武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ IFルートその1 下心マシマシばーじょん


Z3 桂馬打ち

この地に舞い降りて少々。

諸般の事情から曹操様の客将となり、修行の日々を送っていた。

 

そんなある日、黄巾党征討軍に従軍。

 

曹操様に命じられ、義勇軍である劉備軍の先鋒として凪と並行して乱戦を進む。

すると、それほど目立たぬながら、明らかに指揮している風な人物に気が付いた。

 

…ふむ。

あの敵将を叩けば混乱はさらに助長、片が付くのも早まるかもな。

よし!

 

周囲の雑魚たちを蹴散らしつつも、陰に隠れるようにやや前傾姿勢でスルスルと敵将目掛けて走り寄る。

 

「翔乱脚!」

 

敵将の両肩を押さえ付け、胸元へ気を練り込んだ膝蹴りをお見舞いする。

 

「な、何者…くっ!?」

 

「むっ…」

 

しかし数発撃ち込んだところで攻撃中止。

相手は咳き込みながら俯きかけている。

そりゃまともに防御もしてないし、気でコーティングすらもしてないから仕方ない。

 

それでも、尚こちらを睨みつけてくるのだから見上げた根性だ。

でも呼気が乱れている。

思うところあって手を止めたが、とりあえず敵は敵。

まずは仕留めておこう。

 

「チェストォ!」

 

桂馬打ちでシュカンッと首筋に手刀を打ち込む。

 

敵将は一瞬で手の内に落ちた。

色々と手管はあるが、ひとまずこんなところで。

 

「韓忠様っ…ぐは!?」

 

周囲で騒ぐ奴らを即座に掃討。

落とした敵将…韓忠ってのか?

こいつを抱えたまま、両足を回転させて…これは飛燕旋風脚だな。

 

 

…ふう。

黄巾党撃滅のお知らせ。

 

一通り敵勢を駆逐して凪と合流し、劉備ちゃんたちに報告してから辞去。

曹操様への報告は凪に任せることとし、一足先に戻ってもらった。

 

そこで俺はこっそり動くぜ。

んー、確かここらの岩陰に…お、いたいた。

 

気絶したままの敵将、韓忠である。

あらかじめ確保しておいたのさ。

 

さて確保の理由だが…。

 

…コホン。

キッと睨まれた時も思ったのだが、割と澄んだ瞳をしていた。

少なくとも、欲に塗れたならず者の目ではない。

だからちゃんと落ち着いて話し合えば、俺の力になってくれるんじゃないかって刹那時に思ったのだ。

 

それと、こいつの指揮能力の高さを買ったのもある。

あの乱戦の最中に、あれほどちゃんとした指示を出せるのは中々のもんだ。

少なくとも、今の俺には出来ない。

 

…などなど、色々と思うところはあるのだよ。

 

……だが、しかし……。

まあ、少々言いずらいがこれらは後付けだ。

 

正直に言おう。

まず、最初に攻撃を止めた理由なんだがな。

 

それは、韓忠の胸にある。

あの時は特に何も考えず、気を練り込んだ膝蹴りを叩き込んだ。

だが気を込めたが故に、気付いてしまった。

 

…胸の、柔らかさに。

 

男女の別など気にしてなかったにも拘らず、間違いなく女だなと思ってしまった。

いや、我ながらどうかと思うよ。

思うけども、気付いてしまったのだから仕方がないだろう!?(逆切れ)

 

……で、だ。

 

気付いたから攻撃を止めたけど、まあ勢いで数発は入った。

普通の奴なら既に失神してても可笑しくないダメージだろう。

実際、こいつもギリギリだった。

 

しかし多少なりとも保ったことで感じた意思の強さ。

精神が肉体を凌駕しつつあるっていうのかな。

あとはさっきの後付けな。

 

