Ace Combat 5.1 The Pacific War   作:丸いの

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本編
1. 混迷の第一波


歴史が大きく変わるとき、 ラーズグリーズはその姿を現す。

 

 

はじめには、漆黒の悪魔として。

 

 

悪魔はその力を以って大地に死を降り注ぎ、 やがて死ぬ。

 

 

しばしの眠りの後、 ラーズグリーズは再び現れる。

 

 

英雄として現れる――

 

 

 

 僕たちは悪魔として、そして英雄として猛々しく戦った。戦友を失い、帰る家を失い、それでも戦い続けた。大国を裏で操り暗躍する者達を打ち倒し、腹に災厄を抱えた凶星を撃ち落とし、そして大きな戦争を終わらせることすら成し遂げた。

 でも英雄は決して謳われない。あの日世界を守るため飛び立った黒い英雄たちは、そのまま歴史の闇に消えて行った。誰も正体を知らず、生き残っているかどうかも分からない、部隊の名前だけが独り歩きする、正に伝説の存在。高々産毛が取れた程度に過ぎない孤島の訓練生が、随分とまあ出世したものだ。

 

「そしてそれが今じゃあ一介の整備士やってんだから、世の中よく分かんないや」

 

 ベンチに寝転がりながら、今まで読んでいた週刊誌を閉じる。表紙には「終戦1周年記念特集・ラーズグリーズの英雄、その正体に迫る!!」との煽り文句が書かれているが、自分はもちろん敵機を嘘みたいにバッタバッタとなぎ倒していた隊長の正体もまるで掴めていなかった。今まで幾度となく正体について特集されてきたラーズグリーズの英雄は、またしてもその正体を謳われずに済んだようだ。

 そりゃあそうだ。先の大戦に関する情報が2020年まで国家レベルで秘匿されることが決定しているし、超大手の新聞社やマニア好みの航空雑誌にすら特定されては来なかったんだ。裏でジュネットさんによる情報漏えいでも無い限り、今更中堅どころの週刊誌にラーズグリーズの居どころを掴めるわけがない。まさか彼らも、ラーズグリーズの英雄の一人が空を飛ぶのを止めて整備士業を行っているなど考えもしないだろう。

 

「おっ、またラーズグリーズが特集されてんだな。なんか耳よりな情報あったか?」

「いーや、全く。いつも通りラーズグリーズのおとぎ話で始まって、適度に戦績を掻い摘んで、サンド島との関係性を匂わせておしまい」

「やっぱな。オーシアタイムズですら分からないものを、こんな二流所が掴めるわけもないか」

 

 コーラ片手に隣へ腰かけた同輩が、勝手に雑誌をペラペラと流し読みながらつまらなさそうにため息を吐いた。ベルカ事変からおおおそ一年の最近では、売店で見かける多くの週刊誌が戦争を振り返る記事を掲げている。無論戦争についての批判や戦後のオーシアのあり方を問う等社会派な記事もあるにはあるのだが、ここの場所が特殊なことも手伝って売店にはラーズグリーズ部隊を主軸とした週刊誌が多く置かれている。 

 

「俺の知人にラーズグリーズの機体を整備したってやつが居んだよ。そいつの話じゃバルトライヒであんなに戦ってたっていうのに、機体の損傷は全くという感じだったらしいぜ。んで最後のSOLG撃墜前、あの夜明けの高速道路でみんな敬礼して見送ったんだ」

「また始まった。本当にラーズグリーズの話になると食いついてくるなあ」

「あたぼうよ。エースの機体を整備するだなんて、俺達整備士にしてみれば花形も良いとこよ。グリムもあの機体を整備したのは俺だー、とか言ってみたくねえのかよ」

「……どうだろう。確かに誇らしい気持ちにはなるかもしれないけど、でも自分が地上にいるのがもどかしくなるかもね」

 

 何だそりゃ、と同輩がつまらなさそうに首を傾げる。当然と言えば当然だ。エースの本分は空で発揮されて、僕ら整備士の本分は地上で発揮される。整備した機体が空で活躍することが整備士にとって誇らしいというのは、僕自身体感したこともある。

 でも一度空を飛んだ人間は、どうしても自分が空に居ないことを不満に思ってしまうんだ。今もこれからも、そしてたとえよぼよぼの老人になっても。

 

 

* * *

 

 

 一年前、SOLGを撃破してベルカ事変の終結にこぎ着けたラーズグリーズ隊は、その後間もなく解散することが決定した。

 元々無理が多すぎる部隊だったことは否定できない。サンド島からの脱出時に既に空軍所属では無くなるどころか戸籍上でも死亡したことになり、本来ならば北部カーウィン島に駐留し続けているはずの空母ケストレルの艦載機部隊に転身して各地に出撃。気が付いたらどこの軍部にも属さない大統領直結の特務飛行隊だ。そんな宙ぶらりんで規格外の存在を戦後に残しておけるはずもない。

