捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
すっかり夜の帳が降りた内浦の街を、花丸と並んで歩く。たまに頬を撫でていく風は生温かさを滲ませ、季節がすっかり変わったことを教えてくれていた。
二週間後に行われる祭りの為に、電柱や民家の塀などの至るところに取り付けられた提灯は、帰り道をぼんやりと照らし、不揃いの影を見つめていた。
足音の雑なリズムに耳を澄ませていると、花丸が独り言のように口を開いた。
「ルビィちゃんがあんなに泣くところ、初めて見たずら」
「……そっか」
一時間程前、花丸を含むAqoursのメンバーは帰ってきた。
彼女達の同級生は頻りに声をかけるが、メンバーは皆一様に浮かない笑顔で返し、姉の姿を見つけた黒澤妹は泣き出してしまった。
その後、黒澤姉から何やら昔の話を聞いたらしい花丸と合流して、こうして歩いて帰っている。
東京で何があったか、想像に難くなかった。
彼女の沈んだ横顔がすべてを物語っていた。
「八幡さん。オラ、こんなに悔しいって思ったのは生まれて初めてずら」
「…………」
「……見ててください。マルは、もっと、頑張りますから……」
「……わかった」
「だから……今だけ……」
「…………」
花丸の方を見て頷くと、彼女は小さな両手で顔を覆った。
そして、そこからは悔しさの滲む嗚咽がしばらく漏れていた。
*******
「……ほら、これ」
途中で見かけた自販機でジュースを買い、彼女に手渡す。
もうだいぶ彼女の家も近かったが、小さなことでも何かしてあげたいという気持ちがあったのだと思う。
彼女は涙の残る目を笑顔に細め、小さく「ありがとうございます」と告げた。
「みっともないところをお見せして、申し訳ないずら」
「……みっともなくねえだろ。あれでみっともないとか言ってたら、恥ずかしくて外出歩けねえ奴が大量発生する」
「ふふっ、それは言い過ぎずら」
「……もう遅いから、さっさと行くぞ」
「はい……ありがとうございます」
実際、花丸の家はすぐそこに見えていた。
何故わかったかというと、彼女の家はお寺だからだ。
それらしき威厳のある建物と、そこへ続く長い石段が見えて来たところで、花丸は俺に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「ここで大丈夫ずら。送っていただき、ありがとうございます」
「おう、お疲れさん」
「あら、マルちゃん。おかえりなさい」
花丸の後方から、優しい声が届く。
目を向けると、穏やかな笑顔を浮かべる老婦人が立っていた。
「あ、おばあちゃん」
「帰って来たんだね。それで……そちらの男の子は?」