捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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プロローグ5

「そっかぁ~。入学者そんなに少ないんだ~」

 黒澤姉妹と別れた帰り道、隣りをとぼとぼ歩く小町がぼそっと呟く。

「俺なら喜んでるな」

「はいはい。ゴミぃちゃんゴミぃちゃん」

 人が少ない方が、その分トラブルも少ないと思うの。To LOVEるは一男子としては大歓迎だが。

「まあ、東京の学校でも廃校になる事があるんだ。人の少ない地域ならなおさらだろ」

「そりゃそうなんだけど、やっぱり寂しいよね」

「そういうもんか」

「そういうもんなの!さ、商店街でお買い物して帰ろっか」

 

 学生は春休みだが世間は平日。そんなわけで商店街の人通りは寂しいものがある。そう思いながらも決して嫌いではないのだが。人ごみ嫌いだし。

 そして、こんな場所に来ると何となく本屋を探してしまう自分がいる。お、さっそく発見。

「お兄ちゃん、スーパーはあっちだよ」

「ああ、少しだけ」

「もう、しょうがないなぁ。十分だけだかんね!」

「へいへい」

 小町のお許しをいただき、本屋の前まで行くと、俺に反応するより先に開いた自動ドアから、何かがそこそこの勢いで飛び出してきた。

「うおっ!」

 その小さな何かは、どすっと腹の辺りに突っ込んでくる。

「きゃっ!」

 突然の衝撃に耐えられず、背中から転んでしまう。咄嗟にその何かを庇うような形になった。

「つつ…………」

「うぅ…………」

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

 小町が駆け寄ってくる。

「ああ、何とか」

 頭は打っていないようだ。むしろ腹の方が痛い。

「ご、ごめんなさい」

 謝る声が聞こえてくる。

 その声でようやく、ぶつかってきたのが女だと理解した。そして、その響きは幼い。

 上半身だけよろよろと起こし、確認しようと顔を声の方へ向けると、驚きで変な声が出そうになった。

「…………」

 その少女(?)はマスクとサングラスで顔を完全武装していた。はっきり言って間近で見ると怖い…………。

 とりあえず人目気になるので、そろそろどいていただきたいところだ。

「あの…………」

「…………」

 声をかけても少女の方はピクリともせず、そのままの姿勢を保っている。サングラスの下の目がこちらに向けられているように思えるのは、気のせいではないだろう。

「……………………い」

「?」

 何か言ったようだが、マスクに閉じこめられた声はこちらまで届かない。

 ひとまず様子を窺っていると、サングラスがストンとずれて、ぱっちりとしたきれいな眼が露わになる。サングラスとマスクに気を取られ、気づかずにいたのだが、長い黒髪も先程の黒澤姉に引けをとらないくらい綺麗だし、お団子の部分もなんか懐かしい。お団子で由比ヶ浜を思い出してしまうからか。まだ引っ越して間もないけど。

 その二つの瞳は俺と目を合わせたまま固まっている。

 やがて俺の方が堪えきれずに目を逸らすと、少女が持っていたらしい紙袋から、ハードカバーの本が飛び出している。

「…………黒魔術?」

「え?あっ!」

 俺の上からどいた少女は慌てて本を拾い上げ、その場から逃げるように走り去っていった。

「「…………」」

 俺と小町はその背中を唖然として見送る事しかできなかった。

 

「ハァ……ハァ……」

 あの眼…………。

「ハァ……ハァ……」

 …………滅茶苦茶カッコイイ!!

「我が主…………いえ、あの人どこの学校なのかしら?」

 いや、それよりも先に自分の堕天使を捨てるのが先だ。こんな自分では絶対に引かれてしまう。一刻も早く変わらねば…………そして…………

「リア充に…………私はなる!」

 そう。浦の星女学院で私は生まれ変わる!

「…………この本、どうしよう」

 ま、まあ、持っててもいいわよね!

 




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