武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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第百話 本編最終回


終 双星龍虎乱舞

五胡を退けてから数日後、三国による和平調印式が執り行われた。

 

魏の曹操様、呉は雪蓮、蜀より劉備ちゃん。

それぞれ国の代表者が歩み寄り、固い握手を交わす。

 

これにて天下三分、事成れり。

 

宣誓の瞬間、ワァァァーッ!!と拍手喝采。

乱世を乗り切った英雄たち、それに兵士たちは互いに讃え合い、恒久的な平和が維持されることを強く願うのだった。

 

 

後は宴となり、其処彼処で真名の交換や挨拶・雑談が行われている。

そんな中、俺は真っ先に魏軍の方へ歩み寄り、目当ての彼に声を掛けた。

 

「やあ、北郷君。元気かい?」

 

「あ!呂羽さん。…ええ、元気ですよ」

 

「そっか、それは何より」

 

うむ、無事に目標達成。

以前見た通りの、北郷君の優しげな姿に胸がいっぱいになった。

 

 

「ところで呂羽さん。聞きたいことがあるんですが」

 

「何だい?」

 

「赤壁の戦いで、何か特別な火計を成したって…本当ですか?」

 

ああ、極限流星群(油付)のことか。

本当です。

どこから漏れたのやら。

 

「まあ、ちょっとな」

 

だが、アレは空手天狗の仕業。

詳細を言うのは憚られたので、適当にごまかそう。

 

おっと、せっかくなんで俺からも。

 

「時に北郷君。魏の種馬と称される君に、是非とも女性関係での助言を頼みたいのだが…」

 

「……呂羽さんまで、そんな……」

 

北郷君は悲しそうに顔を伏せ、動かなくなってしまった。

どうやら本人的には不名誉な称号だったらしい。

仕方ないので、しばらくそっとしておこう。

 

 

* * *

 

 

「あ、リョウ。ちょっとこっちにいらっしゃい」

 

改めて挨拶回りに出向こうとしたら、雪蓮から呼び止められた。

 

招かれた先には三国の王たちと、軍師たち数名の姿が。

せっかくなので一部を除いた数名と真名の交換を行い、挨拶を交わす。

 

これからは彼女たちが、三国の平和を取り仕切って行くんだなぁ。

感慨深くしみじみとしていると、何やら懸案事項があるらしい。

 

「さて、議題については皆も分かってるわね?」

 

「はい!和平調印式は無事に終わりましたし」

 

「ええ。当事者も来たことだしね」

 

皆が一斉に振りかえる、その先には…。

 

「…なんだ?」

 

俺が居た。

いや、特に議題に上がるような事はないと思うんだけど。

 

「大いにあるわ!貴方の、帰属問題よ!」

 

「華雄さんの夫になるんですよね?あと紫苑さんも……」

 

「凪とくっつくんでしょ?だったら魏に住むべきよね」

 

な、なんだってー?(棒)

 

魏と対決するまでは呉に属して動く。

その約束は果たされ、五胡との戦いではフリーとなった。

だからまあ、今後どこに属するのかって問題は確かにあるけども。

 

「そんなに大事か?」

 

「当たり前でしょ!?」

 

雪蓮の凄い権幕に思わず仰け反る。

 

「五胡の大軍に単身立ち向かい、実質半分ほどを撃滅するような武人よ?」

 

「ええ。今後のことを鑑みても、欲しがらない国はないわ」

 

「蜀の皆も、呂羽さんが戻って来るのを待ってますよ!」

 

随分と評価してくれたもんだが、ありがたいような迷惑なような。

だって流石に半分は撃滅してない。

過大評価だぞ。

 

「それにしても華琳。貴方、既に天の御使いが居るのだから遠慮したら?」

 

「そうですよ華琳さん!あれだけ発展したのは、北郷さんのお陰なんですよね?」

 

「あら、優れた臣は優れた王の下に集まるべきじゃなくて?」

 

呉蜀と魏の間で火花が散る。

おいおい、和平調印も終わって真名も交換しておいて早速喧嘩するなよ。

 

