捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯44

「ずらぁ……明日会ったら、何言われるかわからないずら……」

「……まあ、頑張れ」

「むぅ……他人事みたいずら」

「いや、俺は会う機会が少ないからな」

「ずるいずらよ~……」

 

 何とか二年生組から逃げた俺達は、花火を見るのに良い場所取りを考えながら、何ともいえない空気を味わっていた。

 この手の事に関しては、鈍感どころか敏感だ。だからこそ人より早く意識してしまったり、意識しないよう距離をとったりもする。

 ところが今はどうだ。

 花丸といると、ついそんな壁を取っ払われてしまっている。

 あの無邪気さの前には、俺でなくてもそうなりそうだが……うっかり材木座の中二病も治っちゃいそう。無理か。無理だな。

 そんな事を考えていると、ポケットのスマホが震えた。

 画面を確認すると……知らんアドレスだ。しかも画像付き。

 誰かがアドレスを変えたのかと思い、とりあえず開いてみると、とんでもないものが表示された。

 

「ぶふぉっ!……げほっ、げほっ!」

「は、八幡さん!?どうしたずら!?」

「いや、何でも……っ!」

 

 咽せて咳き込んだせいか、手を滑らせ、スマホが地面に落ち、花丸の足元へと滑っていく。

 彼女はそれをすぐに拾い上げた。

 

「あ、八幡さん!こ……れ……」

 

 花丸は表情が中途半端な笑顔で固まり、その視線はただひたすらスマホの画面に注がれる。

 数十秒経ってから、その口が小さく開き、そこに書かれた文章を読み上げた。

 

「お久しぶりです、先輩。懐かしい写真を見つけたので送っちゃいます♪……一色いろは」

 

 そう。メールの送り主は総武高校生徒会長・一色いろは。

 そして、メールに添付されていた画像は、彼女のデートのシミュレーションだか何だかで立ち寄った喫茶店にて撮影したツーショット写真だった。

 

「……ああ、それは、あれだ。千葉で後輩と撮ったやつだ」

 

 何だろう……。

 一色とは全然そういう関係じゃないし、やましい事など一切ないのだが、何故か言い訳してるような気分になる。

 花丸は矯めつ眇めつ画面を見た後、そっとスマホを返してきた。

 そして、いきなりぎゅっと手を繋いできた。

 突然のひんやりした小さな手の感触に驚いていると、彼女は上目遣いで切なげな瞳を向けてくる。

 

「マルは……今の八幡さんを見ているから」

「……あ、ああ」

 

 そのあまりに儚げな雰囲気に何も言えずにいると、突如ジト目に変わり、別の意味で何も言えなくなる。

 

「ちなみに、この綺麗な人とはどのような関係かお聞かせ願えますでしょうか?」

「マルさん?口調が変わっている気がするんですが」

「そんな事ないずらよ~」

「マルさん、さっきから爪が食い込んで手が痛いんですけど」

「気のせいずらよ~」

 

 ていうか聞くのかよ。別にいいんだけどさ……。

 結局、花火大会が始まるまで、俺は花丸に千葉でのことを事細かに話す羽目になった。


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