捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯2

 

 小町の提案で、俺達はこの前の喫茶店に行く事にした。正直、『男一人だから気まずいな~』とか『はやくお家に帰りたいな~』なんて考えてしまったが、小町の視線が怖かったので、黙って従っておいた。

 1メートル程先を行く小柄な三人は、楽しそうにお喋りしながらてくてく歩いている。小町が入学初日から学校に馴染んでいるようで何よりだ。まあ俺とは違い、コミュ力高いからあまり心配してなかったけど。

 …………改めて見ると三人共小っちぇな。平均的な身長の俺から見てもかなり小柄だと思う。ドラクエのパーティーだとしたら…………天使や妖精なんて職業はあったっけ?

「…………あの」

「…………」

「…………あのあの!」

「っ!びっくりしたぁ……」

 いつの間にか隣りに並んでいた国木田に声をかけられ、体が跳ね上がってしまう。こやつ、出来る……。

「あ、ごめんなさい……」

「い、いや、こっちもぼーっとしてた」

「あの……先輩が住んでた千葉ってどんな所ず……ですか?」

 おお。小町にも聞ける事をわざわざ聞いてくるあたり、俺が会話から外れていたのを気にかけてくれたのだろうか。中々の神対応である。いや、今風に言うなら神ってるというべきか、どうでもいいか。とりあえず天使だ。

 俺は軽く伸びをして、千葉の素晴らしさを語る事にした。

「千葉は日本の首都と言っても過言はない都市でな……」

 

「す、すごいずら!未来ずら!デスティニーランド行ってみたいずら!」

 喫茶店に入ってからも続いた『比企谷八幡の千葉語り』は続いたが、国木田は意外な程に聴き入っていた。

 ちなみに小町と黒澤妹は引いている。

 しかし、今気になったのは…………

「……ずら?」

「はっ!…………すごいです!オラ、千葉に行ってみたいです!」

「オラ……」

 今度は小町が反応した。

「はっ!あう…………」

「花丸ちゃん、そんなに隠さなくてもいいんじゃないかな?」

 何やら落ち込んでいる国木田の頭を、黒澤妹がよしよしと撫でながら慰めている。それを見て、俺と小町は目を見合わせた。

「あの……花丸ちゃん、方言で喋るんですけど、それを気にしすぎてて……」

「うう……だって、恥ずかしいずら」

 国木田はこちらを窺うようにチラリと見た。

「…………別に気にしない」

 実際に気にならない。なんせ、材木座や玉縄と話した事があるんだから。あの二人のインパクトの強い……むしろインパクトしかない喋りに比べたら、方言など気にもならない。むしろ微笑ましいまである。

「ほ、本当ずらか?」

 にぱぁっと花が咲いたような笑顔を向けられ、つい目を逸らしてしまう。

「花丸ちゃん、全然恥ずかしくないよ!むしろ毎週プリキュア見てるお兄ちゃんの方が恥ずかしいよ!」

「おい」

「あはは……」

 何でそんな事言っちゃうの?ほら、黒澤妹引いてるじゃん。

 しかし、そこで聞き逃せない一言が聞こえた。

「……プリキュアって何ずら?」

「あれ?花丸ちゃん知らないの?」

「テ、テレビ見ないから……ずら」

「しゃあねえな」

 俺はこの後、一時間かけてプリキュアの素晴らしさを存分に語ったが、その場のスマイルは小さくなり、ハートキャッチは出来なかった。





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