捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
今日は朝から降りしきる雨が、窓から見える景色をどんよりとしたものに変えていた。
「…………」
松浦は先程から心配そうに外をちらちらと見ていた。理由は今日行われるライブだろう。
あれから、スクールアイドルについて話したりとかはしていないが、彼女が後輩を気にかけているのはわかる。
とはいえ、こいつは自分からそれを表には出さないだろう何となくわかる。
じゃあ、俺が言うべきは……
「……あー、気になるなら行けばいいんじゃねえの?」
「べ、別に……」
「もうやることは大体覚えたからこっちは一人でもいい」
「う……でも、いいの?」
「まあ、わからなかったら、誰かに電話して聞く。てか、早く行かないと場所取りできなくなるぞ」
「……わかった!じゃあ、お願いね!」
決心すると同時に、彼女は傘を持ち、店を飛び出して行った。
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「あー、気を遣わせたかな……」
学校までの道のりを駆け足で、ひたすら急ぎながら、比企谷君に心の中で謝る。
彼は私と鞠莉の間に何かがあったことに気づきながら、あえて聞かずにいてくれた。
比企谷君の事だから、面倒くさいだけかもしれないけど。ほんと変わり者だと思う。
後でお礼しなきゃな。でも今は……
「あと少し……!」
私は体育館へ向け、さらに足を加速させた。
早く雨が上がればいいと、心から願った。
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「これで終わりっと……」
頼まれた掃除はこれで終わった。あとは松浦の家族にバトンタッチすればいいだけだ。
……あいつはもう学校には到着しただろうか。
正直自分が背中を押したのが、良いことだったのかはわからない。
ただ、時計を巻き戻しても同じ判断をしたと思う。そんな気がした。
すると、入り口のドアが開く音がした。
「おはよう、比企谷君」
「……おはようございます」
入り口に立ち、いきなり声をかけてきたその女性は松浦母だ。髪を下ろしているところ意外は、松浦と本当によく似ている。年いくつだよ、と言いたくなるくらいにスラリとして若々しい。これが血筋か……世界とは改めて不平等である。
「あら、果南は?」
「ちょっと用事があるみたいで……もう片付けも終わるんで」
「そう。じゃあ、後でいっか」
そう言って近くにある椅子に腰かける。こういうさばさばしたところも似ている。
「比企谷君、いつもありがとう」
「いえ、自分から言い出したことなんで」
「確かに驚いたわね。引っ越してきたばかりの男の子が、いきなり手伝わせてくれなんて言うんだもの。それで、どうなの?」
「はい?」
「あの子との仲は進展してる?」
「…………」
どんな勘違い……いや、端から見れば、そう取られても仕方ないか。俺が親の立場でも、そういう勘繰りをしてしまうだろう。
「まあ、あの子ってああ見えて抜けてるところがあるから、できれば引っ張っていくタイプのほうが上手くいくと思うんだけど……」
「そ、そうすか。てか俺は……」
「じゃ、私はもう出かけなきゃだから、果南によろしく言っといて。もうおじいちゃんも来るから」
あ、この人割と人の話聞かないタイプだ。
言うだけ言って、去ったかと思いきや、再び顔をこちらに覗かせた。どうしたのだろうか。
「あの子の事、よく見てあげてね。あれで割と抱え込んじゃうから」
「……うす」
その優しい眼差しに、俺は先程の否定の言葉を忘れてしまっていた。
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結果だけでいえば、千歌達のライブは成功に終わった。
最初は観客もほとんどいなかったし、停電のトラブルもあったけど、遅れてきた町の皆や、ダイヤの機転により、想像以上の盛り上がりを見せた。
もちろん千歌達も、実力が生んだ結果じゃないことは気づいている。
むしろ、大変なのはこれからだ。
これからスクールアイドルとして、嫌でも周りから比べられるのだから……。
そこで私は無理矢理思考を断ち切った。
「……何考えてるんだろうね」
こんなこと今さら考えても意味がない。
そう、私はもう諦めたんだから。