捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯48

「あっ、比企谷さんだー♪」

 

 高海が朝の光に目を細めながら、こちらにてとてとと駆け寄ってくる。この雰囲気は何というか、あざとさのない一色という感じだ。

 

「今日は手伝ってくれるんですか?」

「いや、一人で寂しそうな花丸の話し相手をしてただけだ。だからそろそろ……」

「え……帰っちゃうずらか?」

 

 水着姿の花丸が、やや距離を詰め、上目遣いに見つめてくる。あらやだ、どこでそんなの覚えて来たんでしょうね、この子は……。

 そんな目で見られたら、帰るに帰れないんだが……。

 

「あれ?なんか花丸ちゃん、雰囲気違わない?」

「千歌ちゃん。いい子だから、そっとしてあげようね」

「え~!?またその扱い~!?」

「あははっ、まあ千歌にはまだ早いかな」

「果南ちゃんまで~!?」

 

 子供扱いされすぎだろ……千歌ちゃん、ファイトだよ!

 

「八幡さん……」

 

 その瞳の色が何を意味するのか、わからぬままに花丸に返事をする。

 

「わ、わかった、重いもん持つのだけ手伝って、午後から客として行く……」

「ありがとうずら♪」

 

 ぱあっと笑顔になる花丸が、ようやく普段の調子に戻ってきたのを感じ、つい頬が緩んだ。

 そこで松浦が手をぱんっと叩き、こちらに合図をした。

 

「じゃ、比企谷君も手伝ってくれるみたいだし、千歌の家から、用意しておいた食材運ぼっか」

 

 *******

 

 手伝いを終え、一旦家に帰り、午後に海の家へ戻ると、既にそこは多くの人で賑わっていた。

 ここから見える範囲に、明らかに若者受けを狙った、小洒落た外観の海の家が見えるが、そちらにも負けてないくらいだ。

 2つの海の家を見比べていると、中から声をかけられる。

 

「いらっしゃいませ~、あ、比企谷君来たね」

「お、おう……」

 

 店から偶々顔を出した松浦が出てきたのだが……。

 

「どうかしたの?」

「……い、いや……」

 

 松浦はグリーンのビキニを着用しているのだが、さっき見た花丸のと比べると、肌の露出がやたら多く、とにかく目のやり場に困る。

 さらに、本人はそんなことは特に気にもしていないようで……。

 

「ほらほら、早く入りなよ。花丸ちゃんもいるから」

「あ、ああ……」

 

 松浦にぐいぐい背中を押され、中に入ると、花丸はちょうど焼きそばを客のテーブルに運ぼうとしていた。

 てかあれ……載せすぎじゃないか?

 数秒後の状況があっさりイメージ出来たので、さり気なく彼女の傍へ向かう。

 

「いらっしゃいま……あ、八幡さん!っあわわ……!」

「っと……」

 

 バランスが崩れかけたお盆を抑え、ほっと安堵の息を吐く。ここまで予想通りとは……この腐り目にもヴィジョンアイが宿ったのかもしれない。

 

「ご、ごめんなさいずら……」

「載せすぎなんだよ。上2つだけ運んどく」

「え?でも……」

「いいから」

 

 焼きそばを運び、空いている席に座ると、花丸が申し訳なさそうな顔で、トコトコ歩いてきた。

 

「八幡さん。さっきはありがとうございます。これ食べるずら♪」

「ああ……何だ、それ?」

「朝手伝ってくれたお礼ずら。曜ちゃん特製『ヨキソバ』、善子ちゃん特製『堕天使の涙』鞠莉ちゃん特製『シャイ煮』ずらよ」

「…………」

 

 ヨキソバ以外、何だかやばい。何がやばいって、やばそうでやばい。

 

「なあ、これ……大丈夫なのか?」

「み、見た目はあれですけど、美味しいずらよ!……多分」

「……多分って言わなかったか?」

「知らないずらよ~。ささっ、どうぞ」

「…………」

 

 ……まあ、飲食店で出してる物だし、食えないわけないだろ。

 俺はいつぞやの木炭クッキーを食う時の気分でタコ焼きを口に含んだ。

 

「ん……………………っっ~~~!!!!!」

 

 つ、津島……何を入れた……!?

 舌を焼き尽くすような恐ろしい辛さに、俺はMAXコーヒーの甘さが心から恋しくなった。

 


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