 ハーリング大統領の取り計らいで新しい戸籍と身分を得た元ラーズグリーズ隊の各々は、各地へと散らばっていった。隊長とナガセさんは空軍に復帰して教導部隊に所属し、スノーさんは海軍所属として別の空母に身を移した。そして僕は、ノースオーシアのハイエルラーク空軍基地にある空軍アカデミーで機体整備士となった。こうして彼らは空へと戻り、僕だけが地上へと残ったのだ。

 

 元々サンド島での訓練を終えたら、このノースオーシアの地にあるハイエルラーク空軍基地への所属を希望するつもりでいた。

 今では街の看板はほとんど全て英語で書かれていて、一見してただのオーシア北部の田舎都市に見えるこの地が、僕ハンス・グリムの生まれ故郷なのだ。

 

「あ、お疲れさまッス」

「いえいえ。こっちも機体の損傷が少ないから助かってます」

「まーただの訓練飛行ッスからね」

 

 小柄な練習用ジェット機のホークの損傷チェックを行っていると、ちょうどこの機体に搭乗して訓練を行っていた新米飛行士がわざわざ挨拶へやって来た。

 確かに彼の言うとおり、訓練飛行で重大な損傷は起こりえない。ただし細かな機器のゆがみはどんな飛行時にだって起こりうる。そんな微細な不具合が少ないのは、機体の扱いが上手であることの何よりの証拠だ。あの隊長も、訓練生時代は丁寧な飛行で現場の整備士からの評価は上々だったんだ。

 

「で、どうだったスか?」

「うん、さっき戦闘飛行訓練を下から見てましたよ。今年の新人飛行士の中でもすごい鮮やかだね。ただ上下に逃げる機体を追尾するときに、ただ単に追いすがるのが目立ったかな。敵機よりやや上部に位置していた方が、次に左右どちらに逃げられてもハイ・ヨーヨーで素早く対応できるよ。他には――」

 

 僕の元には、時折彼のように訓練飛行の感想を聞きにくる若手がいる。同じ空で教育的指導を行う教官の意見に比べたら全然参考にならないかもしれないけど、元々空にいた経験が彼らの役に少しでも立てばいいと願ってのことだ。こんな異色の経歴も案外捨てたもんじゃない。

 

「おい、何を油売ってんだ。とっとと講義室に行かんか!!」

「ヤベ、教官だ!! すんません、すぐ向かいます!!」

 

 そしてたいていの場合、この感想議論は近くを通りかかる教官によって中断してしまう。素早い会釈と共に駆け足で去る若き飛行士を追い払った教官は、僕を一睨みして舌打ちをした。

 

「……このベルカ野郎が、あんまりデカい顔をするんじゃねえよ」

「申し訳ございません。今後はより手短に纏めます」

 

 再度の舌打ちを残して去っていく教官から視線を無理やりはずして、拳を固く握りしめる。半ば覚悟はしていたとは言え、彼のような言葉は結構心にぐさりと来る。結局、仲間の整備士達から話しかけてもらえるまで、ただの独り言すら発する気にはなれなかった。

 

 彼の言った言葉に何も間違いはないし、言う心境も理解できる。一年前の戦禍の最中にいた旧ベルカの残党。あの戦いを経験した兵士の中には、彼のようにベルカへの印象が途轍もなく悪い人間も存在する。無理もない、友好国同士の憎しみを増発させて戦乱を巻き起こし、更には自国の首都に多核弾頭を搭載した巨大人工衛星を墜落させかけた国に対して、憎しみを持つのはごく自然な話だ。

 僕もベルカの灰色の男達には敵意を持っていた。何故分からないのか、何故学ばないのか。お前たちはあの時渦中で見ていたんだろ。無計画な戦争によって摩耗していく国民を。よりにもよって何故核を使ったんだ。七つの核で穴の開いた祖国の大地は、未だに回復していないというのに。

 

 でも彼と僕には決定的な違いがある。僕の故郷はこのノースオーシアだ。そして僕が生まれたとき、この地は別の名前で呼ばれていた。南ベルカ、今でも現地の住民の中にはこの呼称を使う層が一定以上いる。ベルカ戦争の最中この街は連合国軍に無血開城され、その数週間後に僕はテレビを通して七つの核が落とされるというこの世の地獄を見た。

 僕は元ベルカ人。街にある小数のベルカ表記で書かれた広告も読めるし、つたないけれどベルカの方言を喋ることだって出来る。だから、どうしても彼らとは同じ土俵には立てないんだ。

 

 

* * *

 

 

「チョコレートをいただきた!!」

「わっ出た。てかズボンを引っ張るなって、ちょっと待ってて」

 

 結局悶々とした気分のまま夕食後に自室で昼間の週刊誌の続きを読んでいたら、いきなりズボンの裾が引っ張られた。案の定、足元にいたのは三頭身くらいの不思議な小人たちだ。一度こうなってしまえばチョコレートを渡さなければ鎮圧は不可能だ。今までの経験から分かる。

 