要は気になって、次いで気に入ってしまったんだよ。

凪とは違い、格闘方面への才能は左程ではなさそうだったが。

それでも改めて確認したみたが、気の力に目覚める可能性はある模様。

だから、余計手元に置いてみたくなってな。

 

色々後ろめたくて凪には隠しちゃった。

このまま同行するのは、ちょっと厳しいかもしれんがなあ。

その辺は、追々考えていこう。

 

まずは起こして話をするか。

幸い、恐らくだが騒いだりするタイプではない。

こちらが落ち着いていれば、きちんと対応してくれるだろう。

 

「さて、起きろー?」

 

ユサユサ。

…おっと、お胸様が…。

蹴りを入れたせいでたわんでたんだな、サラシが。

 

 

* * *

 

 

韓忠との話し合いは概ね上手くいった。

 

元々黄巾党に参加したのも本意ではなかったようだ。

最初は仕官を望んだらしいが、伝手も金もなくては如何ともしがたく。

そのうち近隣の村々が黄巾党に合流し、本人も止む無くってことらしい。

 

黄巾党が壊滅した今、行く当てもないから俺についていくのに否やはない。

だが、と。

韓忠が凄まじい表情で俺を睨みつけ、問題視したものがある。

 

気絶する前はきつくサラシを巻いて男装していたハズが、起きてみると胸が…たゆんたゆん。

眼前には敵であろう男。

 

 

エッチなのはいけないと思います!(オブラート表現)

 

 

そんなこんな、過程ではちょっと、いや色々あったけれども。

ひとまず結果良ければ万事良し!

 

暗い目をして恨みを云々と呟く彼女を宥め透かし、連れ帰る。

差し当たり、個人的な従者という立場で雇うことにした。

 

とは言え、信頼関係が構築されてないうちから城や宿舎へ入れるのは流石に不味い。

元黄巾党というのも秘密だし、何なら彼女の存在そのものも秘密。

だから陳留の街中に小さい宿を用意した。

 

客将として貯めてた給金が役に立ったぜ!

…貢ぐとか囲うとか、そんなんじゃないぞホントだぞ。

 

 

* * *

 

 

陳留に戻り、曹操軍のメンバーに交じって報告会。

その席でそろそろ旅に戻ると宣言。

若干空気が緊張したが、曹操様は認めてくれた。

それどころか、報奨金の上乗せまでしてくれて…流石っす!

 

真名を交わした相手が居ない云々はスルー。

凪とだけ交わしてるけど、言わぬが花。

 

黄巾党の乱が終われば次は反董卓連合のはず。

そして戦乱の世へと突入する。

これは見逃せない。

よって、諸侯の情報を集めながら洛陽を目指そう。

 

そんなことを韓忠に説明。

詳細は未定だと言うと、深い溜息を頂いた。

 

「…では、私も少し情報を集めておきます」

 

「おお!助かるぜっ」

 

「頼りない雇用主を補うのも従者の務めですから」

 

「アッハイ。…すまん…」

 

呆れながらも小さく笑みを見せてくれた韓忠。

デレきたー!

踵を返す彼女の後姿を見送りながら、下心ありきにしても迎え入れたのは我ながらファインプレーだったと思った。

 

下心マシマシ。

 

 

* * *

 

 

陳留を出立する前に、可能な限り凪と一緒に稽古。

それが凪の願いであり、夏侯淵からの依頼でもあり、俺としてもやるべきことだ。

 

気の扱いに加え、蹴技に一日の長がある凪。

極限流の足技から、既に龍斬翔と幻影脚を伝授した。

伝授って言うと弟子みたいだけど、…何となく拘ってライバル的なものだと言い張っている。

しかし最近、自分が持つ技を教えるのだから弟子でも間違ってない気もしてきた。

 

さておき、今回は特別な講義のために城外の修練場にやってきている。

行き方さえちゃんと知ってれば誰でも来れるが、敢えて場末の修練場に来るような物好きは余りいない。

 

