捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「アンタ、バカァ!?」
「ずらっ……」
どこかで聞いたような言葉でマルを叱るのは善子ちゃん。二人っきりになった時、告白のことを話したら、何故かいきなり怒り出しました。
彼女はマルの肩をガクガク揺さぶりながら、謎の怒りをぶつけてくる。
「さっさと既成事実を作りなさいよ!」
「…………」
善子ちゃんは八幡さん絡みの事となると、やっはりどこかおかしくなるずら。
そ、それに、き、き、既成事実だなんて……!
「善子ちゃん、破廉恥ずら」
「私は堕天使よ!まったく……せめてキスくらい済ませなさいよ!例えばこんな感じで……」
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「ねえ、八幡……目、閉じて」
「善子……」
「んっ……もう、不意打ちなんてずるいわ……私からしようと思ってたのに……」
「悪いな。でも、俺からしておきたかったから」
「じゃ、じゃあ、次は私から……ん」
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「何で相手が善子ちゃんになってるずら~!」
「おっといけないわ。でも、こっちの方が……」
「善子ちゃん……」
「わ、わかったわよ!じゃあ、こんなのはどう?」
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「うゆ……「ストップずら。今度はルビィちゃんになってるずら」
「つい試したくなったの」
「むぅ~……」
「と、とにかく!友達以上恋人未満なんて、甘っちょろいこと言ってないで、キチンとくっつきなさいって事よ!……じゃなきゃ、私が諦めた意味ないじゃない」
「……善子ちゃん」
善子ちゃんは、夏祭りの前の夜にマルを呼び出して、『アンタら早くくっつきなさいよ!』と言い、それ以来、八幡さんへのアプローチを止めました。理由を聞いたりはできなかったけど、マルは黙って頷き、善子ちゃんを抱きしめました。
「ああ、もう!そんな回想はいいから、ほら、そろそろ練習再開するわよ!」
「あ、うん」
前を歩く善子ちゃんの背中に、マルは心の中で「ありがとう」と呟きました。
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今日やる予定だった範囲まで終えると、スマホを起動させ、花丸に電話をかける。自分が日課のように誰かに電話する日が来るなんて、思いもしなかった。
そんなことを考えていると、すぐにその声は聞こえてきた。
「あ、えと、八幡さん、こんばんは……」
「……おう、なんかテンパってるな」
「ずらっ……きょ、今日はお腹の調子が……」
「…………」
明らかに嘘っぽい響きがして、ツッコんでいいものかどうか迷ってしまう。
……いや、迷ってても仕方ないか。
「それで……どうしたんだ?」
「うぅ……やっぱり、バレてるずら」
「いや、別に無理には聞かないが、まあ、言って楽になることもあるらしいぞ」
「八幡さん……」
しばしの沈黙。やわらかな吐息の音が、電話越しに耳をくすぐってくるのが心地良くて、この空白も意味あるものに思えてしまう。
やがて、前置きのような咳払いの音が聞こえ、彼女が言葉を紡いだ。
「……わかりました……八幡さん」
「…………」
「マ、マルに……キスしてください」
「……………………は?」