武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
五胡を退けてから数日後、三国による和平調印式が執り行われた。
魏の曹操様、呉は雪蓮、蜀より劉備ちゃん。
それぞれ国の代表者が歩み寄り、固い握手を交わす。
これにて天下三分、事成れり。
宣誓の瞬間、ワァァァーッ!!と拍手喝采。
乱世を乗り切った英雄たち、それに兵士たちは互いに讃え合い、恒久的な平和が維持されることを強く願うのだった。
後は宴となり、其処彼処で真名の交換や挨拶・雑談が行われている。
そんな中、俺は真っ先に魏軍の方へ歩み寄り、目当ての彼に声を掛けた。
「やあ、北郷君。元気かい?」
「あ!呂羽さん。…ええ、元気ですよ」
「そっか、それは何より」
うむ、無事に目標達成。
以前見た通りの、北郷君の優しげな姿に胸がいっぱいになった。
「ところで呂羽さん。聞きたいことがあるんですが」
「何だい?」
「赤壁の戦いで、何か特別な火計を成したって…本当ですか?」
ああ、極限流星群(油付)のことか。
本当です。
どこから漏れたのやら。
「まあ、ちょっとな」
だが、アレは空手天狗の仕業。
詳細を言うのは憚られたので、適当にごまかそう。
おっと、せっかくなんで俺からも。
「時に北郷君。魏の種馬と称される君に、是非とも女性関係での助言を頼みたいのだが…」
「……呂羽さんまで、そんな……」
北郷君は悲しそうに顔を伏せ、動かなくなってしまった。
どうやら本人的には不名誉な称号だったらしい。
仕方ないので、しばらくそっとしておこう。
* * *
「あ、リョウ。ちょっとこっちにいらっしゃい」
改めて挨拶回りに出向こうとしたら、雪蓮から呼び止められた。
招かれた先には三国の王たちと、軍師たち数名の姿が。
せっかくなので一部を除いた数名と真名の交換を行い、挨拶を交わす。
これからは彼女たちが、三国の平和を取り仕切って行くんだなぁ。
感慨深くしみじみとしていると、何やら懸案事項があるらしい。
「さて、議題については皆も分かってるわね?」
「はい!和平調印式は無事に終わりましたし」
「ええ。当事者も来たことだしね」
皆が一斉に振りかえる、その先には…。
「…なんだ?」
俺が居た。
いや、特に議題に上がるような事はないと思うんだけど。
「大いにあるわ!貴方の、帰属問題よ!」
「華雄さんの夫になるんですよね?あと紫苑さんも……」
「凪とくっつくんでしょ?だったら魏に住むべきよね」
な、なんだってー?(棒)
魏と対決するまでは呉に属して動く。
その約束は果たされ、五胡との戦いではフリーとなった。
だからまあ、今後どこに属するのかって問題は確かにあるけども。
「そんなに大事か?」
「当たり前でしょ!?」
雪蓮の凄い権幕に思わず仰け反る。
「五胡の大軍に単身立ち向かい、実質半分ほどを撃滅するような武人よ?」
「ええ。今後のことを鑑みても、欲しがらない国はないわ」
「蜀の皆も、呂羽さんが戻って来るのを待ってますよ!」
随分と評価してくれたもんだが、ありがたいような迷惑なような。
だって流石に半分は撃滅してない。
過大評価だぞ。
「それにしても華琳。貴方、既に天の御使いが居るのだから遠慮したら?」
「そうですよ華琳さん!あれだけ発展したのは、北郷さんのお陰なんですよね?」
「あら、優れた臣は優れた王の下に集まるべきじゃなくて?」
呉蜀と魏の間で火花が散る。
おいおい、和平調印も終わって真名も交換しておいて早速喧嘩するなよ。
「だからリョウ、今ここで宣言しなさい。呉に来るって!」
「どうやら貴方の旅も終わったようだし、最初の居場所に戻って来るべきだわ」
「愛紗ちゃんと約束した仕事も、まだ沢山残ってますよ!」
三者三様で矛先が変わっただけだった。
そういや、この中で真名を交換した人数は圧倒的に呉が多いな。
「そうよ!何だったら私と冥琳を貰って頂戴!!」
「呂羽、貴方にとって凪は特別なんでしょ?魏に来なさいな」
「むぅ~!呂羽さん、華雄さんたちを裏切る真似はしないで下さいね?」
カオス。
恐らく決着はつくまい。
仕方ないので、俺の希望を言うとしよう。
「俺はな…──」
* * *
「……呂羽」
帰属問題にケリをつけて、ようやく解放された。
さて、ちゃんと挨拶回りをしよう。
そう思って散策していると、呂布ちんに捕まった。
おや、珍しく一人だな。
「おお呂布ちん。五胡戦では大活躍だったな!お疲れ様」
一騎当千を地で行く呂布ちんは、隊を率いて凄い数を薙ぎ倒していった。
俺も頑張ったけどね、大部分はビームだからな。
やっぱ敵わないって思ったわ。
「……呂羽も凄かった」
おお、天下の呂布ちんに認めて貰えて光栄だぜ。
そんな彼女は、おもむろに切り出した。
「…仮面、まだ?」
「……あ、ああ。そうだったな……」
正直、二個目を手に入れる当てはない。
だったらもう、使わないであろうコイツを手放してもいいんだが……。
「はやく頂戴」
「えっと、だな…」
見えない力が働いて、手放すことを躊躇してしまう自分が居る。
すると、何やら呂布ちんがピリピリし出したぞ!
