捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「あっ、比企谷さんだー♪」
高海が朝の光に目を細めながら、こちらにてとてとと駆け寄ってくる。この雰囲気は何というか、あざとさのない一色という感じだ。
「今日は手伝ってくれるんですか?」
「いや、一人で寂しそうな花丸の話し相手をしてただけだ。だからそろそろ……」
「え……帰っちゃうずらか?」
水着姿の花丸が、やや距離を詰め、上目遣いに見つめてくる。あらやだ、どこでそんなの覚えて来たんでしょうね、この子は……。
そんな目で見られたら、帰るに帰れないんだが……。
「あれ?なんか花丸ちゃん、雰囲気違わない?」
「千歌ちゃん。いい子だから、そっとしてあげようね」
「え~!?またその扱い~!?」
「あははっ、まあ千歌にはまだ早いかな」
「果南ちゃんまで~!?」
子供扱いされすぎだろ……千歌ちゃん、ファイトだよ!
「八幡さん……」
その瞳の色が何を意味するのか、わからぬままに花丸に返事をする。
「わ、わかった、重いもん持つのだけ手伝って、午後から客として行く……」
「ありがとうずら♪」
ぱあっと笑顔になる花丸が、ようやく普段の調子に戻ってきたのを感じ、つい頬が緩んだ。
そこで松浦が手をぱんっと叩き、こちらに合図をした。
「じゃ、比企谷君も手伝ってくれるみたいだし、千歌の家から、用意しておいた食材運ぼっか」
*******
手伝いを終え、一旦家に帰り、午後に海の家へ戻ると、既にそこは多くの人で賑わっていた。
ここから見える範囲に、明らかに若者受けを狙った、小洒落た外観の海の家が見えるが、そちらにも負けてないくらいだ。
2つの海の家を見比べていると、中から声をかけられる。
「いらっしゃいませ~、あ、比企谷君来たね」
「お、おう……」
店から偶々顔を出した松浦が出てきたのだが……。
「どうかしたの?」
「……い、いや……」
松浦はグリーンのビキニを着用しているのだが、さっき見た花丸のと比べると、肌の露出がやたら多く、とにかく目のやり場に困る。
さらに、本人はそんなことは特に気にもしていないようで……。
「ほらほら、早く入りなよ。花丸ちゃんもいるから」
「あ、ああ……」
松浦にぐいぐい背中を押され、中に入ると、花丸はちょうど焼きそばを客のテーブルに運ぼうとしていた。
てかあれ……載せすぎじゃないか?
数秒後の状況があっさりイメージ出来たので、さり気なく彼女の傍へ向かう。
「いらっしゃいま……あ、八幡さん!っあわわ……!」
「っと……」
バランスが崩れかけたお盆を抑え、ほっと安堵の息を吐く。ここまで予想通りとは……この腐り目にもヴィジョンアイが宿ったのかもしれない。
「ご、ごめんなさいずら……」
「載せすぎなんだよ。上2つだけ運んどく」
「え?でも……」
「いいから」
焼きそばを運び、空いている席に座ると、花丸が申し訳なさそうな顔で、トコトコ歩いてきた。
「八幡さん。さっきはありがとうございます。これ食べるずら♪」
「ああ……何だ、それ?」
「朝手伝ってくれたお礼ずら。曜ちゃん特製『ヨキソバ』、善子ちゃん特製『堕天使の涙』鞠莉ちゃん特製『シャイ煮』ずらよ」
「…………」
ヨキソバ以外、何だかやばい。何がやばいって、やばそうでやばい。
「なあ、これ……大丈夫なのか?」
「み、見た目はあれですけど、美味しいずらよ!……多分」
「……多分って言わなかったか?」
「知らないずらよ~。ささっ、どうぞ」
「…………」
……まあ、飲食店で出してる物だし、食えないわけないだろ。
俺はいつぞやの木炭クッキーを食う時の気分でタコ焼きを口に含んだ。
「ん……………………っっ~~~!!!!!」
つ、津島……何を入れた……!?
舌を焼き尽くすような恐ろしい辛さに、俺はMAXコーヒーの甘さが心から恋しくなった。