捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
優しい声のするほうに目を向けると、同年代くらいの少女がこちらに手を差し伸べていた。
だが、さすがに手をとるのは気が引けたので、自分でゆっくりと立ち上がり、軽く会釈した。
「だ、大丈夫、です。どうも……」
「そうですか。慣れてない人は特に滑りやすいので気をつけてくださいね」
そう言って大人びた笑みを見せた。この人、どっかで見たような気が……。
すると、小町が慌てた表情で駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、うちの兄が~」
「いえ、いいんですよ。たまたま通りかかっただけですから」
「……むっ?」
小町が目を細めて目の前の少女を見る。もしかしたら俺と同じことを考えたのかもしれない。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、何でも~!それより、この辺りにこういう名前の喫茶店ありますかね?」
「えっ?」
小町がメモを見せると、その少女はやや驚いた反応を見せた。
だが、すぐに元の穏やかな笑顔に戻った。
「ああ、ここならよく知っていますよ。案内しますのでついてきてください」
マジか。どんだけ親切なんだ、この人。初対面なのに変な人に騙されないか心配になっちゃう!
「そういえば、この喫茶店にはどんな用事で?」
「友達がいるんですよ~」
「なるほど……そういうことですか」
「?」
何か意味ありげに頷いた彼女はそれきり特には触れてこなかった。
そのまま少し歩くと、それらしいこぢんまりとした、それでいて風情のある和風の建物が見えてきた。
「ここですよ。いらっしゃいませ」
「え?」
意外な言葉に目を向けると、少女はにっこりと笑みを見せた。
「ここの店員さんなんですか?」
「ええ、黙っててごめんなさい。途中から気づいてはいたんですが……」
「……もしかして、Saint Snowの……」
ふと思い出した名前を口にすると、彼女は……鹿角聖良はにっこりと微笑んだ。
「はい。ちなみに、あなた方はAqoursの皆さんとはどういうご関係なんですか?」
小町が俺と花丸の関係は伏せて、鹿角姉の質問に答えると、ふむふむと納得したように頷いた。その目元は、ステージの時とは違い、やわらかな印象を受ける。
「なるほど。あ、寒い中すいません。どうぞ入ってください。皆さん、沼津からお友達がいらっしゃいましたよ」
扉を開けながらの鹿角姉の言葉に反応するように、8つの瞳がこちらを向く。
「?」
「むむっ」
「え?」
「んぐっ……は、八幡さん?」
花丸は4人掛けのテーブルで他のメンバーと向かい合いながら、白玉ぜんざいをぱくぱく食べていた。