一体どうした?
「……くれないの?」
「も、もうちょっと待てないか?」
「待てない」
なんだってーっ!!
呂布ちんらしからぬ反応、全俺に激震が走る。
しかも、かなり鋭く睨まれてる気がする。
「あ、リョウ殿!…それに、呂布?」
妙な緊張感漂う現場に、凪参入。
呂布ちんは凪をチラッと見るも、興味を示さず視線を俺に固定。
「……くれないなら……」
光の加減で呂布ちんの眼元が影になって見えなくなった。
さらにどこからか、ゴゴゴゴ!という謎の音が響いてくる。
とても嫌な予感。
「──してでも、奪い──」
「戦略的撤退ぃぃーー!!」
呂布ちんが何かを言いかけた時、直感に従い凪を横抱きにして思い切り跳躍。
まさかこの場で、全力を出すとは思いもしなかった。
しばらく空を駆けて、振り返る。
呂布ちんは追って来なかった。
よかった…。
「あ、あの……リョウ殿?」
ひょっとして、白昼夢か?
なんて思い唸っていると、胸元から上擦った凪の声が。
そういや抱えてたんだったね、軽くて気にならなかったよ。
「ところで凪」
「な、なんでしょうっ」
「敬語は要らないよ。あと呼び捨てで良い」
「い、いえ!しかしそれはっ」
抱えたまま会話を続ける。
とても恥ずかしそうにする凪だが、大丈夫、周囲には誰も居ない。
これ、結構良いかも。
「うん。まあ、追々な」
「はいぃ…」
すぐには無理そうだ。
仕方ないね。
ちなみに由莉は、今のところ一度だけリョウと呼んでくれた。
先頃お姫様抱っこして帰還した時な。
休憩所の寝台に降ろそうとしたら押し倒されたんよ。
もちろん全力で手は出してない。
ただ、母性が物凄かったなぁって…。
* * *
凪を降ろし、落ち着くのを見計らって挨拶回りを再開。
…しようとしたところで、シュバッと周泰登場。
「呂羽さん、大変です!」
「どうした周泰。あ、色々お疲れ様」
「お疲れ様でした!それと、私のことは明命とお呼び下さい!」
元気にハキハキと答えてくれる明命。
当初、ガッツリ警戒されてたのがまるで嘘のよう。
真名まで交換出来て、嬉しい限りだ。
「あの、周泰殿。何かリョウ…殿にお話が…」
「そうでした!それより楽進さん、私は明命で結構です!」
「ああ、私は凪。宜しく頼む」
話が進まんね。
「はい!…それでですね。皆さんが、リョウさんを倒すと言う話になりました!」
「……ん?」
「な、何故?」
聞き間違いかと思ったが、凪も疑問を呈する辺り間違って無いらしい。
明命が経緯を説明してくれるが…。
「雪蓮様や春蘭さん、愛紗さんたちが最強について口論となって…」
会場全体を巻き込み、俺を倒せば最強なんじゃね?
って話になったとか。
「いや、最強は呂布ちんだろ」
間違いないと思う。
そこに俺が入り込む隙間は無いはずだ。
「その恋さんも、リョウさんを倒す側ですよ?」
「あの呂布にさえ一目置かれる。流石はリョウ……殿です!」
惜しかったな。
いやいや待て待て、そうじゃないだろ。
「呂布ちんが俺を?……なんでさ」
「存じません。ともあれ、会場に行きましょう!」
そう言って腕をガシリと掴み、ずりずりと引っ張り始める明命。
随分と積極的だな!?
「実は、リョウさんを倒せば優先的に確保権が得られるのです!」
確保権って何だ?
って、絶対そっちがメインだろ!
最強とか別に関係な……くもない奴もいるだろうけどさ。
「明命は呉の為か?」
「はい!」
とても良い笑顔だった。
なら仕方ない。
「凪は俺の味方だよな?」
「えっ…と、はい。勿論です」
今少し考えたな?
そんなん無くても、凪のお願いなら何でも聞いてやるのに。
仕方ないので明命に引っ張られながら、凪と一緒に会場まで歩いて行った。
傍から見れば親子みたいに…流石にないか。
「あ、来たわね」
「雪蓮。何事だ?」
「あれ。明命から聞いてない?」
聞いたけど、あれで理解出来る訳ないだろ。
詳細希望。
「帰属問題は解決したハズだろ?」
「それとこれは別問題よ」
どう違うと言うのだろう。
そんなことをしてる間に、戦意に満ち溢れた将たちが周囲に…。
「まあいい。ならば、俺と凪のペア…っ…組に勝てたら、どんな願いでも一つだけ聞いてやろう!」
聞くだけな。
「え?呂羽さん…今、ペアって言ったような…」
ワァァァァーッッ!!