しかし実は今日、韓忠が来てる。

俺が普段何をやってるか見たいと言うので、こっそり教えたんだ。

邪魔しないで隠れておくことを条件にな。

 

今後も一緒に旅をしたり、場合によっては戦場に出ることもあるだろう。

ならば良い機会だし、俺の技を見せておこうと思ったのだ。

 

さて、今は凪だ。

凪は覇王翔吼拳に強い憧れを抱いている。

気弾を扱う凪だからこそと言えるが、未だ彼女の前で見せたことがない。

 

それを今回、いよいよ披露しよう。

しかしただ見せるだけでは面白くない。

見取り稽古もいいが、やはり受けてみて初めて理解できると思うのだ。

 

「凪。俺に向かって、全力で闘気弾を放て!」

 

「リョウ殿?」

 

「凪の闘気弾に対し、俺は覇王翔吼拳を放とう」

 

「ッ!?」

 

俺の言葉に対し、凪は目を大きく見開くもすぐに真剣な眼差しとなる。

韓忠など周囲のことは一端忘れ、俺もただ眼前のことのみに集中する。

 

 

「はぁぁぁっっ、闘気弾ッッ」

 

凪の放つ気弾を視認するや、両腕に気を一気に集めて眼前で交差。

すぐに腕を引き、両掌に集積させた気を乗せて大きく広げて解き放つ!

 

「覇王翔吼拳!」

 

大きな気弾の塊である覇王翔吼拳は闘気弾を飲み込み、凪に迫る。

すぐに着弾し、大きな衝撃と音が轟き砂埃が舞い上がった。

 

凪は見事耐え切るも、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちてしまう。

 

やっべー、やりすぎたか。

急いで駆け寄り、状態を確認。

むう、ちょっとダメージが大きそうだ。

 

「お、お見事です…」

 

「それより大丈夫か?少し大人しくしてろ、部屋まで運んでやる」

 

「え?きゃあっ」

 

ひょいっとお姫様抱っこして、翔乱脚の要領で小走りに駆け出す。

可愛らしい悲鳴を上げた凪だが、嫌がる素振りは見せなかったし大丈夫だろう。

誰にも見られて……あっ

 

 

後日、韓忠に冷たい目で詰られたのは想定の範囲内でした。

 

 

* * *

 

 

曹操様の元を辞し、洛陽に向かう俺と韓忠こと由莉。

あれから色々あって真名を交換した。

それなりに信頼感は構築されていると思いたい。

 

当初は各地を彷徨いながら洛陽を目指す予定だったのだが、由莉の提言でまっすぐ向かうことに。

諸侯の調査は事前に彼女がやってくれてた。

 

「路銀に余裕があるとはいえ、浪費は避けるべきです」

 

全く持ってごもっとも。

曹操様から餞別として頂いた割り増し給金は、そのほとんどを由莉が管理してくれている。

 

「従者ですから」

 

そう言って、身の回りの世話をしてくれる彼女。

さらに、道中は料理なども由莉がしてくれる。

財布の紐どころか、胃袋までガッチリ握られてるんだぜ。

 

雇用してると言いつつ、俺の方が依存してしまいそうで怖い。

だからではないが、旅に出てからは時間を見つけて由莉に稽古をつけている。

黄巾党で戦闘経験はあると言っても我流のようなもの。

ちゃんとした、せめて護身術程度は必要だろうと思ってな。

勿論俺が教えるとなれば極限流だ。

 

腰に差した鉈は基本使わず、極限流空手の基礎を普段使いにしている。

なお、サラシは巻くようお願いした。

男装は完全に止めたようだが、あまり大きいのがあるのもねえ。

 

これを指摘すると、最初の頃はセクハラ親父を唾棄する女子高生みたいな目をされたものだ。

それが最近は、何故かニヤリと笑みを送られるように。

 

どういう心変わりか分からんが…。

ハッ!

おおお俺に色仕掛けなぞ、通用せぬずよお!?

