武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ 後日談その2


Z2 雷神 覇王翔吼拳

赤壁にある極限流総本山。

 

此処を拠点に活動するこの俺は、極限流の開祖であり師範であり総帥でもある。

つまり偉い。

少なくともこの場所に居る限り、とても偉い俺様。

 

だが今はただ、嵐が過ぎ去るのを祈って沈黙するのみ。

なぜならば…。

 

 

「これはこれは。随分とまあ、珍しい方がいらっしゃってますね」

 

「私はリョウ…殿の妻であり、極限流師範代を任されている。何もおかしくはあるまい?」

 

「いえいえ、何もおかしいなどとは……。ただ、珍しいですねと」

 

「ほう…。随分と言葉に棘を感じるが、私の気のせいか?」

 

「さて?貴女様がそう感じのならそうなのでしょう。…貴女様の中では」

 

 

普段は洛陽に居て、赤壁には足を踏み入れない凪が居る。

 

凪は洛陽。

由莉は赤壁。

 

特別な取り決めがある訳じゃないけど、何とはなしに暗黙の了解が成り立っていた。

それが今、破られて……由莉のご機嫌が急激に下降。

明確に凪を威嚇…挑発?している。

 

普段なら間に立って取り成してくれる白蓮は、空気を察してか挨拶したら早々に退出。

しかもその際、周囲の奴らにしばらく近付かない方がいいなんて言ってたのが漏れ聞こえた。

 

随分と要領が良くなってしまって……。

余計な気遣いは無用に願いたい。

いやまあ、修羅場ってる空間に突入する事故は御免蒙りたいってのは当然だけどさ。

 

互いに牽制し合い、睨みあってる凪と由莉。

それは良いが、位置的に俺を挟んでいるのは頂けない。

だから何も言わず、こっそり黙って席を立とうと思ったりしたんだが…。

 

「座ってなさい」

 

由莉にピシャリと言われ、大人しく座り直す。

 

立とうとしただけで、まだ立ってないんだぜ?

気の流れを把握することで、状況と予測を立てることに長ける彼女。

 

これに関しては師匠たる俺を圧倒的に超えている。

凄いとは思うが、結果として色々と動きを制限される事態に!

普段は問題ないんだけどねぇ。

 

まあ、二人の睨み合いは仕方ない。

これでも認め合ってる訳だし。

 

それより問題は、何故に凪が此処に来たのかだ。

しかも事前の連絡なしに。

 

彼女とて、こうなることは分かり切っていたはず。

暗黙の了解を破ってまで、急ぎ来た理由は何だ?

 

間に入るのには勇気が要るが、ずっとこのままでは針の筵。

早急な事態の打開が求められる。

 

 

「…えっと、凪は何故此処に?」

 

横目でギロリと睨まれた。

空手天狗の時以来だな、思い切り睨まれるの。

 

「いや、何か急ぎの案件でもあったのかなと」

 

怯まず言葉を紡ぐも、顔を由莉に向けたままの凪。

しばらくそうしていたが、ジッと見詰めていると根負けしたのか一息ついて向き直ってくれた。

やはり凪は良い子やねぇ。

 

 

「実は、リョウ殿にお見せしたいものがあるのです」

 

そう言って取り出したのは、一束の書簡。

以前も見たことがあるようなそれが、凪を急がせた理由のようだ。

 

彼女が披露したのは、魏書(部外秘・号外)の一部。

そこには大々的な見出しと共に、衝撃的な内容が記されていた。

 

 

『特報!!

蜀の呂布、悪逆非道なる空手天狗を定軍山にて討ち取る!

 

取材班が掴んだ情報によると、かの天狗は山間に潜み、卓越した気の扱いを非道なる振る舞いに使用。

──具体的には婦女子を狙って襲いかかり、衣服を消し飛ばして弄ぶといったもの。

 

それに対し、平和を乱す輩として蜀の上層部が排除を決定。

関羽率いる警備隊に呂布や趙雲らが協力し、捜索に当たっていた。

 

そして過日、遂に呂布がこの悪漢を捕捉。

連絡を受けて駆け付けた趙雲と共にこれを撃破!

討ち取った空手天狗の首を持ち帰り、躯は哀れ犬の餌に……云々……』

 

 

* * *

 

 

凪と由莉の視線は、既に互いにでなく俺に集中している。

 

ああ、この件かぁ。

だったら凪が急いだのも、仕方ないかも知れんね。

 

彼女たちは、俺と空手天狗がイコールで結ばれる事を知っている。

そして二人が知らないところで事態が動いた。

 

ちなみにこの件、当然だが恋と星の協力の下で行われた。

白蓮と姉さんも知ってる。

 

むしろ、白蓮は一緒に蜀に出かけて裏工作を含めて手伝って貰った。

そういう意味では、協力者と言うより共犯者に近い。

ほぼずっと行動を共にしてたのだから。

 

ああ、だから白蓮は逃げたのか。

こうなることを、多少なりとも予測していたのだろう。

くぅ…上手い事やりおってからに!