「だからリョウ、今ここで宣言しなさい。呉に来るって!」

 

「どうやら貴方の旅も終わったようだし、最初の居場所に戻って来るべきだわ」

 

「愛紗ちゃんと約束した仕事も、まだ沢山残ってますよ!」

 

三者三様で矛先が変わっただけだった。

そういや、この中で真名を交換した人数は圧倒的に呉が多いな。

 

「そうよ!何だったら私と冥琳を貰って頂戴!!」

 

「呂羽、貴方にとって凪は特別なんでしょ?魏に来なさいな」

 

「むぅ~!呂羽さん、華雄さんたちを裏切る真似はしないで下さいね?」

 

カオス。

恐らく決着はつくまい。

仕方ないので、俺の希望を言うとしよう。

 

「俺はな…──」

 

 

* * *

 

 

「……呂羽」

 

帰属問題にケリをつけて、ようやく解放された。

さて、ちゃんと挨拶回りをしよう。

 

そう思って散策していると、呂布ちんに捕まった。

おや、珍しく一人だな。

 

「おお呂布ちん。五胡戦では大活躍だったな!お疲れ様」

 

一騎当千を地で行く呂布ちんは、隊を率いて凄い数を薙ぎ倒していった。

俺も頑張ったけどね、大部分はビームだからな。

やっぱ敵わないって思ったわ。

 

「……呂羽も凄かった」

 

おお、天下の呂布ちんに認めて貰えて光栄だぜ。

そんな彼女は、おもむろに切り出した。

 

「…仮面、まだ?」

 

「……あ、ああ。そうだったな……」

 

正直、二個目を手に入れる当てはない。

だったらもう、使わないであろうコイツを手放してもいいんだが……。

 

「はやく頂戴」

 

「えっと、だな…」

 

見えない力が働いて、手放すことを躊躇してしまう自分が居る。

すると、何やら呂布ちんがピリピリし出したぞ!

一体どうした?

 

「……くれないの?」

 

「も、もうちょっと待てないか?」

 

「待てない」

 

なんだってーっ!!

呂布ちんらしからぬ反応、全俺に激震が走る。

しかも、かなり鋭く睨まれてる気がする。

 

「あ、リョウ殿!…それに、呂布?」

 

妙な緊張感漂う現場に、凪参入。

呂布ちんは凪をチラッと見るも、興味を示さず視線を俺に固定。

 

「……くれないなら……」

 

光の加減で呂布ちんの眼元が影になって見えなくなった。

さらにどこからか、ゴゴゴゴ!という謎の音が響いてくる。

とても嫌な予感。

 

「──してでも、奪い──」

 

「戦略的撤退ぃぃーー!!」

 

呂布ちんが何かを言いかけた時、直感に従い凪を横抱きにして思い切り跳躍。

まさかこの場で、全力を出すとは思いもしなかった。

 

 

しばらく空を駆けて、振り返る。

呂布ちんは追って来なかった。

よかった…。

 

「あ、あの……リョウ殿?」

 

ひょっとして、白昼夢か?

なんて思い唸っていると、胸元から上擦った凪の声が。

そういや抱えてたんだったね、軽くて気にならなかったよ。

 

「ところで凪」

 

「な、なんでしょうっ」

 

「敬語は要らないよ。あと呼び捨てで良い」

 

「い、いえ!しかしそれはっ」

 

抱えたまま会話を続ける。

とても恥ずかしそうにする凪だが、大丈夫、周囲には誰も居ない。

これ、結構良いかも。

 

「うん。まあ、追々な」

 

「はいぃ…」

 

すぐには無理そうだ。

仕方ないね。

 

 

ちなみに由莉は、今のところ一度だけリョウと呼んでくれた。

先頃お姫様抱っこして帰還した時な。

休憩所の寝台に降ろそうとしたら押し倒されたんよ。

 

もちろん全力で手は出してない。

ただ、母性が物凄かったなぁって…。

 

 

* * *

 

 

凪を降ろし、落ち着くのを見計らって挨拶回りを再開。

…しようとしたところで、シュバッと周泰登場。

 

