捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「ずらぁ……明日会ったら、何言われるかわからないずら……」
「……まあ、頑張れ」
「むぅ……他人事みたいずら」
「いや、俺は会う機会が少ないからな」
「ずるいずらよ~……」
何とか二年生組から逃げた俺達は、花火を見るのに良い場所取りを考えながら、何ともいえない空気を味わっていた。
この手の事に関しては、鈍感どころか敏感だ。だからこそ人より早く意識してしまったり、意識しないよう距離をとったりもする。
ところが今はどうだ。
花丸といると、ついそんな壁を取っ払われてしまっている。
あの無邪気さの前には、俺でなくてもそうなりそうだが……うっかり材木座の中二病も治っちゃいそう。無理か。無理だな。
そんな事を考えていると、ポケットのスマホが震えた。
画面を確認すると……知らんアドレスだ。しかも画像付き。
誰かがアドレスを変えたのかと思い、とりあえず開いてみると、とんでもないものが表示された。
「ぶふぉっ!……げほっ、げほっ!」
「は、八幡さん!?どうしたずら!?」
「いや、何でも……っ!」
咽せて咳き込んだせいか、手を滑らせ、スマホが地面に落ち、花丸の足元へと滑っていく。
彼女はそれをすぐに拾い上げた。
「あ、八幡さん!こ……れ……」
花丸は表情が中途半端な笑顔で固まり、その視線はただひたすらスマホの画面に注がれる。
数十秒経ってから、その口が小さく開き、そこに書かれた文章を読み上げた。
「お久しぶりです、先輩。懐かしい写真を見つけたので送っちゃいます♪……一色いろは」
そう。メールの送り主は総武高校生徒会長・一色いろは。
そして、メールに添付されていた画像は、彼女のデートのシミュレーションだか何だかで立ち寄った喫茶店にて撮影したツーショット写真だった。
「……ああ、それは、あれだ。千葉で後輩と撮ったやつだ」
何だろう……。
一色とは全然そういう関係じゃないし、やましい事など一切ないのだが、何故か言い訳してるような気分になる。
花丸は矯めつ眇めつ画面を見た後、そっとスマホを返してきた。
そして、いきなりぎゅっと手を繋いできた。
突然のひんやりした小さな手の感触に驚いていると、彼女は上目遣いで切なげな瞳を向けてくる。
「マルは……今の八幡さんを見ているから」
「……あ、ああ」
そのあまりに儚げな雰囲気に何も言えずにいると、突如ジト目に変わり、別の意味で何も言えなくなる。
「ちなみに、この綺麗な人とはどのような関係かお聞かせ願えますでしょうか?」
「マルさん?口調が変わっている気がするんですが」
「そんな事ないずらよ~」
「マルさん、さっきから爪が食い込んで手が痛いんですけど」
「気のせいずらよ~」
ていうか聞くのかよ。別にいいんだけどさ……。
結局、花火大会が始まるまで、俺は花丸に千葉でのことを事細かに話す羽目になった。