捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯45

 八幡さんのあの写真を見て、マルの胸の中は、ひどくざわついていました。

 八幡さんの話は信じられるのですが、胸の奥では何かがくすぶり続けていました。

 今まで感じたことのない気持ち。

 自分が……特別に想われたいという願い。

 彼が自分を見てくれているのか、という不安。

 そこには、抑えられない何かがありました。

 そして、それはマルに一つの決心をさせました。

 

 *******

 

 花火は定刻通りに上がり始め、夜空に綺麗な彩りを添えていた。やけに広く感じる沼津の夜空を見上げながら、時折、花丸の横顔を盗み見た。

 その横顔は、出店のほんのりとしたオレンジの灯りや、花火の鮮やかな輝きに照らされ、普段よりずっと大人びて見えた。

 

「……八幡さん?」

「いや、何でもない」

 

 ……思わず見とれてしまっていた。

 小町と同い年なこともあり、ついつい妹のように接してしまう時もあるけど。

 当たり前のことだがら、やっぱり妹ではなく……。

 

「綺麗ずら~」

「あ、ああ……」

 

 無邪気な声と共に、彼女のくりくりした瞳がこちらを向く。

 今度は何も聞かれることはなく、声と同じような無邪気な瞳を向けられた。

 

「「…………」」

 

 そのまま花火の音とざわつく人の声をBGMに、じっと見つめ合う。

 視線を逸らせなかったのは、ただ動けないだけじゃない気がした。

 花丸は自分の胸に手を当て、ゆっくりと口を開いた。

 

「八幡さん」

「……どした?」

「ちょっと耳を貸して欲しいずら。このままだと聞こえづらいと思うから」

 

 声なら今でもしっかりと聞こえているが、黙って従うことにした。

 小柄な彼女に耳を寄せるため、身をかがめる。

 そして、彼女の顔が近づく気配を感じ、何を言われるのかと身構えていると……

 

「…………ん」

「っ!」

 

 頬に触れた柔らかな感触。

 ふわりと包み込むような甘い香り。

 慌てて顔を離し、花丸を見ると、彼女は何事もなかったかのように、花火を見上げていた。

 ……気のせい、じゃないよな?

 右の頬に手を当てる。

 もちろん、そこには何も残ってはいないが、確かな感触だけは刻まれていた。

 

 *******

 

 人波の流れに乗り、帰り道を彼女と並んで歩く。

 花火が終わったら、途端に周りのざわめきも遠くなった気がする。

 そう思える原因は、他にもあるのだが……

 

「……今日はありがとうございます」

「いや、案内してもらったのは俺だから……」

「…………」

「…………」

 

 花丸は、今さらながら顔を赤くしていた。

 それは、先程の甘やかな感触が何だったのかを遠回しに告げていた。

 さっきから続いていた胸の高鳴りは、激しさを増していく。

 気がつけば、周りの人波はかなり減っていて、俺達の周りはぽっかりと空いていた。

 

「あの、八幡さん……」

「?」

「オラ……マルは、その内聞いて欲しいことが……」

「あっ、先輩見~つけた♪」

 

 突然響いてきた聞き覚えのある声。

 可愛いさを意識したトーンの、あざと可愛い声。

 もしやと思い、振り向くとそこには……

 

「一色……」

 

 半年前より伸びた亜麻色の髪。

 背はそんなに変わって見えないが、身に纏う雰囲気は、どこか自信ありげに見える。

 総武高校生徒会長・一色いろは。彼女は、俺と……隣にいる花丸を交互に見て、何とも言えない表情を見せた。

 

 

 

 

 

 


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