 

 

* * *

 

 

陳留を出て洛陽に向かう旅の途中のこと。

旅人を襲う、黄巾党の残党のような賊どもを発見。

これを撃滅した。

 

すると、どうやら近くに根城があることが判明。

近隣の村娘が攫われたりしていることも。

 

これに韓忠が激昂。

静かにキレるのって結構怖いよな。

 

早速、賊の根城に二人で乗り込み、あっさり制圧したんだが…。

その時に韓忠がちょっと手間取った。

俺の動きに付いて来れなかったんだな。

飛燕疾風の名は伊達じゃない。

仕方ないさ。

 

しかし韓忠は納得しない。

体捌きを教えて欲しいと言い出した。

んー。

まあ別にいいか。

 

この時ついでに色々話したんだが、真名も交換した。

ちゃんと信頼関係が構築されていたってことだな。

 

雇用と言う事で、請われて徐々に仕事を与えてきた。

するとその有用性が高過ぎて、依存の危険性すら醸し出される始末。

 

例えば旅の道筋、日程、情報の取得と精査など、一を頼めば十が返って来る。

さらに金銭や食料の管理、料理までこなしてくれる。

財布の紐はおろか、胃袋までがっちり掴まれてしまっていた。

 

俺からの信頼は勿論、向こうも期待に応えたいと思ったらしく…。

 

「私はご主人様に付いて行くと決めました」

 

何て言われてしまい、いやいやご主人様はないだろ。

 

「俺が韓忠「由莉です」…由莉を雇用したとのは事実だが、その呼称はちょっと…」

 

「ふむ。…では、おにいちゃんで」

 

(´゚ω゚):;*.:;ブフォッ

 

「な、なしてかァー!?」

 

「経過はどうあれ、助けて頂いたのは事実。兄とお慕いするのもおかしくないでしょう?」

 

経過は云々の下りで暗い目をする韓ちゅ…由莉。

セクハラ行為を未だ根に持っているようだが、当たり前か。

 

「いや、でもな」

 

「そんなことより、助けた村の方々がお待ちです。さ、行きますよ」

 

ちょ、まっ

 

 

由莉の女性らしい柔らかな微笑みは攫われた村娘たちに癒しを与えた。

娘たちだけでなく、男どもも彼女を見る目は輝いている。

 

ちょっと待ちたまえ諸君。

彼女の俺のモノだぞ。

 

…おっと、暗黒面に落ちそうになった。

 

助けた村々を慰撫し、盗品を撒いて回る。

一部は感謝の気持ちにと頂いたのだが、その中に衝撃の一品がっ。

 

「こ、これは…!?」

 

「うわっ…。なんですかこの…何とも形容し難い、珍妙不可思議で妖しい物体は」

 

由莉が凄く嫌そうな顔で呟くが気にしない。

 

これは面だな。

全体的に赤みがかった塗りで、天を衝かんとするほどに鼻が大きく反り返っている。

 

そう、まさしくこれは天狗面!

極限流にとっては御神体とも言うべきもの。

今はまだ扱い兼ねるが、いつかきっと必要になる日が来るだろう。

 

俺は何も言わず、そっと懐に仕舞った。

 

由莉が物凄い表情で俺を見ている。

何も言わなかったからスルーしたが、言い知れぬ緊張感はしばらく続いてしまった。

 

 

* * *

 

 

洛陽に到着。

中々の都ぶり。

 

まずは宿を定めて、旅の途上で由莉がまとめてくれた情報を再確認。

 

有力諸侯。

まずは此処、洛陽に軍を展開する董卓。

名家で名高い袁紹と、袁術及びその影響下にある孫策。

曹操様は置いておいて、他に陶謙や公孫賛に孔融、馬騰などなど。

 

あとは劉備ちゃん、一つ街を任されて頑張ってるんだね。

善政っぽいって評判だよ。

やったね!

