捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「活動資金の為にバイト?」
「ずらっ。皆で働いて衣装代を稼ぐことにしました」
順調に活動を続けているAqoursだが、ここにきて活動資金が尽きたらしい。元から少ない部費に、高校生の小遣いでは、さすがに限界がきたようだ。
それで、自分達で衣装代を稼ぐ事にしたらしいが……
「バイトのほうは見つかったのか?」
「はい。曜ちゃんの紹介で、皆で水族館でバイトずら。八幡さんにも来て欲しいずら♪」
「……まあ、少しくらいなら」
自分の彼女がどんな制服でバイトするのかは、そりゃあ気になるよな。うん。まあ、その……今後の為にね!
花丸はぐっと両拳を握り、やたら気合いを入れていた。
「ふふっ、マルは頑張るずらっ。あっ、八幡さん、アルバイトに対する心構えを教えて欲しいずら」
「……押してダメなら引いてみろ、だな」
「何だか後ろ向きずら……」
「いや、まあ、あれだ……諦めが肝心な時もあんだよ。まあ、よかったら、俺がバイトした時のエピソードを……」
「そ、それはまたの機会に……ずら」
何故か彼女は話の続きを語らせてはくれなかった。
おかしいな、色々役に立つエピソードのはずなんだが。
*******
そして迎えた日曜日。
とりあえず花丸のアルバイト姿を見に水族館へと向かったが、家族連れやカップルなどで賑わっていて、思っていたよりも人が多い。はて……一体どこで仕事しているのだろうか?
すると、背後から声がかかった。
「あっ、八幡さんずら~」
「……おう」
とてとてと駆け寄ってきた花丸は、可愛らしい制服に身を包み、いつもより少し活発に見えた。
……なるほど、悪くない。むしろいい。ぶっちゃけ待ち受けにしたいくらいの可愛らしさだ。何故こんなに可愛いのか……いや、落ち着け、俺。
「い、今から仕事なのか?」
「はいっ、頑張るずら……あっ、頑張ります!」
花丸は慌てて言い直し、ピシッと背筋を伸ばした。気合いは十分のようだ。空回りしないといいんだが……。
「……大丈夫か?」
「も、もちろんずら!初めてのアルバイトだから、緊張はしてますけど……」
「まあ、あれだ。バックレる時は言ってくれ。一応慣れてるからな」
「そ、そんな事しないずらよ~」
「そうか……まあ、こっそり見守っとくわ」
「普通に見てほしいずら」
「さすがにそれは……ほら、ストーカーに間違われたら、ね」
「こっそり見守るほうがよっぽど疑われるずら~」
「……たしかに」
花丸は呆れたように笑い、他のメンバーの元へ、来たときと同じようにとてとてと駆けていった。
さてと……まあ久々の水族館だし、しばらくは一人で色々見てみますかね。
*******
「あっ、比企谷さん……」
「……おう」
いきなり誰かと思えば、Aqoursのマスコット的存在、黒澤妹だった。
最初はだいぶ警戒、というか怖がられていたが、最近は慣れてくれたようだ。花丸と付き合い始めたからだろうか。
彼女はやけに興味津々といった感じの瞳を向けてきた。
「あのっ、花丸ちゃんに会いに来たんですか?」
「あー……まあそんなとこだ」
「うゆ!二人が仲良しさんで、ルビィも嬉しいです!」
黒澤妹は、にぱーっと笑顔を見せた。付き合ってるとはいえ、仲良しさんっていわれると、なんだか照れてしまうのは何故でしょうか……。
「じぃ~……」
ん?……今どこからか視線を感じた気がするんだが。
*******
「おお……我がマスターよ!」
「お、おう」
津島が、一人堕天使風にアレンジした衣装を見せつけるように近寄ってきた
相変わらず堕天使は健在だと考えていると、彼女ははっとした表情になった。
「くっ……我が身に沸き上がる熱い感情!静まりなさい!静まるのです!さあ、はやく!」
「…………」
うん。通常運転だな。俺もうっかり中学時代のあれこれが出てこないように気をつけとこう。
結局彼女は、同じフロア担当の渡辺が来るまで、堕天使を発動させていた。
そして、また背中に視線を感じた……気がした。
*******
半分くらい回ったところで、今度は黒澤姉と遭遇した。今度は偶然ではなく、俺に用事があったのか、目が合うと、こちらに駆け寄ってきた。
「あの、八幡さん。ちょっといいかしら」
「おう、どうかしたか?」
「いきなりで申し訳ないのですが……今からバイトできます?」
「……バイト?」
「ええ。花丸さんが、何が原因かはさっぱりわかりませんけど、緊張しすぎて空回りしてるようなので、貴方がいればフォローできるかと」
「そうか……別に構わんけど」
「……まさか即答していただけるとは」
「まあ、たまには体を動かしたほうが、勉強も集中できるしな」
黒澤姉はこう言っているが、本当に言いたい事はとりあえずわかった。
まあ、あれだ。要約すると、お前がいると花丸が集中しないから、一緒に働いて仕事に集中させろ、という事だ。多分。
さっきから視線は感じていたが、まさか本当に花丸からだったとは。
「じゃあ、事務室に案内するので、こちらへ」
「……わかった」
こうして、飛び込みの日雇いアルバイトが決定した。