捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
沼津駅は休日で、天気は晴れということもあり、多くの人が行き交っている。
俺は小町と共に、Aqoursを見送るためにこの場にいた。津島がさっきまで堕天使の恰好で周囲の視線を独り占めしていたこと以外は、温かな時間が流れた。
「じゃあ、行ってくるずら」
「ククク、我が堕天の時を内浦の地より、しっかりその目に焼き付けるがいい!」
「お、おう……気をつけてな」
二人の独特な挨拶には、あまり緊張の色が見られない。花丸は東京に行くのが初めてらしいので、不安がっているかと思いきや、その心配は杞憂だったようだ。仲間が一緒だからか。
すると、彼女はヒソヒソ声で話しかけてきた。
「八幡さん」
「?」
「渋谷に谷はないずらよ」
「…………」
心配だ。
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「花丸ちゃん」
「どうしたの?ルビィちゃん」
「花丸ちゃんってやっぱり……」
「?」
「ううん、何でもないよ。じゃあ、東京でもがんばルビィしようね」
「うん!がんばルビィずら」
「アンタ達、早く行くわよ!」
*******
「だいぶ距離が縮まったかも」
「どした?」
「いや、何でもないよ。早く帰ろ、お兄ちゃん♪」
*******
「は、八幡さん。こんばんは」
「おう……そっちはどうだ?谷はあったか?」
「……意地悪ずら」
「今度、のっぽパンやるから」
「ありがとうずら♪……はっ、何だか丸め込まれている気がするずら」
「……花丸だけに、か」
「全然上手くないずら~!自信なさそうに言うから聞いてるこっちが恥ずかしいずら!」
「……悪い。つーか、初めての東京はどうだったんだ?」
「未来ずら~♪」
「ああ、聞く前からわかってた」
「八幡さんにも見せてあげたいずら」
「いや、もう間に合ってる……明日は大丈夫そうか?」
「ずらっ、マルは大丈夫ずら!」
「そっか、それじゃあそろそろ切るわ」
「あ、はい!おやすみなさい」
「ああ……じゃあな」
翌日になり、パソコンでライブの生中継を見ると、ある1点が気になった。
Aqoursへの反応があまりにも薄い。批評や悪口などではない。何もないのだ。
トップバッターのSaint Snowという二人組がパワフルなパフォーマンスで、強烈なインパクトを残したのが印象的過ぎたからかもしれない。あの再生数は、PVによる後押しも大きかった。
そこで、専門家でもない自分があれこれ考えても仕方ないと気づく。彼女達のパフォーマンスは、贔屓目なしに見ても、すごかったのだから。
俺はパソコンを閉じ、勉強に戻ることにした。