「てーとく、かんしゃする」

「だから僕は提督じゃないってば。百歩譲って空佐だよ」

 

 彼女らと初めて遭遇したのは、この基地に赴任してから半年ほど経過したころだ。あの時も、こうして一人で部屋に居るときに何かの気配を感じたかと思ったら、急に服の裾を引っ張られてお菓子を要求されたんだ。最初はストレスで自分の頭がおかしくなったものだと信じて見ない振りをしていたが、待てど暮らせど幻影は消えず、むしろ服が伸びるほどの勢いで集られたために現実逃避を断念した。謎の小人たちは確かに存在し、そしてお菓子を喰らうのだ。

 僕のことを初めて会ったときから提督と呼び間違えるこの不思議生物たちは、どうやら他人には見えないようだ。部屋に居る時だけではなく、時々機体の整備をしている時にもいつの間にかひょっこりと肩の上に乗っていたりする。慌てて周囲の視線から隠そうとするものの、彼女達が他人に見えていないためにまるで一人パントマイムをしているように周囲の目には映ったらしい。以降馬鹿馬鹿しくなって、例えいつの間に肩や頭の上に小人たちが乗っていても、気にしないようになった。

 

「ここ!! ちんじゅふ!!」

「ん? これはサンド島基地だよ。爆撃の痕跡が無いから開戦前の写真だ。僕も前はここに所属していたんだよ」

「てーとくはここにいくべき」

「いや、もうこの基地は軍縮政策の一環で閉鎖済みなんだ。滑走路はまだ死んではいないし、無理を言えば行けないことはないけど、ここを出ていくときのせいであまりいい思いではないからね」

 

 膝の上でお菓子を頬張る小人の一人がサンド島飛行場の写真を指差してキーキーと喚いている。この不思議生物たちは、あの孤島に何かの由縁があるのかもしれない。案外世間は狭いものだ。

 

「いまここはベルカのてーとくがひつよう。これからあらわれるかんむすのたすけになる」

「……今はベルカ人じゃなくてオーシア人だ。以降気を付けるように」

「もうしわけない」

 

 驚くべきことに、こんなUMAな見た目の彼女達は会話が可能なのだ。何を言っているのかよく分からないことの方が多いけど、言葉を介した意思疎通が取れる可能性があることには驚かされた。

 彼女らと意思疎通を測って半年間、分かってきたこととして、どうやら彼女達は僕のことを提督と呼びたがるのだ。そして近年多発しているセレス海の海難事故は、ノースポイント周辺で近年確認された大型の未確認生命体と同一の種によるものだということだ。

 

「しんかいせいかんのきょういはただごとじゃないのです」

「シンカイセイカンが例のUMAってことだよね。一時期はノースポイントの方も相当シーレーンがやられて苦労していたみたいだけど、最近じゃあまりヤバいという話は聞かないなぁ」

「よこすかのてーとくたちのおかげなのです!!」

「提督とか、そのカンムスとやらは漁師か何かなのかい? 駄目だ、突っ込んだ話になると途端に分からなくなる」

 

 つい数年前に泥沼の戦争をやっていたことに加えて、海軍の艦船まで被害にあうような巨大生物の被害とは、ノースポイントは踏んだり蹴ったりだ。まあ巨大生物云々は彼女達が言っているだけで、報道では異常気象だとか組織だった海賊だとか、はたまた自由エルジアの残党だとかまったくもって不明のままである。

 それに似た事例がオーシアでも起こったというのはきな臭い話だけど、セレス海から遠く離れたここノースオーシアじゃ特に身近ではないからあまり気にしてはいない。

 

――PiPiPiPi !!――

 

 相変わらず人の足の上を占拠し続ける小人を持ち上げて退かし、机の上の携帯電話を手に取った。遠くの陸軍基地で暮らす兄か、それとも実家にいる母か、僕に電話をかけてくる人間は大体固定されている。しかし表示されている番号は見慣れたものではない。

 

「はい、もしもし」

『おお、久しぶりだな。いきなりの電話ですまない。私だ、ビーグルだよ』

「お、おやじさん!? お久しぶりです!! どうしたんですか急に」

 

 電話先に居たのは、まさかの人物だった。興味深げにわらわらと脇に集る小人たちを適度にいなしつつ、顔が思わず笑みを浮かべていくのを感じた。

 

『少し伝えたいことがあるんだが、まずは近況も聞こうと思ってね。どうだいそっちは。空から降りて一年になるが、元気にやっているかい?』

「ええ、まあボチボチですよ。整備士としての暮らしにも慣れてきました。元が機械弄りが好きな性分ですから、なんとかやれています」

『そりゃよかった。ただ空に対してはどうだい? 私が地上に降りたときは、最初の内は空に戻りたいとずっとうずうずしていたものだよ』

「まあ、未練が無いと言えば嘘になりますが、自分で選んだ道です。この未練もいい思い出に出来るように頑張ってますよ」

 

 久しぶりのホッとする声に、思わず目頭が熱くなる。あの孤島に配属された瞬間から、彼にはお世話になりっぱなしだ。

 

