捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
夏祭りが近づくにつれ、Aqoursを巡る状況が一変した。
過去のわだかまりを乗り越えた、黒澤姉・松浦・小原の三人が、Aqoursに加入したらしい。まあ、その辺りの細かい事情に関しては、部外者の俺は知る必要がないことだ。黒澤姉がさり気なくメンバーを誘導していた事実を花丸から聞いた時は、つい吹き出してしてしまったが……。
その花丸を含めた数人で夏祭りに行くという約束も、気がつけばすぐそこまで来ていた。
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夏祭り当日。
9人になって初めてのライブは、祭りの主催者側からの気の利いた演出もあり、花火目当ての観光客も見入ってしまうような素晴らしいものになった。まさか演出の為に花火を打ち上げてくれるとは……。
小町と並んで観ていた俺も、しばらくその場から動けずにいたくらいだ。自然と花丸に目が引きつけられてしまったが。
そして、今は待ち合わせ場所に選んだ休憩所で、小町と並んで座っている。
「お兄ちゃん……すごかったね」
「……ああ」
「花丸ちゃんとはもう付き合ってるの?」
「おい」
何、その話題転換。急すぎて、付き合ってると突き合ってるのどっちかわからなかったわー。
しかし、わかったところで小町の望む答えが出てくるわけではないが……。
「付き合ってないけど……」
「ふむふむ。気にはなっている、と」
「小町ちゃん。話聞いてた?あとお兄ちゃん、受験生なんだけど」
「あ、そだね。お兄ちゃん、もう受ける大学決めたんだよね」
「……ああ」
「は、八幡さん!」
振り向くと、可愛らしい緑色の浴衣に身を包んだ花丸が立っていた。
「わぁ、花丸ちゃん可愛い~♪」
花丸を褒めながらちらちら視線を向けてくる小町に睨まれ、俺は花丸に向き直る。
「……その、あれだ……似合ってるんじゃないか」
「あ、ありがとうございます……」
花丸は両手で頬を押さえながら、少しだけ俯く。
思わず頬が緩んでしまいそうな仕草を見ていると、黒澤姉妹が浴衣姿で現れた。
「お、お待たせしました……」
「今日はよろしくお願いしますね。小町さん、八幡さん」
「二人共、こっちこっち~♪」
珍しく一年生組の津島ではなく、黒澤姉が登場した。
そのことに関して花丸に聞こうかと思ったが、花丸の少し沈んだ表情を見て、飲み込んでしまった。
「じゃ、行こっか!」
小町の言葉に皆で頷き、ゆっくりと賑わいの中に混ざっていった。
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「おいしいずら~♪」
「……太るぞ」
「大丈夫ずら!」
花丸は右手にチョコバナナ。左手にたこ焼きの入ったトレーを持ちながら、自信満々に言い放った。いや、その自信はどこから来るんだよ。胸に全部栄養行くんですかね、ガ浜さんみたいに。最高かよ。
それと、当たり前のようにいなくなった三人。忍者かよ。
「八幡さんも食べてみるずら!」
花丸がたこ焼きを一つ、爪楊枝に突き刺して、こちらに差し出してきた。
「え、えーと、これは……」
「早く食べないと落ちちゃうずら~……」
「ああ、悪い……」
こんな場面が前にもあったような……なんて考えながら、たこ焼きを頬張る。
少し熱いが、それも構わないくらいに美味しい。
たが、やはり……
「ほえ~」
「あわわ……」
「ち、千歌ちゃん!ほら、たこ焼きだよ!梨子ちゃんもしっかりして!」
「…………」
「ずらっ!マ、マルは……その……!」
こういう事態は想定しておいた方がいいと思うの。