 

由莉に頬を抓られた。

劉備ちゃんは黄巾党の乱で共闘した、お胸様が立派な云々と話したせいかな。

いやいや、セクハラじゃないよ。

意図せず話題を誘導されたんだ。

 

確認が終われば次は今後の行動指針…ん?

すぐに由莉が董卓軍の兵士募集の要項を差し出した。

 

「行けと?」

 

頷く由莉。

別に不満はない。

むしろ行動力溢れる義妹のバイタリティに驚かされるばかりだ。

一体いつの間に取りに行ったのか…。

 

ちなみに、義兄妹の杯は先日交わした。

 

天狗面を入手して以来、由莉がピリピリしていたのを何とかしたかった。

だから必死に宥め透かして、何か欲しいものはないかと言った時の回答がそれ。

 

「義理の兄妹であれば距離が近いのは当然。弟子でもあり、内助の功もある。一号の先は明るいですね」

 

何やらブツブツ言ってたが、機嫌を治してくれたので安堵スルー。

尚、お兄ちゃん呼びは原則禁止とした。

絶対禁止に出来なかったのは残念だけど、まあ妥結も大事だよ。

 

「それでは旦那様。会場へご案内します」

 

「頼む。…いや、旦那様もどうかと思う」

 

「贅沢ですね」

 

但し、呼び方は安定しない。

色々しっくりくるものを探っている状態で、彼女もそれを楽しんでいるっぽい。

普通に名前呼びで良いと思うんだけどなー。

 

 

* * *

 

 

董卓軍への仕官は無事に受理。

由莉とセットで、文武官として華雄隊に配属。

武に偏りがちな華雄隊の輔弼を期待された形となった。

 

実際には腕試しで華雄姉さんに指名された俺が頑張った成果であり、気に入られて取り込まれた。

それが全てかも知れない。

 

華雄姉さんは猪っぽいとこもあるが、普段は良い人だよ。

姉と慕えるくらいには。

 

由莉には呆れられたが、基本的に強い奴と戦うのが好きなんだ。

自分が好きに動いた結果なので、ちゃんと受け止める。

勿論、由莉や凪のこともな。

 

「当然です。しかし義理の兄が姉と慕う人、私は何と呼べば…」

 

気にするとこ、そこかーい!

普通に華雄隊長でいいと思うよ。

 

 

* * *

 

 

反董卓連合結成。

 

時同じくして、何故か呂羽隊が結成されていた。

極限流を広めた結果だな。

広めたのは由莉だが。

 

隊長は俺で、副長が由莉と牛輔。

 

牛輔ってのは董卓の親戚なんだが、中々武闘派な男の娘だ。

極限流をスルスルと吸収してみるみる成長し、今では気の扱いにすら手を出す有様。

見た目に似合わず熱い奴で、何かと身体的接触も多い。

 

その姿に焦ったのか何なのか、由莉も色々と張り切ってる。

由莉と牛輔は良きライバルと言ったところか。

 

ちなみに、由莉は俺が呂羽隊を率いる事になった時点で隊長呼びが定着。

正直ホッとした。

 

だからこそ、牛輔が兄貴とか言い出した時は思わず本気で龍閃拳しちゃったよ。

変に水を向けるんじゃない。

しかし龍閃拳を受けたことで錬気に目が行って、気の扱いに興味を持ち出すのだから何が切欠になるか分からんもんだな。

 

そんな訳で、牛輔は部下で弟子と言うだけだ。

見た目が女性っぽいからと言っても別に胸はないし、シンボルだって健全普遍。

だから由莉よ、そんなに気にしなくてもいいじゃないか。

 

「ダメです。さあ、消毒しますから服を脱いで下さい」

 

「いや、消毒て」

 

義兄妹だからいいよねってことで宿舎は由莉と一緒。

流石に部屋は分かれてるが、薄板一枚の向こう側には…一体誰の策略だろうか…。

 

 

* * *

 

 