『さて、では本題に入るよ。単刀直入に言う。グリム、君の力を貸してはくれないだろうか』

「……どうしたんですか? 何かあったんですか?」

『最近セレス海で海難事故が起こるという話を聞いたことはあるかい?』

 

 これはまたタイムリーな話題が出てきた。最近の小人たちとの会話にはこの海難事故に関する話がたびたび出てくるから、おやじさんの話の切り出しにもあまり驚かずについていける。

 

『現在あの海難事故はとある武装戦力によるものと考えられている。オーシア海軍は事態の収束に向けて色々手を練っているんだが、中々好転していないようなんだ。曰くつきの閑職である私にも話が来た辺り、相当手が足りてないみたいだよ』

「あの海軍で手が足りないっていったいどんなことをやろうとしてんですか。確かに一年前のセレス海戦で一部艦を大破にしましたけど、もう回復してくるころでしょうに」

『それがね、今までの戦力とは全く別系統の、新たな戦闘部隊を拵えるそうだ。だから新しい人材が必要らしいよ』

 

 国を挙げた軍縮傾向の中で、新しい部隊の増設とはなかなかに攻めてるなあ。いつの間にか頭や肩の上によじ登ってきた小人たちが聞き耳を立てているが、もはや処理するのも面倒なので放置する。

 

「完全な新規師団の設営レベルなら息の長そうな話ですね。ただ、それに加わるかというのはちょっと考えさせてください」

『そりゃあ当然だ。私としては協力をお願いしたいが、無理強いする気もないよ。まあ説明程度は聞いてくれるかい?』

「まあそれくらいなら――えっ!?」

 

 その瞬間、久しく聞いた覚えのなかった、大きなサイレンの音が部屋の外側から響き渡った。何がどうだなんて考えている暇はない。弾かれたように立ち上がり、驚いた様子でしがみ付く小人たちはそのままに廊下へ走り出した。

 

『どうしたんだ!?』

「国籍不明機の接近です!! すいません、電話はあとで掛け直します!!」

 

 そのまま電話を切ってポケットに放り込む。同じく廊下に飛び出してきた人々が駆け足で出口へと向かっていく。

 こんなサイレンなど、終戦してからこの一年で訓練でしか響いたことはなかったはずだ。国籍不明機が何かしらの問題を起こすなんてご時世じゃもうないはずなのに、一体何が起こったって言うんだ。

 

『国籍不明機編隊接近!! 繰り返す、国籍不明機編隊接近!! 全兵員は非常時につき緊急配置を取れ!! 国籍不明機編隊接近!!』

「なんでここまで気が付かなかった!?」

「知るかバカヤロゥッ!!」

 

 振り落とされまいとしがみ付く小人数名を纏いながら、寮を飛び出して持ち場のハンガーへ全力疾走をする。その頭上や遠方で、スクランブル発進をする迎撃戦闘機部隊の高周波が轟々と鳴り響く。おそらく滑走路付近には対空高射装置や可動式地対空ミサイルの緊急配備も進行しているのだろう。

 持ち場のハンガーへ辿りついた時には、既に何人もの怒号が響いていた。当直のパイロットたちが既にスクランブル機へ乗り込んで滑走路へと向かい、それと予備機の緊急整備が並行して行われる。

 

「こいつの整備ですね!!」

「ああ、武装点検と装甲点検、エンジンにも火をつけていつでも発進可能な状態へしておけ!! 状況は待ってはくれないぞ!!」

 

 先んじて発進準備が完了していたF-15がハンガーの外で轟音を残しながら滑走路へと進んでいく。そして僕たち整備士の目の前には予備機のF-5までもが増援に備えて整備を今か今かと急かすように鎮座していた。

 

『国籍不明機編隊からの応答無し!! 繰り返す、国籍不明機編隊からの応答無し!! 地上部隊、迎撃準備を進めろ!!』

『第一波離陸確認!! 第二波の発進準備急げ!!』

 

 すぐに機体の下に潜り込んで簡易チェックを進めていく。いつものように時間をかけてじっくり見ている時間など無いが、中途半端な整備で迎撃する前に事故で墜落しただなんて笑えない。複数人の整備員と分担して特に損傷しやすいフラップと兵装部、そしてエンジンを重点的に点検を行っていく。こんな骨董品でも空に上がれば立派な戦力だ。

 

「管制室より緊急入電だ。第一迎撃部隊が国籍不明機編隊を包囲したようだ。空にいる連中の通信もこっちに引き入れるぞ」

『ザ――ザザ――ルコ1より――令室。レーダー上の敵機影が不明瞭だ。どうなっている』

『こちら管制指令室。機種は不明だがステルス機と思われる。こちらのレーダー情報を転送する。未だ不明編隊からの返答なし。全機、兵装のロックを解除せよ』

 

 ハンガー内に響く無線会話から察するに、空の方ではとんでもない事態になっているようだ。もはや不明機の撃墜も時間の問題だ。僕ら地上組の焦りも大きくなる。

 

