捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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君想い 松浦果南編
君想い


 海の中は、これまで見た事のない神秘に満ちた世界だった。

 地球の7割は海だというが、ここがその一部だと思うと、とてつもなく広い場所にポツンと投げ出されたかのような、頼りない感じがする。

 時折鈍い光をちらつかせる魚も、自然が作り出した風景も、一つ一つが目を奪った。

 そして、海面に顔を出すと、現実に戻ってきた安心感が胸を満たした。

 ぼーっと辺りを見回すと、隣にいる彼女と目が合う。

 彼女はニコッと笑顔を見せた。

 

「どう?沼津の海は気に入った?」

「……ああ」

 

 答えは言うまでもなかった。

 

 *******

 

 始業式、特に何事もなく、何の感慨も沸かずに終わったことに安堵しながら、真っ直ぐに自転車を漕いでいると、前方に、見覚えのある長いポニーテールが、ぴょこぴょこ揺れていた。

 あれは……

 こちらがはっきりとその名前を思い出す前に、彼女は振り向き、こちらに気づいた。

 

「おっ、比企谷君じゃん。今帰り?」

「ああ。てか、そっちは休みなのか」

「私はケガしたお父さんの代わりに仕事してるの。治るまであと少し時間かかりそうだから」

「……そっか」

 

 俺は彼女が持っている袋に、自然と手を伸ばしていた。さすが俺!いろはすにパシリとして鍛えられただけあるわー。

 彼女は最初俺の手を見てキョトンとしていたが、すぐにその意味に気づき、片方の袋を俺に渡してくる。

 

「ありがと。優しいんだね」

「……別に。前の学校での部活動のクセが出ただけだ」

「へえ、もしかして何かスポーツでもやってたの?」

「いや、奉仕部」

「奉仕部?何、それ」

「……あー、困ってる人間に対して、魚を与えるんじゃなくて、魚の捕り方を教える部活」

「ふふっ、なんか小難しいね。でも楽しそう」

「そうでも……いや、まあ、何でもない」

「?」

 

 俺の様子に松浦が首を傾げる。まあ、まだ色々と思い出してしまうのは仕方ない。

 それを遮断するように、まだ見慣れない町並みに目を向ける。

 そうすることで、少しはここに……今いる場所に馴染むことができる気がした。

 絡まった思考回路を解すように、俺は何の気なしに松浦に尋ねた。

 

「……そういや、この前手伝いがどうとか」

「ああ、あれ?気にしなくていいよ。お父さんの怪我もあと少しで治るし、比企谷君も受験勉強あるでしょ?」

「……別に短い期間なら、やってもいい」

「…………」

 

 自分で何を言ってるのか、よくわからなかった。

 こんな柄でもないことを……。

 でも、間違いなく言っていた。

 それは過去の埋め合わせなのかもしれない。ただの自己満足なのは間違いない。

 

「……そっかぁ」

 

 それに対し彼女は……この前と同じ笑顔を見せた。

 

「お願いしてもいい、かな?」

 

 


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