捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
ラブライブ地区予選決勝。
すべてのアイドルがパフォーマンスを終え、結果発表を今か今かと待ちわびていた。
だが観客席の反応を見る限り、全国大会進出は……
「さあ、それでは発表させていただきます!全国大会に駒を進めるスクールアイドルは……」
「…………」
「Aqoursです!」
一気に会場が沸いた。
正直、パフォーマンス後の拍手の大きさや、周りの反応から、予想はついていた。別に後だしじゃないよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
スクリーンに映った花丸の笑顔は、先程圧巻のパフォーマンスを見せつけていたとは思えないくらい、ほんわかした笑顔を見せていた。
*******
帰り道、すっかり暗くなった坂道を歩きながら、どのタイミングで手を繋ごうかと思案していると、彼女のほうからそっと手を握ってきた。
そこからさらに体をすり寄せてくる。どうやら今は甘えたい気分らしい。
「……どした?」
「ほっとしたら力が抜けたずら……ふぅ」
「そっか……まあ、お疲れ。あとおめでと」
「ふふっ、八幡さんそれさっきも言ってたずらよ」
「つい、な。自分でも不思議なくらいテンション上がってる」
「そうずらか。それはマルも嬉しいです」
「これなら入学希望者も集まるんじゃないか」
「ずら。……明日に期待するずらよ!」
「?」
今何か言い淀んだ気がしたが……いや、疲れてるだけかもしれんし。
その日は彼女を家まで送り届けて、そのまま帰った。
*******
家に帰り、家族で食卓を囲んでいると、小町から驚きの事実を聞いた。
「タイムリミット?」
「うん。あと3日で100名に達しなかったら廃校が確定するんだって」
「…………」
あの時のあの表情はそれが理由だったか。
タイムリミットに関しては、まあ時期的には妥当なところだろうが、彼女達からしたら圧倒的に時間が足りないだろう。
……果たして目標達成できるだろうか。
*******
食後に色々と気になった俺は、花丸に電話してみることにした。
「はい、国木田です」
「……もしもし、今大丈夫か?」
「八幡さん……もちろんずら!」
声のトーンから、おそらく空元気だろう。
勢いで電話をかけたので、どう話そうかとか全然考えていなかった。
それでも何か喋らなければと思うと、自然と言葉は出てきた。
「……あー、今日割と星が綺麗に見えるな」
「ずら?……そう、ずらね」
しまった。
緊張からか、いきなりわけのわからんことを言ってしまった。
だが今から訂正するのは恥ずかしい。
とりあえずこの方向で話を進めるしかない。
「あー……花丸は、この先の進路とかは考えてるのか?」
「進路、ですか」
親かよ、と思わずセルフツッコミをしそうになった。やっぱり一、二年人と関わるようになっただけでは、コミュ力は改善したりしないものである
「実は……まだあんまり考えたことがないずら。今はスクールアイドルと読書と……で頭がいっぱいずら」
「ん?最後のほう、何て?」
「な、何でもないずら!」
「そ、そうか……」
「は、八幡さんこそ……なりたいものとかないずらか?」
「……専業主夫」
「聞こえないずらよ~」
「……いや、俺も実際まだ考えていないからな……」
「そうずらか。それじゃあ今度マルと一緒に考えませんか?」
「おお、いいな。それ」
「ずら。あ、それと八幡さん……気を遣ってくれて、ありがとうございます、ずら」
「い、いや、気を遣って、つーか……まあ、その、どういたしまして。じゃあ、俺もう寝るわ」
「はい、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
通話が途切れ、名残惜しさと静寂が同時にやってきたので、誤魔化すように寝転がる。
小さく響く鈴虫の音色に耳を傾けていると、いつの間にか眠りについていた。