 

 

「で?」

 

由莉の機嫌が超悪い。

無表情で言葉少な、しかも凄く低い声。

 

まあ概ね察してるってのもあるだろう。

むしろ、自分を除けて事態を打開させたことへの不満が大きいと見た。

白蓮の立場に嫉妬してるんだね、可愛い奴。

 

 

「誰にも言うなよ?」

 

「良いからさっさと喋りなさい」

 

「はい」

 

だから普段と違う言動に驚き、目を丸くする凪を尻目に淡々と対応することが出来る。

 

目を丸くした凪は可愛いな。

ちょっと愛でたら、由莉の目がとても険しくなった。

 

逆鱗に触れる前に、さっさと教えてしまおう。

 

 

* * *

 

 

事の発端は、魏で調査が進んでいる空手天狗について先んじて始末をつけようとしたこと。

ついでに天狗面を欲してやまない、恋についても片を付けようとね。

 

これまでの外道な振舞を、全て天狗仮面と言う悪漢に押し付けて闇に葬る。

討ち取ったのは恋と言うことにして、彼女が戦利品として仮面を持っていれば辻褄もあう。

まさに一石二鳥!

 

そう考えて計画を練って協力者を募り、実行に移したのが先日。

成都支部への巡業と言う名目で、白蓮と一緒に蜀へ行った時の事だ。

 

協力者は恋と星、姉さんと白蓮。

あと明命と孔明ちゃん。

 

恋と星が実行部隊で、白蓮と明命がこれを補助。

姉さんと孔明ちゃんが俺のアリバイ作りに協力してくれた。

 

 

そうして準備を整え、定軍山で恋と対峙する。

 

「さて、恋。この仮面が欲しくば、此処で俺を倒して見せろ!」

 

「……!」

 

ストーリーは固まっているとは言え、結末ありきの八百長染みた試合で終わるのは勿体無い。

 

「済まんが、星は見張っててくれ」

 

「ふむ、仕方ないですな。もし恋が負けたならば、私がお相手すると致しましょう」

 

「……させない。恋が、絶対に獲るッ」

 

本気のミスター・カラテとして恋に当たる。

一対一で真正面からやって、どこまで通じるものか。

この機会に、是非とも全力で試しておきたい。

 

星には悪いが、保険係りになって貰おう。

貸しを作ることになるが、まあ然したる問題はあるまい。

 

「では行くぞ?…ハァァァーーッ!」

 

「…ッ!」

 

 

──シィッ……せいやぁっ!

 

恋の激しい攻撃に合わせ、虎煌拳や龍仙拳を叩き込んでいく。

それもほとんどが躱され、防がれ、反撃される。

 

やはり強い!

 

「クハハハッ!最後の戦いに相応しい激しさよ。実に愉しい」

 

俺のテンションだだ上がり。

もう細かいことは気にならない。

よって、出し惜しみなしに大技と行こう。

 

「雷神…」

 

「…!?」

 

気を循環させつつ、溜める間に静電気を利用した電気を帯びて行く。

まあ細かいことはいいんだ。

溜めに溜めた電気を帯び、バチバチ言ってる気弾を恋目掛けて放出する!

 

「覇王翔吼拳!」

 

「…くっ」

 

でもそのまま撃ったんじゃ当然避けられる。

だから溜めたまま走り寄り、近距離で発射。

本来は危険な行為だが、テンションMAXだった俺は気にしなかった。

 

 

* * *

 

 

呂布には勝てなかったよ……。

 

電気ビリビリ状態になった恋だが、構わず振るった得物が鳩尾にクリーンヒット。

気弾を当てて来たお陰で多少軽減されていたとはいえ、中々のダメージ。

次いで首元に突き付けられる刃を見て、降参せざるを得なかった。

 

纏う気を解除して座り込む。

そんな俺に、ずずいと顔を寄せる恋。

 

「ちょっと待て、すぐ外すから」

 

今にも襲いかからんばかりの空気を醸し出す恋に恐れ戦き、慌てて仮面を外すや引っ手繰られる。

そんなに欲しかったんかい!

