とは罪深い文化よな。

 

……下着は、どうしてるんだろうか……。

 

 

* * *

 

 

袁術が攻めてくると言うので、遠征軍が編成された。

基本的にほぼ全軍で迎え撃つ布陣。

 

北への備えは俺たち呂羽隊が受け持った。

余りの信頼感に驚いたが、対袁紹なら俺や白蓮の方が適任だと。

太鼓判を押したのは軍師たちと元董卓軍の皆さん。

 

そこまで評価を頂いたのなら、全力で応えざるを得ない。

 

遠征軍が出立し、やがて辛勝したとの報告が届いた頃。

北から袁紹が軍備を整え南下の兆しというお知らせ。

即座に留守居を残して出陣したのだが、この部隊は呂羽隊全てで構成される。

つまり客将だけの警備隊なんだがいいのだろうか。

…疑問を呈しても由莉は微笑むばかり。

 

まあ、確かに今更だよな。

気にしないでおこう。

しかし書類仕事は白蓮が居てくれて助かるな。

流石元太守なだけはある。

 

「ふっ、どうだ見直したか」

 

ドヤッとする白蓮が可愛かった。

 

対袁紹戦。

連合も入れれば三回目か。

全て防衛戦なんだが、随分と祟ってくれるなぁ。

とりあえず、袁紹軍の旗は念入りにクラッシュしておこう。

極限流の名にかけて!

 

 

* * *

 

 

相変わらず物量が凄い。

混乱から復帰出来たのか、無理してないのか敵ながら気になるところ。

 

この後、無事なら曹操様ともぶつかるんだろ?

名門は伊達じゃないってことかね。

 

劉備ちゃんたちも袁術相手に梃子摺ってるようだ。

向こうも似非金ぴかとして、物量勝負に出たりしてるんだろうか。

 

「劉備様からは援軍を送る余裕はないとのこと」

 

「そうだろうな。如何に桃香の仁徳があったとて、限界はある」

 

「一撃必殺!袁紹を討ち取ろうぜ!」

 

個人的に闘い続けるのは可能だが、軍としては物資の問題が付いて回る。

無くなる前に、どうにかしないとなあ。

 

「元より数で劣る我ら、一気呵成は必要な要素ではありますが…」

 

「兵も物資も無駄には出来ないからな」

 

「対袁紹ならまた貫いてやればいいさ!」

 

スルーされても気にしない牛輔が凄い。

どうも、公孫の退き口(定着した)に強い憧れを抱いたようで…再現したいんだろう。

 

…ふむ、再現か。

それもありだな。

 

「よし、機を見て突っ込もう」

 

「お!流石師匠、話が分かるぜっ」

 

「…正気か?」

 

「まさか、この馬鹿に迎合した訳では…ありませんよね?」

 

「いやいや、ちゃんと考えてのことだ」

 

だからそんな怖い顔しないで欲しい。

どんな顔かと言うと、表情が抜け落ちた能面のような顔。

マジ勘弁。

可愛い顔が台無しだぜ、ホント。

 

突っ込むと言っても、前回みたいに突っ切る訳じゃない。

むしろ突っ切ると見せかけて、斜めに向かってすりおろす感じだな。

分かり難い?

細かい事は気にするな!

 

 

* * *

 

 

袁紹軍を波状攻撃ですりおろして戦線離脱。

劉備ちゃんたちも痛み分けで一時的に本拠地に戻り、今後のことを作戦会議。

 

結果、益州へ逃げることに決まった。

 

遂に蜀の地へ向かうようだ。

周囲を強豪に囲まれて伸び悩むよりも、新たに開拓する方が良いという結論だな。

問題はどこを通るか。

 

北は袁紹、南は袁術。

東は海で西に曹操様。

 

北と南は既に戦端を開いており、穏便に通ることは不可能。

向かう先は益州だから南西に向かう形となる。

だったら一点突破で袁術を打ち破ろう!

