捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #58

 やがて夏休みは終わり、二学期をを迎えた。去年は総武高校で文化祭や体育祭や、クリスマスのイベントに終われていたが、今年は夏休みと変わらず受験勉強をやるだけだ。

 そんな代わり映えのしない二学期初日の夜、まさかの事実を知った。

 

「統廃合が決定?」

「うん」

 

 夕食中、珍しく真面目なテンションで切り出した小町が、残念そうに頷く。どうやら浦の星女学院の統廃合が濃厚になっているそうだ。

 俺はすぐに彼女の顔を思い浮かべた。

 Aqoursがあれだけ廃校阻止に向けて頑張っていたことを考えれば、どれだけショックかは容易に想像がつく。

 

「お兄ちゃん?」

「……いや、何でも」

「そう……花丸ちゃん、落ち込んでると思うから励ましてあげてね」

 

 何この妹!あっさりマインドスキャンしちゃったよ!ここまで来たらもう逆らえなくなるよね、罰ゲームされちゃうもん!

 高校生活初の二学期に迎えた可愛い妹の、小さな成長を目の当たりにしながら、俺は花丸に会う時の事を考えた。

 そんな事情も優しく包むように、内浦の夜は今日も穏やかに流れていた。

 

 *******

 

「マル達は諦めないずら!」

 

 夕食後、彼女に電話したら、開口一番そんな言葉が返ってきた。もし俺じゃなかったら、どうするつもりだったんですかね。もしかして、こっちはヴィジョンアイでも習得したのだろうか。マジかよ、もしかしたら黒澤妹や津島まで特殊能力持ちなんじゃねえの?どんなキセキの世代だよ……。

 

「あっ、いきなりごめんなさいずら……」

「いや、大丈夫だ……意外と元気そうだな」

「はいっ、落ち込んでる場合じゃないずら」

 

 こちとら、慣れない励ましの言葉を送るべく、授業そっちのけで百通りは頭の中でシミュレーションしたんだが……ちなみに、どれもポカンとした表情をされた。やはり日頃の積み重ねって大事だと思うの。

 そして、花丸はいつもより弾んだ声で話を続けた。

 

「千歌ちゃん達と決めたから……絶対に奇跡を起こそうって」

「……そっか」

「八幡さん。見ててください!」

「ああ……応援してる」

 

 どうやら俺が心配することなど、何もなさそうだ。とはいえ彼氏の立場上、このまま通話を終えるのも寂しいものがある。

 その電話越しにもわかる曇りのない笑顔に、俺は伝えるべき言葉を探した。

 そして、不思議とその言葉は浮かんできた。

 

「まあ、あれだ……お前、普段の行いが良さそうだから、奇跡くらい起きるんじゃねえの?そ、その……」

「?」

「俺みたいに大して普段の行いが良くない奴が……お、お前と……出会えたわけだし……」

「…………」

 

 夏の夜風が緩やかに沈黙を撫でていく。

 あれ?もしかして滑った?いや、ウケとか狙ってないからね?てか、思いつくまま喋ったら、すごい恥ずかしい事言ってるんだけど!穴があったら入りたい!

 羞恥のあまり、汗が噴き出すのを感じていると、向こうからも反応があった。

 

「あわわ……あ、あの、八幡さん……いきなり、そんなこと言われたら……照れちゃうずら……」

「そうか……悪い」

「いえ、謝らないでほしいずら……嬉しかったですし」

 

 胸の奥に温かい光が灯るような幸せが湧き上がる。

 口元がにやつくのを、頑張って耐えるので精一杯だった。

 

「じゃあ……は、八幡さん。マルも聞いてほしい事があります……」

「……どうかしたのか?」

 

 聞き返すと、彼女は深呼吸してから、そっと言葉を紡いだ。

 

「えっと…………あの……あのあの…………大好き、です」

 

 心を何かが貫く音がした。胸の高鳴りが、彼女に聞こえるんじゃないかと、心配になった。

 そして、危うく脳が蕩けそうになるのを必死でこらえた。

 

「い、いきなり、そんなこと言われたら照れるんだが……」

「ふふっ、仕返しずらよ~」

「そっか……なら仕方ないな」

「…………」

「…………」

 

 再び沈黙が訪れる。しかし、そこに気まずさはなく、少しくすぐったい居心地の良さがある。

 数秒間、それをじっくり味わった後、彼女の方から口を開いた。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「……おう、それじゃあ」

 

 通話を終えると、ぱっと入れ替わるかのように静寂が訪れる。しかし、耳元にはしばらくの間、じんわりと熱が残っていた。

 俺は頬の火照りを冷ますべく、窓を開け、夜風を浴びた。

 

 *******

 

「……あわわ、か、顔が熱いずら~!」


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