捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 ♯41

 

 俺が「どうも」と頭を下げると、花丸は、俺を自分の祖母に紹介した。

 

「あの、おばあちゃん。この人は比企谷八幡さんって言って、マルのクラスメイトのお兄さんずら」

「ああ、そうかい、そうかい……」

 

 おばあさんは花丸と俺ににこやかな笑顔を向けてきた。

 

「マルちゃんにも恋人ができたんだねえ」

「っ!」

「なっ!?こ、こ、こ……」

 

 おばあさんのいきなりな発言に、俺は呆気にとられ、花丸は「あわわ……」と言いながら、手をあたふたさせた。

 

「おばあちゃん、何言ってるずら~。こ、この人は小町ちゃんのお兄ちゃんで、マルのプロデューサーもやってくれた人で……」

「ああ~わかってるよ」

 

 おばあさんはうんうんと頷き、さっきと変わらぬ笑顔のまま口を開く。

 

「マルちゃんにも恋人ができたんだねえ。青春だねえ」

「だから違うずら~!」

 

 *******

 

 そのまま帰るつもりだったのが、なし崩し的に花丸の家にお邪魔することになった俺は、国木田家の純和風というか、和そのものの住居内をキョロキョロと見回した。

 

「何か珍しい物でもあるずらか?」

「いや、落ち着くなって……」

 

 花丸から出されたお茶を、礼を言って受け取り、ひと息に飲み干す。

 

「その、いきなりごめんなさいずら」

「何がだ?」

「……そ、その……おばあちゃんが、先輩とオラのこと……」

 

 花丸の言わんとすることがわかり、頬をかいて誤魔化す……ことなどできるはずもなく、その場には何とも言えない静寂が訪れた。

 外からは虫の声が幾重にも重なって響いているのに、それすらも遠かった。

 先に沈黙を破ったのは花丸だ。

 

「あ、あの……八幡さん」

「?」

「八幡さんは……」

「比企谷君、今日はマルちゃんを送ってくれてありがとうね」

「ずらっ!?」

「っ!?」

 

 うおお……驚きすぎて変な声が出そうになったわ……いつの間に入ってきたんだよ、この人……。

 

「び、びっくりしたずら……」

「ああ……」

「お菓子持ってきたよ」

「あ、ありがとうずら!」

 

 皿に盛られたお菓子は、小さな鳥をかたどった饅頭のようだ。あれ、これどっかで見たことあるような……。

 

「東京名物、バックトゥザぴよこ万十ずら♪八幡さんにも食べて欲しいずら♪」

「……食うの久しぶりだな」

 

 確か親父か母ちゃんが土産で買ってきた時に食って以来だな。

 花丸のおばあちゃんにもお礼を言ってから、少しの間だけ、東京であった楽しい出来事の話を聞いた。

 

 *******

 

 外に出ると、さっきより夜は暗く深まり、街灯がなければ歩くのも困難になりそうだった。

 

「あの、今日はありがとうございました……」

「……いや、なんつーか……元プロデューサーだからな」

「ふふっ、マルは……あの時より少しは成長できてますか、元プロデューサーさん?」

「……ああ、少しじゃなくてずっと、だと思う。つーか、俺が批評することでもないが」

「でも、そう言ってもらえて嬉しいずら。その、八幡さんにはマルに夢中になってもらえるように……あ、いえ、今のはそういう意味ではなく!スクールアイドルとしてずら!」

「…………」

「ずらぁ……し、失礼しますずら~!」

 

 花丸は俺に背を向け、猛スピードで自宅へと戻っていった。

 その様子に呆気にとられた俺は、彼女が玄関の扉を閉めるのを確認してから、のろのろと帰路についた。


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