元直ちゃんが主張したが、孔明ちゃんたちが難色を示し…。

 

「染まってるな」

 

白蓮の呟きにガーン!と衝撃を受けたらしい元直ちゃんは沈黙。

南進突貫策は却下となった。

 

「じゃあ、曹操さんに頼んで通らせて貰おう!」

 

明るく楽天的に発案するのはおpp…劉備ちゃん。

議論を尽くした結果、最終的にそれしかないと決議。

全員で西へ向かうことになった。

 

 

「隊長、嫌な予感がするのですが」

 

「奇遇だな由莉、俺もだ」

 

曹操様の領土を通る。

一応こっそり通り抜けることを目指すようだが、まあ無理だろ。

間違いなく補足されて、…あー。

 

「どうした?」

 

「いや、何でも」

 

時期とか詳しく分からないけど、逃げる劉備と追う曹操。

そんな構図があった気がする。

つまり、フラグが立った。

 

「ところで隊長」

 

「何だ?」

 

「嫌な予感がして不安なので、抱きしめて下さい」

 

「お、いいな。リョウ、私も頼む」

 

「由莉はともかく、白蓮まで一体どうしたんだ…」

 

ギュッと義妹を抱きしめながら問う。

柔らかくて素晴らしい抱き心地。

 

「お前には助けられてばかりだ。ずっと不甲斐無い、情けないと思っていたんだが…」

 

いたんだが?

 

「由莉に倣って、もう気にしないことにした」

 

さあ、と手を広げて抱っこを求める白蓮。

気にしないと言いつつ、顔は真っ赤っか。

流石に恥ずかしさは拭いきれないらしい。

 

「聞く限り、曹操のとこには大敵がいるようだし…」

 

ぼそっと呟かれた言葉はよく聞こえなかった、ことにした。

おお、白蓮の抱き心地も中々。

次は鎧を着てない時がいいな、ははっ。

 

 

妄想マシマシ。

 

 

さて、フラグは回収されるものだ。

目の前には曹操様。

隣に劉備ちゃん。

 

「この男を差し出せば領内を通ることを認めましょう」

 

「分かりました」

 

ええっ!?

 

 

* * *

 

 

曹操様へ客将として仕官。

白馬義従を含む呂羽隊全員で。

 

劉備ちゃんがあっさり頷いたのは、事前に由莉から話が行ってたから。

どうにも報連相が軽視されてる。

と思ったら、俺が以前話した方針から既定路線だと思ってたらしい。

つまり、互いに報連相が不足してたと言う訳だな。

反省。

 

曹操様の下で客将になったのは対袁紹戦に協力するため。

だから袁紹との勝負が決した時点で辞去する約束だ。

 

同じ主君に二度も客将する奴なんて前代未聞。

そう夏侯淵が楽しげに話していた。

 

「さて呂羽。愛しの凪と再会する覚悟は出来てるかしら」

 

愛しのを強調しないで欲しい。

あと、再会に覚悟がいるのだろうか。

 

「だって、ねえ秋蘭?」

 

「ふふ、そうですね」

 

クスクス笑う主従に疑念が募る。

嫌な予感がする。

いや、背後で冷徹な表情を崩さない義妹のことは置いておくとしてもだ。

 

「あれほど凪に入れ込んでたのに、何時の間にやら二人も…ね」

 

んなっ!

ご、誤解だァー!?

 

「誰に対する何が誤解なのか、しっかり考えないと血の雨が降るだろうな」

 

夏侯淵の発言が怖すぎる。

…分かった。

覚悟して会うこととしよう。

 

 




出来るだけ端折ったつもりが、やはり全く終わりませんでした。
あと一話を目指しますが、無理かも。

IFルートであり、本編の後日談ではありません。
没になった公孫賛覚醒ルートも含んでおります。
ちなみに華雄姉さんはさばさばしてまして、どのルートでも似たようなものになるかと。

・刺燕
KOFのユリが使う特殊技。
本文中で描写したように、下段で足払いだけど転ばない不思議性能。
連携キャンセル用でしょうか。

・徐庶
オリキャラのようで原作登場キャラ。
蜀ルートで名前だけ(孔明らに元直ちゃんと呼ばれる描写)

・牛輔
主人公以外では唯一ガチのオリキャラ。
本編では薄らしたキャラだったので、IFルートでガチさを出そうとした結果…

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