捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
俺が「どうも」と頭を下げると、花丸は、俺を自分の祖母に紹介した。
「あの、おばあちゃん。この人は比企谷八幡さんって言って、マルのクラスメイトのお兄さんずら」
「ああ、そうかい、そうかい……」
おばあさんは花丸と俺ににこやかな笑顔を向けてきた。
「マルちゃんにも恋人ができたんだねえ」
「っ!」
「なっ!?こ、こ、こ……」
おばあさんのいきなりな発言に、俺は呆気にとられ、花丸は「あわわ……」と言いながら、手をあたふたさせた。
「おばあちゃん、何言ってるずら~。こ、この人は小町ちゃんのお兄ちゃんで、マルのプロデューサーもやってくれた人で……」
「ああ~わかってるよ」
おばあさんはうんうんと頷き、さっきと変わらぬ笑顔のまま口を開く。
「マルちゃんにも恋人ができたんだねえ。青春だねえ」
「だから違うずら~!」
*******
そのまま帰るつもりだったのが、なし崩し的に花丸の家にお邪魔することになった俺は、国木田家の純和風というか、和そのものの住居内をキョロキョロと見回した。
「何か珍しい物でもあるずらか?」
「いや、落ち着くなって……」
花丸から出されたお茶を、礼を言って受け取り、ひと息に飲み干す。
「その、いきなりごめんなさいずら」
「何がだ?」
「……そ、その……おばあちゃんが、先輩とオラのこと……」
花丸の言わんとすることがわかり、頬をかいて誤魔化す……ことなどできるはずもなく、その場には何とも言えない静寂が訪れた。
外からは虫の声が幾重にも重なって響いているのに、それすらも遠かった。
先に沈黙を破ったのは花丸だ。
「あ、あの……八幡さん」
「?」
「八幡さんは……」
「比企谷君、今日はマルちゃんを送ってくれてありがとうね」
「ずらっ!?」
「っ!?」
うおお……驚きすぎて変な声が出そうになったわ……いつの間に入ってきたんだよ、この人……。
「び、びっくりしたずら……」
「ああ……」
「お菓子持ってきたよ」
「あ、ありがとうずら!」
皿に盛られたお菓子は、小さな鳥をかたどった饅頭のようだ。あれ、これどっかで見たことあるような……。
「東京名物、バックトゥザぴよこ万十ずら♪八幡さんにも食べて欲しいずら♪」
「……食うの久しぶりだな」
確か親父か母ちゃんが土産で買ってきた時に食って以来だな。
花丸のおばあちゃんにもお礼を言ってから、少しの間だけ、東京であった楽しい出来事の話を聞いた。
*******
外に出ると、さっきより夜は暗く深まり、街灯がなければ歩くのも困難になりそうだった。
「あの、今日はありがとうございました……」
「……いや、なんつーか……元プロデューサーだからな」
「ふふっ、マルは……あの時より少しは成長できてますか、元プロデューサーさん?」
「……ああ、少しじゃなくてずっと、だと思う。つーか、俺が批評することでもないが」
「でも、そう言ってもらえて嬉しいずら。その、八幡さんにはマルに夢中になってもらえるように……あ、いえ、今のはそういう意味ではなく!スクールアイドルとしてずら!」
「…………」
「ずらぁ……し、失礼しますずら~!」
花丸は俺に背を向け、猛スピードで自宅へと戻っていった。
その様子に呆気にとられた俺は、彼女が玄関の扉を閉めるのを確認してから、のろのろと帰路についた。