「しんかいせいかん!! しんかいせいかん!!」

「あーもうっ!! 今は静かにしてろ!! 気を紛らわさせるな!!」

 

 焦り始めているのは僕ら整備士だけではない。近くで不安げにうろうろとしていた小人たちが急に僕の作業着を引っ張って何かをわめいている。そして人目も憚らず静かにしろと一喝しても、黙る気配は全く感じられない。

 

「しんかいせいかんのかんさいき!! ふつうのへいきじゃむずかしい!!」

「何がシンカイセイカンだ!! 今は巨大生物なんかじゃなくて所属不明機だ!! いいから黙って――」

『こちらファルコ2!! 隊長機が撃墜された!! やつら撃ってきたぞ!!』

『管制指令室より全迎撃機。国籍不明機を撃墜せよ。繰り返す、国籍不明機を撃墜せよ!!』

 

 俄かにハンガー内のざわめきが大きくなった。戦闘機が撃墜されるだなんて、そんな馬鹿な話があるものか。

 

『くそッ、ミサイルを振り切られる!! 直撃しても一発程度なら耐えやがる!! 何なんだ連中は!? 見たこともない機体だ!! 地上のSAMはどうなっている!?』

『レーダー波の反応が不明瞭で長距離対空ミサイルが発射出来ない。ファルコ隊、アックス隊、近距離から狙――入電!! 敵編隊第二派接近!! 北海方面から侵入!!』

『対処しきれない!! 早く追加の迎撃機を発進させろ!!』

『管制室より全隊。第二波迎撃隊の発進を急げ。予備機の発進準備も並行して進めろ』

 

 管制室の怒号がまるで戦時だ。着陸命令にも従わず、迎撃機を撃墜し、第二波までまで接近してくるなど、これは国籍不明機の領空侵犯なんかじゃない。立派な空襲だ。

 整備が完了したF-15に乗り込む若いパイロットの顔が蒼白に染まっている。ベテランの教官機すらも苦戦し、撃墜されるんだ。スクランブル配置についているもののまだ若手の彼らからしたら、到底太刀打ちなんてできないのではないだろうか。

 

『高度制限を解除する。後続機、離陸を急げ』

『不明機一機を撃墜!! 駄目だ、カバーできない!! 敵編隊更に基地へ接近中!!』

『高射砲の射程範囲内に入った。全地上部隊へ通告。射撃開始!!』

 

 その途端、ハンガーの外から雷撃のような音が鳴り始めた。F-5の最終チェックが完了したが、まさか本当にコイツすらも出撃させなきゃいけない事態になりつつある。

 空軍基地からの高射砲射撃など、迎撃戦の最終フェイズも良いところだ。万全の迎撃態勢が確立されているハイエルラーク空軍基地でまさかそのようなことになるだなんて、一体何が起こっているんだ。そして、射撃音に紛れて響く耳触りな羽音。

 

「まさかレシプロ機かっ!?」

『対空砲弾幕!! 二機南方地区に低空進入!!』

「全員退避!!」

 

 整備士班長の怒号が鳴るが、それを覆うかのようにプロペラ音が一段と大きくなる。即座にハンガーの内部へと走り出す他の整備員に続こうとするが、距離があり過ぎる。逃げようにももはや遅い。咄嗟に、今まで整備を行ってきたF-5のコクピットの中に小人たちを抱きながら駆け上がる。

 

「たいひー!! たいひー!!」

「こっちの方がよっぽど正確だ!! 伏せてろ!!」

 

 F-5のキャノピーを閉めたときには、既にサーチライトに照らされた敵機体の姿が朧げに見えていた。機種など分かりもしないが、真っ直ぐに此方へと向かってきているのは確かだ。

 タタタタッという間隔の狭い連続音、キャノピーの外から響いてくる破裂音や爆発音。燃料タンクが被弾したのかもしれない。ハンガー上空を敵機が通り抜けていったのか、プロペラ音が徐々に遠ざかっていく。

 

「くそッ、被害状況は!?」

 

 すぐにキャノピーを開けて大声を上げるが、ほとんどの人間が退避したこの空間で答えがすぐに帰って来るわけもない。ほとんどの機体を滑走路に出していたからスクラップの山は積みあがらなかったけど、燃料タンクから轟々と炎が上がり、整備用の機器も一部被弾して使い物になりそうにもない。炎が予備の兵装群に引火しようものなら、もう目も当てられない。ようやくプロペラ音が小さくなった頃合いで、炎が回っていない場所から整備班の面々が走ってやって来た。

 

「グリム!! 無事だったか!!」

「ええ、コイツの装甲は伊達じゃありません。それより手酷くやられました。消火を!!」

「初期作業は既に始まっている!! だが燃料タンクに燃え移ったらもうどうしようもない!! おそらく内側からの消火は無理だ。予備のパイロットはもう他のハンガーに向かった。お前も一時撤退しろ!!」

 

