捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯46

「ど~も~……」

 

 彼女は俺と花丸を交互に見比べながら、距離を詰めてくる。特に、花丸を見るときには、ぱっちりした目をさらに見開いていた。

 花丸も、その視線を受け止めながら、時折こちらに視線を向けた。

 その視線の意味するところを心の何処かで理解しながら、俺は一色に声をかけた。

 

「一色……だよな?」

 

 あまりに意味のない問いかけに、彼女はジト目を向けてきた。

 

「他に誰に見えるんですか?それとも、海の綺麗な街の暮らしで、千葉のことはすっかり忘れちゃいましたか?」

「バッカ、お前。俺の千葉愛舐めんなよ。千葉の凄さを内浦に広めてるぐらいだ」

「ふ~ん、そうですか…………それで」

 

 俺の言葉には興味なさげに頷いた一色は、俺の耳元に艶々した唇を寄せてきた。

 

「あの可愛い子は誰ですか?もしかして~先輩の新しい彼女さんですかぁ~?」

 

 いつかのような、あからさまな怖い声を作ってはあえないが、それでもあざとい声の向こうに威圧感のようなものを感じる。

 どっちにしろ怖っ!いろはす怖っ!

 

「……むぅ」

 

 視界の端では、花丸がこちらを見ているのがわかる。

 こちらからも言いようのない圧を感じた。

 とりあえず一色から距離をとり、二人の間に立ち、紹介するべく口を開く。

 

「新しい彼女も何も、彼女がいたことねえよ……ああ、あれだ。こっちが俺が通ってた学校の後輩で生徒会長の一色いろはで、こっちが小町と同じ学校で同じクラスの国木田花丸だ」

「「初めまして」」

 

 二人共、まったく同じタイミングで頭を下げる。声もまったく同じトーンだ。どことなく険を感じるのは気のせいのはず。みんな仲良し!

 

「先輩もやりますねぇ~静岡に引っ越して数ヶ月でこんな可愛いお友達ができるなんて♪」

「か、可愛いだなんて、オラ……」

「オラ?」

「ずらっ!あわわ……」

「先輩、この子超可愛いんですけど」

「そ、そうか……てか、いつ来たんだ?」

「今日ですよ。家族旅行で来ました」

「え?お前、家族旅行とか参加するタイプなの?」

「参加しないタイプがあるのを今初めて知ったんですけど……」

「八幡さん……」

 

 今度は二人して、俺に呆れたような眼差しを向けてきた。何だよ、いきなり。これが女の連帯感なのか。困るね、先輩。とても……。

 このやりとりで多少は緊張がほぐれたのか、花丸は意を決したように、一色に話しかけた。

 

「あの……一色さんは、家族旅行で先輩に会いに来たずらか?」

「え?や、やだなあ!そんなわけないじゃないですか~!先輩に会いに来たのはついでですよ、ついで!」

 

 ついでの部分を強調しながら、こちらをチラチラ見た。いや、わかってるからね?

 そして、気を取り直すようにかぶりを振った一色は、少しだけ真面目な顔になった。

 

「先輩。伝言です」

 

 誰から、なんて聞くまでもなかった。

 

「『私はもう大丈夫だから。ありがとう』だそうです」

「……そっか」

 

 その言葉に、心の中でずっと沈んでいた何かが、何処かへ飛んで行った気がした。

 思わぬタイミングで聞けた、思いがけない言葉。

 自然と口元は緩んでいた。

 

「……次はあいつらと来いよ。ここ、結構いい街だから、案内してやる」

「……はい。じゃあ、そろそろ行きますね。花丸ちゃんも、またね」

「あ、はい!」

 

 少し離れた所にいる家族と合流する一色を見送り、ゆっくり歩き出すと、花丸に服の裾を掴まれた。

 

「どした?」

「……あの、何て言えばいいのかわからないずら……でも……お疲れ様です」

「……ああ、ありがとな」

 

 帰り道、祭りの熱気から遠ざかるにつれ、夜風は涼しくなった。

 


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