「呂羽さん、大変です!」

 

「どうした周泰。あ、色々お疲れ様」

 

「お疲れ様でした!それと、私のことは明命とお呼び下さい!」

 

元気にハキハキと答えてくれる明命。

当初、ガッツリ警戒されてたのがまるで嘘のよう。

真名まで交換出来て、嬉しい限りだ。

 

「あの、周泰殿。何かリョウ…殿にお話が…」

 

「そうでした!それより楽進さん、私は明命で結構です!」

 

「ああ、私は凪。宜しく頼む」

 

話が進まんね。

 

「はい!…それでですね。皆さんが、リョウさんを倒すと言う話になりました!」

 

「……ん?」

 

「な、何故?」

 

聞き間違いかと思ったが、凪も疑問を呈する辺り間違って無いらしい。

明命が経緯を説明してくれるが…。

 

「雪蓮様や春蘭さん、愛紗さんたちが最強について口論となって…」

 

会場全体を巻き込み、俺を倒せば最強なんじゃね?

って話になったとか。

 

「いや、最強は呂布ちんだろ」

 

間違いないと思う。

そこに俺が入り込む隙間は無いはずだ。

 

「その恋さんも、リョウさんを倒す側ですよ?」

 

「あの呂布にさえ一目置かれる。流石はリョウ……殿です!」

 

惜しかったな。

いやいや待て待て、そうじゃないだろ。

 

「呂布ちんが俺を?……なんでさ」

 

「存じません。ともあれ、会場に行きましょう!」

 

そう言って腕をガシリと掴み、ずりずりと引っ張り始める明命。

随分と積極的だな!?

 

「実は、リョウさんを倒せば優先的に確保権が得られるのです!」

 

確保権って何だ?

って、絶対そっちがメインだろ!

最強とか別に関係な……くもない奴もいるだろうけどさ。

 

「明命は呉の為か?」

 

「はい!」

 

とても良い笑顔だった。

なら仕方ない。

 

「凪は俺の味方だよな?」

 

「えっ…と、はい。勿論です」

 

今少し考えたな?

そんなん無くても、凪のお願いなら何でも聞いてやるのに。

 

仕方ないので明命に引っ張られながら、凪と一緒に会場まで歩いて行った。

傍から見れば親子みたいに…流石にないか。

 

 

「あ、来たわね」

 

「雪蓮。何事だ?」

 

「あれ。明命から聞いてない?」

 

聞いたけど、あれで理解出来る訳ないだろ。

詳細希望。

 

「帰属問題は解決したハズだろ?」

 

「それとこれは別問題よ」

 

どう違うと言うのだろう。

そんなことをしてる間に、戦意に満ち溢れた将たちが周囲に…。

 

「まあいい。ならば、俺と凪のペア…っ…組に勝てたら、どんな願いでも一つだけ聞いてやろう!」

 

聞くだけな。

 

「え?呂羽さん…今、ペアって言ったような…」

 

ワァァァァーッッ!!

 

北郷君が呟くのを、周囲の大歓声が掻き消した。

おっと危ない、つい漏れてしまった。

 

「…良いのですか?」

 

はっはっは、こうなりゃ自棄じゃ。

なぁに、勝てばよかろうなのだぁ!!

 

「……じゃあ恋がやる」

 

「え゛?」

 

唐突に姿を現す呂布ちん。

そんなに仮面が欲しいのか?

だったらもう、あげちゃっても…

 

「……恋が勝ったら、呂羽を貰う」

 

なんて思ってたら爆弾発言。

そして、凪が瞬間沸騰。

 

「ッ!……リョウ、全力で倒しますよ」

 

「アッハイ」

 

まるでスーパー野菜人のように立ち昇るオーラ。

おお、これならいけそうだ。

 

とりあえず戦国最強、呂布ちんに勝てば皆黙るだろう。

黙らない奴も数名思い浮かぶが、努めて無視する。

 

 

* * *

 

 

段取りを凪と確認し、いざ尋常に勝負。

二対一を尋常と言って良いのかはさて置き。

 

「……行く」

 

「来い!」

 

何時になくやる気十分な呂布ちんと、滾る凪。

 

たぎるなぎって語呂が良い、いやむしろ悪い?

