捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #74

 優しい声のするほうに目を向けると、同年代くらいの少女がこちらに手を差し伸べていた。

 だが、さすがに手をとるのは気が引けたので、自分でゆっくりと立ち上がり、軽く会釈した。

 

「だ、大丈夫、です。どうも……」

「そうですか。慣れてない人は特に滑りやすいので気をつけてくださいね」

 

 そう言って大人びた笑みを見せた。この人、どっかで見たような気が……。

 すると、小町が慌てた表情で駆け寄ってきた。

 

「ごめんなさい、うちの兄が~」

「いえ、いいんですよ。たまたま通りかかっただけですから」

「……むっ?」

 

 小町が目を細めて目の前の少女を見る。もしかしたら俺と同じことを考えたのかもしれない。

 

「どうかされましたか?」

「あ、いえ、何でも~!それより、この辺りにこういう名前の喫茶店ありますかね?」

「えっ?」

 

 小町がメモを見せると、その少女はやや驚いた反応を見せた。

 だが、すぐに元の穏やかな笑顔に戻った。

 

「ああ、ここならよく知っていますよ。案内しますのでついてきてください」

 

 マジか。どんだけ親切なんだ、この人。初対面なのに変な人に騙されないか心配になっちゃう!

 

「そういえば、この喫茶店にはどんな用事で?」

「友達がいるんですよ~」

「なるほど……そういうことですか」

「?」

 

 何か意味ありげに頷いた彼女はそれきり特には触れてこなかった。

 そのまま少し歩くと、それらしいこぢんまりとした、それでいて風情のある和風の建物が見えてきた。

 

「ここですよ。いらっしゃいませ」

「え?」

 

 意外な言葉に目を向けると、少女はにっこりと笑みを見せた。

 

「ここの店員さんなんですか?」

「ええ、黙っててごめんなさい。途中から気づいてはいたんですが……」

「……もしかして、Saint Snowの……」

 

 ふと思い出した名前を口にすると、彼女は……鹿角聖良はにっこりと微笑んだ。

 

「はい。ちなみに、あなた方はAqoursの皆さんとはどういうご関係なんですか?」

 

 小町が俺と花丸の関係は伏せて、鹿角姉の質問に答えると、ふむふむと納得したように頷いた。その目元は、ステージの時とは違い、やわらかな印象を受ける。

 

「なるほど。あ、寒い中すいません。どうぞ入ってください。皆さん、沼津からお友達がいらっしゃいましたよ」

 

 扉を開けながらの鹿角姉の言葉に反応するように、8つの瞳がこちらを向く。

 

「?」

「むむっ」

「え?」

「んぐっ……は、八幡さん?」

 

 花丸は4人掛けのテーブルで他のメンバーと向かい合いながら、白玉ぜんざいをぱくぱく食べていた。


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