反董卓連合が攻めてきた。

呂羽隊は華雄隊、張遼隊と共に接敵。

 

「よーし、修行の成果を見せてやる!」

 

そう言って櫓の上から覇王翔吼拳を決める俺。

左右には華雄姉さんと我が愛しの副長・由莉の姿が。

 

「ハッハァー!やるじゃないか、流石は呂羽だ!」

 

機嫌良く、豪快に笑うのが華雄姉さん。

 

「おや、旗が…。諸侯の牙門旗を撃ち抜くとは、流石隊長。やることが破格です」

 

褒めてるのか貶してるのか。

冷静に状況を説明するのが義妹で副官の由莉ちゃんである。

 

「名門だろうと敵対者には容赦しない。くぅ~っ流石だぜ兄貴!」

 

そして後ろから牛輔の陽気な声が聞こえてきた。

だから兄貴は止めろと。

 

「じゃあ師匠!」

 

…まあいいか。

 

いや、そうじゃない。

 

「おい牛輔、お前には隊を任せていたはずだが?」

 

「……あっ!」

 

「良い機会です。牛輔、その空の頭に気弾を詰め込んで差し上げましょう」

 

「いやそれ死ぬ…、ふぉあーっ」

 

由莉と牛輔の掛け合いを横目に、華雄姉さんが元気ハツラツ。

すぐさま突撃を命じていた。

 

そう言えば出撃前の軍議で董卓ちゃんに会った。

牛輔にそっくりで驚いたよ。

いや牛輔が似てるのか?

性格は真っ逆さまに似てないけども。

 

しかし由莉による牛輔との接触制限に磨きがかかったのは、きっとそういう事だろう。

確かに董卓ちゃんとイチャイチャしてるようにも見えてしまうかも知れない。

軍の規律的にも良くないからな。

うん、そういう事にしておこう。

 

 

* * *

 

 

董卓軍、瓦解。

 

泗水関に虎牢関

二つの関を基軸に大いに武を振るった董卓軍。

しかし物量の差は如何ともしがたく、いよいよ追い詰められてきた。

 

「さて隊長。先ほどの、確か楽進殿と言いましたか。あの方とは一体どのようなご関係で?いえ、陳留に居た時からよくご一緒されていたのは存じております。しかもあの技…かなりの割合で隊長の技と整合するよう見受けられますが、お身内ではないですよね?しかも曹操軍の中で唯一真名呼び。一体全体どういうご関係なのか。申し訳ありません。この無知な副官めにご教示頂けませんでしょうか」

 

俺も由莉に追い詰められていた。

彼女の落ち着いているようで落ち着いてない口調と、押し付けられる豊満な物量によって崩壊の危機が!

 

あれだ。

呂羽隊を率いて遊撃した中で、曹操軍とも戦ったのよ。

その中に凪が居たって訳。

 

武将級に隊員たちでは荷が重い。

散開させて、周囲の警戒に当たらせたのだが…。

 

凪と俺が仲良さげに打ち合う姿を、見咎められたようでなあ。

ヤキモチか?

だったら可愛いもんだが。

 

凪と、途中で乱入してきた李典たちはまとめて天地覇煌拳で退けた。

いやはや、華雄姉さんは負傷するわ、張遼は捕縛されるわ、呂布ちんは離脱しちゃうし、金ぴかは目に悪いし大変だったぜ。

目に痛い金ぴかは、諸侯の中でも念入りに打ち砕いておいた。

 

結果的に凪とは二度も渡り合った。

二度目は夏侯淵や典韋も一緒だったし、切り抜けた後には孫策を相手に乱舞したりも。

色々あったが、個人的には楽しかったと言える。

 

それから由莉と牛輔、華雄姉さんと合流。

移動中、ネチネチと言葉を重ねる由莉を適当にあしらいながら全軍総指揮の賈駆っちの下へ。

 

董卓軍はもうダメぽ。

軍を解体し、逃亡生活が幕を開ける。

 

董卓ちゃんは賈駆っちと共に、牛輔が護衛につく。

そして名声と風評を欲する義理堅い諸侯の下へ!

