捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
やわらかな朝の陽射しが瞼を照らし、穏やかに目が覚めていく。
すると、真っ先に視界を埋めたのは、花丸の寝顔だった。
すやすやと安らかな寝息をたてる唇に、ついつい目を奪われてしまうと、昨夜の出来事を思い出してしまう。
まだ唇には彼女の唇の感触が残っていた。
……やばい。朝っぱらからにやけそうになる。
さらに、目の前には可愛い寝顔があり、それだけで胸が高鳴る。
「すぅ……すぅ……はちまんさぁん」
「っ!」
やばい。
可愛すぎるだろ……。
ひとまず頬をつついてみる。
「ん~……はちまんさぁん、マルは食べられないずらよ~」
「…………」
やはり眠っていようが、花丸は花丸だった。
ていうか、こいつはどんな夢見てんだ?
俺が花丸を食べてるとか……もしかして、いやらしい夢を見てるんじゃないんですか!?
「ん……はちまんさぁん、マルはのっぽパンじゃないずらぁ……」
夢の中の俺、ちょっと馬鹿すぎやしませんかね?
そろそろ起こすか……。
「……花丸。朝だぞ」
「…………ん?八幡、さん……あれ?ま、まだ夢ずらか?」
「いや、夢じゃないから、そろそろ起きろ。たしか今日も朝から曲作りするんだろ?」
花丸はぼーっとした顔のまま、ゆっくり体を起こし、可愛らしい欠伸をしてみせた。
そんなのを見せられたら、こちらとしても頭を撫でるしかなくなる。
「ずらぁ……落ち着くずらぁ。八幡さんの手、ひんやりして気持ちいいです」
「……落ち着くのもいいけどそろそろ準備するか」
「はいっ……あっ、八幡さん」
「?」
「あの……おはようございます」
「……おはよう」
何度も交わした挨拶が、何だかいつもとは違う響きをもっていた。
それから二人で朝食を摂り、浦の星の近くまで二人で歩いた。
*******
それから二日後……
「は?曲が完成した?」
「ずら。今度のライブ、楽しみにしてて欲しいずら♪」
「あ、ああ」
一昨日はまったく進んでいないように見えたんだけど……昨日何かあったのだろうか。
……まあ何にせよ、完成したのならいい。
「まあ、その……お疲れさん」
「ずら。八幡さんも協力してくれたおかげです。皆が今度お礼するって言ってましたよ」
「……そ、そうか」
この前のデート企画のパワーアップバージョンとかになりそうなので、遠慮しておきたい。
……まあ、いいものは見れたけど。
「八幡さん」
「はい」
「……何となくいやらしいずら」
「はい……いや、何の事でしょう?」
どういうわけか、花丸の背後には少しだけ黒いオーラが見える。おかしい……しかも何の証拠もないのに、つい畏まって謝りかけたぞ。
そんな俺の様子に、花丸は吹き出した。
「あははっ、でも八幡さんならいいずら……でも……」
彼女は精一杯背伸びして、そっと耳打ちしてきた。
「い、いつも……マルのことだけ見てて欲しいです」
「…………」
優しく吹き込まれた甘い囁きは、じわっと頭の中を蕩けさせた。
「そういや、もう遅刻だぞ」
「ずらぁ~っ!?」
そして、そんなふわふわした時間もすぐに過ぎ去り、また1日が始まる。
ライブまであと一週間、早くライブを観たい気持ちと、ゆっくり彼女と日々を送りたい気持ちが混ざり合い、それを宥めるように大きく伸びをした。