 背後でまた新たな爆発音が響き渡る。本格的に炎が大きくなっており、熱波が頬を撫でつける。そしてパイロットが居なくなった以上、僕らに出来る仕事はもはや残っていない。

 

「コイツは……コイツはどうするんですか!?」

「配置転換に乗り遅れた骨董品だ!! 捨て置け!!」

 

 そう捲し立てた班長は、そのままハンガーの出口へと走り去っていった。

 迫りくる炎の中で取り残された僕とF-5。早く逃げようと外を指差す小人たちを、むしろ引っ張ってコクピットの中に押し込み、再度キャノピーを閉める。おあつらえに、中にはヘルメットまで残されている。

 

「……エンジン出力、良し。油圧系統、異常なし」

「てーとく!! しゅつげき!!」

 

 ゆっくりとハンガーの出口に向かって進みだすF-5。飛べる寸前まで整備を行って、それで飛ばさずに地上で炎に飲まれるだなんて、長年オーシアの空を護ってきたコイツの最後にしては悲しすぎる。そんなことは到底認めることは出来ない。

 

「コイツは十分飛べる。少なくともコイツの同期は僕のむちゃくちゃな操縦にもついてこれた」

 

 第一波が通り過ぎて対空火器が小休止した滑走路に、老体へ鞭を打った歴戦の機体を進入させる。どこもかしこもてんやわんやで滑走路に居る他の機体は確認できない。都合がいい。

 

『こちら管制室、3番ハンガーが炎上中。被害を報告――3番ハンガーからF-5一機が発進している。どこの隊だ、所属を述べろ』

「……予備搭乗員のハンス・グリムです。他の搭乗員の姿は見えません。これより離陸します、誘導をお願いします」

『正規搭乗員に代わる時間も惜しい。誘導を行う。第1波は通り過ぎた。第2波の接近の前に2番滑走路より離陸しろ』

 

 口から出まかせが功を奏した。班長を始として仲間の整備士達も何事かとF-5の方へと駆け寄ってくるが、キャノピー越しに手で制しながらエンジンのスロットルを緩めていく。

 

「エンジン音良好。燃料は満タン。離陸開始位置に到達」

『敵第2波接近中。他の機体も発進急げ!!』

「エンジン最大出力!! コールサイン"アーチャー"、発進!!」

 

 急激な加速に伴う衝撃がどこか心地が良い。基地への空襲の中飛び立つだなんて、一年前のサンド島での初陣を思い出す。でも今日は上空には隊長たちがいない。相変わらず敵勢力も分からないし、状況はもっと絶望的だ。

 ぐんぐんと速度が上昇し、ようやく夜空に機体が飛び出した。一度は降りると決めた空に、一年越しに戻ってこれたのだ。小人たちはキャノピーの外に広がる夜空を眺めながらわいわいと騒いでいるが、僕もこんな状況じゃなかったら歓喜の大声を張り上げていたことだろう。

 

「アーチャーより管制室。離陸に完了しました」

『こちら管制室。第1波は対空火器により掃討が完了した。早急にファルコ隊指揮下に入り、敵第2波の迎撃に向かえ』

「アーチャー、了解しました。これより本機はファルコ隊の指揮下に入ります」

 

 レーダーが前方の北海沖から敵編隊が接近していることを知らせている。機銃とミサイルの安全装置を解除し、いつでも攻撃が可能な状況へ持っていく。

 

「てーとくがこなれています」

「そりゃあ一年のブランクはあるけどあんなに密度の濃い戦いをしていたら嫌でも飛ぶのに慣れるさ」

 

 第二波の食い止めには成功しているのか、レーダー上では敵編隊が北海湾から内陸へと侵攻してくる様子は見られない。だが味方戦闘機の数に対して、敵機影の数は二倍とまでは言わないが上回っている。

 例え敵機がまるで飛ぶかどうかも分からないような意味不明な形状でであっても、基地で聞いたプロペラ音からレシプロ機であることが分かった。ならば対処は決まってくる。

 

「よし、見えた!! アーチャー、エンゲージ!!」

 

 先遣隊の戦闘機を追い回すことに夢中になっている敵機の後方から高速で接近し、すれ違い様にリボルバーカノンをばら撒く。弾丸のほとんどが敵機体の後方を貫き破砕し、そのまま黒々とした北海に叩き落す。そしてそのまま進行方向にいた数機の中に赤外線誘導ミサイルを放り込む。

 

『一機撃墜を確認!! 助かった!!』

「ミサイルの直撃に耐えるってのは伊達じゃないですね。あれだけ撃ち込まなきゃ落とせないなんて。ミサイルなんか普通に避けられるし。後続機へ、敵の機動は素早くて分かりにくい上に硬い。一撃離脱だ!!」

 

 しかしこの奇襲は二度は成功しない。今の奇襲で一機落とされたとみるや、敵機体はただ単純にこちらの戦闘機を追い回すのではなく、数機がかわるがわる攻撃を仕掛ける方向へとシフトした。

 