とは言え、非常に満足気な恋を見てまあ良いかと思う。

 

「ふむ。リョウ殿もまだ恋には勝てませぬか」

 

「勝てんなぁ。もうちょっとだと思うんだけど」

 

星が寄って来て雑談に興じる。

雷神覇王翔吼拳で動きを止めれば勝機はあると思ったんだ。

でもまさか、動けるなんてなぁ。

 

「空手仮面が居なくなるのは残念ですが、これからは空手華蝶として」

 

「断る」

 

「残念ですな」

 

流石に華蝶はない。

速攻で否定するも、くすくす笑う星には通じているのかいないのか。

恋華蝶と朱華蝶で満足してくれ。

 

 

「とりあえずこれで魏への名分が立った。二人とも、助かったぜ」

 

「せいぜいばれないよう気を付けることですな。恋も……恋?」

 

仮面を渡してから反応が無い恋。

そちらに顔を向けると、何やら考え込んでる様子。

 

「恋?どうした」

 

「……リョウ」

 

そして俺の目を見て言い放った。

 

「……ビリビリ、気持ちよかった」

 

頬を染めながら。

 

「…リョウ殿?」

 

「待て、星。俺は別に悪くなくね?」

 

 

* * *

 

 

と言う訳だったのさ。

 

空手天狗の顔が面だとは知らされてないせいか、恋が首を取ったってことになってたみたいだが。

正確には仮面を取得したに過ぎない。

 

そして何かを察したのか、嫁さんたちの顔が般若っぽく見えるがきっと気のせいだ。

 

「まさかの浮気とは…」

 

「浮気!?」

 

おいおい、恋とは何もないぞ?

ただちょっと、仮面を渡して雷神覇王翔吼拳が気に入られただけで。

今のところはまだ、何もしてないしされてない。

いやマジで。

 

星こそ何もない。

組手の度合いと回数が増えたくらい。

何かのアピールが少し増えた気もするが、然したる事でもないはずだ。

 

明命は……きっと今頃、雪蓮らに報告していることだろう。

あちらはあちらでちょっと目が怖かったが、多分問題はない。

近いうちにシャオが乗り込んでくる気もするが、今は関係ないよな。

 

孔明ちゃん?

蜀の代表ってだけだし、主に白蓮や姉さんと過ごしたって書類上のアリバイ作成に加担しただけ。

二人きりになったことすらないぜ。

 

白蓮と姉さんは、嫁ーずだから。

ほら、どれも浮気には当たらないだろう?

 

「状況は分かりました。気になる点がいくつかありますが、今は置いておきましょう」

 

ずっと放置しておいて欲しいけどね。

藪蛇を恐れて黙っていると、彼女の標的は凪へと移って行った。

 

 

「それで、貴女様は何時までこちらに?」

 

「今晩は此処に泊まり、明朝には洛陽に戻るつもりにしている」

 

「そうですか。では離れの客間をご利用下さい。何か御希望はありますか?」

 

「……ッ」

 

そして再燃する睨み合い。

凄い勢いで燃料を投下する由莉が怖い。

これは間違いなく、俺にも飛び火する予感。

 

由莉としても、やはりテリトリーを侵されるのは気に食わないようだ。

普段なら此処まで挑発行為は行わないってのに。

 

 

二人とも落ち着けよ。

いやいや、まだ慌てるような時間じゃない。

どちらを選ぶって言われても、どちらも選んだ結果がコレなのだからどうしようもない。

 

一番良いのは、今夜は一人で寝ると言う選択かな。

 

むしろいっそのこと、三人で寝ると言うのはどうだろう?

 

……もしくは、全力で白蓮の下へ逃げ込むか。

 

 

* * *

 

 

長い夜が明け、朝は朝で一悶着ありつつ凪は洛陽へと戻って行った。

 

彼女の後姿を眺めながら、感慨に耽る。

何とか乗り切った。

後は、隣に居る嫁さん──とても嫉妬深いが母性溢れる──を何とか宥めるのみ。

 

「さて、それでは白蓮殿のところへ参りましょうか」

 

「え…、なんで?」

 

とりあえず抱き締めれば良いかな、なんて安易な考えは一瞬で吹き飛ばされた。

さらに、ハイライトの消えた目でニヤリと邪悪な笑みを浮かべる姿に戦慄する。

 

「白蓮殿への依存度が高まり過ぎていて危険です。此処は一つ、念押しをと思いまして」

 

言いながら、ぐわしっと腕を掴まれる。

気を込めてるのか凄い力だ。

 

やばい、ちょっと危険な領域に突っ込みかけてる気がする。

 

白蓮、逃げてー。

超逃げてーっ!

 

「さ、行きますよ」

 

「落ち着け由莉!は、話せば分かるッ」

 

 




ゆうべはおたのしみでしたね。

後日談その2
主に空手天狗の処分と恋への対応。
あと前回、控え目だった白蓮のダークホース化。
そしてヤンデレ疑惑のある、副長殿への処方箋でした。


・雷神 覇王翔吼拳
KOF2003ユリの超必殺技で、某電刃波動拳のパk…インスパイアーですね!
ダメージは低いですが、感電してピヨリ状態になったりならなかったり。
でもビリビリして気持ち良い、なんてことはないはずです。


・ふと思いついた派生ネタ
──問おう。お前が俺のマスターか?
──俺は(フラグ)クラッシャーのサーヴァント。さあ、全力全壊と行こう!
──ランサーか。武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない。
──…金ぴか、だと?…ククク、(フラグ)クラッシャーとしての血が騒ぐぜッ

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