捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「は?ぶっちぎって優勝する?」
「ずら。Aqoursはどんな相手でも、ぶっちぎって優勝しますずら」
「お、おう、そうか」
ぶっちぎってという花丸らしからぬ言葉につい驚いたが、とりあえずもう大丈夫らしい。
その事に安堵すると、はやく彼女の笑顔が見たくなってきた。
「まあ、あれだ。大丈夫そうならよかった」
「ふふっ、先日はご迷惑をおかけしましたずら……」
「迷惑なんて思ってねえよ。むしろ一人で悩まれるほうが心配だしな」
そう言うと花丸がくすくす笑うのが聞こえてきた。
「どした?」
「やっぱり八幡さんは優しいずら。マルの目に狂いはなかったずら」
「……そりゃどうも。だが……」
「?」
「お前以外にはここまではしない」
「は、八幡さん、なんかかっこいいずら……」
「いや、悪い。カッコつけすぎた。なるべくはやく忘れて?」
「ふふふ、無理ずら。マルの頭の中にしっかり保存されたずら」
「マジか……そういや、全国大会はいつからなんだ?」
「来年になってからずら。だからその間にしっかり練習頑張るずら!あ、それと……」
「それと?」
「今度北海道に行くことになったずら」
「……おお、いきなりだな」
「はい。全国決勝に進出したお祝いに、北海道の地方決勝の観覧チケットを貰ったずら」
「そっか。まあ、気をつけてな」
「あ、あの……」
「?」
「……い、いつか、八幡さんと二人きりで北海道に行きたいです……ずら」
「……だな。あー、じゅ、受験が終わってから、二人でどっか行くか?泊まりで」
「っ!?そ、それは、つまり……」
「どした?」
「だ、大丈夫ずら!大丈夫ずら!い、今から心の準備をしておきます!それじゃあ、おやすみなさいずら!」
「あ、ああ、おやすみ……」
最後のほうは謎のテンションだったが、まあとりあえず元気ならそれでいい。
通話を終えてから、しばらくその声の余韻に浸っていると、小町からはやく風呂に入るように催促された。
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それから一週間後。
「……なんで俺は受験前なのに北海道にいるんだろうな」
「しょうがないでしょ?ダイヤさんに頼まれたんだから。それにタダで北海道に来れたんだから、リフレッシュと思えばいいじゃん」
「……まあ、そうだな。てか、やっぱりさみぃ……」
すたすた先を歩く小町が言ったとおり、俺達が北海道にいるのは、黒澤姉に頼まれたからだ。そしてその理由とは……
「でも、三人とも何やってるんだろうねえ……」
「…………見当もつかん。俺も詳しいことは聞けなかった」
そう、黒澤妹、津島、そして花丸が北海道でやることがあると言って、三人で残ったので、その様子をこっそり見てきて欲しいと頼まれたからだ。ちなみに移動は小原家のプライベートジェットで、めちゃくちゃ快適だった。
三人は現在北海道のスクールアイドル、Saint snowのメンバーの家に滞在しているらしい。
だがSaint snowは地方大会の決勝で、痛恨のミスを犯し、残念ながら敗退してしまった。
一体どういう事情があるのだろうか……っ!?
「って!?」
「ああ、お兄ちゃん大丈夫~?」
考え事をしていたら、うっかり足を滑らせてしまった。
思ったより鈍い痛みに顔をしかめていると、駆け寄ってくる小町より先に目の前で誰かが手を差しのべてくれた。
「あの……大丈夫ですか?」