『おとりを追いかけるな!! 相手の速度に合わせず、こちらの速度を生かせ!!』

『畜生、あたらない!! アックス3、残弾数僅か!!』

『被弾した!! 援護を!!』

 

 援護をしようものにも、味方機を狙う機体が目まぐるしく変わるために狙いが定まらない。下手にドッグファイトに持ち込もうなら、速度が落ちたところを多数の機体に群がられることだろう。そして一撃離脱すらも、相手が意図的に過剰に動き回る現状では有効な手立てでは無くなった。このままじゃジリ貧だ。

 

『管制室より各機、単独で行動をするな。孤立すると集中砲火を受けるぞ。クソっ、これでは完全に空襲だ』

 

 増援機によってなんとか戦線を維持しているが、ミサイルや弾は着実に減ってる。敵方の残弾数は分からないが、このまま膠着状態が続けば間違いなく不利になる。

 

「撃墜、撃墜!! こちらアーチャー。管制室、これではジリ貧だ。予備機を全てあげて一時補給を――」

『当該空域に侵入する機影、新たに捕捉。その数……20だと!? 各機、第三波が来るぞ!!』

『どうなってんだ畜生!! 一体何処の誰が攻めてきてんだッ!?』

 

 思わず唇をかみしめる。もうこれ以上は持ちこたえられない。無理に決まっている。僅かな隙を見つけてなんとか数機を落としてようやく五分に持ち込んだが、もはや死に体という有様だ。そんなところに万全の敵機が20も追加されるなんて、考えるだけでも寒気が走る。

 

『予備の迎撃機の発進準備は完了した!! 全機、戦線が後退してもかまわない、至急補給が必要な機体から基地へ――』

『――こちらオーシア連邦国防海軍 第8艦隊 戦艦ビスマルク。戦線が内陸よりになるのは困るわ。これより対空射撃支援を行う。敵機を引きつれてこちらにやってらっしゃい』

 

 急に無線へ割り込む、謎の女性の声。ハイエルラークに軍艦が寄港するだなんて聞いたことがないし、戦艦なんてものは遥か昔にすたれた艦種だ。そもそもビスマルクなんて艦名は全くオーシア風味じゃない。しかし危険を承知で敵機から目を離してキャノピーから下に広がるハイエルラーク湾を見下ろしてみると、確かにサーチライトを幾つも上空に向けて照射をする巨大な軍艦の姿が目に入った。

 

『海軍だとッ!? 何故ハイエルラーク湾に……発信コードは確かに海軍のものだ。だが一体何をするつもりだ!!』

『たから言ったでしょう!? 海上からの対空支援で敵戦闘機を落としてやるっていってんの!! 早くしなさいよ、こっちだって提督候補が空を飛んでるだなんて聞いてないわよ!!』

『……第三波接近まで時間が無い。全機、当該海軍艦の指示に従い、敵機撃墜を狙え!! 予備機、随時発進開始!!』

 

「かんむす!! かんむす!!」

「ええい、騒がない!! こちらファルコ隊アーチャー。戦艦ビスマルク、指示を!!」

 

 急にワイのワイの騒ぎ出す小人たちを足元に押し込めながら、まだ状況が掴めてない多くの味方機を差し置いて、共通無線で戦艦ビスマルクとやらの通信員へ指示を乞う。戦況が混沌とするからこそ、呆然と飛び続けるなんて時間は惜しいしあってはならない。

 

『簡単よ。全機一団で本艦直上を通過しなさい。その一瞬で対空射撃を行う。どこまで落とせるかは知らないけど、半数は硬いわ』

「こちらアーチャー了解。全機、これより本機を先頭に海軍艦の直上へ向かってください」

『……ファルコ2了解。お前たち、新米に続け!!』

 

 敵機を引きつれた各機が縦並びに密集し、スロットルを全開にして一気に高度を下げて加速を行う。10機の戦闘機が一時に同じ方向へアフターバーナーを炊くなんてまるで演習飛行だ。一塊になった僕たちという餌を目の前にして、敵編隊も猛然と加速を始めた。彼らが追跡を諦めないぎりぎりの速度を保ちながら、レーダーを注視する。

 

「これより貴艦上空500フィートを通過する!! 残り時間7秒」

『Einverstanden!! 撃ち方用意――』

 

 夕暮れの海に浮かぶ巨大な影が、前射線を僕たちへ集中させている。そしてその黒影を通り過ぎる間際、サーチライトに照らし出された敵機体の数々に向けて幾多もの砲塔が炎を吹いた。

 

『Feuer!!』

 

 高速で飛行するF-5のキャノピー越しでも、僅かな空気の振動が感じられた。一気に機体を上空に向けながら、戦果を報告する管制指令部の報告を今か今かと待つ。

 

『こちら管制塔、敵機影を確認中……やったぞ、敵機僅か2機のみ!! 全機反転して止めを刺せ!!』

 