 

華雄姉さんは怪我もあり、俺たちが庇いながら落ち延びることとなった。

 

「牛輔は馬鹿ですが力量は大丈夫でしょう。我らは公孫賛の幽州へ向かうことを提案します」

 

何故か?

諸侯の中では比較的規模が小さいからだ。

小さいと言えば劉備ちゃんもだけど、あそこは周囲がヤバいし人材も豊富だからな。

 

いや、別に侮る訳じゃない。

ただ売り込み先として良いよねって話で。

 

「長旅になります。ふふ、しっかりお話し…しましょうね?」

 

…尻に敷かれるのも悪くない。

そう思う今日この頃でした。

 

 

* * *

 

 

幽州に着いて、早速公孫賛に仕官。

客将をと思ったが、何故か文武官として正式採用を強行された。

あれ、公孫賛ってこんな強引な奴だったっけ…。

 

「飛ぶ鳥を落とす勢いの呂羽がこの手に…。この機を、逃がしてなるものかッ」

 

何時かの誰かを思い出す、暗い瞳で呟く公孫賛の姿がとても印象的だった。

 

どうも、以前は客将をしていた趙雲や劉備ちゃんらの活躍が気になっているらしい。

風評も気になる。

いずれ離れる客将よりも、正式に仕官してくれることを願っているのだと。

 

そう教えてくれたのは客将の徐庶。

人を探して旅していたが、その足跡の一端がある公孫賛に仕えてるんだって。

自分は軍師見習いだと言ってた。

 

そんな徐庶曰く。

俺の事は黄巾党の乱で名が知られ、反董卓連合で評価が極まったとか。

 

マジか?

由莉に目を向けると、微笑。

マジらしい。

 

「流石は呂羽だ。よし、ならば今日から貴様が隊長だ!」

 

「は?ちょっと姉さん、それは…」

 

「では公孫賛殿。呂羽隊まるごとお抱え下さいますか?」

 

「ああ、勿論だ。宜しく頼むぞ!」

 

そして華雄隊は呂羽隊に併合され、姉さんは先手大将を自称。

あ、これ面倒なの押し付けられただけだ。

 

言いたいことは色々あったけど、ホクホク顔の女性衆を見て諦めた。

 

公孫賛、普通とか言われてるけど良い奴だよな。

いくら兵力増強になるからって、隊ひとつ丸ごと抱えるって結構なもんだぞ。

かくなる上は、評価に見合う働きをするしかない。

 

 

* * *

 

 

と言う訳で、幽州の一員として頑張ってる。

得意とするところの、武力による領内平穏への道作り。

つまり賊の掃滅と風評向上、名声を得る作業も徐庶や公孫賛と一緒に進めていく。

 

そう言えば、事前に各地への細作派遣を具申。

主に袁紹対策だが、それ以外も由莉と言う情報統制官が分析を進めてくれる。

ありがたやありがたや。

 

「もっと労わって下さっても良いのですよ?」

 

たわわな実りを押し付けるんじゃない。

 

しかし最近、稽古を続けているのだがどうも気の巡りが悪い気がする。

変に滞ると不調に繋がる危険性もある。

どうにか発散させないと…。

 




本編完結ほぼ一周年記念作品。
久しぶりに全編を読み返してみて、ヒロイン変えたらどうなるかな?
なんて思って軽い気持ちで書いてみました。
かなり端折ってますが、やはり一話では収まりませんでした。
あと一話か二話で終わります。

IFルートであり、本編の後日談ではありません。
没になった韓忠義妹ルートも兼ねてます。

・桂馬打ち
主にKOFのタクマが使用。
手刀というより打ち下ろし、打ち込みのようなもの。
ダウン相手の追い打ちに使ってました。

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