捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #65

 やわらかな朝の陽射しが瞼を照らし、穏やかに目が覚めていく。

 すると、真っ先に視界を埋めたのは、花丸の寝顔だった。

 すやすやと安らかな寝息をたてる唇に、ついつい目を奪われてしまうと、昨夜の出来事を思い出してしまう。

 まだ唇には彼女の唇の感触が残っていた。

 ……やばい。朝っぱらからにやけそうになる。

 さらに、目の前には可愛い寝顔があり、それだけで胸が高鳴る。

 

「すぅ……すぅ……はちまんさぁん」

「っ!」

 

 やばい。

 可愛すぎるだろ……。

 ひとまず頬をつついてみる。

 

「ん~……はちまんさぁん、マルは食べられないずらよ~」

「…………」

 

 やはり眠っていようが、花丸は花丸だった。

 ていうか、こいつはどんな夢見てんだ?

 俺が花丸を食べてるとか……もしかして、いやらしい夢を見てるんじゃないんですか!?

 

「ん……はちまんさぁん、マルはのっぽパンじゃないずらぁ……」

 

 夢の中の俺、ちょっと馬鹿すぎやしませんかね?

 そろそろ起こすか……。

 

「……花丸。朝だぞ」

「…………ん?八幡、さん……あれ?ま、まだ夢ずらか?」

「いや、夢じゃないから、そろそろ起きろ。たしか今日も朝から曲作りするんだろ?」

 

 花丸はぼーっとした顔のまま、ゆっくり体を起こし、可愛らしい欠伸をしてみせた。

 そんなのを見せられたら、こちらとしても頭を撫でるしかなくなる。

 

「ずらぁ……落ち着くずらぁ。八幡さんの手、ひんやりして気持ちいいです」

「……落ち着くのもいいけどそろそろ準備するか」

「はいっ……あっ、八幡さん」

「?」

「あの……おはようございます」

「……おはよう」

 

 何度も交わした挨拶が、何だかいつもとは違う響きをもっていた。

 それから二人で朝食を摂り、浦の星の近くまで二人で歩いた。

 

 *******

 

 それから二日後……

 

「は?曲が完成した?」

「ずら。今度のライブ、楽しみにしてて欲しいずら♪」

「あ、ああ」

 

 一昨日はまったく進んでいないように見えたんだけど……昨日何かあったのだろうか。

 ……まあ何にせよ、完成したのならいい。

 

 

「まあ、その……お疲れさん」

「ずら。八幡さんも協力してくれたおかげです。皆が今度お礼するって言ってましたよ」

「……そ、そうか」

 

 この前のデート企画のパワーアップバージョンとかになりそうなので、遠慮しておきたい。

 ……まあ、いいものは見れたけど。

 

「八幡さん」

「はい」

「……何となくいやらしいずら」

「はい……いや、何の事でしょう?」

 

 どういうわけか、花丸の背後には少しだけ黒いオーラが見える。おかしい……しかも何の証拠もないのに、つい畏まって謝りかけたぞ。

 そんな俺の様子に、花丸は吹き出した。

 

「あははっ、でも八幡さんならいいずら……でも……」

 

 彼女は精一杯背伸びして、そっと耳打ちしてきた。

 

「い、いつも……マルのことだけ見てて欲しいです」

「…………」

 

 優しく吹き込まれた甘い囁きは、じわっと頭の中を蕩けさせた。

 

「そういや、もう遅刻だぞ」

「ずらぁ~っ!?」

 

 そして、そんなふわふわした時間もすぐに過ぎ去り、また1日が始まる。

 ライブまであと一週間、早くライブを観たい気持ちと、ゆっくり彼女と日々を送りたい気持ちが混ざり合い、それを宥めるように大きく伸びをした。

 


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