北郷君が呟くのを、周囲の大歓声が掻き消した。
おっと危ない、つい漏れてしまった。
「…良いのですか?」
はっはっは、こうなりゃ自棄じゃ。
なぁに、勝てばよかろうなのだぁ!!
「……じゃあ恋がやる」
「え゛?」
唐突に姿を現す呂布ちん。
そんなに仮面が欲しいのか?
だったらもう、あげちゃっても…
「……恋が勝ったら、呂羽を貰う」
なんて思ってたら爆弾発言。
そして、凪が瞬間沸騰。
「ッ!……リョウ、全力で倒しますよ」
「アッハイ」
まるでスーパー野菜人のように立ち昇るオーラ。
おお、これならいけそうだ。
とりあえず戦国最強、呂布ちんに勝てば皆黙るだろう。
黙らない奴も数名思い浮かぶが、努めて無視する。
* * *
段取りを凪と確認し、いざ尋常に勝負。
二対一を尋常と言って良いのかはさて置き。
「……行く」
「来い!」
何時になくやる気十分な呂布ちんと、滾る凪。
たぎるなぎって語呂が良い、いやむしろ悪い?
どうでもいいことが気になるのは何時ものこと。
うん、大丈夫だ問題ない。
しかし補正が付いたとはいえ、凪で呂布ちんに勝つのは難しい。
もちろん俺でも。
だからこそ、初めての共同作業に勤しむとしましょう。
結果は辛くも勝利。
まさか、あんなに粘られるとは。
俺が正面から、背後から凪が攻めた。
暫烈拳に幻影脚。
トドメは同時に覇王翔吼拳。
これぞ一人では決して成しえない、極限流究極奥義・双星龍虎乱舞!
これを放てたことに満足してしまったため、最後の詰めを誤った。
二発の覇王翔吼拳を食らってもなお、耐え切って凪に向かって突進した呂布ちん。
まだまだ気力が足りない凪では、その一撃を耐えることは叶わない。
そう見切り、必死に足に気を込めて虎閃脚で割り込み。
ギリギリのジャストディフェンスから、真・天地覇煌拳で勝利をもぎ取ることに成功したのだ。
加減出来なかった最後の一撃により、呂布ちんの上半身から布が弾け飛んだ。
そして、美しいお胸様が露わに。
すぐさま陳宮が駆け寄って来て事無きを得たが、……俺は死んだ。
戦闘終了後、周囲の目がとても痛い中で真名を交換。
もう少し待ってくれるそうな。
* * *
「うむ、流石だな呂羽。よし、では次は私と勝負だ!」
「いやいや姉さん。さっき言った通り、俺と凪は一緒に…」
「なに構わん。こちらも韓忠と共にやるからな」
「!?」
慌てて視線を向けると、確かに由莉の姿。
鉈を構えてヤル気満々だ。
微笑が怖い。
これに凪も反応。
ボルテージが急上昇している。
呂布ちん…恋に勝っても、黙らない奴が圧倒的に多かった。
想定外デース。
「その次は私たちがやるわよ!」
「はい姉様!」
「うん!正妻の座は、シャオのものだからねっ」
孫呉の姉妹とか。
「姉者。季衣と流琉、四人で掛るぞ。何としても魏に勝利を」
「ああ!そして華琳様に褒めてもらうのだ!」
曹魏の四人衆とか。
「星。組むか?」
「そうですな。白蓮殿となら、心強い」
「あ、私も混ぜてくれ」
「ならうちもー」
白蓮、星、馬超、張遼の神速衆とか。
先程真名を交換した愛紗や鈴々と言った蜀の義姉妹。
それに紫苑、桔梗、祭のアダルト組に魏延と蒲公英、沙和に真桜。
さらには甘寧と明命に呂蒙まで。
軍師や君主以外、ほぼ全てじゃねえか……。
ふ……、いいだろう。
その挑戦、全て受けてやる。
「極限流は天下無敵。今ここで、それを証明してやろうじゃないか!!」
乱世は終わり、世は安寧の時へ。
平和を維持するために、三国は共同して努力し続けて行くだろう。
それはそれ、これはこれ。
俺の平穏は遥かに遠い。
差し当たり、正妻戦争に勝利したのは……俺の隣で戦う彼女だった。
これにて終幕。
長きに渡りお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
回収してない伏線、畳み切れない大風呂敷。
詰め込み切れなかった小話、忘れてたイベントなど。
その辺り、いつか番外編や後日談等を投稿できたらいいなと思います。
・双星龍虎乱舞
NBCアナザーダブルアサルト。
使用者は例の二人。
その源流は、某漫画のオリジナル技にあるとも言われていますが俗説でしょう。
よって覇王翔吼圧挟拳ではありません。ええ、断じて。
・エイプリルフール終了のお知らせ
最後の脱衣KOは呂布ちん
主人公の運命は見ての通り
今回、普通に最終話!