捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「…………」
「…………」
ひとまず二人してお茶を啜って気持ちを落ち着けている。
まあ、慌てることなど何一つない。
だってこれはただのお泊まりなのだから。
花丸と一つ屋根の下で、一晩一緒にいるだけなのだから……やっぱ緊張半端ない!!だって男の子だもん!!
さっき裸を見てしまったのも関係しているのかもしれない。とにかく気を引き締めねば……。
無理矢理心を落ち着けるように彼女の方を向くと、ちょうど目が合ってしまった。
「「…………」」
そのままどちらも微動だにできなくなる。
二人の息遣いや虫の声、風の吹き抜ける音がやけに強調されていた。
その感覚に慣れてきた頃、俺はようやく口を動かせた。
「……飯でも作るか」
その一言に彼女はぱあっと顔を綻ばせた。
「……ずらっ♪」
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決して二人とも上手とはいえない腕前だったが、和食中心の夕飯は割と旨かった。
そして、二人で並んで料理や洗い物をしているうちに、彼女は無意識だったのか、ぽつりと一言呟いた。
「何だか……こうしていると新婚さんみたいずら」
「…………」
俺は口元が緩みかけるのを必死で抑えながら、皿洗いに意識を集中させた。
*******
その後しばらくの間勉強してから、きりのいいところまで終えると、花丸から提案があった。
「あの、八幡さん。縁側でお話しませんか?今日は星が綺麗ですよ」
「……わかった」
縁側はだいぶ涼しく、季節の変わり目を直に感じることができた。
そして、風が彼女の髪をさらさらと揺らす度に、甘い香りが淡く優しく鼻腔をくすぐってきた。
もう外はすっかり暗いが、ちらほら明かりの灯った家が夜の町を形作っていて、それは見ているだけで心を優しくさせた。
「……なんかいい眺めだな」
「ずら。マルもこの眺めは大好きずらよ」
「だろうな。できれば働かずにここで毎日ぼんやり茶を啜っていたくなるくらいだ」
「オ、オラはそんなことは考えていないずら。でも……」
「?」
「おじいちゃんやおばあちゃんになっても、二人でこうしていられたらいいですね」
「……ああ」
未来を見つめる彼女の瞳はやけに輝いていて見えて、その煌めきは胸をどくんと大きく高鳴らせた。
無意識のうちに、その頬に手が伸びてしまう。
彼女は優しくそれに応じ、そっと目を閉じた。
「…………」
「…………ん」
重なった唇から彼女の気持ちが流れ込んでくる気がした。
いつからかはわからないが、長い間ずっと探していたものを見つけたような……そんな甘やかな気持ちが胸の中を満たしていった。
「八幡さん。……もう一回」
「……ああ」
夜の帳が下りた町には、いつの間にかまんまるい月がぼんやりと光っていた。