 上空を反転し、再度敵機影を正面に捉える。沈みかけの太陽を背景にただの二機だけになった敵の姿が露わになる。もう容赦してやるつもりはどこにもない。機銃の発射スイッチに指を掛ける。

 

『アックス・リーダーより全機、今までの分をやり返してやれ!!』

 

 ここまで数に差が大きすぎれば、高い機動性ももはや意味を成さない。反転して撤退しようとした敵機達は、四方八方から飛来するミサイルや機銃掃射になすすべもなく砕かれていった。

 

『よし、第二波までの全敵戦闘機の撃墜を確認!! 各機、空域を予備迎撃機隊に引き継ぎ、速やかに補給を行なえ』

『第三波との交戦もこの私の近くで行いなさい。まだやれるわ!!』

 

 なんてことだろうか。あんなに絶望的だった空戦が、まさか海軍艦一つでこんなにも速やかに終わる物なのか。空域を引き継ぐ友軍機と行きかうハイエルラーク空港への道すがら、どっとした疲れと共に妙な肩すかしを喰らった気分に包まれていた。

 

 

* * *

 

 

 未だかつて、焼失しそうな戦闘機を退避させ、基地に接近する敵機を全友軍機の中で一番多く撃墜し、その上極限状態の中優良なリーダーシップを発揮したにもかかわらず、自室謹慎を命じられるだなんて人間がいただろうか。

 いるのである。今この場に。菓子類を新たに買い足すことも出来ず、不平不満を口にする小人に対して何もしてやれることはない。既に十分読みつくした雑誌に目を通す気にもなれず、携帯電話は提出しているから外部との会話も楽しめない。

 

「なんでですか!!」

「そりゃあね、パイロットじゃないのに戦闘機のったらこうなるよ。営倉に放り込まれてないだけ評価されているんじゃないかな」

 

 さて、一体どんな愉快な軍法会議が待っているのだろうか。出来れば8492飛行隊に罪をなすりつけられた時のような胸糞悪いものじゃないのを望みたいものだ。

 まあ少なくとも今日いっぱいはこのまま自室謹慎が続くだろう。復旧作業やらなんやらで上層部から下士官に至るまでみんな忙しいに違いない。むしろそんな中でゆっくりと休めるのは幸運と言っても良いかもしれない。

 

「てーとく、それはぼうろん」

「心を読むんじゃないよ。そう思わなきゃやってられないんだ」

 

 精々やることなんて、寝るか飯を食うか、後は昼頃に海軍の関係者との面談が入っている程度か。事情はまだ知らされてはいないが、自室謹慎の前に上官がそのような旨を言っていた。おそらく昨日の海軍艦の関係者だろうか、一飛行士に挨拶に現れるというのも変な話だけど。

 

「ハンス・グリム二等整備兵。少々予定が早まったが来客だ」

 

 昼頃と知らされてとりあえず一休みしようと寝転がった矢先だった。自室待機が始まってからまだ1時間も経過していない。何ならまだ10時だ。早い、いくらなんでも早すぎる。

 

「分かりました。今向かいま――」

「ここにいるのよね、早く通しなさいよ」

 

 ベッドから立ち上がって、小人を頭の上に乗せながら大きな欠伸をしていたら、ドアが勢いよく開けられた。完全な不意打ちだ。

 そして開けられた扉に視線を移し、思わず目を丸くしてしまう。50年くらい前の旧ベルカ軍の意表をあしらった、妙に扇情的な恰好をした金髪のお姉さんが仁王立ちしていた。これでもかというほどに得意げな笑顔を浮かべながら。

 

「Guten Tag. 私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。よおく覚えておくのよ」

「……ええと、僕は当ハイエルラーク空軍基地所属、ハンス・グリム二等整備兵です。よろしくお願いします」

 

 ここまで得意げにベルカの方言で自己紹介をされると、こっちも畏まって挨拶をしなければという気持ちになる。両肩に座る小人さん共々、ビスマルクさんにお辞儀をした。

 

「あ、もしかして昨日の海軍艦の通信士の方ですか? あのままでは飛行隊への打撃は間違いありませんでした。本当に助かりました」

「貴方は何かを勘違いしているようね。これからはそんな間違いは認めないわ。私はビスマルク、あの戦艦そのものよ。これからよろしくお願いするわね、提督!!」

 

 「てーとく!! てーとく!!」と騒ぐ両肩の小人たちに続いて、まさかこんな初対面の人間にすらも提督と呼ばれるだなんて、一体何の因果なのだろう。彼女を案内してきた士官に目配せしてみたら肩を窄めて首を振った。そりゃそうだ。

 ドヤ顔を浮かべたままこちらを見据える美人さんにどう反応すればいいのか、僕はさっぱりわからなかった。




Pacific war (大嘘)
グリムがベルカ人説というのは結構語られてるみたいですよ。
何でもZeroの円卓ステージでパパグリムと思われるグリム姓のnamed機が出て来るとか(鬼神により死亡)、
ベルカ戦争に関する言動がラーズグリーズの中で一番リアル感あるとか。

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