捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

61 / 92
青春の影 ♯54

「アンタ、バカァ!?」

「ずらっ……」

 

 どこかで聞いたような言葉でマルを叱るのは善子ちゃん。二人っきりになった時、告白のことを話したら、何故かいきなり怒り出しました。

 彼女はマルの肩をガクガク揺さぶりながら、謎の怒りをぶつけてくる。

 

「さっさと既成事実を作りなさいよ!」

「…………」

 

 善子ちゃんは八幡さん絡みの事となると、やっはりどこかおかしくなるずら。

 そ、それに、き、き、既成事実だなんて……!

 

「善子ちゃん、破廉恥ずら」

「私は堕天使よ!まったく……せめてキスくらい済ませなさいよ!例えばこんな感じで……」

 

 *******

 

「ねえ、八幡……目、閉じて」

「善子……」

「んっ……もう、不意打ちなんてずるいわ……私からしようと思ってたのに……」

「悪いな。でも、俺からしておきたかったから」

「じゃ、じゃあ、次は私から……ん」

 

 *******

 

「何で相手が善子ちゃんになってるずら~!」

「おっといけないわ。でも、こっちの方が……」

「善子ちゃん……」

「わ、わかったわよ!じゃあ、こんなのはどう?」

 

 *******

 

「うゆ……「ストップずら。今度はルビィちゃんになってるずら」

「つい試したくなったの」

「むぅ~……」

「と、とにかく!友達以上恋人未満なんて、甘っちょろいこと言ってないで、キチンとくっつきなさいって事よ!……じゃなきゃ、私が諦めた意味ないじゃない」

「……善子ちゃん」

 

 善子ちゃんは、夏祭りの前の夜にマルを呼び出して、『アンタら早くくっつきなさいよ!』と言い、それ以来、八幡さんへのアプローチを止めました。理由を聞いたりはできなかったけど、マルは黙って頷き、善子ちゃんを抱きしめました。

 

「ああ、もう!そんな回想はいいから、ほら、そろそろ練習再開するわよ!」

「あ、うん」

 

 前を歩く善子ちゃんの背中に、マルは心の中で「ありがとう」と呟きました。

 

 *******

 

 今日やる予定だった範囲まで終えると、スマホを起動させ、花丸に電話をかける。自分が日課のように誰かに電話する日が来るなんて、思いもしなかった。

 そんなことを考えていると、すぐにその声は聞こえてきた。

 

「あ、えと、八幡さん、こんばんは……」

「……おう、なんかテンパってるな」

「ずらっ……きょ、今日はお腹の調子が……」

「…………」

 

 明らかに嘘っぽい響きがして、ツッコんでいいものかどうか迷ってしまう。

 ……いや、迷ってても仕方ないか。

 

「それで……どうしたんだ?」

「うぅ……やっぱり、バレてるずら」

「いや、別に無理には聞かないが、まあ、言って楽になることもあるらしいぞ」

「八幡さん……」

 

 しばしの沈黙。やわらかな吐息の音が、電話越しに耳をくすぐってくるのが心地良くて、この空白も意味あるものに思えてしまう。

 やがて、前置きのような咳払いの音が聞こえ、彼女が言葉を紡いだ。

 

「……わかりました……八幡さん」

「…………」

「マ、マルに……キスしてください」

「……………………は?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。