どうでもいいことが気になるのは何時ものこと。

うん、大丈夫だ問題ない。

 

しかし補正が付いたとはいえ、凪で呂布ちんに勝つのは難しい。

もちろん俺でも。

だからこそ、初めての共同作業に勤しむとしましょう。

 

 

結果は辛くも勝利。

まさか、あんなに粘られるとは。

 

俺が正面から、背後から凪が攻めた。

暫烈拳に幻影脚。

トドメは同時に覇王翔吼拳。

 

これぞ一人では決して成しえない、極限流究極奥義・双星龍虎乱舞!

 

これを放てたことに満足してしまったため、最後の詰めを誤った。

二発の覇王翔吼拳を食らってもなお、耐え切って凪に向かって突進した呂布ちん。

 

まだまだ気力が足りない凪では、その一撃を耐えることは叶わない。

そう見切り、必死に足に気を込めて虎閃脚で割り込み。

ギリギリのジャストディフェンスから、真・天地覇煌拳で勝利をもぎ取ることに成功したのだ。

 

 

加減出来なかった最後の一撃により、呂布ちんの上半身から布が弾け飛んだ。

そして、美しいお胸様が露わに。

すぐさま陳宮が駆け寄って来て事無きを得たが、……俺は死んだ。

 

戦闘終了後、周囲の目がとても痛い中で真名を交換。

もう少し待ってくれるそうな。

 

 

* * *

 

 

「うむ、流石だな呂羽。よし、では次は私と勝負だ!」

 

「いやいや姉さん。さっき言った通り、俺と凪は一緒に…」

 

「なに構わん。こちらも韓忠と共にやるからな」

 

「!?」

 

慌てて視線を向けると、確かに由莉の姿。

鉈を構えてヤル気満々だ。

微笑が怖い。

 

これに凪も反応。

ボルテージが急上昇している。

 

呂布ちん…恋に勝っても、黙らない奴が圧倒的に多かった。

想定外デース。

 

「その次は私たちがやるわよ!」

 

「はい姉様!」

 

「うん!正妻の座は、シャオのものだからねっ」

 

孫呉の姉妹とか。

 

「姉者。季衣と流琉、四人で掛るぞ。何としても魏に勝利を」

 

「ああ!そして華琳様に褒めてもらうのだ!」

 

曹魏の四人衆とか。

 

「星。組むか?」

 

「そうですな。白蓮殿となら、心強い」

 

「あ、私も混ぜてくれ」

 

「ならうちもー」

 

白蓮、星、馬超、張遼の神速衆とか。

 

先程真名を交換した愛紗や鈴々と言った蜀の義姉妹。

それに紫苑、桔梗、祭のアダルト組に魏延と蒲公英、沙和に真桜。

さらには甘寧と明命に呂蒙まで。

 

軍師や君主以外、ほぼ全てじゃねえか……。

 

ふ……、いいだろう。

その挑戦、全て受けてやる。

 

「極限流は天下無敵。今ここで、それを証明してやろうじゃないか!!」

 

 

乱世は終わり、世は安寧の時へ。

平和を維持するために、三国は共同して努力し続けて行くだろう。

 

 

それはそれ、これはこれ。

俺の平穏は遥かに遠い。

 

差し当たり、正妻戦争に勝利したのは……俺の隣で戦う彼女だった。

 

 




これにて終幕。
長きに渡りお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

回収してない伏線、畳み切れない大風呂敷。
詰め込み切れなかった小話、忘れてたイベントなど。
その辺り、いつか番外編や後日談等を投稿できたらいいなと思います。


・双星龍虎乱舞
NBCアナザーダブルアサルト。
使用者は例の二人。
その源流は、某漫画のオリジナル技にあるとも言われていますが俗説でしょう。
よって覇王翔吼圧挟拳ではありません。ええ、断じて。

・エイプリルフール終了のお知らせ
最後の脱衣KOは呂布ちん
主人公の運命は見ての通り
今回、普通に最終話!

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