捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #59

「ねぇ、花丸ちゃんは最近比企谷さんと……どう、なの?」

「ずらっ!?」

 

 ルビィちゃんからのいきなりな質問に驚きを隠せない。

 その表情を確認すると、教室で少女漫画を読んで、きゅんとした表情をしていた子にそっくりだった。

 

「どうしたずらか?い、いきなり……」

「えっと……あのね?作詞とかの参考になるかもって……」

「作詞……ずらか」

「うん。とにかく、この空気を何とかしないと……」

「そ、そうずらね」

 

 黒澤家の空き部屋を満たすピリピリした空気。

 その空気の原因は、他ならないマル達にありました。

 千歌ちゃん達だけに曲作りの負担はかけられない、というわけで、一年生と三年生で曲作りを始めたのですが、テーマを決める段階から話が噛み合わずに、マル達の間には険悪な雰囲気が漂っています。

 それで何とかしようとしているのですが……

 

「でも、マルと八幡さんの事を話したって……のろけにしかならないずら」

「……のろけちゃうくらい仲良いんだね。花丸ちゃん……大人」

「そ、そういう意味じゃないずら~!」

 

 どうやらルビィちゃんの頭の中のほうが、マルよりずっと大人ずら……。

 

「でも、確かに気になるかな」

「ずらっ?」

 

 いつの間にか、果南さんがすぐ傍に来て、好奇心たっぷりの眼差しを向けてきます。

 

「スイートな話を聞けたら、作詞もはかどるかも♪」

 

 鞠莉さんも……す、すっごくニヤニヤしてるずら!

 

「ま、まあ、私といたしましては、人様の恋愛事情を根掘り葉掘り聞くような無粋な真似はしたくないのですが、曲作りの為とあらば、致し方ありませんわ」

 

 ダ、ダイヤさん……最もらしいことを言いながら、一番目が血走ってるずら……あと近いずら。

 

「落ち着きなさい、リトルデーモン達!」

 

 善子ちゃんが割って入ってくれる。さすが善子ちゃん、同じ人を好きになった同士ずら!

 

「まだ色々聞くのは早いわよ!何故ならまだ、この堕天使ヨハネにも逆転のチャンスがあるもの!」

「引っ込むずら~!」

 

 この前の感動は何だったのでしょうか。

 いや、でもオラも気をつけないといけないずら。この前、八幡さんと歩いていたら、金髪の綺麗な人が八幡さんを見てたし、ロケに来た銀髪のアイドルさんも八幡をじっと見て頬を染めてたし、道路を走っている戦車から八幡を見下ろしている金髪の女の子もいました。むむむ……

 

「は、花丸ちゃん?」

「目が怖いですわ……」

 

 *******

 

「それで、曲作りは進まなかったのか」

「ずらっ。でも、明日こそはテーマを決めるずら」

「そっか」

「はい……あの……」

 

 花丸はそっと手を差し出してくる。最近、人通りが少なくなってくると、手を繋いで歩くのが習慣になった。まだ汗ばむ季節といえども、彼女の手の温もりは、優しく心を包んでくれる。

 風が彼女の頬を撫で、茶色がかった髪を揺らしたその時、何故だかいつもより大人びて見えた。

 

「どうかしたずらか?」

「いや、な、何でもない」

 

 別に疚しい事などないのに、つい噛んでしまう。

 そして、彼女はそれを聞き逃さなかった。

 

「怪しいずら~。ほ、本当は……」

「……本当は?」

「その……えと……うぅ……八幡さんはいやらしいずらっ」

「い、いきなりどうした……?」

 

 俺、何も言ってないんだけど……まあ、はずれとは言わないが。

 花丸は頬を赤く染め、チラチラとこっちを窺い……

 

「ずらっ」

「っ!」

 

 いきなりがしっと腕にしがみついてきた。

 肘の辺りに、豊満な膨らみが惜しみなく押しつけられ、なんかメーターみたいなのが頭の中で振りきりそうなイメージが沸く。

 すると、彼女はすぐに離れ、両頬を抑えうずくまった。

 

「あわわ……やっぱりこっちはまだ恥ずかしいずらぁ……」

「…………」

 

 多分、彼女なりに関係を進めてくれようとしているのだろう。今日、周りから聞かれて、色々考えたのかもしれない。

 その健気さがたまらなく愛しくなり、そっと彼女の髪を撫でる。

 

「あ……」

「…………」

 

 さらさらの髪から淡く甘い香りが漂い、このままいつまでもこうしていたくなる。これも恋とかいうあやふやな感情なのかもしれない。

 彼女はうずくまったまま、こちらを見上げてくる。その様子が、何だか子犬みたいで頬が緩んだ。

 しばらくして、俺達は再び手を繋ぎ、夏の名残のような温かい夕暮れの中を歩いた。

 


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