捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #67

 時間の流れが早くも遅くも感じれる不思議な感覚。

 彼女達の出番が来るまでの時間のほうが落ち着かない気分だった。

 それでも、時間は淀みなく流れていき、アナウンスと共に彼女達が……Aqoursがステージに上がった。

 着物をアレンジしたような美しく可愛らしい和風の衣装に、会場内が息を飲んだ。

 そして、その期待値の高さを表すかのように、歓声が響き渡る。

 

「千歌~、頑張って~!」

「曜ちゃ~ん、ファイト~!」

「梨子ちゃん、大好き~!」

「ルビィちゃん、今日も可愛い~!」

「花丸……」

「ヨハネ様~!」

「ダイヤさ~ん!こっち向いて~!」

「果南さん、素敵~!」

「マリー理事長最高~!」

 

 凄まじいまでの熱いエールにまぎれ、できるだけ大声で彼女の名前を呼ぼうとするが、もうしばらく大声をだしていないのと、照れなんかもあり、あまり声は出なかった。

 だが、彼女は真っ直ぐにこっちを見た……気がした。

 きっと、ただこっちに目を向けただけだろう。しかし……そんなただの偶然が、とても素晴らしい意味を持っているように思えてならなかった。

 

「よろしくお願いします!!」

 

 そして、高海の挨拶を合図にメンバーが頭を下げ、それぞれスタンバイする。

 衣装とよくマッチした和風なイントロが響き始めると、そこに歌声が乗り、一つの曲となり、しっとりした雰囲気が漂い始めた……かと思えば、急にテンポが速くなり、メンバーがステージ上を舞う。

 普段より厳かな雰囲気ながらも、アイドルらしい可愛らしさは遺憾なく発揮されていた。

 そして、途中で激しい想いを叩きつけるようなギターソロが入っていたりと、和だけではなく、様々な要素が調和していた。

 贔屓目なしに、これまでで最高のパフォーマンスのように思えた、そんな時間だった。

 

「ありがとうございました!」

 

 曲が終わると、割れんばかりの拍手が会場内を包み込んだ。

 

 *******

 

 会場の外に出ると、焦燥感がこみ上げてくる。

 果たして次のライブに間に合うのだろうか?

 まあ、ライブの目的は新入生の勧誘なので、俺が見る必要はないのだが、それでも見たかった。

 限りある時間の中で懸命に活動する彼女達のパフォーマンスを、一瞬でも多く心に焼き付けたかった。

 

「あっ、大丈夫だよ、お兄ちゃん。お母さんがすぐ来るから」

「はぁ?確か今日仕事じゃ……」

「そうだけど、お兄ちゃんの彼女のためって言ったら、絶対に行くだって」

「…………」

 

 心遣いは非常にありがたいが、果たしてどう紹介すればいいのだろうか?

 長年のボッチ生活で、そんな事もわからない俺は、本当に来た母ちゃんの車に気まずい気分で乗り込んだ。

 途中、窓の外に目を向けると、ミカン畑をトロッコがやたら速く駆け抜けていた。

 

 *******

 

 浦の星に到着すると、ちょうど彼女達がステージに上がった頃だった。てか、あいつらどこを通ってきたんだ?まあ、間に合ってるならいいんだけど。

 衣装もさっきとは打って変わって、青空に映える明るい衣装になっていた。

 だからだろうか。

 俺は隣にいる母ちゃんや小町が驚くくらい大きな声で、彼女の名前を呼んだ。

 

「お、お兄ちゃん!皆こっち見てるよ!」

「…………」

 

 ……慣れないことはするもんじゃないな。

 

 *******

 

 陽もだいぶ傾いた頃、海を見ていると、ようやく花丸が来るのに気づいた。

 

「お疲れ」

 

 労いの言葉をかけると、彼女はぱあっと明かりが灯るような笑顔を見せた。

 

「ありがとうございます。今回も八幡さんに見てもらえたから、最後まで頑張れました」

「……いや、俺は何もしてねえよ。あと曲もすげえよかったぞ」

「ずらっ。一生懸命、皆で作ったからだと思います」

「まさか曲作りの参考でデートする事になるとは思わなかったけどな」

 

 色々思い出していると、つい吹き出してしまう。

 

「ふふっ、そうずらね。マルは楽しかったけど」

「……次は……」

「?」

「次は普通にデートしてみるか……その、今日……いいもん見せてもらったからな」

「…………」

「」

「……はいっ、楽しみにしてます、ずらっ」

 

 互いに笑顔を交わしてから、自然と手を繋いで歩き出す。

 まるでそれが当たり前のように感じられた。

 そんな繋がりが嬉しくて、少しくすぐったくて、照れくさくて、俺は彼女の手をより一層強く握りしめた。

 

「そういえば八幡さん、あんなに大きな声が出たんですね。マルはびっくりしたずら」

「ぐっ……わ、忘れてくれ」

「ふふっ、ずっと覚えてます♪」

 

 そう言って笑う彼女の横顔は、どこか満足そうだった。

 

 

 

 


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